やりたい放題アーカイブ 作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv
私、空井サキは見てはならないものを見てしまった。
今日は私が午前だけ非番で、ミユが午後非番だった。必然的にキャンプ近くですれ違うことになるが、会わなかった。気づかなかっただけかもしれないので、あまり気にはしなかった。
午後に向けて哨戒のイメージトレーニングをしながら子ウサギ公園の歩道を歩いていると、遠目に先生がゴミ箱に入るところを目撃した。
ゴミ箱に入ること自体は、ミユがいつもやることなので別に先生がやっても意外性はない。先生は何を考えているのか微妙にわからないところがあるし。
ただ、何か様子がおかしかったのだ。
というのも、何故かゴミ箱を開いて、中をじっと覗いていた。
仕事のし過ぎで狂ってしまったのかと心配したくなる程度には長い間、そうしていた。しばらくして、ゴミ箱の蓋を外し、中に入った。
ちなみにかなり大きなタイプの、キャンプ場にあるようなゴミ箱だ。女子が2人入ってもまだまだ余裕があるタイプである。
私は何故か、先生入りのゴミ箱を観察したい気持ちに駆られた。理由はわからない。虫の知らせだ。時間に余裕もあったので、まあいいか、と。
茂みに隠れて様子を伺う。距離は約20M。
「…何してるんだ、私」
正気に戻った、と言いたいところだが、なぜか観察すべきという気がしてならない。春の陽気にあてられてしまったのだろうか?わからない。
「そうだ」
非番のついでに、修理店に出していたものを持ってきていた。指向性マイクだ。特殊な作戦での索敵に用いるもので、かなりの距離までの声や物音を拾うことができる。インカムを接続し、ゴミ箱に向けると、2つの声がした。
先生と、ミユの声。会話している。
「は?」
理解できない。
当然だ。ミユと先生が一緒にゴミ箱に入ってるだなんて、あり得ない。だって、その、おかしいし。ミユは何気にかなり先生に心を許しているが、だからってゴミ箱に一緒に入るのはなんか、こう。変だろう。軍紀的にまずい。
ええと。
どうしよう。
…いや、先生は変なことをしないはずだ。いやするかもしれないが、人としてやってはならないことはしないだろう。悪ふざけはしても悪事はしない、そういう大人だ。先生は。
「…よし。私は何も見なかった。まあ変なことなんてないだろ、一応後で先生には聞いて」
「いえ続けてください」
「そうか…っ!??」
私は背後を取られていた。
ミヤコの顔は見たことがない顔だった。それは、ミヤコの表情として見たことがないという意味でもあるし、こんな顔を人間ができるものなのか、という意味でもあった。
恐ろしいほどに目は澄んで、口は笑っていた。まるで、怪物が人間に擬態しているような表情だった。
「どうしましたサキ。続けてくださいと言っています」
「いつの間に」
「続けてくださいと言っています」
「その」
「続けてくださいと言っています」
「…」
「続けてくださいと」
「わかった!わかった!だから…やめてくれ」
ミヤコの目はまるでガラス玉だった。笑顔はまるでドール人形だった。私は恐怖に支配された。
とにかく早く、この場から解放されたかったために、私はマイクをゴミ箱の方に向けた。
「…えへへ、なんだか、一緒に入るのにすっかり慣れちゃいましたね、先生」
「そうだね」
「…その、すみません。私から誘うのは、初めてでしたけど。来てくれて嬉しいです」
「連絡を貰った時、丁度激務をやっつけたところだったんだ。2週間ぶりの休みがミユと一緒で、私も嬉しいよ」
「…2週間ぶり、ですか。先生、お身体とか、大丈夫ですか」
「身体は大丈夫…と言いたいけどね。パソコンとずっと戦ってたから、肩をかなりやられちゃってさ。鍼灸院でも行こうかなと思ったんだけど、あんまりお金の余裕もなくてね…」
「ふふ、私の出番ですね」
「いいかな、お願いしても」
「大丈夫ですよ、このゴミ箱は結構広いので、適度なゆとりがありますから。後ろを向いてみてください」
「…ミユの顔が見えるほうがいいなあ、私は」
「えぇ…は、恥ずかしい、です…慣れたとはいえ」
「ミユは私の顔は嫌いかな?」
「いえ勿論好きですけど、その、技術的に…」
「そう言うと思って、こんなものを見つけてきたよ。ほら、人力肩指圧器」
「じゅ、準備が良いですね…では」
二人はしばらく無言になった。
ここまでで、耳を10回は疑った。
なぜミユも先生も、ここまでリラックスして会話をしているんだ?
先生、話し方があまりにも甘いぞ。それは新婚の夫婦が話すときの声だろ?
そしてミユ。アレは本当にミユなのか?いつものネガティブな発言はどこに行った?ミユという人は、これほどまでに幸せそうに人と話すことができたのか。
というか「勿論好きですけど」ってなんだよ。
「…」
ミヤコは、無言だ。だが感じる。凄まじいまでの殺気というか敵意というか、この世界そのものへの憎悪と言うか。
「その、ミヤコ」
「…」
「そろそろ…」
「サキ」
声に怨念がこもっている。
「は、はい」
「ミユは幸せそうですね」
「そう、だな」
「…サキ。あの二人は恋仲でしょうか」
「う」
「いえ、質問を変えます。恋仲でないのに、これほど心を許し合う関係が存在しうるのでしょうか」
「あー、えっと」
「…」
やめてくれ。恐怖でおかしくなりそうだ。
「無言で急かすんじゃない!…あ、あり得なくはないんじゃないか。ミユも先生もまあ、それなりに変わってるし」
『…ミユの目はきれいだね』
『先生もきれいですよ』
『はは、…なんか、先生をやってて良かった、私』
『私も、先生が先生で良かったです』
ミヤコは目を細めた。
助けてくれ。誰か助けてくれ。
私が何をしたというんだ。
『なんか、無言でいると思い出すな。初めて一緒にゴミ箱に入ったときのこと』
『そうですね。あの時は訓練で、哨戒担当のサキちゃんが近くに来て』
『あはは。実はバレてて、ずっと黙っててくれてたりして』
『ひゃ、ひゃうう…そうだとしたら…その、もう、お嫁にいけません…』
え、何?
私、知らないうちに出汁にされてたの?というか、訓練中にやってたの?コレ。
私の信じてた世界が凄まじい勢いで崩れていくんだけど。
「かなり高度ですね、あの二人は。訓練で隠れながらも、そんな事をしていたとは」
言うこととは反対に、ミヤコの殺気は和らいでいた。
どうやら、アレなことはしていない様子を見て安心したらしい。
「あ、ああ。高度って…」
「サキ。私と一緒にゴミ箱に入ってみますか?」
「なんでだよ!絶対に嫌だよ!」
「きっとミユと先生の気持ちを味わえるはずです」
「そんなもの味わいたくない!」
「…しかし、決定的なことはないようで、安心しました」
「まあ、先生だし。生徒に、その、…そういうことはないさ」
「私もちょっと、嫉妬しすぎましたね。すみませんサキ」
「自覚あるのか…」
「では、そろそろ撤しゅ」
『あっミユ、すこし水をいただいてもいいかな。コーヒー以外に水分を摂ってないものだから、喉が渇いちゃった』
『はい。水筒をどうぞ』
『いつもありがとうね』
嚥下音がスピーカーに流れる。
さも当然のような間接キス。
ミヤコの顔は元に戻った。
私は絶望した。