ザ・デッドヒートブレイカーズ ~デッドヒート・ゼロ~ 作:ぐるぐるチャンポンスープ明太子サラダ
あの日から、僕はヴィクターさんの下で訓練を受けることになった。
「訓練」という言葉じゃ足りないかもしれない。
むしろ、地獄だった。
朝は暗いうちから起こされた。寒かろうが眠かろうが、関係ない。
腕立て、走り込み、荷物運び、周辺地理の把握、武器の扱いに始まり、撤退訓練、負傷者の搬送方法、そしてグロックスの種類と生態の記憶――。
「違う。もう一回やり直せ」
「遅い。お前がその速度なら、仲間はとっくに死んでる」
「泣いてる暇があるなら、構えを覚えろ」
言葉は冷たかった。けれど、そこに嘘はなかった。
どの言葉も、全部、本当だった。
悔しくて、夜になると、寝袋の中でこっそり泣いた。
だけど、あの日みたいに、声を殺して泣くことはしなかった。
「守れなかった」のに、「泣いてるだけ」なんて、許されるはずがなかったから。
ヴィクターさんは、僕を甘やかさなかった。
でも、見放しもしなかった。
重い荷物で足がもつれて、転んだとき、無言で手を差し出してくれた。
銃の扱いに手間取ったとき、何も言わず、肩越しに正しい手の位置を教えてくれた。
ご飯を食べ終えたあと、たまに「……まぁ、今日は悪くなかったな」って、ぼそっと言ってくれたりもした。
それが嬉しくて、次の日も、僕は立ち上がった。
戦いたいわけじゃなかった。
でも――もう、誰も失いたくなかった。
そのためには、強くなるしかないって、わかってた。
ヴィクターさんは、よく言ってた。
「弱い奴を責めるな。だが、強くなろうとしない奴は、俺は助けない」
その言葉が、ずっと胸に残ってる。
あのとき逃げた自分は、まだどこかにいる。
でも、少しずつ――その自分に、勝てるようになりたいと思った。
ある日の訓練のあと、ヴィクターさんが空を見上げながら言った。
「グロックスってのはな、考えるより早く動ける奴が生き残る」
「けど、生き残るだけじゃダメだ。お前が守りてぇって思ってるもんがあるなら、そいつのために――“撃てる理由”を、自分の中に持っておけ」
撃てる理由。
あの日、僕はそれを持てなかった。
だから、撃てなかった。
でも今は――。
夜、ひとりになると、時々、名前を呼ぶ。失った友達の名前を。
あの時、僕の後ろで手を伸ばしていた子の顔が、今も、はっきり浮かぶ。
きっと僕は、ずっとそれを背負っていくんだと思う。
それでも、歩くって決めた。
誰かのために、撃てるガンナーになるって。
ヴィクターさんみたいに、誰かの命をつなげる存在になるって。