キングwithゴムゴムの前世氏 作:ZN
一度死したる我が肉体、こびりついたこの魂は“神”に出会い、蘇生された。
転生と言い換えても良い。我が存在は強靭な性質と共に、“神”にもたらされた天啓と天命を得た。
ただ、最強であれ────
我が肉体は時に風であり、時に水であり、時にヒトである。我が肉体は形を伴わず、脈々と形状を変質させながら様々な場所をさまよい歩き、最強となるべくその相手を探した。
故にこそ見つけた素体。これを乗っ取り、我が性質を兼ね合わせることで、それこそが“神”の意思を遂行するのにふさわしいであろうと、私は考えた。
その名は、キング。S級第7位ヒーロー、誰が呼んだか“地上最強の男”、ヒーロー名も他称からキングという名がつけられた。片眼に三本の傷。金髪をオールバックにした、妙な迫力を持つ男。
災害レベル「竜」を超える大いなる怪人や怪獣ですら、いつの間にか現れて倒していることからその戦闘スタイルすら誰も知らない。その卓越した成績からして、おそらく表ざたになっていない大規模の事件すら、キングが未然に防いでいる可能性すら噂される。
言葉少なく、時にその圧倒的な強者の威圧で誰しもを黙らせ、言葉のみで心を折る姿はまさに最強と言う呼び名に相応しい。
そう、あまりに強すぎるが故に常在戦場、私服のまま着の身着のまま出歩いて怪人に遭遇して倒すと言う前評判は伊達ではない。
彼の存在を知った後、私はその一日の動向を観察した。その結果判明した恐ろしい事実は、キング本人はなんら鍛錬の類をしていないということだ。ただ適当に出歩いて、電子ゲームを買い、自宅に帰って遊んだり食事をとったりテレビを見たり、一切の戦闘能力の向上を図っていない。
やはり生物としての存在が根本から違うのだろう。生態として、キングはその必要性を感じていないのだ。
私は確信した。我が器たる肉体はこのキングこそが相応しい。“神”より得た最強であれと言うオーダーも、これなら問題はないだろう。……限界点を超えたとか、そのあたりはちょっと何を言ってるか意味が解らなかったが、誰がどう考えても最強である存在を基準にすれば、もう何も怖くないだろう。
だから私はキングの肉体を
キングの自宅の冷蔵庫、ヒーロー協会からのお中元に入っていたメロンの果実。受け取って早々に漫画を見ながら、キングが「ゴ〇ゴ〇の実……」などと言いながら適当にマジックで模様のようなものを描いたものだ。なお、模様自体は途中で描くのに飽きたのか途中で放り出されていたが、まあ特に問題はあるまい。
地上最強の生物と言えど、物の好き嫌いもあるし、飽きはするのだろう。ワ〇ピース読んでるのかキング、と肉体を失う以前の私の記憶から感想が過ったりもする。
そして、メロンに関しては既に半分平らげており、味の好みに好き嫌いはなさそうだ。
せっかくだからと残りのメロン全体に融合した無形の私は、皮に描かれた中途半端だった模様を仕上げる。見た目に関しては禍々しい色合いとなっており、メロンの果肉の色も心なしかくすんでしまっている。まあ、これは私の現在の肉体たるものが融合している証拠であるので、仕方ないと言えば仕方ない。
そしてそれから数日後。冷蔵庫のメロンを取り出し、特になんら違和感もなくカットしたキングはスプーンで人救いして、一口。最強生物であるが故にか、食物の腐食すら全く警戒せず、堂々とした食べっぷりである。
「まっっっっっっ、ずッ!!!!!!!!!?!?!?」
これは、決して味の再現をした訳ではないが。そもそも既存の生物としてほぼ死に体であった私は“神”の力によって、不可分かつ不可侵の存在となっている。つまり、おおよそ生物が口に含んで、美味と言うべきものでない。栄養になり得ないし、ある種の毒素の類でもあるかもしれない。そして、そんな私の害たる特性を一口で察知したキングは、なるほど最強生物であれど、きちんとした生命体なのであると妙な納得をしたものだった。
思わず呑み込んでしまったキングはまずさから口の中の私を吐き出そうとするが、それすらもはや意味はない。既に食道を通過し胃壁のあたりに接触している私は、そこを起点にキングの細胞に侵入、血液に入り込み大きく循環する。
────ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ──────
キングの胸から「キングエンジン」の音が響く。この音こそキングの証明、戦闘態勢になったキングが持つ重要機関であり、このキングエンジンで氣を練ったり身体能力の底上げをしているともっぱらの噂だ。なるほど、体内に侵入した異物である私を破壊するため基礎的な身体の性能を底上げしようと言う魂胆だな。流石最強の男、たとえ体内であろうと怪人相手には一かけらたりとも慈悲はないということか。
面白い。これは生存競争、生存戦略。私の融合が先か、キングによる私の破壊が先か。
果たして────────勝利したのは私だった。
キングの細胞の一片たりとも全てのものと融合し。キングの脳組織から彼の自我と私の自我とを共有するに至り、こと完璧にキングと言う存在を自分のものとして掌握できた。
これにてひとまず“神”からの天命の第一段階は終了したと、そう考えていた。
改めて、実感としての自分の身体を掌握するまでは。
「………弱い、弱くない? えっ何これ、弱ッ!? というか………………、これ
こうして私は……、私改め俺は、気付いてしまったのだ。
あまりにも貧弱というかその辺のオッサンな、地上最強の男と噂される相手の肉体を我が物としたと同時に……、この世界がコミック「ワンパンマン」の世界であることを。
つまり、この世界がコミックであったという前世に目覚めてしまった…………、本当の意味で異世界転生的な何かだったということに気付いてしまったのだ。
(あの……よくわからないけど、もうちょっと手心を加えて欲しいけど、感想みたいなそれ)
なおついでに言えば、私が前世を思い出したタイミングの問題で何かキングの人格を乗っ取る事にも失敗した。
「何でキングだよ!? 違うよ、キングはオーラと体質に反して戦闘力一般人みそっかすだから良いんだろ! 出来ないことがある中でも頑張って自分の手を尽くして、でも一般人だから良いんだろ! 異能力手に入れちゃったら何もかも全部違うだろ!?」
(
と言う訳で長い前ふりだったが、どうも。俺こと
命名はキング。
前世がどうのこうのと叫んだこともあり、キングは私のことを「自分の前世の人格」か何かだと思ったのだろう。怪人に融合された自覚すらないし、俺もそれを明かすのが怖いので放置した結果、前世氏という呼称を受け入れることにした。
(漫画とかアニメの世界に転生するとか昨今の流行で普通にあるし……。まあ、オレたぶん主人公とかではないんだけど。弱いし。何かゴメンね…………)
メタ認知、客観的な評価をちゃんと自分に下せる美点を持つこのキング。私のことを自分の前世と思い込んだ? 判断した? 時点で、何かこう物凄い申し訳なさそうな思念で謝られた。思わずこちらもかしこまってしまいそうな勢いで謝られたため、こちらこそ自分が前世なんかでスマンと謝り返したり。実際、だましているような形になるのでそればかりは本当にごめんなさいだった。
特に何か言った訳ではないのだが、キング自身、自分の人格と前世の人格が分離してることについて「たぶんオレがビビリすぎてるから……、前世の人格と融合するの怖すぎて拒否したからとかじゃないかな……」とこれまた何とも言えない表情でいうものだから、うん。
肉体的には掌握したものの、キング自身の意識がしっかり残ってる関係で、俺たちは2つの人格が1つの肉体を同時に共有しているような状態となっていた。
まあ、そんなキング氏と俺だが。現在、なんだかんだで
最強の生物になるという“神”からの指示なんでもうどうでも良いというか、どうあがいても履行できないというか。“神”も 『あっ(察し)』 みたいな何とも言えない思念を送りつけてきて以降、音沙汰がない。私自身「無形で空中を漂っていても自己同一性が崩壊しない」だとか、おおよそ怪人としての能力の大部分がキングの中にいるうちに失われた(没収された?)ことからして、もう完全に“神”からは見切りを付けられたのだろうと思っている。
なのでキングとして、あるいはキングの前世(※前世ではない)として。今を生きるために、ヒーローとして最低限活躍しようとするのは、特に不思議なことじゃないだろう。
えっ? キングって基本クソデカ心音大音響ハッタリ野郎だから戦闘なんて出来ないだろって?
キングエンジン(笑)だろって?
それはそう、本来ならそう。だがこと残念なことに(?)、俺が融合してしまったことでその問題点はいくらか解消されてしまっていた。ある程度は戦闘が出来るような、そういった能力が身についてしまったのだ。
キング氏は「チートだ、チート! 転生チート!」と喜んでいたが、なまじキングはハッタリとしてのキングエンジン(※ただ爆音の恐怖にかられた心音)、肥大化した最強と言うネームバリューに対する苦悩、時にそれを使い状況を最善に導こうとする勇気、恐怖にかられながらもしっかり守る対象の前に立ち庇うような
しかし独立した形でキングから分離することもかなわない。諦めてキング氏の中でひっそりとして生きようとするにしても、キング氏が俺を認識してしまっているせいでそれも難しい。
所謂ハゲマント、原作主人公たるワンパンマン・サイタマ
いっそ開き直ってしまえばと思わなくもないが、そもそも寄生してる身分で何を言うのかと言う話もあるので、こればかりはもうどうしようもないだろう。
何、いざキングが死にそうになったら彼の命を繋いで自己存在を消滅させるくらいなら、訳もない。ミ〇ーとかまではいかないが、そういう適当な相棒枠に収まるよう努力しよう。
そんな風な感じで、今日も今日とてキング氏の代わりにテレビをつけながら筋トレをしているところだった。……ちなみにキング氏の意識は首から上だけ、つまりテレビを適当に見ているだけであって、筋トレしてる俺の重圧とかは全く感じていないあたりが、何だかんだ器用になったものだ。
で、インターホンが押されたのに出て見れば、スーツ姿の男性職員が肩で息をして叫ぶように言うではないか。
「キング様! ヒーロー協会の者です!
この度、S級ヒーローに非常招集がかけられました! 協会本部まで御足労願います……!」
(仕事だなキング氏)
(えぇ……? せっかく「
(OVAだから帰って来てから見れば良いだろ。ほら、イクゾー!)
(デーンデーンデデデデーデッ♪)
((カーンッ!))
「……うむ」
内心の仲良しっぷりを臆面にも出さず、俺とキング氏はとりあえず着替えて表に出ることにした。
ちなみに服装は、普段の私服にワンピ〇スのFIL〇Zのルフィ風なコートを羽織ったものにした。
※ ※ ※
亡くなった大預言者シババワ様、最後の大預言。「地球がヤバい!!!」(※殴り書き文字)としか書かれていない紙の通り、現在地球は危機に瀕していた。
具体的な大預言をするはずのシババワ様がとにかく「ヤバい」しか記せなかった時点でその危険度はもはや測定不能。ヒーロー協会が、所属する最高峰のヒーローたちを集めるのも無理はないだろう。
そんな会議の最中に、宇宙船や数多の怪生物による襲撃。ヒーローたちが動き出す中、なんとなく自身の弟子を自称するジェノス(S級14位「鬼サイボーグ」)たちと一緒に来ていたとあるハゲマントが姿を消していることに誰も言及せず、事態が推移していく状況で。
「あんな上空にいたんじゃ手が出せない。乗り物を用意しても一瞬で撃ち落とされるのは自明の理だからね」
「キングさん! S級でもトップだと言われているあなたの意見が聞きたいな」
────ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ──────
S級第5位、天才少年であるヒーロー「
「(S級7位のキングか。……地上最強の男だと噂されているが、他のヒーローからも一目置かれているのか)」
おそらく強いとしてもサイタマ先生程ではないだろうが、という但し書きを常に胸に抱きながら、キングがどんな言葉を発するかをみるジェノス。一方のキングはといえば、ちらりとジェノスを一瞥し視線を合わせてから、肩をすくめた。
「……
周囲が疑問符を浮かべる中、キングはキングエンジンの起動音を鳴らしつつ続ける。あんな上空に構えられたのでは攻撃手段がないと。
「何よそれ!? なっさけないわね、あんたそれでも地上最強の男なの!? 既に町一つなくなってるのにまた向こうに先手譲るつもり!? 信じらんない! 沈黙してる今がチャンスなのよ!」
S級2位、幼い少女の容姿をした「戦慄のタツマキ」のややヒステリーめいた、しかしヒーローらしい義憤にあふれた罵倒を前に、キングエンジンを鳴らしながら見つめ返すキングは。
「地上最強と呼ばれているからこそ、あれは無理だ」
「…………何それ、とんち?」
半眼で問い返すタツマキに「客観的判断だ」と、表情を変えずに続けた。
そしてまた、ジェノスを一瞥して。
「すでに賽は投げられている────俺達がするべきは、あの謎の飛行物体が墜落した後に周辺被害が発生しないように準備することだろう」
「意味わかんないこと言ってるんじゃないわよ!
もーいい、私が一人で片づけにいくわ!」
そう言ってプリプリと怒りながら、
クロビカリはそんな彼女とキングの様子におっかなびっくりだ。気が立ってるタツマキを相手にして何が起こるか判らないのと、先ほどからキングエンジン……彼の戦意が高まり続けているせいで、プレッシャーが強いせいである。童帝はといえば「今出撃してるヒーローたちを信じると言う事ですか? いや、でも……」と色々と頭の中で作戦を巡らせているらしい。
この中で我関せず、唯一キングが何を言いたいかを理解したジェノスは、愕然とした表情になった。
「(S級ヒーローどもなど慣れ合う必要はないだろうが……、この男、サイタマ先生が殴り込みに行っていることを理解しているのかっ!?)」
おおよそ原作知識という名の事前情報を持っている前世氏のセリフであり、キング氏は「どういうことなの?」とキングの精神の中で不思議がっている訳だが、ともあれ謎のオーラで誤魔化せない何かしらの違和感と事実を前に、何やら深読みを始めるジェノスであった。
そしてそれから数刻もかからず、決着。
決着の瞬間はサイタマがサイタマらしい無軌道さと生物を超越したパワーでもって地上ですらない場所にて着いたのだが、その影響もあり超巨大飛行物体たるUFOは、今にもヒーローたちが奮戦していたA市めがけて墜落せんとしていた!
船内で叫び喚く宇宙人たち! 地上で悲鳴を上げ避難せんと大急ぎで駆けるヒーローたち!
そんな中、一瞬「サイタマ先生が勝ったのだろうな」と確信と納得と誇らしさから動きが止まったジェノスもまたロケット噴射しその場を退避しようとする中。
通り過ぎたすぐ横に、たった一人当たり前のように男が立っているのを目撃し、思わず急停止。
「……逃げないのか? S級7位のキング」
「ジェノス
……ちょっと詳しい人が見れば思いっきりワ〇ピのルフ〇の良く見る構えでしかないのだが、サイボーグになる以前も以降もなんだかんだ真面目なジェノスは、そういうオタク的な行動に対する理解が致命的に欠けていた。要するに元ネタが判らなかった。
「もし解析できたとしても、皆には内緒にしてくれ」
「? それは、どういう…………」
ただ、キングが目の前で何かしようとしているのだけは理解でき。
────ドドドドド! ドッ・ドルルルルルルル……ッ──────
短い会話の次の瞬間、キングの全身が赤く発光。熱した鉄のような光を帯び蒸気が立ち上り、キングエンジンの音が一気に落ち着く。さながら車のイグニッションキーでエンジンを始動させた直後の回転と、安定した瞬間のような音の行き来が鳴り響き。
「
次の瞬間、超巨大未確認飛行物体は粉々に粉砕された。
気が付けばキングの姿は元に戻っており、その場には唖然とするジェノスだけが残されていた。
サイボーグとしての視覚で、撮影された記録映像をどれほど遅く再生しても、映像はキングの右腕のあたりから
「これでアマイ氏からの嫌味も、少しはマシになるだろう。なって欲しい……」
「…………今、何を、」
「………………」
キングは何も言わず、ただ人差し指を口元に当てる。しぃ、というジェスチャーのみを残して、その場を後にした。
「先生! 無事でしたか。……大丈夫だと思っていたが、本当にキングの言った通りに……?」
「おうジェノス、終わったから帰ろうぜー。って、どうした? いつもの3倍くらい怖い顔して」
【怪人ファイル】
親愛なる隣人あるいは救世主(偽)「■■」
・呼称:前世氏(ぜんせし)
・出身:不明(しいて言えばヒーローと怪人との戦闘の流れ弾で亡くなった誰か)
・災害レベル:神→鬼
・身長:不定
・体重:不定
・備考:
本人いわく(?)転生者でキングの前世だが、実態としては災害級の怪人。菌糸類の性質を基礎として持ち、基本的に無害であるどころか融合した生物を最適化し改造する性質を持ち、むしろ健康体となり自分の意識が乗っ取られていることを母体が自覚すらできない性質を持っている(持っていた)。
とはいえ当然その無害さは、感染拡散するためのカモフラージュ。「最も優れた生体を取り込み自己を拡散させる」本能によりありとあらゆる生命(※主に全人類)を取り込み、やがて一体になったところで強制的にテロメアが切れて宿主ごと絶命する……という生態だったのだが、何かバグってその機能は失われた。
現在は発生した自我により、宿主たるキングと共生している。キングの体質と相性が良いため(?)、彼をゴム人間