「おい大変だぞ!!」
天邪鬼が叫ぶ。いったい何なのか。紅魔館に用事でもあるのだろうか?ゆーに可愛がられてる身分でここに来るとは、喧嘩を売りにでも来たのか。しかし余程切羽詰まっているのか、ずっと叫び続けている。仕方ない、出るとする。門から出てみると美鈴に押しつぶされそうになりながらも叫び続ける天邪鬼の姿が。何が大変なのか。つい最近減額された指名手配犯は何をしゃべるのか。
「…美鈴、放しなさい」
「え、あの、咲夜さん?」
「何が大変なのか言ってごらんなさい」
「っはぁっ…ゆ、ゆーの奴が、担がれたままどっか行った!」
その場で固まる。私も美鈴も。恐らくはその力と身体に見合わぬ声により、浅い眠りに就いていたお嬢様にも聞こえただろう。私と美鈴は顔を見合わせ、お嬢様を待つ。その間に天邪鬼から詳しい話を。ゆーを連れ去ったのは…霍青娥という仙人。何度か聞いたことがある仙人の名だ。ということであれば恐らくは霍青娥の仙界にでも連れていかれたのだろう。繋がりで言えばどこぞの聖徳王も怪しいはずだ。
「お嬢様」
「…聞こえたわよ。それで、天邪鬼さん?その話、嘘じゃないわよね?」
「う、嘘じゃない!ほら見ろ、今朝ゆーに縫われたワッペンだ」
「いやそれで何を判断しろっていうのよ」
「これを縫ってもらった後に家を出たんだよ。その後忘れ物取りに行ったら、霍青娥が連れていってるのが見えたんだ」
「なるほどねぇ…美鈴、留守をお願いできる?」
「勿論」
お嬢様が動く。妹様はどうだろう?パチュリー様も。二人とも中々に動かない方ではあるが、ゆーのこととなると話は別。パチュリー様でさえわざわざゆーの家を訪ねるくらいには好いているのだから、おそらく動くだろう。2人を呼びに行ったのか、お嬢様は館の中へと消えていった。私も支度を整える。妖精メイド達に菓子と掃除のマニュアルを渡し、掃除を命じる。このマニュアルを作ったのもゆーだった。お陰で外出が気楽になったのだ。
「…行くわよ」
「はい」
「ねえ、そこの天邪鬼」
「な、なんだよ」
「帰って来たらゆーがいるけど、どうする?」
「っ…良いよ、別に!」
「天邪鬼を追い払うって…フランドール、貴女は何がしたいのよ」
「パチュリーだって、ワッペンの話を盗み聞きして怒ってたでしょ?」
…実際、私もワッペンを縫ってもらいたい。が、しかし。私の性格というかキャラとしてそんなことはできない。特にお尻とか。あの天邪鬼は恥ずかしくなかったのだろうか。そうそう、他の集団には言いに行かないように指示。こうすればこの拉致事件を知っているのは天邪鬼と私たちのみ。これで、無事に私たちだけがゆーを助け出すことが出来る。スキマ妖怪からも先手を取れる。
「レミィ。まずはどこに行くの?聞き込み?」
「まさか、パチェならもうわかってるでしょ。フランも」
「そうね。聖徳王に事情聴取、でしょ?お姉様」
「…そのためにはまず仙界ですが」
「何言ってるのよ。私の目には、人里で演説した帰りの姿が見えるわよ?」
どうやらお嬢様はずっと前から探していたらしい。しかし、お嬢様はそれをスルー。慎重に行動する意味。それは聖徳王が計画犯実行犯のどちらでもなかった場合、捜索に聖徳王も加わることを防ぐためのはずだ。お嬢様は遠くから運命を捉えて確認したのだろう。つまりは霍青娥の単独犯。パチュリー様の魔法を頼ることとなる。使う魔法は仙界に行くための魔法、というよりも幻想郷に入るための魔法だったものだ。
「…あのねレミィ、これやるんだったら最初からそうすれば良かったじゃない」
「訪ねるべき場所を間違えたなら競争相手が増えるだけよ。二手に分かれてもそれは同じ。パチェ、お願い」
「…はぁ。ゆーのことじゃなかったら絶対やってないわよ、これ」
「意見あるんだけど」
「…何、フラン」
「ゆーの介抱、誰がやるの?」
「…」
争いの予感。適しているのはパチュリー様だろう。それを察してかパチュリー様が前に出ようとする。が、それをお嬢様が制する。この魔法を使った場合、霍青娥の仙界に出るまでどれくらいの魔力を使うかわからない以上不正確なものに頼れないと。それこそ妹様の魔力があれば足りないことはないだろうが、妹様本人は霍青娥を殺すつもりだろう。そうなると、お嬢様は私を指さした。
「パチェは万全であればお願い。喘息は大丈夫?」
「…たとえ肺がなくても動くわよ。今回はね」
「じゃあ、始めましょうか」
魔法が発動する。結界を超えて一瞬外の世界へ、そしてまた魔法を使い霍青娥を探しに。霍青娥に限らず、仙人のほとんどは自分の仙界を他から見えないようにしている。その為、探すのでさえ一苦労。そうして探し続けること数分。ようやく霍青娥を見つけ出し、中へ。中華風の建物がある仙界。美鈴を連れてこればある程度喜んだだろうか。中を順に周っていく。私の使命としてまずあるのはゆーの保護だ。一つ、二つ、三つ。空間を拡張しているのかと思うほど広い建物の中で部屋をいくら見てもゆーはいない。
「っ…!」
「あら、お客様じゃない。ゆーはやっぱり愛されてるのねぇ」
「…それで?ゆーは?」
「強めの麻痺毒を与えたんだけどね。経口接種とは言っても効きが悪いのよね」
「…何が言いたい。死にたいって懇願してるの?」
「だから、ついさっき…私の持ってる中で一番な麻痺毒を注射したらようやく息がおかしくなっ」
ナイフを投げる。余程愉悦に浸って喋っていたのか、頬を掠めるまで気付かなかったのか、頬が切れるだけ。先ほど試してわかったことは、この仙界は時が止まらない。霍青娥がナイフに気を取られてる今、霍青娥が出て来た部屋に入り込む。中にはゆーと、誰かがいた。
「おー、麻痺毒は不味いぞー」
「ご存知?ナイフはもっと不味いのよ」
芳香…一応ゆーのことは好き。霍青娥の仕業かは別として。
メディスンの毒に耐えれる男に効く麻痺毒?妙だな…