「…何故私まで…」
「尊大な神様なんだろ。じゃあ縁起がいいし浸かれ浸かれ」
「ゆー、お前ちょっとおかしいぞ」
「正邪は黙ってて」
「は?」
今僕は摩多羅と正邪と共に混浴に浸かっている。この状況を羨ましいと言う奴がいるだろうか。僕にはよく分からないが、まあ双方美人…であろう。その美人に囲まれているのだから、多分羨ましいことなんだろう。僕は考えるのをめんどくさがり、思考を変えた。摩多羅がホイホイ釣られてよく風呂に浸かったものだ。僕からすればそれはかなり珍しいことだ。どれくらいかって?知らんよ、それは。
「…しかし、なぜゆーはこうまでしてその天邪鬼を庇う?」
「なんでって…面白くない?反応が」
「はぁ!?このっ、うりゃ!」
「それに、摩多羅だけの話じゃないけど、お前らのおかげで正邪くらいの力なら痛くないしな」
「…そうか。私たちがその警戒力のなさを生んだのか」
「ちょ、正邪、そろそろ危ないから」
「痛えんだなぁっ!?」
正邪が湯の中で滑り溺れる。湯の中から取り出し、息の確認。肺をぶっ叩いてみる。よし、息の音した。スースーではなくゴポッと音がしたのが気がかりか。背中を叩きつつうつ伏せに姿勢を変えさせ、水が流れるのを待つ。息を吹き返したようなので湯にもう一度浸かる。かなり焦った。全くこれでは心臓が持たんぞ。摩多羅がいるから一人だけ出るわけにもいかん。どうしたものかね。
「ゆー、ゆー!」
「ここにいるぞ」
「一瞬死にかけた…」
「湯で滑って死ぬ。天邪鬼に相応しい立派な死だろう」
「あ?」
「僕はもう上がるけど、二人は?」
「…私は帰らせてもらおう。もちろん着替えてからだが」
「正邪は?」
「そいつが着替えてゆーが着替えたら。」
…なんとも。摩多羅がため息と共に肩を落とし、『私も一応乙女ではあるのだがな…』とぼやいてあがった。勿論の話だが、僕は見ないようにした。次に僕が湯から立ち上がる。そのまま脱衣所まで戻る。ふと見たら正邪の着替えがあった。あまり見ないようにしておくか。着替えを終え、さて帰ることに。久しぶりの一人風呂だったはずなのにね。仕方ないし何を言っても変わらないと言うのはあるが。
「…アリスじゃん。つい今朝会っただろ?何もなかったはずだけど」
「そうね。でも足りないって話よ。そこにストーカーな記者さんもいるし」
「あや、ゆーさんあるところに私あり、ですよ。それに公認ですし」
「ストーカーの正体を突き詰めて放置してるだけだ。アリス、針をしまえ。」
「そう。貴方がそう言うなら信じるわ。」
「こわぁい監視人ですよね」
「射命丸に関しては風呂入ってる最中に抜け出したはずなのにな」
「私からすれば幻想郷を回って貴方を探すなんて簡単なことですよ」
「冗談じゃねえ」
僕は家に入り、アリスと射命丸を座らせる。つもりが、なぜか二人とも座らない。どうかしたのだろうか。僕は一度風呂場を確認する。射命丸に限った話ではないが、誰かがこう言うところを使った場合、物が消える時がある。やってる側はバレてないとでも思ってんのか。誰かまでは分かってねえけどな。それこそ僕が見てないうちに入り込む奴がいるともうわからない。この家のセキュリティとは名ばかりである。
「射命丸、お前…石鹸どこにやった?」
「はぁ?」
「石鹸ですか?あー、そんなものもありましたね。ボディーソープに変えたから良いのでは?」
「僕は石鹸派だ。返せ」
「…ゆー、下がってていいわよ。私が操って在処を聞き出すから」
「貴女が?私を?幾多の人形を操っても私には追いつけませんよ?」
双方共にピリピリしてきた。面倒だ。止めるのも止めないのも。手をたたき二人の視線をこちらに集めさせる。つーか石鹸返すことってそんなに嫌なの?いやそもそも僕のだよね?何に執着してんの射命丸は。僕には分からないことだ。そんなことは放っておき、僕はさっさと席に着き、とある話を持ちかける。勝負すんな、と言っても聞かない時は聞かないことがあるので、もっとわかりにくく。
「紫さん」
「んぁ…まだいたのね、貴女たち。今度は消そうかしら」
「消すな。どこか連れて行ってよ」
「喧嘩しそうになったのね。もうとっくに送ってるけど」
「はぁ…」
ため息。席についたまま今後を案ずる。僕は今後交友関係を広げるだろう。良くも悪くも。困るので良い方向で頼みたい。僕は紫さんを席に着かせて世間話をする。面倒だよね色々と。僕自身もうちょっと気楽に暮らしたいんだけど。そう言うと紫さんは僕が誰かと暮らすことを決めれば良いと言ってきた。…それは面倒だからいい。あと、選んだら選んだで紫さんはまず暴れるだろ。青蛾の一件が思い出される。
「それを考えるには警戒心がなさすぎじゃない?」
「あ?」
「例えば…ここにある人形のほとんどは監視機能を切られた。こちらを見る目が完全に消え、ひっそりと私と二人きり。こんな時に連れ去られたら、誰も気付かないのよ?」
「…それならそれで。紫さん以外の喧騒から離れられるなら」
「じゃあ連れて行ってもいい?」
「ダメに決まってんでしょ」
そう言った席を立ち、なんともな一日の後を考える。僕はやはりこう言うのが考えても無駄になる人間だけどね。ほら、今も考えが無駄になるように紫さんが腕を僕の首に這わせて後頭部に口を添えてきた。こうすると擬似的に僕を食べている感覚になるから楽しいんだとか。僕は美味しいのかな?そこは…僕を食ったことのある妖怪であるルーミアかフランドール辺りに聞くと良いだろう。
「一体貴方は誰を選ぶのかしらね」
「選ぶ時が来るのは死後かもね」
「まさか幽々子?」
「違えよそう言う意味じゃねえ」
紫さんはね。摩多羅ほど厳しくはないから。
ね。