そんな主人公が異世界に飛ばされます。
一応、主人公は特級レベルの一級呪術師です。(?)
でも飛ばされます。
夏の初めの7月の初旬、俺は一級の術師として、特級相当の呪霊たちを祓いながら過ごしていた。
「……ふぅ。ま、こんなもんか」
祓われていく呪霊を尻目に、手ごたえを確かめる。
一級に昇格し、俺はここ半年の間、かなり広範囲の地方を飛び回っていた。
万年人手不足な呪術師業界、一級ともなれば、地方を飛び回りながら任務をこなさなくてはならないのだ。
ここ一年の呪霊の数は平年と同じく、横ばいになっている。
そんなこともあって、一級に昇格してからかなりの仕事を押し付けられている。
特級依頼が18だぞ、18も!!
まだ楽だった学生の頃が懐かしいと感じながらも、18体すべてを一体一体、何とか祓って今に至る。
「ブラックだ….。こりゃぁ、完っ全っにブラックだよ……。(涙目)」
そう呟きながら、補助監督の車へと向かう。
スマホに着信が入っていることを確認し、車に乗り込んだ。
「お疲れ様です。今日の任務も無事終了ですね。」
運転しながらそう話すのは補助監督の
ちなみに女性。まあまあ美人なお姉さんだ。
一級になった俺のせめてもの救いだ。
「いやあほんとだよ、榊さん!今月に入って特級の依頼が18件にものぼりますよ……、どうなってるんですか…。(涙目)」
「あはは…。この時期は呪霊が多いですからねぇ。確か20年くらい前までは特級術師が5人くらいいて、割と一級の方の仕事量は少なかったらしいですよ。」
「そうらしいね~。特級術師が1人いると、一級の依頼を何件かまとめて受け持ってくれてたんだってね。だからよく一級術師は二級呪霊とか、高専で講師したりとかで仕事は楽だったってさぁ…。」
「まあ、今じゃ特級案件は1級術師も対応してますけど。やっぱり人手不足な上に人手不足は大変ですよね。」
「そう……ですよねぇ。(かなり涙目)」
そんな会話をしながら、俺はスマホの画面を開いた。
「あ。東京の高専からメール来てるじゃん。なんだろう?」
内容を確認した俺がピシッ、と固まった。
「はぁ、なんでこうなるんだよ……」
高専から至急の依頼が来ていた。
どうやら高専の一年が祓いに行った呪霊の正体がまさかの特級相当らしく、他の術師も駆け付けたが手に負えないという。場所は此処からだいぶ離れていた。
「榊さん、申し訳ないんですけど、今ここで降ろしてもらえますか?遠くの方でまた特級案件らしいです……」
「はいはい、わかりましたよ。あなたには頑張ってもらわないと、私の仕事も減らないんですから」
榊さんは苦笑いしながら車を急ぎ足で路肩に寄せた。
「あぁブラックだ……、もうブラック以外の言葉が思いつかないよっ……」
そう言いながら車を降りた。
「頑張ってください。応援してますから。」
「ありがとう、榊さん。また東京に寄ることがあれば、ご飯行きましょうね」
そう言って車から降りる。
「ええ、また東京に来たときは連絡してくださいね」
そう言って車は去っていった。
俺は少しため息をついて、スマホに再度目を落とした。
「場所は……あそこだな。よし。」
俺の体が浮く。俺の術式を発動させて一瞬で現場に飛ぶためだ。
「高さはこのぐらいでいいか…よし。
『距離の境界:(自分と現場との距離を0に)』」
そう言うと、たちまち現場の上空に着いた。
正確には術式で自分と現場との距離の境界を無にしただけある。
「さて、どうなってるんだ?この状況は。」
上空から戦況を確認する。どこかの村のはずれっぽいが、血痕と残穢がかなり在る。
「こりゃあ、非術師もいくらか犠牲になったな。術師側は?」
眼下には何故か東京校と京都校のメンツが呪霊と睨み合いをしていた。
とりあえず、生存している呪術師がいるかを確認する。
東京校:重症者1名、中軽症1名 計2名
京都校:軽傷1名、怪我なし2名 計3名
俺は状況を判断し、すぐさま地面に降りると、京都校2年の
「
俺は一人ひとり状況を確認する。まずはトリアージだ。
「怪我人は俺が治します。日暮さん。状況は?」
「まず、この意識を失っている子は東京校の1年生です。この呪霊の討伐に来ました。名前は
清水という子を見る。かなり酷い怪我だ。腹に穴が開いて出血している…。意識は無いようだ。
彼の呪力は残りわずかだ。もう術式は使えないだろう。
俺は彼に近寄り、腹の上に手を当て、すぐさま反転術式で治療させる。
「まだ逝くなよ…。頼む。まだ生きていてくれ……」
そう呟きながら彼を治していく。すると見る見るうちにお腹は治ってゆく。
そうして彼の出血を止めた。しかし、彼の意識はまだ戻らない。
「OK。次にこの中軽症者は?」
「この子は同じく東京校1年の
日野という子を見る。肩の肉を食われているが、呪力はまだかなり残っている。
だが、とても戦える状態ではないな。
俺は清水から離れると次に日野の元へ。
「うっ…あぁ…」
「日野……。痛いよな……」
肩に傷が見られる。骨も折れている。
「日野……。もうちょっとだ……」
そう呟きながら治療する。肩の傷がようやく癒えた。
「了解。じゃあ次。軽傷者と怪我なしの京都校のメンツは?なる早で!」
「軽傷者は京都校2年の
天谷という子を見る。腕に呪霊の爪跡が見られるが、他に目立つ怪我は無い。
しかし呪力はあと1回術式を使う程度しかないだろう。
天谷の元へ行く。天谷の傷はまだ浅い。
「天谷。後少しだ。待ってくれ」
そう言って天谷の傷を治していく。あとは俺の反転術式を流し込む。
「はぁ……。何とかなったな……」
俺はそう呟く。これで全員治したな。
「ありがとうございます。八雲さん。」
「うん。で、君たち二人は怪我はない?」
「はい、大丈夫です。あっちは京都校2年の
そう言いつつも、日暮や三木はじりじりと呪霊との睨み合いに押されてきている。
「いや…待て、この中に俺以外で反転術式を使える奴がいるのか?」
「いえ……いません」
やっぱり。そうか……。
「分かった。もう心配しなくていい。
「……っ!」
「でも私達がここで呪霊の撃退を止めたら……」
「……大丈夫。全て俺に任せてゆっくり休んでいてくれ」
俺はそう言うとあたりの呪霊を確認する
あとは…
「んじゃ、治した3人にはこれを背中に貼ってもらおうか。」
取り出したのは、俺の父方である博麗家のお札。
「呪力回復と、負傷を最小限に抑えるやつだ。あと、呪霊の呪力をちょっと弱めたりする。」
俺はそう言って、3人に貼った。すると貼った者のあたりの残穢がみるみる消えていく。
「これで、しばらくは持つだろう」
「こんなものを僕たちで使っていいんですか?かなり貴重なものでは……?」
日暮は聞いてきた。
「ああ、大丈夫だ。だから後は、この呪霊を倒すだけだ。」
そう言いながら呪霊を睨む。
ただ、こいつらは一級程度か、特級でも弱いくらいの呪霊だな…まあ裏で呪霊か呪詛師が操っているんだろうが…。
俺は呪力操作を行い始める。
呪力を指先に集中させていく。呪力は術式発動のキーであり、燃料。それがなければ何もできない。
そして、呪力を拳に込めていく。
『密と疎の境界』
拳に呪力を密集させ、打撃を防ごうとする呪霊の呪力を拡散させる。つまり、防御を剥がすということ。
そのまま、拳を振り抜いた。
呪霊の1つは一瞬で爆発し、急速に消滅してしまった。
「で、次死にたいのはどいつだい?あんまり痛いのは好きじゃないんだ」
そう言った俺の声に反応して、残りの呪霊は俺に襲いかかって来た。
「……まあ来いよ。一瞬で終わらせるから」
俺は呪霊たちを睨みつけた。一気に攻撃が来る。
「『距離の境界』」
呪霊たちの後ろに一瞬で回り込み、一気に攻撃を仕掛けた。
「『密と疎の境界』」
呪霊たちの呪力は急速に失われていく。
呪霊たちは驚き、慌てて逃げようとしたが、もう遅かった。
俺は拳を振り上げ、一気に振り下ろした。
呪霊たちの呪力は完全に失われ、消えていった。
「ふう…。終わったぁ」
俺はそう呟いた。
「終わりましたね……。すごいです。あっ!」
振り返ってみると先ほど倒れていた、清水と日野が目覚めていた。
「……まだ。」
「まだ?」
「……まだ、1人…奥に…」
清水が掠れた声で言った。
「奥……?奥に誰かいるのか?」
「はい……同じ1年の奴が、ずっと奥で…呪力のっ…強いほうにっ…!」
「そうか……、分かった。日暮、天谷、三木はこいつらを連れて安全な所へ避難していてくれ。」
俺はそう言った。3人は「はい」と言って、日野と清水を連れて行った。
「さて……奥か……」
俺は呪霊たちが出てきた方角の奥に向かって歩き出した。
「ここか……」
森の奥の方から呪力を感じる。かなり強い呪力だ。
呪詛師……?いや、この呪力は多分違うな。
呪霊のようだが、特級呪詛師に匹敵するほどの呪力を感じる。
「……待ってろよ。すぐ助けてやるからな……」
そう呟きながら奥へ進む。
すると、呪力が一段と強くなってきた。
「…これは…
どうりで中級の呪霊を使役して一級相当にまでできるわけだな。
さらに進んでいくと、呪霊の姿が見えてきた。おそらく奴の式神だろう。
そしてその足元に少年が横たわっていた。いや、式神らしき呪霊が少年を引きずり、洞窟の方へ移動していた。
「あれが清水の言ってたもう一人の一年か。
『距離の境界:(自分と
一瞬で少年が自分のもとに来る。
「おいっ!大丈夫か?」
そう声をかける。少年はぐったりとしていた。だが、死んではいないようだ。
少年の手を握ってみると微弱だが脈はある。
「よし……。まだ間に合う。反転術式で何とかなる……」
俺は少年に触れ、反転術式を使った。
そして彼を引きずっていた呪霊がこっちに気が付いたようだ。
「うっ……」
少年の声が聞こえた。少年は薄っすらと目を開けた。反転術式は効いて来てるようだ。
「もう安心だ。今まで何があった?」
「俺は……ここに調査で来て……でも……」
その時。呪霊の式神が襲いかかってきた。
「よし。喋らなくていい。後で聞く。今は寝てろ」
「あっ……」
「ちょっと痛いかもしれないが我慢してくれよっ」
俺はそう言って、呪霊の式神に向き直り呪力の操作を始めた。
「『密と疎の境界』」
俺は反転術式と同時に精一杯の呪力を拳に込め、殴りかかった。
「うぐぅっ…」
呪霊が攻撃を受けるが耐えている。
堅い…そしてこの
簡易とはいえ領域の使い手、油断ならないと考えていた時、
「なっ…おい待て‼」
俺は一年片手に奴を追いかけた。
その間に反転術式をフルで回し、一年を回復させたが、
その代償として術式は使えず、追いかける羽目になった。
「待て‼おい‼」
俺は叫びながら追いかけた。
「くそっ……速いなあいつ」
走り続けると洞窟の入り口に着いた。
息をひそめて洞窟の中へ足を踏み入れる。
すると中はかなり広く、天井も高い場所だった。
「さて、本丸は何処だ?」
中にはさっきの式神と先程呪霊を操っていた
特に本丸の呪力のあり様は術師のものと違いはなかった。
には古びた祭壇のようなものがあることから奴は
「---様、生贄を連れては来ましたが、一人厄介者が…」
「よい、むしろいい機会だ。」
本丸呪霊とその式神は人語を解す。それだけでも十分な強者であることが分かる。
それに生贄と言っていたが、この一年のことだな?
「で、あんたらは
俺の声により、呪霊たちの視線がこちらへ向く。
「あぁ…君の事は常々知っていたよ。八雲 煉。」
なっ…俺の事を知っているだと?確かに俺は一級の中でも強いほうだが
特級相当の呪霊にまで認識されているとは思わなかった。
「俺が有名人だってことは驚いたな。あんたも物好きだな。だが、俺の実力までは過信してないよな?」
俺は思わずニヤリと笑ってしまった。
「ふっ……確かに君は強い。だからこそ、ここで消せるいい機会だとな。」
同時に奴の背後にいた式神が飛び出してきた。
俺は一年を置いて身構える。
式神は簡易領域を纏いながら攻撃してきた。だが、それは想定済みだ。
「『距離の境界』」
俺は式神の背後に回り込み、思いっきり呪力を込めて蹴りを入れる。
「ぐぐっ…」
式神の簡易領域が変化する。
やはりな、奴は防御の瞬間に簡易領域を展延化させ術式を中和させている。
あえて、術式なしで蹴ったのはそのためだ。
あいつの強固な簡易領域を破るには、展延に移行する前に領域を破壊するしかない。
式神が俺の方を振り返り、俺はあいつがカウンターで殴り掛かれる位置まで距離を取る。
「やはり読んできたか。だが‼」
式神が俺に殴り掛かる。やはりあいつとの距離は完璧だったみたいだ。
式神の領域が展延に変化する前に破る方法。俺はそれを知っている。
「『時の境界』」
周りの時間が止まる。
その中で、俺は式神の背後に迫り、
式神の簡易領域、そして式神ごと破壊すべく最大限呪力を練った。
そのすべてを拳に乗せ、式神目掛けて殴りかける。
止まった時が動き出す。俺の拳は式神とあとわずか。
その打撃は空間をも歪ませ、
呪力は黒く光る。
「黒閃」
俺の放った打撃は式神を貫通し、
簡易領域は破壊され、式神に多くの呪力を浴びせ、瀕死の状態にまで追い込んだ。
「ぐっ……---様。申し訳……ありま……せん」
「お疲れ様。
式神が消失する。俺は本丸との戦闘に身構えた。
「やはり君は…強すぎるんだよ。我々にとって危険なんだよ…だからね…。」
奴が大量で強大・高密度の呪力を発生させる。その威力で洞窟や森全体が大きく揺れ動く。
「なっ…何をするつもりだ‼」
洞窟が崩れそうになる中、一年を保護しつつ自分も術式をすぐに使用できるよう呪力を練る。
「君に死んでもらえるいい機会なんだ。だから…」
呪霊が手を上に揚げた後、その腕を一瞬で振り下ろして…
「 じ ご く に お ち ろ ! 」
洞窟だったその場所は突如、無間地獄の入り口と思えるほどの大穴と化す。
「くそっ……なんて呪力量だ‼」
俺は必死に一年を抱え、呪力を練り続けた。
奴の術式の対象は多分俺だけだ。だから…
「おい一年!お前だけでも助かれ‼
『距離の境界:(
俺の腕から一年が消える。だが、俺の体は動かない。
恐らくこの領域(?)のせいだろう。何て強力な呪力なんだ。
「生贄は逃がしたか。まあいい、こいつを
奴がこっちに向かってくる。領域の中心に向かって動くことが出来ない。
「おっと……私の領域内では逃げられないよ」
奴の術式……いや呪力も相当なものだ。だが俺だって負けられない。
「ここで死んでたまるかよ‼ぐあぁぁ‼…」
俺を…俺の術式を舐めるなよ‼
「ぐあぁあああ‼」
精一杯術式を開放する。
『運命、歴史、位相、奇跡、覆し、聖域…』
どの境界も試してみたが、縛りもなく術式を開放したことで
呪力を大幅に消費し、術式のコントロールが効かなくなっていた。
しかし、この大穴に変化の様子はない。
「くそっ…もうだめかよ。」
諦めかけたその時、突如として大穴が変化し始めた。
「なんだと!お前に一体どうしてそんな力が⁉」
奴がそう言っているが俺の術式は弱いままだった。
「くそっ、このままでは地獄に移動できん!何処へ行く気だ!」
「はぁ…はぁ…知るかよ。」
やがて大穴は右に左にうねり始めた。
何やら奴と大穴は葛藤しているらしい。
「何処かに飛ばすつもりか!ぐぬぅ…このままでは
「やめるも何も多分俺じゃねえよ‼」
俺は力尽きそうだった。このままではどちらにせよ死ぬ。
奴が言うに、このまま大穴が広がれば外(?)に出てしまうらしい。
その時大穴は急速に拡大を始めた。そして奴が慌てた様子でこっちに近づいてくる。
「まずいぞ!私の呪力じゃ抑えられん!このままだと本当に
だが恐らくこれでお前は終わりだぁ。私はこの穴から抜けるぞ!」
「このままだと……俺、終わっちまうんだよなぁ……あはは」
俺ももう無理そうだ。
奴が逃げるように飛んでいった。そして大穴は遂に外に出てしまったらしい。
「ん……これは……?」
そこには大きな空間が広がっていた。まるで宇宙のように。
だが星はなく、ただただ暗黒が広がっているだけだ。
「ん……なんだ?」
俺の真上に光が一筋見えた。
その光にだんだん吸い込まれていく。
でも、それには恐怖を感じなかった。それどころか、どこか柔らかい快感を覚えた。
「まぁでも…いいやこのままで。」
死んでも死んでいなくとも、今の自分にはどうでもよかった。
俺はいつの間にか気を失って。
そのまま一筋の光に吸い込まれていった。
でもまだ(異世界に)飛ばされませんでしたね。
そういえば、彼の境界に関わる術式ですが、
東方ファンにはある程度法則性は分かると思うんですよね。
皆さんは分かりましたか?