WASD タルコフ   作:書い人

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迷える子羊

Wキーで前進。

Aで左へ。

Sで後退。

Dは右移動だ。

最もシンプルなキーボード式の移動方法である。

 

僕は今、Woodsという場所にいた。

その名が示す通り、草木の生い茂る森林区域のマップである。

アバター――PMCオペレーター(傭兵のようなもの)が持っている銃は、スタッシュ(プレイヤー倉庫)から持ってきたAK74Mアサルトライフル。比較的近代的な突撃銃で、東側のライフル弾である5.45×39ミリ弾を使用する。

小口径のためほどほどの反動、高初速であるために貫通力に秀でた連射式ライフルである。……そのはず。

このタルコフ(Escape from Tarkov――EFT)というゲームは、リアルさを売りにした超硬派FPSらしい。値段も高かった。だいたい中ぐらいのエディションverで、2万円くらい。

まあ、ひとまずここから脱出(エスケープ)することを優先したい。

「しかし、どこだ……?」

モニターの前で、僕は呻くように言った。ゲーミングPC(デスクトップ)はガンガン稼働中だ。

タルコフには、出撃(レイド)中にマップを呼び出す機能が存在しない。コンパスはあるが、ある程度進めなければ手に入らないらしい。

基本的にWikiやYouTubeの動画頼みになるようだ。基本操作を覚えただけだが、ゲームを初めて即座にWikiが必要になるゲームは前代未聞だった。

山村か廃村、といったところか。

建物の中に入って索敵・クリアリングするも、空振り。銃声は今のところ遠巻きに聞こえただけだ。

Fキー。

これはインタラクトキーだ。アイテムを拾うことができる。

コンデンスミルクなるものが拾えた。

PMCも腹をすかせていることだろう。

なんとはなしに、拾った缶詰のミルクをマウスでダブルクリックする。

なるほど、アバター兵士が食べだした。

動作確認、ヨシ。

なんか大分水分が減ったな……。

エネルギーはマックスになったが、いびつなステータスを確認してしまった。

エネルギー切れや水分切れ、どっちも良いはずがない、即座に死ぬとも思えないが……。

「いかん……」

迷いに迷い、森を彷徨っていると、ついに何も拾えず水分が0になった。

戦闘もないが、水もない。

進んでいると、赤い建設現場のような場所を発見した。水くらいあるかもしれない。

「あっ」

くらくらするエフェクトの視界で、弾丸が飛んできた。

弾丸そのものの視認は当然無理だけど、弾の擦過音、そして自分の腹に叩き込まれる音で分かる。

あっけなく銃を地面に落とす僕、のアバター。

一発も撃たずに、むしろどこから撃たれたかもわからずに死にました。

暗転。

レイド(出撃)の終了画面へとゲームが移行し、リザルトに入る。

「しゅたーまん?」

そういう敵だったそうです。狙撃兵っぽい。

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