「ここが僕の家」
「なんか随分と広くなったわね?」
「ここに住んでる鬼が勝手に増築していくんだ。だから最近は家を長くは空けないようにしてる」
「大変ね…」
扉を開けるとそこに萃香はいなかった。頭にハテナを浮かべながらも、隅々を捜索。やはり萃香はいなかった。妖怪の山にでも顔を出しに行ったのだろう。まあそれでも良いが。天子にはいつぞや…いや、バレンタインぶりのクッキーを渡す。するといつもの顔から澄まし顔で香り、見た目、謎の雰囲気、etc…とまあ好き勝手言ってくれた挙句に食べて美味しいからもう一つなんて言われる。お前…親御さん困らせてるよな、絶対。
「でも久しぶりよね。ゆーは全然会いに来てくれないし」
「行かないからな。空飛べてもあらぬ方向に行くんだから」
「滑空は出来るのに?」
「細心の注意で滑空がかなりのギリギリ。気を抜けば落ちるし、傘とかの不純物っつーか…まあ、そういうのがあるとかなり無理する」
「だからあんなに焦ってたのね」
「わかってくれて何より」
僕はクッキーを食べる天子を見ながら、やっぽりクッキーの作り置きはやってはいけないなと思った。一つ摘んで食べてみたがとても食べられるものではなかった。すまん天子、お前は明日トイレに篭りきりかもしれない。すまん。と、心の中で謝っていると天子から桃を渡された。食べれば強くなる桃らしい。一口齧る。味が薄い。いや、普通の桃は味が薄いのかもしれない。しかし僕は桃を食ったことがないからな。なんとも…
「ちなみに食べた数だけ身体が頑丈に、かつ強くなるのよ。一つ食べた人間が木っ端な妖怪に噛まれてもその歯を砕くこともできたそうよ」
「…あ、本当だ。机毟れた」
「いやそれは…うわっ、なんでよ」
「知らん…これ鬼が作ったから結構頑丈なんだけど」
「ゆーって元々フィジカルモンスターだっけ?」
「いや…まあ、元から雑魚妖怪を殴り殺せるくらいは」
「人間の上澄み程度ね」
「他にいるの?」
「周りに一人はいるでしょ」
巫女が思い浮かんだ。あー、確かに。確かに僕からすれば人間が妖怪をぶちのめすのは普通だが、幻想郷の普通は人間と妖怪なら妖怪の方が強いんだった。咲夜は…あれ、咲夜は人間として数えて良いのか?魔法の森にも一人魔法が使える人間がいたとか聞いたけど、それが誰かは知らないし。とにかく三人なら知ってるな。そうか…みんなはこの幻想郷でもおかしい方ではあったのか。
「…まあ、とにかく。私もゆーの身体を案じてこの桃を渡すのよ。だからそんな怖い顔されちゃ怯えるだけよ、私は」
「誰に話してんの?」
「後ろにいるでしょ。全く、憑くなら妖怪らしく存在感を出せば?」
「そうね。」
「うわ!お前いつでもいるな!?」
「私だっていつも見てるわけじゃないわ。萃香がいない時は殆ど。たまに見れない時もあるけど、それはそれとして」
「…私からすれば、その妖怪を信じるのもダメだとは思うけど?」
「なんで?」
「妖怪は人を食べる。ゆーが小動物で、紫がその捕食者だとするわ。その場合、ゆーは紫を信用できる?紫は貴方を食べ物として見てるのよ?」
なるほど確かに。それを考えれば、紫は信じられないだろう。しかしだ。僕を好きなことは本当だ。何故って?こいつ僕の誕生と同時に木を植えてんだぜ。キモすぎるだろ?な?まあそれを僕を美味しく食べるためのもの、と言われたら納得はする。が、理解はしない。拒絶する。なんだその気持ち悪い話は。天子、お前も何か言ってやれ。僕は桃食べて紫に食べれないような身体作ってやる。あ、ごめん食べすぎた
「ゔっ…」
「大丈夫!?ほら、お水!」
「随分と必死ね。天人様から見れば人間なんて一瞬のものでしょうに」
「それは妖怪の貴女も同じでしょ?違うの?」
なんだか険悪な雰囲気。天子を落ち着かせる。紫は落ち着かせない。あいつは煽ってるだけだから。落ち着け。あの面倒な妖怪の言うこと聞くな。あとお前に食わせたクッキーは腐ってるから明日トイレ行け。つーか今から行け。トイレ。篭ってなさい。うちのトイレ洋式だから。和式もあるにはあるけどさ。あ、紫がまた煽った。紫の頬をつねる。とにかく場はなんとかなった。なったはずだ。多分。
「…ちょっと、本当に痛いのよ」
「そりゃ魔法使ってるからな。身体強化の重ねがけは痛いでしょ」
「ぶーぶー!」
「何言ってんだよ本当に…もっと強くいくか」
「あだ、あだだだ、ちょ、まっ、待って!?」
「痛い?」
「反省したわよ。一緒にいたいだけなのに…」
「一人で矛盾するな。と言うかなんでお前らあんなに仲悪いんだ」
「…以前、あの子が幻想郷を壊しかけたことがあったのよ。その時から嫌われてはいるわよ。でもねぇ…」
あの態度はないだろうとか言いたいのか、納得のいかない顔で少し黙ったあと、やっぱやめと言われた。僕にはわからん話だが、まあ…うん。無視!布団に篭ってしまえば誰も何も言うまい。天子はトイレ、僕は布団。紫もこれで買えるだろうから、それまでは待機だな。僕はさっさと布団に向かおうとしたが、紫に行手を阻まれる。妖夢に言われた通りというか、こいつの身長次第というか。こいつたまに身長変わるんだよな。それでも僕の頭は紫の首元程度の高さにある。
「はい、捕まえたー」
「うわっ」
「私とお話ししましょうね。寝させないわよ?」
ゆーと紫の初対面(誕生以降)は、路地裏で室外機に座ってオロオロしている外人女性に話しかけようとしたこと。故にゆーは紫を日本生まれの外国人か何かだと勘違いしていたし、紫は運命を感じていた。