やりたい放題アーカイブ 作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv
まかりいでたのはぴょんこと申す白兎だ。
もう何か月前からか——私は子ウサギ公園に住まうRabbit小隊の隊長、月雪ミヤコ嬢の飼い兎である。日々にんじんを
私のなんでもない愉快な日々についてより先に、人より速く死に向かう、我が短い生涯を彩ってくれている四人の少女たちについて言及しておこう。
先ずはRabbit1、そしてこの隊の長、月雪ミヤコ嬢。ペットショップにて、シャーレの先生と共に私という兎を見初めてくれた、質実剛健なる大和撫子。複雑な作戦も淀みなく指揮して見せ、あらゆる方面での軍事に通ずる、まさにエリート。誇るべき、我が主人だ。
……まあ先生が絡むと色々と怪しくなるのだが。
次にRabbit2、サキ嬢。常に教範通りに行動するのがモットー。だが、最近は色々な刺激を受け、発想をもっと豊かにしたいと願っている様子。真面目かつ模範的であろうとする姿には、兎である私でさえ身の引き締まる思いである。
……まあ先生にはいつもたじたじなのだが。
Rabbit3、およびキャンプRabbit。モエ嬢。いつも破滅的な高カロリーの飴を舐め、破滅的な量の爆薬を使おうと企んでいる、軍人らしからぬ破滅志向者だ。……あくまでそれは一面であり、極めて繊細な才能が必要であろうバックアップや諜報を見事にこなす、優れた手腕の持ち主でもあるのだが。
なお、先生との距離感は彼女のみ健全である。人は見かけによらぬものだ。もしくは……爆発のスペシャリストゆえ、あの大人の魅了の恐ろしさを察しているのかもしれぬ。
Rabbit4。公園の小動物たちのアイドル、ミユ嬢。いつも茂みの中からオコジョやリスが、そして木の上からは雀やヤマガラが、ミユ嬢を一目見ようと、水場にて身を清めてから来訪してくる。かくいう私も彼女には好感しかない。これほど小動物に近い心を持つ人間はそうはいない。可憐な彼女はあらゆる動物たちの関心の的だ。
……まあ、ある日の狙撃訓練にて、地に伏せた彼女の耳を不届き者のオコジョが舐めた際には、「先生、訓練の後ならともかく、今は……」などと言っていたらしいが。その言葉を聞いた小動物たちは皆、心を病んでしまったそうな。その現場に私がいなくて本当によかった。
その日もまた、なんでもない日だった。ミヤコ嬢が私を膝に乗せ、先生に関することを、我が長耳が融解しそうなほどに甘ったるく語り続けていた。
「ぴょ〜んこ。先生はね、あなたに変な名前をつけようとしたんですよ?お茶目ですよね、うふふふふ」
この話題は、誇張抜きで三百回は聞いた。しかしミヤコ嬢の幸せそうな顔はいつまでも色褪せない。先生、恐るべしだ。しかもミヤコ嬢は、先生との初対面でかなり陰険な態度をとっていたという。私は当時を知らないが、あまりにも信じ難い。
「それからね、最近は先生の机の付箋を巡ってひと悶着あったんですよ?カンナ局長から取り調べを受けてしまいました」
なぜ先生が関わると、この少女はこうなってしまうのであろうか。他の二人もそれなりにそうだが、ミヤコ嬢はもはや崇敬に近いとすら思える。
「ミヤコー、遊びに来たよ」
噂をしたら影が差した。
「先生!」
見たまえ、この爛漫な笑みを!
百年分かたれた恋人と再会したとしても、ここまでの笑みではあるまい。
「あ、ぴょんこもこんにちは」
耳をすくめて挨拶を返したが、すぐに先生は私から視線を逸らしてしまった。動物の悲哀だ。
先生はミヤコ嬢の隣に座り、互いに近況を報告しあった。近況といっても、この二人はほんの三日ぶりなのだが。
「それでさミヤコ。たまにはぴょんこも検診をした方がいいんじゃないかと思ってさ」
なんだと?
「……そうですね。お世話はきちんとしているつもりですが、専門的に診てもらうのも大事です」
待ちたまえミヤコ嬢。
「あ、ぴょんこも鼻を鳴らしてる。診てほしいって言ってるみたいだよ」
「そうですね」
違う!これは抗議だ!病院が好きなペットなぞこの世にいない!
「かわいいなあぴょんこは」
「……むう」
ミヤコ嬢!動物に嫉妬している場合ではないぞ!私の想いを拾ってはくれないのか!
「……なんか必死な感じもするね」
「……まさか、病気……?」
ああ、なんということだ。
言葉というものがいかに偉大な文化なのか、身に染みる。
「じゃあ、三日後がいいかな?都合がつくのはその日だよね」
「はい、そうします。お手数おかけします」
「いいんだよ」
「あ、せんせぇー!来てたんですね……あ、ミヤコちゃん。お疲れ様」
ミユ嬢だ!地獄に救いを見た心地だ!
私はミユ嬢を見据え、しっかりと耳を振って見せた。
「……ミヤコちゃん、ぴょんこが何か言ってる」
「え?」
おお、ミユ嬢!もしや君は、動物の言葉がわかるのか!?人間の中にはごくごくまれに、動物の言葉がわかる者がいると聞いたことがある!ペットショップ店員たちの与太話だと思っていたが……!
私は声帯がないので鳴くことができない。なので、代わりに念じた。
「……病院に行きたくない、だって」
いいぞ!
「そんな……ぴょんこ、それは本当なんですか!?」
そうだ、その通りだ!
「いや行った方がいいよ、見えない病気も多いんだから」
……おのれ大人め!ミヤコ嬢だけなら、泣き落としも効いたかもしれなかったというのに!
「そうですね先生」
「ごめんね、ぴょんこ。その、私も行った方がいいと思うな……ごめんね」
そんな!神は死んだのか!?
「おーい、ミヤコ、ミユー」
「ここにいるのー?」
「あ、サキちゃん、モエちゃん」
「どうかしましたか?」
「近所の魚屋さんからマグロのお刺身をもらったぞ!痛む前に食べよう!」
どっと歓声が上がった。
この場で歓声を上げていないのは、ただ私だけだった……。
刺身を楽しみ終わった後、私は飼育スペースへ戻された。
するとミヤコ嬢が突然、よく通る声でこう言った。
「……先生も含めて全員揃っていますし、そろそろ、極めて重大なことを決めましょうか」
「極めて重大なことって?」
「ぴょんこは誰が一番好きか、です!」
なるほど。ミヤコ嬢からすれば重要であろう。それ以外は知らぬが。
「……どうやって決めるの?」
「ぴょんこに交代で人参をあげて、誰からもらったら喜ぶのかで決めます」
理に叶っているな。ミヤコ嬢の中では。
「……私とモエは世話をしていないから、まあ先生とミヤコとミユのうちの誰かじゃないか?」
「うん。ぴょんこが教範か破滅が好きならともかく」
「私といえば教範、みたいに言わないでくれよ……」
あいにくだが、私は文字を読めないし、短命を最後まで楽しみたいと思っているタイプだ。
「では試してみますか。まずは先生から」
「うん」
先生が人参の切れ端を差し出してくる。
……うーむ。
私個兎としては、この大人は別に嫌いではないのだが……苦手ではある。
なんというか、得体が知れなさすぎるのだ。あまりにも周囲から好感を持たれ過ぎだ。もしも私が生徒だったら、「みんな、おかしいよ!」と叫ぶであろう。
それに……。いや、これ以上は言うまい。
「ぴょーんこ。おいで?」
大人は腰を折り、可能な限り私に目線を合わせている。
ちなみに餌をもらうのは初めてだ。
「……来ませんね」
「傷つくなあ。なんか今のぴょんこ、昔のミヤコみたい」
「私は兎ではないですよ?もう」
おお、サキ嬢。理解しがたいものを見るような目をしないであげておくれ。恋する乙女とは盲目なのだ。
「では次は私が行きます」
「いつもしてるんだから、確定でしょー」
「モエ、そうとも限りませんよ。兎に好かれることが出来なければ、近隣の皆さんからも好かれることができません」
「結構うまくやってると思うぞ?」
「……表情豊かに話すのは、まだ苦手なんです」
ミヤコ嬢、その悩みは簡単に解決するぞ。話している相手を先生と思えばよいのだ。
「……ぴょんこ、おいでー」
私は行かない。病院送りへの抗議だ。
「……あれ?」
「いつもはすぐ駆け寄ってくるのに、来ないね」
「……あ、ぴょんこがまた喋ってる……病院に行かなくていいならミヤコ嬢の元まで行ってもよい、だって」
「ミヤコ嬢!?」
「へー、ぴょんこって結構硬い喋り方なんだね」
先生は少しも疑っていない。それ以外は皆半信半疑だ。
ちょうどよい。私はミユ嬢に対し、念じた。
「あ……色々喋ってる。……みんなのことをどう思ってるか教えてくれてる」
「えっ気になる」
「教えてくださいミユ、私のことは、なんと……」
「待ってね、ええと……先生はあまりに周囲から好かれ過ぎている。おかしいとは思わないかね?……だって」
「がーん……」
「ミユ。ぴょんこはそんなこと言いません」
「ひゃうう……」
「まあまあ、ミヤコ……わ、私のことは!?なんて言ってるんだ」
「……いつも真面目で好感が持てるぞ、だって」
「わっ……ごほん、そうなのか」
「あと、先生への対応についての教範はないのだから、自己流で頑張りたまえ、だって」
「……」
サキ嬢は恥ずかしそうに口を閉じ、無言で先生を睨んだ。
「モエちゃんは……先生との距離が適切でよろしい、だって」
「……ふぅん?どう思う、先生?」
「どうって……なんで私こんなにぴょんこからマークされてるの……?」
「あと……わ、私は、ええと」
「ミユも何か言われてるの?」
「……動物から人気?だって……」
「納得」
「そうですね」
「うん」
「異議なしー」
「うう……」
「それで、私はどうなんですかミユ?」
「……あのね」
「はい」
「……すう。……いくらなんでも先生が好きすぎじゃないかね?……だって」
「…………」
「……わ、私はいいと思うよ、ミヤコちゃん」
「…………」
子ウサギ公園は沈黙した。
まあ、このぐらいで勘弁するとしよう。
夕暮れ時。
私は飼育スペースの中で、うとうとと夢うつつをさまよっていた。
「じゃあ私、そろそろ帰るから。またねみんなー」
「「「「はーい」」」」
「ぴょんこも、またねー」
耳で会釈した。
私は耳がいい。
三キロ以内の物音はだいたい拾うことができる。
だから、知っている。
「いやあ、みんな元気そうで安心したよ、アロナ」
「うんうん、そうだね。二人とも、今度お刺身食べようか」
なんたることだ。この大人は一人で歩くとき、常に妄想上の存在と話しているのだ。
このように、私は、皆の秘密を知っている。
サキ嬢が時折、ひとりきりになった時、小声で「先生」と、乙女の顏で呟くことを。
ミヤコ嬢は、先生と二人きりの時、恐ろしく歯の浮くようなことを言い続けながら彼にくっついていることを。「ぴょんこが見てるよ?」とたまに先生が言うのだが、本当にそうだ。やめていただきたい。年中そういう気分になるのは兎も人も同じだが……。
……私は知っている。
モエ嬢が、特に秘密らしい秘密を持っていないことを。
私は、知っている。
ミユ嬢が時折、先生と共にゴミ箱に入っていることを。
あまつさえ、そのゴミ箱の中でそれ以上の行為に及んでいることを。
……とても仲睦まじい交際をしていることを。
万一、これがミヤコ嬢の知るところになれば、ああ、その時は……。
……私は、誰にも語らない。
語ろうにも語れない。兎なのだから。
おお、神よ。
どうかどうか……この少女たちの未来に、私の知ることない未来の果てまで、恩寵をもたらさんことを。
そして、どうか、どうか。……ミヤコ嬢が、激憤せずに済むような未来を……。
それは私にとっても重要なので……。
どうか。どうか。平穏な未来を……。
念じるうちに、私は夢へと落ちてゆくのだった。
ぴょんこと小隊のゆかいな日常! 完
あとがき
出オチなんて言わないで。