八雲紫は感じ取っていた
風見幽香の住処に近づくほど、博麗霊夢の目が、暗く、深く殺意に満ちていくことを。
「…さて、アンタを探しに皆動いてるってことで良いのよね?」
「うん」
怒気を含めた声で問われてもな。そう思いながらも、そう思うことに留める。あれだな。問答ミスったら死ぬな、これ。とりあえずクッキー渡しとくか…さあどうだ。顔を綻ばせてくれ。どうか僕を叱らないでくれ。そもそも相手は大妖怪なんだぞ。慈悲をください。それでも巫女の顔は変わらず。ジッとこちらを見つめるばかりであった。その顔は僕をどうするべきか悩んでいる姿そのもの。まずいな?
「…ゆーの現状については変えられないからどうも言わない。けど、もう少しはマシな人間関係を薦めておくわ」
「えっ」
「そのせいでこんな夜更けに起こされて着替えてここまで来てるのよ。危うくこの館ごとぶっ飛ばすところだったし」
「あ、ごめんなさい」
「…外の世界に帰りたかったら帰っても良いのに」
「時代が違いすぎて僕はおそらく浦島太郎になるから嫌だ」
「チッ」
「今の舌打ちでかくなかった?」
「ま、何でも良いけど。とりあえず今回の首謀者退治してくるわ」
「はーい」
別に言わなくても良いのに。僕は上を向きながら考え、やはり同じ結論に至る。まあ要はそれが終わるまで動くな、ということだろうな。そうじゃなかったら言ってる意味わかんないから。紫が顔を見せる。少し伏せ気味に。申し訳なさでも感じているのかな。摩多羅を見習え。ほら、尊大なポーズ取ってるぞ。ここまで来たら病気、いや精神疾患だな。他にもゾロゾロ集まってきた。逃げてぇなあ
「ごめんなさい。守ると言っておきながら、こんな…」
「良いよ別に」
「気に病むことはない。次に活かし、私の国に招き入れることを承諾すれば」
「摩多羅、お前は黙れ」
「ぬぅ」
外に出る。時刻としてはどうだろうか、夜明け前といったところ。かなり騒いだこともあり眠気もない。家に戻っても良いが誰がいるかわからない。紫に手を掴まれる。振り解く。僕としては、別に誰のものになっても構わないのだ。今回の件は上手くいけばいつもの喧騒から逃げられるかもしれないとも思った。植物になった脇腹を触りつつ、さてこれどうしよう。いっそのこと野宿…あまりしたくはないな。
「ゆー!」
「うおっ」
「…なんで避ける?」
「萃香のツノが刺されば死ぬからな。見ろこの脇腹から生えている木を」
「…ここから端材取れたりしないかな」
「頭いかれたかお前」
「ゆー、今度会うときは危機的状況でないことを願うぞ」
「尊大な女め」
「じゃあ萃香、ゆーのかとよろしくね」
「ういよー」
「…は?」
なんとなんと。萃香が僕と暮らすことになっていたらしい。まあ紫が信頼できる相手ではあるが…実力もあるし。家に帰ってクッキー作るか。天子とアリスと博麗さんに特別なものを…うむ。あと何人か特別なものを渡すべき相手がいたような気もするが無視だ。萃香にも作っておこう。実を言うと、ホワイトデーはもう近い。幻想郷のホワイトデーは近いぜよ。だから作らなければ。今年忘れたらそれこそ代価として僕の体と言い出しかねん。
「…なんだ、萃香」
「あーー」
「やらんよ」
「ちぇっ」
「これはホワイトデー用なんだから、ホワイトデーまで待ってろ」
「…別に今でも良くないか?今ここにいるんだし」
「…いや、そうなんだが…んー…詳しくは僕も知らん…」
萃香にあげる。美味そうに食べて次を要求してきた。流石に欲張りすぎだ。水を飲ませておいた。ちゃぶ台に向き合うように座るよう命令。机の上には紫からの置き手紙。恐らくはここを出る時か僕がここに戻る前に置いていったのだろう。霧雨さんが使っている…なんだっけ。八角形のアレ。それに少し似ている五角形のものだった。あっちはなんて言ったかな。えっと…ハッケロ?ならこれはゴッケロだろうか。
「使い方…魔力を流して、空間を滑らせる…」
「うわ!」
「ん、どうした?」
「…スキマが…」
「ほー、こりゃ良い感じの脱出経路だな」
「一つ、良いか?」
「言いたいことはわかる。言って見ろ」
「紫のやつ、なんか妙にタイミングが良くないか…?」
…なんか、テンポが良くは感じる。まあうん。同感だ。少しおかしいだろう、なんでこうもポンと机の上にこのゴッケロが置いてあるのか。しかしそんなことは良いので。今日はもう寝ようとゴッケロを机に置いて風呂場に向かう。萃香も一緒に入るらしい。何でも良いけど速攻でゴッケロを使うようなことはするなよ。湯水に浸かり、鼻歌混じりの気分でうたた寝を試みる。無理だった。
「ふぃー…あれ、ゴッケロは?」
「机の上にあったろ?」
「…裸で出てくるな」
「同じ風呂に入った時点で通じないぞ、それ」
「しかしゴッケロは一体どこへ…」
「紫が回収したんじゃないか?不具合が見つかったりして」
「んー…」
布団に入る。萃香も同じ布団に。結構汚いからと萃香を追い出す。駄々を捏ねられ始めたので渋々受け入れる。わがままな鬼だ。勇儀さんが知れば…あの人は逆のことしてくるよな。知らないでくれ。そんなこんなで昼が過ぎ、夕方。夕方だ。夕方に起きたんだ。萃香も爆睡を決め込んでおり、家の中に侵入者がいないことを確認し、さあさあと。久しぶりに飯の匂いがしない朝を迎えた。扉の外を覗いてみたら何人か倒れていた。が、まあ知らん。
「…萃香、起きろ」
「んぁ…ん?」
「人里に飯食いに行くぞ」
「…ゆ、ゆー…その、指輪、いつつけた?」
「指輪ぁ?…うわっ!?」
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