キングwithゴムゴムの前世氏 作:ZN
「サイタマ先生、やはりあれはキングだったようです」
「誰?」
「S級集会に来ていたヒーローですよ。時々、先生や俺のことを見ていまいた」
「ん~? 悪い、思い出せねーわ」
ある日の午後。サイタマの買い出しにいつものようにジェノスが押し掛ける形で付き添い、荷物持ちを手伝ったりしていたそんな帰り道。麦わら帽子を深く被った、妙な威圧感のあるシルエットを目撃する。わずかに左の頬まで走る三本の傷は怪人に抉られた跡だろうか。
彼こそ、キング。変装しているのだろうが、ありあまるその強者
なおジェノスの横で頭をつるりと光らせながら、サイタマは「あれルフ〇の麦わら帽子じゃね?」などと呟くが、基本的に人の話を都合よく聞くジェノスの耳には特に届いていない。
「サイタマ先生を差し置いて最強の称号を手にしている男……、油断ならない。こんな所で一体何を?」
「買い物じゃねーの? 普通に。ヒーローだって飯食わなきゃ死ぬだろ」
雑なサイタマの発言を前にしても、自分の思考の世界にどっぷりつかっているジェノスには聞こえない。ぶつぶつと「あの時のキングエンジンは」とか「光、やはり噂にあった氣功か……?」などと色々と考察している。サイタマはサイタマで「また始まったよ」と少し辟易しながらも、ちらりとその辺の電気屋の軒先にあるテレビ映像を見た。
つい先ほど、キングが一歩も動かず怪人を撃破(自首)させたとのことで、テレビ取材が入り野次馬やらパパラッチやらファンやらともみくちゃになりながら移動していたキングの姿がそこにあった。
周りからチヤホヤされているように視えながらも表情一つ変えず(熱いのか汗は少しかいていたが)、過激なファンが「キングさんの顔見ろ! 怒ってらっしゃるぞ! 道開けろお前等ァ!」などと叫ぶ声には「特に怒ってはいない」と冷静に対応している。
もっともそんなキングから鳴り響く ドッドッドッドッドッ と規則的なエンジンのような音。彼が戦闘態勢に入った時に鳴るとされる音だが、これを聞いて生きて帰った怪人はいないと言われている。
そして次の瞬間、キングがいたところに煙が立ち上り、彼はその姿を消した。
画面上での姿の消失に「手品でも使ったのか?」と適当な表情になるサイタマであったが。
子供に限らず、老いも若きも男性も女性も色々な悲鳴が近くであがる。怪人だ、子供が危ない、逃げろと周囲に対して警戒を促す声に、わずかにサイタマがむっとした表情で周囲を見回す。
ジェノスがすかさず「先生の手を煩わせるなど」と言い怪人の対処に向かおうとするが、それを途中で取りやめる。曰く「キングの実力を見る良い機会かもしれません」とのこと。最悪、何かあっても自分で対処できると確信してるからこその言葉であるが。そこに若干の若さと勢いに乗ってるが故の浅慮が見え隠れしていることを、サイタマは特に指摘はしなかった。
そもそも鍛えすぎたせいで生半可な相手ではパンチどころかデコピン一発で粉々なサイタマであるからして、若さと勢いが感情もろとも急速に失われつつある自覚がある彼にとっては、そういう
かくして
幾重にも重なった鎧に覆われた鉄機の肉体。アンドロイドというにはやや有機的な線を持つが、しかしどこにも生身の要素は見受けられない。全長にして2メートルから3メートルはあるだろうそんな巨体が、上空から着地してキングを見下ろす。
風圧で飛んで行きかけた麦わら帽子をつかみ、キングは改めてそれを被り直した。
『我が名は、G4。“組織”によってつくられた機神なり。地上最強の男、キングだな? 貴様を抹殺する!!』
「“
『何か言ったか?』
「(言って)ないです」
ぼそぼそとしゃべるキングだが、機械らしい超高性能マイクが集音してG4に情報を伝えているため、やりとりが成立してしまっているせいで妙なことになっていた。内心では「ファ!?」となるキング
なお内心も口調もかなり汚ねぇことになっているが、直近で自宅から出るまで見ていたゲームの〇夢系RTAを見ていて移っただけなので 仕方ないね♂
と、そんな風に話していると周囲の民間人たちがキングの存在に気付いてくる。
大丈夫じゃん、もう安心だ、やっつけて! 好き! などなど色々な声援がキングの背中に届くが、キング自身はそれを受けても微動だにしない。不動、しかし────。
────ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ──────
「あー、確かにこんなの聞こえてたな」
「キングエンジンというそうです。戦闘態勢に移行したキングか鳴る音だそうで。しかしこの高エネルギー反応……、サイボーグというよりロボットですね。人体では熱量に耐えられない」
「強そうな怪人だなー」
ジェノスの解説にも「ふーん」以上の感想が出てこないサイタマ。その視線はさっきからひたすらにキングの麦わら帽子に注がれている。やっぱりル〇ィの帽子だよなそれ、と妙にクオリティが高いファングッズのようなそれにばかり気が引かれてるあたり、サイタマにとってこの状況など脅威のきの字にすら認識されてないのかもしれない。
「……“組織”とは知らないが、俺の素性を知ってのことだな。すなわち、地上最強の男であると」
「当然である! これは我が戦闘用AIの調整と性能テストでもある! 隙だらけの貴様を殺してもデータは得られぬのだから、全力で戦ってもらおう!」
背負っていた大剣を突き付けられても、本当に微動だにしないキング。
ここで、サイタマわずかに「お?」と不思議がる。今の動きだと剣が麦わら帽子の鍔に引っ掛かって切り込みでも入ってしまいそうだったのだが、一瞬キングの身体が
「本当に大丈夫なんでしょうか、あのキングは」
「おっ、けしかけといてちゃんと心配するんだなー」
「当たり前です。あの男がどうなろうと構いませんが、クセーノ博士に追加改造してもらった今の俺の機体性能より上かもしれない。最低でも災害レベルは鬼でしょう。
だというのに、ああも隙だらけでは……」
「隙だらけ、ねぇ……?」
意味深な呟きではあったものの、全くいつもの調子での発言だったこともありジェノスにその言葉への違和感を抱かせることはなかった。
そして、いつかジェノスが見た独特の構え……、今回は上半身のみ捻った形なので牙〇零式めいた予備動作であるが、この場にてそれに反応できたのはサイタマただ一人。もちろん「おっ新選組か?」と
「場所を変えてくれるならテストとやらに付き合っても良いが、駄目だろうか。一般人を庇うように戦いながらでは本気の半分も出せないだろう。データが取れなくて困るのはそちらではないか? G4
『拒否する。この町は、もしお前が逃げ出した時のための人質である!』
「そうか。じゃあ…………、手短に済ませよう。
そしてその一瞬で、勝負は決まった。
何をしたか、何をされたかすら全くわからずに、一瞬のうちに騎士のようなロボであるG4の表面には、無数の大穴が開き、その場で爆発して倒れた。
沸き立つ観衆の声。そして何故か、キングと異なりあらぬ方向にいきなり吹っ飛んで行った麦わら帽子。
相変わらず何をやったかいまいち解析できないキングを睨むように観察するジェノスと、「おっヤベェマジで〇フィじゃん」とぬぼーっといつもの調子ながら声音のテンションが高いサイタマ。
むろんその声はキングをたたえる周囲の熱に掻き消されて、他の人間には聞こえないだろうが。だからこそ、ジェノスはサイタマの発言の意味を誰より正確に理解できた。
「でも麦わら帽子護れてねーから、海賊王としちゃ失格だな。ヒーローだけど」
「……!? 先生は、キングが何をやったか、判ったのですか?」
おうと適当に応じるサイタマ。そう、すなわち、自身のサイボーグとしての機能で解析できなかった事象を、当たり前のように見極めたのだと。
「結構すげーぞ? なんかこう、あのロボットを
そして、当たり前のようにそう言うサイタマに絶句するジェノス。
「でも早すぎて服がちょっと焦げてたな、袖とか。そういう意味じゃ、俺の
「当たり前です、サイタマ先生に勝てる生命体などこの世界のどこにも存在しないのですから」
「いや気持ち悪いよ、何だそのヨイショ……?」
「────ジェノス氏」
そして、一瞬のうちに距離を詰めてサイタマたちの背後に現れたキング。やはり自分の機械的な感知を超えた動きをする男に驚愕と警戒をするジェノスであったが、サイタマは特に何もなく彼を見ている。……ジェノスの反応が遅かったので気付かれていないが、実はキングが移動した動きを目で追い首を向けていた。ごくごく当たり前のような動作で、である。
「……気付いていたのか、S級7位のキング」
「いやどうして君そんな当たりが強いの────いや、それはともかく。
「……!?」
本体? 小型のロボットが内部に存在したということか。いやそれ以上に、さっき殴り飛ばしただけでそれを把握しただと?
ジェノスの中でのキングへの謎の警戒度が増していく。よくよく考えれば別に何を警戒する話なのかということなのだが、自分が敬愛するサイタマの強さをシルバー・ファングのような出会いや経緯もなしに、S級のなかで伏線なく把握していた。ただこの一事象が、サイタマをさしおいて最強と呼ばれている男への反発と融合して敵対心
もっとも、ジェノス自身そう分析できたところで態度は変わらないのだが。仕事だからと仲良く振舞い辛い、そのあたりはまだまだ青少年である。
そして立ち去ろうとするキングに「どこ行くんだよ」と声をかけるサイタマ。
「ちょっと用事が。…………師匠なんだろ? 弟子の戦いはちゃんと見ておきなよ」
「で、弟子かぁ……」
ぬぼーっとしたままだが表情を歪めるサイタマである。もっとも当のジェノスはといえば、爆発したロボットから出てくる自分の身長の半分程度の大きさの小型ロボットを前に目を見開いていた。
「……キサマの言葉に従うのは癪だが、戦わないと言うのなら俺が戦う」
「お、頑張れよー」
「頑張れジェノス氏。子供人気も知名度もこれでアップだー」
「特に欲してはいない」
だがサイタマに与えられた課題(と本人は頑なに確信している)「S級ランキングで10位以内を目指す」という目的もあるため、知名度アップは必須かと思い直す。そして改めて「サイタマ先生に頼らずともこの程度は倒さねば」と、単独でG4の本体だろうロボットへ特攻をしかけていった。
それをやはり、ぬぼーっと普段通りの調子で見守るサイタマ。
「……って、おぉ居ない」
そして気が付けば、キングの姿はどこかへと消えており…………、さきほど吹っ飛んだ麦わら帽子が、丁度よく落ちてきた。
「やっと帰ってこれたな前世氏……。あのロボ怖いから心臓に悪いよ。夢に出そう」
(いや、俺倒したのに怖いの? キング氏)
「アレでしょ? 前世氏が戦ってる時ってオレ、別に世界がスローモーションに視えるとかそんなこと全然ないのよ? 気が付いたら目の前で『チュドーン』してただけなのよ? 爆風とかめっちゃ熱いじゃん」
(それは仕様がない)
「救いはないんですかねぇ」
(そこに無ければ無いですねぇ)
「そうかー」
マンション22階まで、一回から
外から聞けば只の独り言のような会話を延々と繰り返しつつ、キングは手洗い、うがいをして部屋の隅に置かれているランニングマシンを運び、テレビの前に。そのまま肩掛けカバンに入れていた「どきどき♡シスターズ~オアシス~」のソフトを読みこませて、プレイ準備。
「うあ@@あろ……」
(いきなりどした前世氏!?)
「いや、ちょっと誤字った」
(どこに誤字要素あるのさ、それ……?)
ヒントはキーボード配置。
「オープニングけっこう凝ってるよな」
(最新機種だし、最新タイトルだからね。ついでに言うと、今回は人気アイドルも声とOP担当してて前評判はすっごい良い)
「歌上手いのは認めるけど、果たして演技はどうかってなー」
(そういうのもプレイしてからのお楽しみってことだよ。恋愛ゲームっていうのは、男の心のオアシスだからな)
そして会話しつつ、ランニングマシンを起動して走り出しながらコントローラーを操作するキング。一定の速度で走り続ける下半身と、全くブレずに画面を見ながらプレイするキングの上半身。日常生活の中でもトレーニングを欠かさない、という風に視えなくもないが、上半身と下半身の静と動の振れ幅があまりに大きすぎるため、ちょっと気持ち悪いことになっていた。
最高速度で走り抜ける下半身に対して「何だこのクソ声優、棒にも程あるだろ。声可愛いけど」などとゲームキャラクターのセリフ音声に愚痴る上半身のキング。
上半身と下半身で動かしている意識が異なるからこその、これはそういう絶妙な気持ち悪さだった。
(だから演技の前評判がないってことは、そういうことなんだって。むしろ絶賛! とか嘘言ってないだけメーカーの良心を感じる)
「あー、なるほどそういうことかー。まあこれから業界でもまれて成長していくのを見るのも、乙なものってことで」
(逞しいなあ、ある意味)
「人生はそうやって色々、楽しまなくっちゃ。でー、えっと何々?」
(オニイ=チャン、呼ビ名ヲ決メテェ!)
「ブホッ」
脳内でテレビ音源の物まねする前世氏に、キング氏は思い出し笑いのように噴き出した。いやその「テェ!」は反則だってどこに力入れて発音してるのよ、というツッコミを入れながら内心笑いつつも、プレイヤー名を決めなければならない。
どうしようかな~、と少し思案してると。
「キングでいいんじゃね?」
「いやヒーロー名はちょっとねぇ。29歳になってキングお兄ちゃんだよ? キングお兄ちゃん。誰かに知られなくても自分が羞恥心で死ぬよ。後、ギャグみたいなものだから、そこまで行っちゃうと」
「それもそっか。ま、本名も恥ずかしいならテキトーでいいんじゃねーの? ああああ、とか」
「それはそれで勇者の名前…………って、えっ?」
下半身はやはり高速でランニングしながら重心を保ちつつ、首だけ振り返り思考が真っ白になるキング、キング
そんなキングに、「窓、開いてたんで。おじゃましまーす」と、先ほどまで変装(?)のためにキングが被ってた麦わら帽子を被った、見覚えしかない毛髪一つないぬぼーっとした青年が、雑に挨拶して来た。
「……どうして付いてきちゃった?」
「いや、このシャ〇クスの帽子、くれないかなーって」
「いいよ。まだいくつか有るし」
「やったぜー」
※ ※ ※
(前世氏、アタリは適当で後は流れで、頼む)
(そう言われてもキング氏……、じゃあそのままキング氏が言いそうなこと言っていくよ。心の中に引きこもったんだから何言われても文句言うなよ)
(えっ何それ、ちょっと止めて欲しいんだけど? ねぇちょっと前世氏?)
「ん~~でも、こういうゲームやるタイプとは思わなかったよ。恋愛ゲーとかやるんだな」
「やるよ~? キングだって男だからね、やっぱり女の子と会話するのに詰まる時もあるし。シミュレーションって大事じゃん? 女の子も可愛いし」
「ふーん」
「まあ、これは声の演技クソだけど」
「ははっ! それは言えてるー」
「でしょでしょ? おっぱい大きくてもちょっと萎えちゃうじゃん? ギャグみたいで」
「確かにな~」
(言わない! 前世氏、オレそんなこと言わないから!?)
「というか、俺もあんまり詳しくないけど……、エロいのとかやるの? キング」
「ククク……」
「エロキング! キング・オブ・エロ!」
「ククク……」
(そこはもっと良い感じに否定してェ!?)
絶賛、俺の頭の中で絶叫するキング氏に、ニヤニヤとしながら雑に原作主人公へと応対する俺である。
というわけでどうも、地上最強の男キングの前世(偽)こと前世氏である。いつものようにキング氏が恋愛ゲーを買いに行った(※割と高頻度)その帰り、殺戮マシーン的な怪人に遭遇した。大体このあたりで「あっこれワンパンマン原作のサイタマとジェノスに遭遇する流れだわ」と確信し、良い感じに二人をたきつける作戦に出た。
キングとして最低限活動したって実績と、ジェノスの経験になるから戦えという風に背中を押す振る舞いで根幹度アップ、ついでにサイタマをその流れでちゃんと師匠ポジションとしてその場に拘束できれば、と言う感じの作戦でことに当たった訳だが。いやー、流石原作主人公、自由人すぎて作戦全然話にならねーでやんの。
流石にトレーニングマシンからは下りて、麦茶あげながら雑談。まさかロジャ〇の麦わら帽子(※ワン〇ファンメイド、キングのファンからの贈答品)欲しさに原作通りについてくるとか、ちょっと予想してなかった。原作だとキングが弱いからこそ発生した疑問の追及のために22階の高さをものともせず、平然と飛び上がってついてくる流れだったのだが……。
「これ結構面白いな。3Dアクションバトル?」
「うん。……あっそこカウンター取った方がアイテムいっぱい出てくるから」
「お? そうなのか。ふーん、つーかさっきも思ったけど詳しいし上手いなゲーム」
「昔取った杵柄だよ
何かこう、普通に「俺はサイタマ。趣味……じゃなかった、プロヒーローをやってる者だ」とかすんごく雑ゥに自己紹介されて、全然遠慮なくくつろぎまくっていた。弟子のこと完全に忘れてそうなぬぼーっとした表情過ぎる。これが原作主人公……。まあ、こういう主人公だよなこの作品。
特に原作みたいに質問詰めるようなこともなく「帽子ありがとなー」と見せびらかす様に、室内だろうがおかまいなしに被って遊んでるサイタマ。そしてそんなサイタマと平然と俺が会話してるのを見て、ヤベェ何かを察知して心の奥底に引きこもったキング氏も「あれ? このサイタマ氏、安全……?」とちょっと警戒を緩め始めている。
そしてそんな時、このM市上空に巨大怪鳥の出現の警報────。
「…………何かこっち来そうな気がするから、ちょっと準備するわ」
「お? 俺も行くー」
ゲームを
そして俺は俺で、さっきから ドッドッドッドッドッ と鳴り響くキングエンジンに苦笑いが漏れそうになる。
(ちょっと前世氏!? 大丈夫? 死なないよね!? 絶対また災害クラス鬼以上でしょ!?)
(大丈夫大丈夫、キング氏。タイタニック号に乗ったつもりでいてくれれば)
(それ真っ二つに折れて沈む奴ゥ! ちょ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い!)
(マンションは駄目でもゲームソフトだけは全部守らないといけないからなー)
(あっそれは大事だね)
(切り替え早いな、声音一気に平常時に戻ったぞ……)
基本的にこのキングエンジンは、特に原作と変わりなくキング本人の精神性がそのまま反映される。つまりちょっと緊張したりビビったりするくらいで、早々に爆音を響かせてくれるのだ。
サイタマも物理的な距離が近づいたせいか「お?」と俺の胸元を見ているので、多分これが心音だってのは理解したのだろう。
「じゃあ、いっちょやりますか…………」
「さっきのかー。アレって、アレだろ? ゴムゴムのJET
「やっぱり視えてたのね、サイタマ氏…………。まあ、微妙に違うんだけど」
そして、ジェノスにも見破られてなさそうだったそれをあっさりカンパしてるサイタマに、苦笑いがこぼれた。
記憶に新しい、例の宇宙船襲来の時の使った技でもあり、今じゃ俺とキングの基本的な戦闘スタイルにもなっている、セカンドギア。早い話、ギア・
説明これだけだと不親切だからもう少し説明すると、現在、キングの身体は「本来なら怪人であるはずの俺」の手によって、その性質を若干ゴム人間風なものに仕上げられていた。
風、というのは、ルフ〇とかと違って再現できないところが多いからだ。こう……物理的に? 質量保存の法則とか。腕はどこまでも伸びないし、伸びただけ拳に乗っている質量が減る。銃で撃たれても身体は伸びないし(※衝撃は微妙に吸収する)、遠方に攻撃を届かせようとするなら、それなりに小細工を使わなければならない。
そしてこのセカンドギアは、その小細工の一つ──────爆速で発動するキングエンジンによる「爆音を響かせるだけの強烈な心拍」を使って、ギア2を予備動作なく一瞬で発動するというものだった。
「
全身に一気にかかる負荷と共に立ち昇る水蒸気……体内の水分。
そして突き出した右手は、最大伸縮限界に対して空気の層をぶち抜き、さらには俺の身体が発してる熱量と摩擦
『────────!?』
おんぎゃあ、みたいな声が聞こえたような気がするが、撃ち込みが甘かった。というか、流石に距離が開きすぎていたか、足を一本捥ぐのが限界か。
一瞬で元の位置まで戻る右腕と、解除されるセカンドギア。本家ゴムゴムの実のギアシリーズみたいに、フォームチェンジみたいに発動しっぱなしということが出来ない技なので、現在の俺は無防備。
ただ、当然そんな俺を放置しとくサイタマじゃない。
「
じゃ、今度は俺の番な」
正義、執行。
ぼそりと呟いたそのセリフに「(決め台詞……?)」とキング氏の思念が伝わってくる。
そしてごくごく当たり前のモーションで、雑に構えたボクシングスタイルのまま、こちら目掛けて跳んできた怪鳥(近くで見るとウル〇ラ怪獣だわこれ)相手に、一撃。漫画タイトル「ワンパンマン」に恥じぬ、見事な一発KOだった。相手は死ぬ、文字通り必殺の一撃である。
「大丈夫か? ル〇ィもギア技使ったら反動とかあったけど」
「…… 一瞬だからそんなに反動、は、な…………、ッ」
「お? いや本当にどうした大丈夫か!?」
雑に微笑みながら聞いてくるサイタマ。その姿を前に、俺の身体は自由が利かなくなった。
いや、より正確に言えば…………キング氏が、制御を奪った。強烈な思念と、思い出と、とにかく沢山の感情の奔流と共に。
経緯は違ったし全然展開もズレてはいるけど、やっぱりキングは……、サイタマがかつて、ただの一般人だった自分を助けてくれた「趣味でヒーローを目指してる青年」であると理解したのだろう。
────いつかヒーローが現れたら、多分そいつ俺だぜ?
血まみれで、命をかけて戦っていた、目に希望の光をともした青年は。
果たして今や、目から感情の光を失いつつある、けだるげな髪一本ないナニカになってしまってはいるが。
「お、オレは……、あなたに、感謝しなくちゃいけない」
「どうした、キング! おい、本当にどうした! 情緒不安定?」
「す、すみませ……っ、けど…………」
俺が操作する余裕もない程に、キング氏の心が溢れている。たどたどし口調で、気持ちに身体が振り回されながら、それでもキング氏はサイタマに伝えたのだ。
「…………ありがとう。前、オレをあなたが助けてくれたから、今俺は生きている……! 本当に、本当にありがとう!」
そして、
「え? いや…………、何? 悪いけど、何? 全然覚えてないんだけど。何?」
「えっ? あ、そう、うん」
何と言うか、やっぱり感情を失いつつあるらしい主人公サイタマは、キング氏の微妙な心の機微なんて置いてきぼりにして、ぬぼーっとした半笑いで「何?」と聞き返しまくっていた。