ミリタリー✖️東方Project   作:ポーラン

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第73章:青年自衛官から送られた歌

朝田三佐の歌声は、澄み切った空気の中に優しく響いた。

満月が夜空を照らし、神社の境内を白く染めている。まるでふたりのために用意された舞台のようだった。

 

『小さな木でも〜青空に伸びゆく自由を持っている〜

 嵐を支え〜その木を守れ〜君のその手で

 僕のこの手で〜伸びゆく日本の平和を自由を守れ〜』

 

その歌声には、静かな決意と覚悟、そして温かな思いが込められていた。

霊夢は真剣な顔つきで耳を傾けていたが、どこか心の奥で何かを――期待していた。

 

歌い終えた朝田は、少し照れたような笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「……この歌は、自衛官として日本の自由を守るということ。

でも、それだけじゃないんです。時に、守ることは一人では難しい。

そんなときに――支えてくれる“手”があるんです。仲間かもしれない。家族かもしれない。恋人かもしれない。

その答えは人それぞれですが、大切なものがあるからこそ……人は支え合える」

 

その言葉を聞いた霊夢は、そっと目を伏せた。

「……良いわね。その歌。『君のその手で』……か」

 

微笑みながら呟く霊夢。しかしその微笑みは、次第に揺らぎ始める。

 

 

朝田の言葉の中にあった「恋人」という言葉が、どこか心に引っかかったのだ。

最初は何気なく聞き流そうとした。けれど、どうしてもその一言が胸に残って離れない。

 

(……恋人、か)

 

霊夢はゆっくりと朝田を見つめる。

焚き火の光に照らされた彼の横顔は、静かで、どこか優しかった。

 

そして、自分の胸の奥で、何かが小さく震えているのを感じた。

自分がずっと探していた“答え”――それが、すぐ近くにあるのかもしれないという予感。

 

「……ねえ、朝田さん」

「はい?」

 

「その“手”って……私が、もし誰かの手になれるなら……嬉しい、って思ってもいいのかしら」

 

霊夢の声は静かで、でも確かに揺れていた。

それは巫女としてではなく、恋する少女としての、心からの問いかけだった。

 

朝田はすぐには答えなかった。けれど、その表情ははっきりと――優しく微笑んでいた。

 

「……ええ。そう思ってくれるなら、それだけで、私は……救われます」

 

二人の間に、静かに夜風が通り過ぎていった。

 

満月が、ただ静かにその光を降り注いでいた。

 

 

 

焚き火の音が、静かな夜に優しく弾ける。

霊夢は、少しだけ伏せていた目をゆっくりと上げる。

満天の星空と明るい満月が、まるで二人の時間を照らす舞台のようだった。

 

(君のその手で……ね。もしかして――)

 

朝田三佐が歌った、自衛官としての誇りと使命を綴ったその歌。

けれど霊夢には、どこかそれだけではない想いが込められていたように思えた。

「君のその手で、僕のこの手で――」

彼のまっすぐな眼差しが、なぜか胸の奥に残って離れない。

 

(……君の“その手”って、私のこと?)

 

心の奥に小さな火が灯る。

それはやがて、彼女自身が綴った歌の一節を思い出させる。

 

「揺らぐこの独占力は〜秤に掛けれぬ〜我儘な愛〜」

 

ずっとその歌詞に込めた意味が曖昧だった。

誰のことなのか、何を伝えたかったのか。

でも今、ふと気づいた――

この想いが向かっていた先は、きっと。

 

霊夢の顔が、そっと赤らむ。

 

魔理沙、早苗、霖之助、紫、華扇――

どれも大切な仲間たち。

けれど、その誰でもない“誰か”が、この歌詞に宿っていた。

そしてそれが今、目の前にいる青年自衛官なのだと――

 

(……私、気づいてたのかな。ずっと前から)

 

想いの正体に気づいた瞬間、霊夢の表情は凛とした巫女ではなく、一人の少女の顔になる。

火の揺らぎがその頬をそっと照らし、月明かりがその瞳を輝かせる。

 

胸の中の“我儘な愛”はまだ形にはならない。

でも、確かにここにある。

それを今は、ただ胸の奥で大切に包み込んでいた。

 

傍らの朝田は、何も言わず、ただ静かに星空を見上げていた。

その姿に霊夢はふっと微笑む。

まるで、自分の気持ちをすべて見透かしているようで、けれど何も言わずにいてくれるその優しさに――

 

心が、そっと寄り添っていた。

 

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