ニヤ様に揶揄われながらしっとりされつつ、アヤメにじっとりされたいって話 作:白川 黒峰
「にゃはっ、わかりましたか? 今回は何ともなかったかもしれませんが、そうじゃなかったかもしれないんです。せめて私に───」
~~~数時間後~~~
ふぅ……なんとか解放してもらえた、最近構えてなかったせいか今回は長かったですね。
正座と膝枕で痺れた足を解しながら時計をみやると長針と短針が重なりそうな頃。
隅に寄せられた座敷机を戻し、備え付けの電気ポットで頂き物の紅茶を淹れながら。
「もうお昼前ですか」
なんて一人ごちたらスマホが鳴った。
11:14 ‘‘今起きたよ、起してくれれば良かったのに‘‘
七稜委員長からですね、なにやら恨み言が来てますが。
自分の精神衛生を管理出来るようになってから言ってください。
そんな旨を伝えると、早々に‘‘
11:18 ‘‘遅刻だけどちゃんと登校するよ、それでさ‘‘
11:25 ‘‘七稜委員長?‘‘
それでさ、の後が一向に来ません。
充電切れ? いや、機種は同じだったので充電器は使えるはず……となれば言いにくい事?
11:25 ‘‘また辛くなったら逃‘‘
うん? 誤字か、誤送信か……言いにくい事……。
あぁ、ひょっとして。
11:26 ‘‘逃げてきてもいいか。ですか?
いいですよ、いつでもお待ちしています‘‘
11:26 ‘‘ありがとう、本当に……‘‘
正解だったみたいです、普段から百花繚乱の皆さんには助けていただいていますからね。
恩返しの為にもお安い御用ですとも。
それからの二週間、ミレニアムから第一便の荷物が届き設置のために猫塚さんが来てくれたり。
シャーレを手伝いに行ったり。
魑魅一座の妨害を対処したり、今日は四回あった。
ホログラム花火やスピーカーの確認をしたり。
魑魅の妨害を対処したり、今日は二回だった。
連中の妨害を対処したり、今日三回目だぞ。
バカどもの対処……多すぎる! ふざけやがって! 絶対スポンサー居やがる! 花火協会だろどうせ!
そう思い花火協会を洗ってみたものの動きは無く、空振りに終わるのだった。
「はぁぁ~~。あの頻度の妨害、間違いなくスポンサーが居るはずなんですが」
仕方ないので魑魅の方に人を割いて調査中、ですが所詮は手足ですからね。
全然辿れない上に逆に襲撃被害が出る始末……どうも影を狩るのに長けた人材が付いてる様で。
本来の業務ではないのにこれ以上
素直にニヤ様の知恵をお借りするべきだろうか。
「ツナ、いいかな?」
「どうぞ」
ふう……少し声が固かったかもしれません未熟ですね、猛省しなければ。
入ってきたのは七稜委員長、またハイライトが消えてます。
襖も閉めずフラフラと対面に座ったので、閉めに行ったついでにお茶を淹れましょう。
一旦仕事を投げ捨て彼女の隣に座る。
「……」
「……」
互いに何を言うわけでもなくただ無言で、たまにお茶を啜りながら隣り合って座り続ける。
自分は結構好きなんですよね、こういう時間。
たまにニヤ様とするんです、癒されるというか、自然とため息が出るというか、息を抜くってこういう事を言うんじゃないかと、七稜委員長も思ってくれるといいのですが。
「……ねぇ、ツナ」
「なんですか? 七稜委員長」
「その……えっと……」
また言い淀んでしまった、まったく仕方ないですねぇ……この人は。
並んで窓を見ていたのを対面に座り直す、かなり距離が近いですがこうした方が真摯さが伝わりやすいでしょう。
「七稜委員長、わたしは
「あ……う、でも。め、めんどくさいよ? 私」
「ええ、まぁよく知ってます。この期に及んで言い淀む所とか」
「あぅ、うぅぅ……ほんと、に……いいの?」
まだ言うかこやつめ。
「さぁ、望みは何ですか?」
両腕を広げハグ待ちの状態で構える。
すると彼女は誘蛾灯に惹かれる虫のように手を漂わせながら抱き着いてきた、離したくないといわんばかりに掻き抱かれ、顔を鳩尾に押し付けられ、ウッちょ力つよ。
しょ、少々苦しいですが許容範囲内、行き先を失った手は取り敢えず彼女の背に回し、幼子を寝かしつけるように心臓のリズムでトントン。
「頭も撫でて」
「はい」
頭を撫で始めて十分ほどが経ち、ようやく力が抜けたかと思ったら寝てますよこの子。
パソコンは……ギリギリ届きますね。
それにしてもうつ伏せで膝枕は何というか……その、何と言いますかね……。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
三十分くらいは寝てしまうかと覚悟してたのですが、息苦しかったのか五分ほどで起きて。
手で顔を覆いながら蚊の鳴くような声で謝罪しているのが、今代の百花繚乱紛争調停委員会委員長の姿である。
そうして復活を果たした
ふう……さて、わたしも頑張らねば。
幾日か経ち桜花祭も間近に迫ってきたが今の所判明しているのは、『恐らく商人会と繋がっている』という何とも頼りない物だった。
組織で繋がっているのか、個人で繋がっているのか、結局掴めぬまま。
致命的な損害こそ凌げていますが襲撃も苛烈になってきました。
特に奴らの影となって動いている人物、名をイズナと言うそうですが偽名でしょうね。一応生徒表簿に照会を掛けてみたら
河和委員長からは先生を招待するついでに解決を依頼すると聞きました、悔しい思いはありますが致し方ありません。一番大事なのは桜花祭を成功させる事ですから。
「ツナく~ん? 居る~?」
呼びかけと同時に開けたら意味ないじゃないですか。
「居ますよニヤ様、
「にゃははっ、そうそう
サボりに来た訳ですね、まぁ何だかんだ自分の仕事を放棄する方ではないですし、そのうち
勝手知ったる他人の部屋といわんばかりに自分の座布団を持ってきてはわたしが座っていた場所の隣へ、その間にお茶と菓子を用意するのも。いつものこと……あぁいや、最近わたしが忙しくしてたのでちょっと久しぶりですか。
そうしたら二人並んで座ってお茶を啜る。
「「……ほぅ」」
取り留めのない会話をする、普段の仕事のこと、桜花祭のこと、新しく出来た屋台のこと、面白かったネット小説のこと、最近時間が取れなくて寂しかったこと、どうにもアヤメさんが不安定であること。
「やっぱりアヤメ委員長にはケアが必要ですか、これからもお願いできますか?」
「ええ、言われるまでもありません。彼女は友達ですから」
「にゃは~なんだか妬けちゃいますねぇ~。私はどうですか?」
「親友。或いはそれ以上です」
言い切ると彼女は普段隠している琥珀石を僅かに瞬かせ、肩に頭を預けてくる。
始まりは約九年前。
『にゃははっ、私とお友達になってくれませんか? 相談に乗りますよぉ~』
そうして手に入れることができた人並みの生活。まだまだ恩を返し足りない。
「最近、困っていることは……ないですか?」
一見普通の問、されど分かっていて聞いているのでしょう。
故に返答は───
「もう少し、自力で頑張ってみます」
既に先生を招待するという鬼札を切ってしまった、これ以上
身体を起こした彼女と暫しの間見つめ合うと。
「にゃははっ」
一言笑い、また頭を預けてきた。
納得してもらえて何よりだと思ったら廊下からニヤ様と叫ぶ声が、お迎えが来た様です。
「ツナさん、入りますよ」
どうぞと同時に開かれる襖、いつものことですね……。
いつの間にか立ち上がっていたニヤ様は迎えに来た桑上さんに連行されてゆく。
去り際に、美味しいお茶でしたと感想を頂く。
うん、今日もいい日ですね。
百夜ノ春ノ桜花祭 開催
先生と合流できたので今から陰陽部へ向かう旨を河和委員長から伺い、今まで集めた証拠を整理し先生を迎える準備をする。
解決の糸口……得られますよね……?
‘‘ツナ、いるかい? ‘‘
「いますよ、どうぞ」
‘‘失礼するよ‘‘と入ってきた先生と河和委員長、仕事前に雑談でもと思ったら向こうから切り出されて曰く───
「
「何でも……」
『助けることはできないけど代わりに、修行部に行けば何とかなるって』
修行部? と呟けば。
‘‘最近街が騒がしくて困ってるって苦情が入ったんだとか‘‘
「修行部……そういうことですか」
「一人で納得してないで説明して下さい! なんでニヤ部長は会いもしないんですか!」
まぁわたしのせいな所もありますが何よりも───
「陰陽部は強制力を持つべきではない組織なんです。いうなれば権威を持って、権力を持たない存在です」
「権威と権力って一緒じゃないですか」
‘‘いいや、違うよシズコ。そうか百鬼夜行は
そうして始まった先生の特別授業、内容は権力と権威。簡単に一言でいえば『命令と配慮の違い』なんですが。
「───へ~、そうだったんですね。私ってば同じものだとばかり」
これで本当に
これまでの経緯を掻い摘んで話している時───
「───そしてイズナと呼ばれる人物が」‘‘イズナ?‘‘「ええ、はい。何か心当たりでも?」
‘‘ここに来たばかりの時の会ったよ、元気な子だったから良く覚えてる‘‘
「それはひょっとして久田イズナさんでは?」
言いながら生徒表簿の写しを見せると‘‘そう! この子と会った!‘‘予想通りですね。
「非常に強力な影である人物ですよ? 本名で活動しているというのは流石に考えにくいかと」
‘‘う~ん、そうかい? でもなぁ……‘‘
少し間、何かを考え込んだ先生ですが独りでに何かに納得し。
‘‘覚えておくよ‘‘
の一言。いったい何に納得したのかは謎ですが、それからはなんの滞りもなく説明が終わり、対策の話し合いをしようと思ったのですが。
先生の───
‘‘ひとまず修行部の子に会ってみない?‘‘
鶴の一声で移動することに。が、しかし……
「居た! 見つけたぞ!」
「ようやく見つけたぞお祭り委員会!」
「げっ!? またですか!」
先生と河和委員長を背に庇いながら地形と相手の確認。
場所は第九商店街の通り、遮蔽は近い、先生を守るのは容易だ、河和委員長に任せよう。敵は下に火縄銃が1人、
RLが居る建物前に箱が積んである。うん、先ずアレからだな。
‘‘援護するよ!‘‘
「いえ、先生……は……?」
遮蔽に隠れながら先生がタブレットを起動すると視界の右下に
いったいどうやって、いや……。
「これが大人の力ですか」
或いは先生にしか起動できなかったタブレットの。
であれば意味は変わりませんか。
「援護感謝します! 河和委員長、先生を頼みます!」
「来るぞ! 撃て撃て!」
駆ける。
一番まずいのは先生が負傷すること、加害範囲の大きいRLを撃たせないよう牽制の弾丸を放つ。
二階のMGは構えるのにまごついてる、正面の弾は致命傷だけ庇って、気合で……耐える!
「クソ! 当たってるはずなのになんで───いでぇ!」
「何度やっても懲りないんなら何度だって叩きのめしてやるわよ! ……あっ、て、的な? にゃん♡」
正面も撃てバカヤロー! の声を後頭部で聞きながら積み上げられた箱も駆け上がり、ベランダの手すりを走り抜け一軒奥の壁を使って三角飛びの要領で屋根に飛びあがる。
「ま、マジかよコイツ……」
チラリと自身の得物を確認した。ええ、わかります。
信管が起動するか不安ですよね! そう、その一秒が欲しかった! 一秒あれば懐に潜り込める!
「チクショー!」
やぶれかぶれに撃たれる、前に! 蹴り上げる!
TNT製の花火が撃ち上がり、バックブラストが瓦を粉砕する。
来ると分かっていれば何とか耐えられる、それがキヴォトスです。
「神妙になさい!」
背後を取り襟首を掴んで膝裏を蹴る、膝立ち状態になったらもう一仕事してもらいます。
「おいおいおい! まてやめ───いででででで!!!」
そう、お向かいからの銃撃です。
いやぁ~身を挺して庇ってくれるなんて魑魅にもいい子はいるんですねぇ。
仲間ごと撃ってた悪い子に向ければ、すってんころりんと銃を置いて地面に落っこちました。
形勢逆転、ですね。
「銃を下ろし、投降しなさい」
先生たちの方はどこからか出てきた百夜堂の屋台も遮蔽にして被害はなさそうです。
アレってどこから来ているんでしょうか?
「ぐっ……構うな! 撃て!」
「はい」
トリガーを引き、撃鉄がファイアリングピンを叩く、弾頭後部の推進剤に火が入り、反動を打ち消すためのバックブラストが噴射された。
「まてそっちじゃ───」
巨大な爆発音と共に四分五裂した魑魅一座達、ここで躊躇すれば余計な被害が増えますから仏心を出すわけにはいきません。別に私怨とかないですし、爆破した道路の補修を一体誰が費用をとか考えてないですし。
「はぁ~~……」
ため息が出ますよ、ほんとに。
「先生、河和委員長、お怪我は?」
「ありませんよー!」
‘‘私も大丈夫‘‘
要人を抱えての戦闘は神経を削りますね、かなり無茶をしましたよもう。
身体中に弾丸を受けましたし青痣沢山ですよコレ、しかも制服に穴まで空きました。
ノックダウンさせた魑魅連中を常備している結束バンドで拘束していた最中に……
「うわっ!? また来ましたよ!」
良くない、非常に良くない、流石に連戦は耐えられません。
「河和委員長、先生を連れて先に───」
避難指示を出そうとしたら先頭集団が突然の爆発。
誰が修繕費の算出をすると思って……!
「そこまでよ! 魑魅一座・路上流!」
こ、この声は!?
「だ、誰だ!?」
魑魅一座の誰かが叫ぶと、爆発の土煙の向こうから声と共にシルエットが迫る。
「誰だ何だと聞かれたら、答えてやるのが人情ね!」
派手に!
華麗に……。
う、美しく……!
一人一人言葉を繋ぎ、
尋ね人の方から来ましたね、手間が省けました。
そうして修行部と協力し魑魅一座の第二波を撃退、といきかったのですが……
「イズナ流忍法! 四方八方もくもくの術!」
「ば、爆発!?」
周囲に立ち込める濃い煙……これは。
「いいえ! 煙幕です! 先生、わたしたちの近くに!」
……返事がない!
「よし今のうちだ、全員突撃!」
「ッ! シズコと修行部は先生の捜索と保護を! ここはわたしが止めます!」
「そんな!? 無茶ですよ!」
言葉を交わす間も惜しい! 押し付けて前に出ながら腰に挿していた物を抜き放ち、逆に奇襲を懸ける!
「うわっちか!?」
「ふん!」
鉄同士がぶつかる耳障りな音と共に、相手の持っていたARの銃身がひしゃげる。
『わたし、常々思っていたんです。キヴォトスに住まう人々は銃弾など痛いで済ませられるのですから、人を制圧するのではなく武器を奪うべきだと』
そんな言葉と一緒に受け継いだ十手。
折れず曲がらずとかく頑丈、母の時代から敵の銃を叩いてぶっ壊し続けた代物です。
もう二丁ほどブッ叩いて無力化し遮蔽に飛び込み、背中に銃弾の多重奏を受けつつこれからの行動を考える。
(援軍の目途はなし、目標は時間稼ぎ。先生を取り戻すまでどのくらい必要だ? 敵の正確な人数把握を───)
手鏡で覗き込んだ時見えたのは空を飛ぶ
が
持ち主へと跳ね返る姿。
直後響く銃声と爆発音、それと共にわたしの居る遮蔽に降りてきた金と浅葱色。
流石にカッコ良すぎるでしょ。
「……七稜委員長。ありがとうございます」
「無事……じゃあないよね、少ししたらレンゲが来ると思うけど。アレくらいなら私一人で大丈夫」
「わたしも手伝います」
「大丈夫だから休んでて、情けない所ばかり見せてきたけどこれでも百花繚乱の委員長なんだから。結構強いんだよ、私」
相手は十人以上は居る、無茶だと言うより早く駆け出して行き……彼女の独壇場が始まった。
持っているのはボルトアクション式のライフルなのにも関わらず、その連射はフルオートと聞き間違うほど洗練されているし、何よりだ。一対多の戦闘だというのに全く危うさを感じさせない立ち回り。
殺気でも感じ取っているのか的確なタイミングで振り向き背後の相手に対処している。
駆けて、しゃがんで、跳んで、足でコッキング!? 合間でリロード、射撃。
銃声が一つ鳴る度に一人、殴打する音が鳴ってまた一人。
気付けばそこに立っているのはただ一人、百花繚乱紛争調停委員会委員長七稜アヤメだけだった。
その後、
先生奪還の報を受け河和委員長に修行部の面々と百夜堂で落ち合い、これからの方針を議論し
それから二日、魑魅一座並びに久田イズナは姿を見せる事は無かった。
修行部はパトロール、お祭り運営委員会は事務やトラブル対応で忙しく、わたしも通常業務に戻り、想像より口が堅いようで百花繚乱から情報は未だ無い。
明日は桜花祭最終日……この嵐の前の静けさ、恐ろしいものがありますね。
そして訪れた最終日、その始まりは非常に穏やかなものだった……というか夜まで多少の
……?
先生からモモトークが───
19:43 ‘‘イズナと一緒に桜花祭を回ったよ‘‘
‘‘魑魅一座の子達に雇い主の所まで案内してもらうね‘‘
───!!!???
「まっっったくあの人は!」
駆ける、翔ける、懸ける。
陰陽部本館を飛び出し、人でごった返す道を避け屋根伝いに跳ねまわり、先生の無事を祈りながらお祭り委員会と修行部に鬼電する。
両部活とも同じような内容のメッセージを受け取っていたようで既に動き出しているとの事。
そんな折にやってきた百花繚乱からの情報、今までの調査結果と聞き込みの情報を突き合わせ河和委員長と出した答えは……商店街近くの廃墟第六棟!
さっそく向かおうとした時にかかってきた一本の電話。
「ニヤ様から? はい、ツナです」
「にゃはは。ごめんねぇツナ君、先生の所に向かう途中だったと思うけど町中の魑魅一座が集結しつつある、ってなったら流石に放っておけなくってね」
「それは……そう、ですね」
「と、いうわけで百花繚乱の方には私から連絡を入れておきましたので、現場の監督及び後始末をお願いできますか?」
正直、ここまで来て。という思いはあるが……仕方ないですね。
「分かりました、百花繚乱紛争調停委員会と合流します」
感謝の言葉で切られた電話、込み上がってきた悔しさと虚しさをため息一つと共に吐き出し。
河和委員長に一緒に行けない旨を告げ、百花繚乱との合流を目指した。
現場に到着しましたが、臨時指揮所には既に。
百花繚乱紛争調停委員会委員長、七稜アヤメ。
百花繚乱紛争調停委員会副委員長、
百花繚乱紛争調停委員会幹部、切り込み隊長。不破レンゲ。
百花繚乱紛争調停委員会幹部、作戦参謀。
が揃い踏み、挨拶をして遅参を詫び作戦会議を始める。
「各地からの目撃証言だけでも魑魅一座の総数は百を下らないかな、総ざらいって感じ」
「でも一気に来るってワケでもないんだろ、ならやりようはあるんじゃねぇか?」
「それは私たちが勝ち続けてかつ、敵の行動が想定通りだった場合の話。たった一つの想定外で崩れかねないよ、アヤメがいるから負けないけど」
会議は踊るが制限時間も近い、結局の所は『十分な遊撃戦力を置き、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に』という無難なものにしかならなかった。
現場で動く御陵副委員長と不破さんにかなりの負担をかけてしまう事になる。
不破さんは任せてくれと豪語してくれたが、御陵副委員長は不安の拭えない様子……。
桐生参謀も眉をひそめていたし、七稜委員長に至っては私が現場に立つと言い出しかねない雰囲気。
百花繚乱側の戦力は凡そ六十人、二倍近い敵と相対する事に少し浮足立っているように見える
危険と判断したわたしは作戦前に少しだけ話をさせて欲しいと願い出た。
「こんばんわ、皆さん。わたしは陰陽部所属の鬼丸ツナです、今回の桜花祭をお祭り運営委員会と共に計画しました。百花繚乱の皆さんにも休憩中やパトロールの合間に今回の桜花祭を楽しんで頂けていたら幸いです」
「そして、桜花祭最終日を迎えた今、大きな、大きな危機に直面しています。百人余りの魑魅一座が此度の桜花祭を台無しにせんと迫っています。わたしは許せません、皆が楽しんでいる桜花祭をこんな形で中止させたくありません」
「どうか、皆さんの力を、皆さんの日々の研鑽をどうかお貸しください。これは七稜委員長だけでも、御陵副委員長だけでも、不破隊長だけでも、桐生参謀の力だけでも成し遂げられません。百花繚乱紛争調停委員会全員の力を、桜花祭を守る為に、貸してください」
言い切ったわたしは深々と頭を下げる。
返答は言葉ではなく、一切乱れのない足音だった。
「ふぅん。やるね、先輩」
肩を叩かれ代わりに皆の前に立った桐生参謀が作戦概要を説明していく。
チラと見えた桐生参謀の眉間に皺は無かったし、振り返った時に見た七稜委員長は落ち着いているように見えた。
よかった、何とか役目を果たせそうだ。
「イ、ロ、ハ、ニ班はレンゲの指揮下に───」
「───そして、ヲ班はツナ先輩の護衛として残ってもらうつもりだけど……」
「いいえ、護衛不要です。必要とあらばわたしも現場に立ちます。遠慮なく使って下さい」
「そう? じゃあそのままヲ班と出て貰うから」
そう言い放った彼女はまぁ何というか……非常にイイ顔をしていました。
早まったかもしれませんね……。
「お初にお目にかかりますわ! 身共はヲ班班長、
「よろしくお願いします、勘解由小路ということはひょっとして今代の……」
「は、はい。巫女を務めさせていただいております」
「そうでしたか、ユカリさんとお呼びしても?」
「っ! ええ! もちろんですわ!」
作戦が開始されてしばらく、事は思っていたより順調に進んでいました。
ですがこれは敵に助けられているようなもの、魑魅一座側があまりに連携という言葉を知らなさすぎます。
多い時には二十人ほど、少ない時は三人くらいで近づいてくるんですよね。
こちらの人数的にも分散されると厄介なのはそうですが、かといって同時多発的に攻めてくる感じもなく、言うなれば戦力の逐次投入という愚を犯している。
「妙……というか、おかしい」
そう呟く桐生参謀の感覚は指揮所に詰めている全員が共有する所だ。
現地で制圧を実行している不破さんからも。
『戦意がピンキリ過ぎてヘンな感じだ』
なんて報告をもらっている、やはりおかしい……別の狙いを疑い始めたわたし達に届いた先生からの連絡。
曰く、こっちは解決したよ。とのこと。
なら魑魅一座のおかわりは無いとみて良さそうです。
「じゃあこれが最後だね、三十人くらいかな。レンゲと副委員長は指揮所で待機」
「おいおい最後だけもってく気か?」
「私も大丈夫、アヤメも行くんでしょう?」
「はぁ……班の子は指揮所で休ませてあげて」
57秒。
最後の戦いが始まって、魑魅一座が全員地に伏すまでの時間だ。
待ち伏せ、斉射、突撃。
百花繚乱の誇る精鋭が揃っていたとはいえ凄まじいの一言。
何もすることがありませんでした。
「この時間なら間に合いそうですね」
チラとスマホを見れば桜花祭のフィナーレまであと三十分、連行は待ってもらってみんなで見ましょうか。
その旨を皆さんに伝えた所。
「いいね、別に急がなきゃいけない事でもないし」
七稜委員長がそう切り出すと部員の方々は大喜び、判断は間違ってなかったですね。
‘‘一時解散!‘‘の号令と共に祭囃子の一部となった部員を眺めている七稜委員長に。
「山風の 音もかそけく あやめ
「え? えぇ~っと……」
困り眉で残ってくれる三人に振り返った七稜委員長を迎えたのは。
‘‘楽しんできたら‘‘と参謀が、何故か頬を染めながらこちらを見ている切り込み隊長、気のせいじゃなければ恨めしそうにわたしを見ている副委員長の姿。ちょっと怖い。
照れくさそうに頬を掻きながら。
「そよぐ風 髪をふるわせ 紅き瞳 宵にまゐらむ 影ゆらぐ道」
そう詠って歩き出した彼女を追いかけて近場の屋台を巡った。
まずは型抜きの屋台。
「意外と難しいんですね、型抜きって」
「やったことなかったの?」
「ええ、存在は知ってたんですが」
始めてやった型抜きは二枚失敗し、思ったより自分は不器用だったのかとへこみましたね。
七稜委員長は一枚目で成功させていたので待たせてしまったのだが。
「いやいや、意外な一面が見られて楽しいよ」
なんて言われてしまって……ん?
「次はここだなぁ? このかたぬき達人様が商品券ループの……げっ浅葱の羽織!?」
百花繚乱の羽織を見てそそくさと逃げて行くチンピラ達……。
うーん……無くなったりはしませんねぇ。
焼き鳥屋台でお土産用も含めて沢山買って食べ歩き。
「やっぱり塩ですね」
「わかる、タレも嫌いじゃないけどね。なんだかんだやっぱり塩だよ」
わたしがネギま、彼女は鶏ももをついばむ……鶏ももいいな。
「一口頂いても?」
‘‘いいよ‘‘と差し出されたので遠慮なくパクリ、う~ん鶏ももうまい……。
口に入れた瞬間広がる炭火の香り、ジューシーなもも肉を噛み締めるとガツンと来る肉の旨味に加え、同時に溢れ出る油の甘みと鼻に抜けるスパイス、そしてそれらを締めくくる塩味……しかもただの塩ではない、このガリッとした食感は岩塩だ。桜花祭と言えど屋台なのにどれだけ本気になっているのか……ありがたい事です。
「お返しどうぞ」
差し出した串に一瞬躊躇したが今回は素直にかぶりついて来た、ネギまもいいですよね。
「うん、美味しい!」
のんびり食べ歩いていたらいい時間なので待機してくれている三人の元へ。
‘‘イイ顔してるね、そんなに楽しかった? ‘‘着いて早々揶揄いに来た桐生参謀と‘‘いいなぁ‘‘なんてぼやく不破隊長、そして焼き鳥に目を輝かせている御陵副委員長。
それぞれに焼き鳥と飲み物を手渡し交代してしばらくするとカウントが始まった。
『5!』
『4!』
『3!』
『2!』
『1!』
夜空に舞う笛の音が一斉に鳴り響き、爆発音と共に桜花に負けぬ大輪の群花を咲かせた!
うん、いいですね。煙が残って見えにくくならないというのは。それにもう一つ、大きな利点というのが───
『わあ! チセさまだ!』
運も必要になる花火玉を完璧な角度で魅せれる事ですね。
それから雨が降ろうが関係ない事。
やはり緊急伝達用の花火はこちらにするべきですね、天候が関係ないというのは大きい。
何より花火玉の維持管理は気を遣いますし定期的な更新も必要です。
ですが電力を狙われるという可能性を考慮すれば併設が妥当か、花火玉の種類と数が減るだけでも負担は減るはず。何をどれだけ残すかはこれから
「花火は映像って聞いてたからどうかなと思ってたけど、流石ミレニアムと言うべきかな」
「そう言っていただけると企画した甲斐があったというものです」
本当に……頑張った甲斐がありましたね。無事終えられてよかった。
たーまやー!
……は今回いないんでしたね。
桜花爛漫お祭り騒ぎ! ~空に徒花 地に忍び~ 完
後日談 1
あの日集まっていた魑魅一座の半分は危惧していた通りの連中だったが。もう半分はというと普通に桜花祭を楽しみに来ていたのだという。
その報告を告げたところ、わたしと膝に頭を預ける七稜委員長は深い深いため息を吐いたのだった。
後日談 2
「桜花祭の件では大変! 大変ご迷惑をおかけしました!」
祭りが終わり、事後処理にも目途がついたころ。そう謝罪に来たのは今回最も苦しめられた相手と言っても良い久田イズナさんであった。
「桜花祭や花火が中止という最悪の事態には至りませんでしたから、こちらが厳しく追及する事はありません」
そもそもが騙されていた訳ですし、責任を取らねばならないのは商店会長のニャン天丸だ。
彼はあの後河和委員長の看板娘パンチを喰らってお縄についたそうです。
妨害の動機は『お祭り運営委員会のやり方では稼ぎが少ない』と、物事を評価する基準が‘‘いくら稼いだか‘‘になってしまった悲しき大人でした。
今どうしているのでしょうね、百鬼夜行の魂とも言えるお祭りを妨害していたと公表されてしまいましたから、信頼回復はかなり難しそうです。
「これからどうするのか、当てはありますか?」
「はっはい! 忍術研究部という素敵な部活動にお誘い頂けましたので!」
「そうでしたか、それは良かった。次は御味方として大いに活躍を期待していますよ」
次が決まってましたか、残念。黒衣衆の方に引っ張れないかと期待したのですが。
彼女が健在の間、手も足も出ませんでしたからねぇ……。
後日談 3
「いいなぁ~」
「…………」
「いいなぁ~いいなぁ~い~い~なぁ~」
「……ニヤ様、お仕事の方は」
「ツナ君は私よりお仕事なんですね悲しいですぅ、ヨヨヨ~」
「今日は早上がりしようと思っていたのですが……」
「! にゃはっ、にゃははは~」
笑いながらそそくさと部屋を出たニヤ様……さて、昼食前に間に合わせますか。
───────── 次 回 予 告 ─────────
「エデン条約の随伴員、構いませんがどうしてわたしに?」
「お久しぶりです、ツナさん。
「グッ、うぅ……一体、何が……エンジニア部製のメガネケースを破損させるほどの衝撃?」
「空崎委員長! ナギサさんと先生を頼みます! 必ず時間を稼いでみせますから!」
「ごめんくださ~い! アヤメ委員長はみえますかぁ?」
(嗚呼、これはダメですねぇ。にゃはっ、困ってしまいましたぁ)
「あ、あぁ、やっぱり……私じゃ、私は……百花繚乱の、委員長なんかじゃ……」
「そうだ、クズノハ……ツナもクズノハのこと探してたって、資料……借りたままだ……」
「私は……あんたを友達だと思ったことなんてないから」
次回 エデン条約編
別に覚えなくていいオリジナル用語
蜻蛉射(とんぼうち)……固有武器です。モデルは杉浦式自動拳銃、がそもそもコルトM1903のコピーだという。設計は安心のブローニングおじさん、M2重機関銃いつまで使われるんだろうか。
小型軽量信頼性バッチリってんで当時の帝国陸軍将校にも人気があったのだとか。
国綱(くにつな)……ツナママから受け継いだ十手、固有武器のイラストにHGと一緒に描いてあると思います。マッマ曰く、人を抑えるのに苦労するなら、武器を奪えばいいじゃない。
黒衣(くろご)衆……百鬼夜行の抱える諜報機関。が、その性格はかなり内向き。
というのも成り立ちからして連合それぞれの諜報部が合併して出来た物であり。その主任務は旧学園体制残党の調査である。
え~大変お待たせしました、待っててくれた方ありがとう。感想くれたお二人ありがとう。評価入れてくれた方ありがとう。お気に入り入れてくれた方ありがとう。本当に……BIG LOVE
次回予告にある通り構想はあります、気長にお待ちください。
スバル……好きだ……。梯(かけはし)っていうのか……初見じゃ絶対読めないゾ……。