ダークウィザードの掌から渦巻く炎が通路全体を照らす。熱気が肌を焼き、酸欠状態の空間が呼吸を苦しくする。焦げた木材の臭いに混じり、化学薬品の刺激臭が鼻腔を刺した。狭い通路の壁一面に貼られた白い壁紙が茶色く煤け始めている。
「ははは!逃げ場なんてねぇぞ!」
荼毘の哄笑と共に放たれた火球が天井を掠める。瓦礫が雪崩れ落ちる轟音。床に散らばった医療器具が赤熱し、歪む。
「この程度で」
ゼータは羽のように軽やかに後退し、転がるようにして火球を回避。アタッシュアローを構え直す彼女の瞳孔が縮小する。
「ちぃ……っ!」
ダークウィザードがバランスを崩し、背後の薬品棚に手を伸ばす。注射器が地面で砕ける甲高い音。零れた液体が床を滑り、炎に触れると泡立ちながら蒸発。有毒ガスの青い煙が立ち上る。
「まだまだッ!」
再び放たれた炎柱が壁を溶かし、配管から水が噴き出す。水蒸気と熱気が混ざり合い、視界が白濁する。
ゼータは呼吸を整えながらアタッシュケースを再配置。矢筒から最後の矢を取り出す指先がわずかに震えている。
(熱源は首元……一撃で決める)
通路の終わりから差し込む月明かりが彼女の金色の瞳を反射させた。炎の海を背景に、弓弦を引く音だけが夜を切り裂くように響く。
「ッ!?」
ダークウィザードの嘲笑が止まった。彼の視界の端に何かが煌めく――銀色の軌跡。
アタッシュアローから放たれた光の矢が炎の乱気流を突き抜ける。疾風の速さで飛翔するそれは、まさに死の流星。
「があぁぁぁっ!!」
矢は正確にダークウィザードの左胸を貫いた。
ダークウィザードの胸から噴き出した青い炎は、まるで生き物のように蠢き始めた。通常のウィザードの炎とは明らかに異なる。それは禍々しく脈打ち、装甲の隙間から漏れ出すたびに周囲の空間を歪ませていく。
「フッ……ハハハ……いいぜ……もっと……もっと寄越せよ……!」
荼毘の狂った笑い声が病院の通路に反響する。だが彼の声には明らかな異変があった。まるで多重人格者のように、二種類の声が重なり合っている。
(なんだ? この違和感は……)
アタッシュアローを構えたまま後退するゼータ。視界の端で床のタイルが溶け始めた。炎はもはや攻撃手段ではなく、「現象」へと変貌しつつある。
ゴォオオオオン!!
ダークウィザードの背後で巨大な炎の竜巻が発生。廊下を丸ごと飲み込み、壁に並んだ病室の扉をことごとく吹き飛ばした。
(まずい……このままじゃ……!)
炎の奔流が迫る。アタッシュアローを盾代わりに構えたが、それは物理的な防壁以上の意味を持たない。
「うわっ……!」
衝撃に押し潰されそうになる。熱で視界がゆらめく中、ゼータは見た。ダークウィザードの腹部にあるベルトが激しく明滅している。その中心部から黒い瘴気が湧き上がり、荼毘の体を侵食し始めていた。
3rd舞台となる世界は?
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