街の喧騒から離れた路地裏。ネオンの光が僅かに差し込むそこで、デルタは深いため息をついた。
「また見られているです……」
その声は小さく震えていた。デルタにとって、ストーカー行為は未知の恐怖だった。敵意のある視線なら感じるはずなのに、その相手はいつも影のように忍び寄り、決して姿を現さない。
デルタは周囲を見回すが、誰もいない。路地の壁に沿って歩きながら、彼女は自分の体に触れられないよう警戒していた。
「注射器は嫌いです……」
その言葉には切実な恐怖が込められていた。以前、謎の人物がデルタの背後に忍び寄り、一瞬で彼女の首筋に注射針を向けたことがあった。デルタの反射神経と直感が間に合ったため未遂に終わったが、その恐怖は今も彼女の記憶に焼き付いている。
「うぅ、これじゃぁボスに怒られるですぅ……」
自己嫌悪に陥りながらも、デルタは任務を思い出す。
表向きはプロヒーローとして活動しながら、裏では謎の怪人軍団を追うという二重生活。その目的は彼女自身にも曖昧になっていたが、何か大切な理由があったはずだ。
ふと、風が吹いて紙切れが舞い降りてきた。デルタが拾い上げると、そこには謎めいたメッセージが書かれていた。
「あなたの血、とても美味しそう♪」
デルタの背筋に冷たいものが走る。これは間違いなくストーカーからの挑戦状だった。
「いったい誰なんですか……」
彼女は文字をじっと見つめながら考え込んだ。
「デルタさん?」
突如として闇の中から少女の声が響いた。
デルタが振り向くと、そこには白髪を風になびかせた少女が立っていた。
彼女の瞳は夜空よりも深い漆黒で、その表情は純粋無垢にも見えるが、どこか危険な香りが漂っている。
「私はトガ。トガです。デルタさん……ですよね?ずっとあなたを見てました♪」
「トガ……?いきなりなんなんです」
デルタの問いに、少女は目を細めて笑った。その表情は愛らしいはずなのに、どこか不気味な雰囲気が漂っている。
「あなたの活躍、全部見てましたよ。特にあの怪人を倒した時の姿が素敵でした。まるで……お姫様を守る騎士様みたいで♪」
デルタは眉をひそめた。普段の彼女なら、敵意を感じる相手には即座に攻撃態勢に入るところだが、この少女からは殺意も敵意も感じられない。だからこそ奇妙なのだ。
「お前がデルタをずっと追っていた奴ですか!」
「ええ♪私にとって、デルタさんはとっても特別な存在なんです」
トガは嬉しそうに手を合わせる。
「特別?どういう意味です」
「それは……」
トガは一歩前に踏み出し、デルタの腕に指先で触れた。その接触にデルタは思わず身を引いた。
「だって、私の理想の人がこんな近くにいるなんて……夢みたいなんですもの♪」
「はぁ?」
デルタは困惑の表情を浮かべた。この少女の言動は理解しがたい。
「お前、頭おかしいです」
「酷いですよ~。私、ちゃんと自己紹介しましたのに」
トガは頬を膨らませる。
「私はトガです。トガ・ヒミコ。個性は『変身』です。人の血液を摂取するとその人に変身できるんです」
「へぇ、すごいです!」
デルタは素直に感心した。その能力があれば、様々な人間に成り済ますことができるだろう。
「でもなんでそれをデルタに言うです?」
「それは……」
トガの瞳が輝いた。
「デルタさんの血をいただけたら嬉しいなぁと思って♪」
デルタの表情が凍りついた。
「え?いやです」
「えー!なんでですかぁ?」
「注射は嫌いです」
デルタの即答に、トガは残念そうな顔をした。
「ちゅーしゃー?」
「そう!デルタは昔から注射が大嫌いなんです!」
デルタは腕を組んで断固拒否の姿勢を示した。トガは少し考えてから言った。
「じゃあ……こうすればいいんです♪」
その瞬間、トガの袖から鋭い何かが飛び出し、デルタの腕をかすめた。
「うわぁ!」
小さな切り傷ができる。デルタが驚いている間に、トガは素早く傷口に唇を寄せた。
「ちょっと待つです!」
デルタが押しのけようとした瞬間、トガは唇を離し、にやりと笑った。
「冗談ですよ♪そんな怖がらないでください」
だがその目は本気だった。デルタは本能的に危険を感じて後ずさる。
「やっぱりお前、頭おかしいです!」
「あら、傷つきます♪」
トガはクスクスと笑う。
「でもね、デルタさん。あなたも変わってるんですよ。だって……」
トガはデルタの目をまっすぐ見つめた。
「普通のヒーローは、こんな風にストーカーされるなんて怖がったりしませんよね?」
デルタは一瞬言葉に詰まった。確かにその通りだ。彼女は自分の感情をあまり表現しないタイプだが、それでも今回の状況は明らかに異常だと感じている。
「だからこそ好きなんですけどねぇ♪」
トガは無邪気に笑った。その笑顔の奥に潜む狂気をデルタは見逃さなかった。
「お前みたいな奴には近づかない方が良さそうです。注射が打たれそうで嫌です!」
「そんなこと言わないでくださいよ~。私、デルタさんのこと本当に尊敬してるんですから♪」
「尊敬?デルタのことをですか?お前、見る目はあるな!」
デルタは少し得意げになった。どんな形であれ、自分が認められるのは嬉しい。
「だからこそぉ、血を飲みたいですぅ」
「なんで、そこに繋がるんですか!とにかくデルタは血はあげない!」
デルタは断固として拒否した。
「そっかぁ……残念ですぅ」
トガは本当に残念そうな顔をした。
「デルタさんも、私の愛、嫌なんですね、血を吸うのが」
「んっ?デルタは注射が嫌いだって言っているですよ」
「血を吸うのは?」
「別に良いんじゃないですか?デルタは肉を沢山食べるから。血も一緒に飲むです!」
その答えにトガは驚いた顔をした。
「否定しない。良いです!だったら、もっとぉ」
トガが一歩踏み出し、デルタに近づこうとした瞬間だった。
「!?」
デルタの全身に鳥肌が立つ。
殺気。これまで多くの戦いで培ってきた直感が、デルタに警告を発していた。
「デルタさん?どうしました?」
突然のデルタの反応に、トガは首を傾げた。だがデルタは説明する暇もなく行動を起こしていた。
「ボスの命令を守らないと」
デルタはそう呟きながら、素早くトガの腕を掴み、その体を持ち上げた。
「え?ええええ!?」
トガの驚きの声が夜の街に響く。彼女はデルタにお姫様抱っこされる格好になっていた。
「ちょっ!デルタさん!?」
「静かにするです!動くと落ちますよ!」
その言葉通り、デルタはトガを抱えたまま地面を蹴った。同時に——
「シャアアアアッ!」
空気を切り裂くような叫び声と共に、彼らが立っていた場所に巨大な鉤爪が突き刺さった。
「なっ!?」
トガはその光景に目を見開いた。地面が抉れ、コンクリートの破片が飛び散る。
「デルタさん!あれって……!」
「キャマラスワーム!この世界には存在しない怪人です!」
デルタは冷静に状況を分析しながらも、トガをしっかり抱えて移動する。
「キャマラスワーム?あの映画とかに出てくる怪物みたいな?」
トガの質問にデルタは簡潔に答えた。
「似ていますが、もっと危険です」
二人の目の前に現れたのは、まさに異形の存在だった。
その体は鮮やかな水色に輝き、表面には微細な鱗がびっしりと覆われている。見た目は巨大なエビのようにも見えるが、それは節足動物と環形動物の特徴を併せ持つ怪人だった。
何よりも特徴的なのは、その右腕。通常の腕とは比べ物にならないほど巨大化した鉤爪状の部位が伸びており、先端は鋭利な刃のように尖っている。
「あの人型の生物はっ…」
「そうです。キャマラスワーム。この世界に存在しない怪人。おそらくは、ボスが探している組織の手下です」
デルタはトガを下ろすことなく、再び跳躍した。キャマラスワームの巨大な鉤爪が再び襲いかかる。
「きゃあっ!」
トガの悲鳴を無視して、デルタは、その場を跳ぶ。
「弱いヒーロー共は別にどうでも良いです。だって、あいつらは自分が傷ついても守るのが仕事!けど、市民は守る対象だから、守る!それがボスの言う強い奴の役目!」
そうしながら、デルタは、そのままトガをそのまま地面に寝かせる。
それと同時に、デルタは既に構えていた。
「だから、お前をぶっ潰す!」
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