……最悪だ。
光が収まって視界が戻った瞬間、俺は息を呑んだ。
目の前に広がったのは、見間違えようのない――雄英高校のグラウンド。
訓練で何度も走り回った地面の固さ、朝練の湿った匂い、風の流れ。
全部、体が覚えている。
(ここに転移したのかよ……!?)
オール・フォー・ワンの野郎。
負けが見えた途端に、俺たちを“ここ”へ連れてきやがった。
狙いが何かなんて、考えなくてもわかる。
雄英なら――ヒーロー科も他学科も、夜でも教師や上級生が残っていることがある。
見知った奴ら、同級生、後輩、顔を合わせた人間が山ほどいる。
そんな場所に、激情態のこいつと創世王を連れてきたんだ。
(……まずい。まずすぎる。)
身体が勝手に強張る。
戦闘の緊張とは違う、もっと底の方で冷えるやつ。
俺は雄英の生徒だった。
ヒーロー科じゃないが、共同訓練も、救助演習も、みんなと肩を並べてやってきた。
部活も委員会も、揉め事も、大変なことも……色々あった。
多分、あいつらは今でも“ツカサ先輩”なんて気軽に声をかけてくるだろう。
それなのに――
(ここでアイツらを巻き込んだら……俺は二度と、雄英の誰とも笑って話せねえ。)
激情態の紫の光が、すぐ近くで揺れている。
あいつはもう爆発寸前だ。
弔を伴った創世王の異形も、まるでこの場所を蹂躙するのを楽しみにしているかのように、低く唸っていた。
オール・フォー・ワンだけが、悪夢の中心で呑気に笑っている。
「ヒーローの母校。思い出深い場所だろう? ねえ、ツカサくん」
ぞわり、と背筋が逆立つ。
知ってやがる。わざと名前を呼んできやがる。
(こいつ……完全に狙ってるな。)
俺と創世王、そして激情態。
この3つの戦力を雄英に叩き込めば、どれだけの被害が出るか――
オール・フォー・ワンがそれを理解していないはずがない。
だからこそ笑ってるんだ。
俺の“ためらい”を利用して、戦いに制限をかけようとしている。
(……最低の野郎だ。)
雄英の生徒は、ヒーローの卵だ。
鍛えられてはいるが、それでも今ここで起きる戦闘は規格外だ。
あいつらが来たら、確実に巻き込まれる。
もし、もしも――
(誰かが死んだら……俺は絶対に自分を許せない。)
手が震える。
怒りじゃない。恐怖だ。
ここで戦うことの恐ろしさ。
そして、俺自身がそれを止められないことの恐ろしさ。
焦げるような低い声。
でも、俺は下がれない。
ここにいるのは俺の“帰る場所”だった場所だ。
(ここで戦ったら……何かが完全に終わる。)
だから――なんとかして止めなきゃならない。
たとえ、オール・フォー・ワンが嘲笑っていても。
たとえ、激情態が限界に達していても。
たとえ、創世王の異形がこの校舎を破壊するつもりでも。
俺は――
「……絶対に、ここで誰も傷つけさせねえ。」
小さく呟いたその声は、震えていた。
けれど、自分の中の決意は、その震えを押し潰すほどに強く燃えていた。
黒いカードがスキャンされるのが見えた瞬間、背筋がひやりとした。
『KAMENRIDE RYUGA』
ヤバい。よりにもよって、そっちかよ。
黒炎の龍が咆哮し、ダークディケイド──いや、もう“オール・フォー・ワン”と呼ぶべきか──その身体を包んだ。次の瞬間には漆黒の龍騎、リュウガがそこに立っていた。
しかも、ただのリュウガじゃない。やつの“個性”が混ざったリュウガだ。嫌な予感しかしなかった。
『ATTACKRIDE STRIKE VENT』
黒炎をまとったドラグブラッカーの爪が伸縮し、その軌道がまるで俺の未来を読むみたいに変則的に曲がる。──ああ、読心系の個性まで混ぜてやがる。
「くっ──!」
俺はとっさに別のカードをスキャンした。
『ATTACKRIDE BLAST』
ディエンドのブラスターを展開しながら、身を捻って龍爪を弾く。だが完全には受け切れない。肩の装甲が一枚、斜めに裂けた。
痛みはないけど、嫌でも分かる。俺は“ディケイド”になれても、あれは“ダークディケイド + AFO”だ。相性が最悪すぎる。
『KAMENRIDE DARKKABUTO』
空気が震えた。次の瞬間、視界からあいつの姿が消える。
来る──クロックアップだけじゃない。空気圧そのものを操る個性で、周囲の流れまで歪められている。
『ATTACKRIDE CLOCK UP』
俺も速度領域に入る。だが、同じ次元に入った瞬間思い知った。
速すぎる。
ダークカブトの加速に、個性の“高速化”が重なってる。
残像が四つ……いや六つ?
並列思考の個性も混ぜてやがるのか。
「やりすぎなんだよ……ッ!」
俺はアギトのカードを抜いた。
『ATTACKRIDE FLAME』
炎のカバーが俺の腕を包む。高速すぎて見えない斬撃に、炎で軌道を読んで迎撃する。
それでも、胸の装甲が深く抉られた。
さらに、あいつはカードを変える。
『KAMENRIDE DARKKIVA』
重々しい鎧が轟きとともに組み上がる。周囲の空気が震えた。いや、震わせてるのか。音波系の個性が混ざってる。
『ATTACKRIDE BASHER』
ただのキックやパンチじゃない。
振り下ろす拳が「音圧」で衝撃波を生む。
硬化の個性が加わり、黒い鎧はまるで岩盤みたいに重くなる。
飛んできた音圧だけで、地面が波打った。
俺はクウガのカードを構える。
『ATTACKRIDE MIGHTY』
キックで衝撃波を相殺するが、装甲がまた一枚砕け飛んだ。
脚が、そろそろ限界を訴え始めていた。
装甲は割れ、内部フレームが露出した箇所もある。腕を上げる度に、ぎし、と嫌な音がする。
それでも──退けねぇ。
ここを通せば、雄英が……後輩たちが……終わる。
俺はもう一度カードを握りしめた。
ただ、その瞬間だった。
『KAMENRIDE DARKKIVA』
黒い鎧が音圧を纏い、オール・フォー・ワンがこちらへ跳びかかる。
音の壁が押し寄せ、世界が歪んだみたいに震える。
──来る。
避けられない。
武器も間に合わねぇ。
そう思った瞬間だった。
バキバキバキッッ!!
俺の目の前に、突如として巨大な氷壁がせり上がった。
爆音のように空間が凍りつき、ダークキバの拳が氷に食い込む。
氷越しに、鈍い衝撃が伝わってくる。
でも……俺は無事だった。
「おっと……助かった、のか……?」
氷壁の向こうから、聞き慣れた声が返ってきた。
「──遅れてすみません、師匠」
その呼び名に、思わず俺は肩を落とす。
「……マジでやめねぇ? その呼び方」
氷壁が割れ、冷気を纏った轟が姿を現した。
あいつは俺のボロボロの姿を見るや、眉を僅かに寄せた。
「このまま戦えば、あなたが先に倒れます」
「そう見えるか?」
「はい。師匠の顔、つぶれたカブトムシみたいになってます」
「例えが酷いなお前!」
思わずツッコむが、立ってるのもキツい俺より、轟の目は真っすぐ敵を見据えていた。
炎の熱と氷の冷気、その両方が噴き上がる。
「俺の師匠を、これ以上傷つけさせはしません」
──ああ、こいつ。
ほんと、俺が教えた以上のヒーローになっちまったな。
背後では、オール・フォー・ワンの声が響く。
「弟子……? なるほど。では“師弟まとめて”消して差し上げましょう」
黒いオーラを纏うダークキバが再び拳を構える。
轟は半歩前に出て、俺を庇うように腕を広げた。
「師匠。ここからは──俺が戦います」
その背中は、氷よりも炎よりも、ずっと頼もしく見えた。
3rd舞台となる世界は?
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