「なんでトイレに行った子が、寝てる間に消えちゃうのかしら。貴方を襲った連中は不思議よね。顔を見せないし」
「…なんだよ紫、脅しか?風見幽香なんて、つい最近は姿を見せただろ。僕を襲った奴がその時点で消えるなら…」
「あの時は霊夢がいたもの。それに、最後の挨拶くらいはさせておきたいし。」
おかしいな。それなら萃香が消えた理由もない。家の増築はされてたし…紫の理屈で行くなら消えない奴も何人かいる。消える奴も。でも確かに、咲夜を見なくなった。というかかなり見なくなった奴がいる。青蛾は知らない。多分純孤さんが消した。神霊廟の連中は…なんかあったのかな。摩多羅はいなくなっていたとは聞いていたが、それはやはり摩多羅の行動のせいだろうな。摩多羅の件に関しては…まあ、同情の余地なし。
「貴方に危害を加えたものは全員。風見幽香に留まらず、隠岐奈も、聖白蓮も、レミリア・スカーレットも、聖徳王も」
「…聖?なんで聖が?」
「知らされてなかったようね。でも安心して?真実を伝えてあげるわ」
「何言ってんだよ…紫、流石に…」
「嘘だと思うなら思って結構。それでも事実に変わりはないから」
「…いや待てよ?」
「?」
「紫だけなら誰を選ばなくても良くない?」
「…は?」
紫が僕に選ばせたかったのは、確か僕が誰かを選んだ方が良いからであって、その理由も確かこのままだと幻想郷が荒れるからだったはず。なら今の幻想郷なら問題はないはずだ。天子の置き土産、いや遺品か?その桃を食べながら言ってみると、紫は何を考えていたのか烈火の如く顔を赤くした。照れではない、何やら怒っているような顔。一瞬見せた後に顔を伏せられ、そのまま淡々と告げられる。
「そうね、ゆーはそう言う人間だったわね」
「そ。ほれ、どうする?」
「貴方には何を言っても別のことで返されそうだし…そうね。摩多羅と同じやり方で気分は良くないけど…」
「?」
「ゆー、私と共に生きなさい。」
「断る」
こうなれば断りきった先が気になってくる。やばそうなら逃げるし、逃げきれなかったらそこまでだ。もっとも、僕は醜く生きるが。それはそれとして、紫の顔が怖い。扇子で顔を隠していたのだが、それをやめた。紫は真顔でこちらを見つめてくる。なんだか怖い、ではなく。本当に怖い。何か意思を持って怖い。少しの沈黙の後、僕がまた桃を食べようと動いた途端、紫が口を開く。
「ゆー。私と共に生きなさい」
「…根比べか?別に良いけどさ、お前らって全部そうなんだよな。僕が断ると強硬手段だし」
「ええ、そうね。でも私は貴方に選択肢を与えてるわ」
「…断る」
今度もまた同じ質問。三度目だ。仏の顔も三度まで、とは言うが…まさかこいつに仏リスペクトはないだろう。対抗心はありそうだが。あるならそうだな、四度目くらいまでにしてそう。うむ、僕自身かなりの賭けになるな、これは。どうにかして勝たねばなるまい。勝てるかどうかは別としてな。紫の質問をまた同じように断り、さてどうするか。また同じ質問が飛んでくるだろう。桃を齧ろうとして、首根っこを掴まれて壁に叩きつけられた。
「いっだ…!?」
「ゆー、私と共に生きて。」
「っ…」
「そうすれば何からも守ってあげる。ずっと一緒にいてあげる。外の世界であったことも、貴方の誕生日を知るのも、貴方の喜怒哀楽を知るのも、私だけなのよ」
「きもっ…ぐぇっ!?」
正直な感想を述べただけでこの体たらく。何やってんだ紫は。もうこうなれば意地だ。行くところまで行ってやる。楽しみだぞ紫。あ、でも首痛いな。ちょっとやばいかもしれない。僕の首を掴んでいる紫の姿が摩多羅と重なってきた。桃を食ったので以前とは違うんだぞ、と紫の腹を蹴ってみるも一切の反応がない。それどころか押し付けてくる力が強くなってきた。もう壁ぶち破った方が早いな?
「そうね、首を掴むのは失礼だったわ」
「抱き寄せんな」
「ゆー、選んで。私と共に生きるか、このまま意識を無くすか」
こう言う輩にはよく会う。幻想郷限定の話ではあるのだが。しかし困ったな。紫には僕の使ってきた手段がほとんど通じない。なんなら助けを呼べる相手がいないのだから、正しく救いの手はない。抱かれた身体もほとんど動くことが無く、天子は何故もっと早く桃をくれなかったのかと恨む。八つ当たりなのは分かってるが。いやまあ、ね?紫はキモいけど信頼もしてたし信用もしてる。キモいけど。
「…離して」
「ん、分かったわ」
「あー、いった…」
「ゆー、私は貴方が生まれた時から貴方に惚れていたの。貴方を私の管理下にしたかったから貴方の両親もすり替えた。こっちは失敗だったけど」
「またその話?同じ話ばっかだよお前」
「この幻想郷は少なくとも今現在、貴方のために存在しているわ。どう?私は尽くす女なのよ?」
何言ってんだか。幻想郷は妖怪のための理想郷のようなものだったはずだ。僕が知る限りにはなるが。僕のためのものならば、それこそ紅魔館は健在じゃなければならないし、聖白蓮も存命…死んだとは言ってなかったな。訂正。聖白蓮も今存在しなければならない。風見幽香は…僕の好みに合わせてくれる初めての妖怪だった。アリスは…知らんな。いつのまにか惚れられてた。神霊廟と青蛾はいなくて良いよ。嫌いっつーか怖いもん。後正邪も今僕の膝元にいなければおかしいな。
「…摩多羅は?」
「あ」
「いやまあ、私もあいつとは同類よ?貴方との結婚…まあ、共に生きることを夢に見て一蓮托生の指輪も作ったし」
「…まあ良いか。条件がある」
「えっ…えっそれってつまり…」
「錫杖とか、この手袋とか、それを着け続けるのは許して欲しい」
「もちろん良いわ」
「僕が他の女と関わることを許せ」
「…………………………………」
「最後に。他の奴ら…紅魔館とか、風見優香とか、聖白蓮とか…とにかく他の奴ら。元に戻して。そんで持って天狗に僕とお前の関係を大々的に発表しろ」
「……………………………………………………………………………………」
「ジト目でもダメです。僕の好みは髪型がロングなだけなので」
「………………………………………………………………………………………………分かったわよ」
「長えな…」
次回最終回
紫とhappy endすることは決めてた
その上で、紅魔館優勢の状況を見てみましょう。あ、紫が『まあ私は運命手繰るまでもなく一緒なんですけどね?』って顔してますね。可愛いなぁ。