ザ・デッドヒートブレイカーズ ~デッドヒート・ゼロ~   作:ぐるぐるチャンポンスープ明太子サラダ

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初任務 -前編-

 風が、赤茶けた荒野を這っていく。空には鈍く濁った雲が垂れ込め、太陽の輪郭はほとんど見えない。

 

 アミマルは、低く身を屈めていた。岩陰に伏せた彼の前方には、金属の残骸が転がっている――墜落した観測ドローン。地雷原の、ほぼ中央。

 

 喉が乾く。緊張で、背中がじっとりと汗ばんでいた。耳元で、ヴィクターの通信が響く。

 

 「――風は弱まってる。今のうちに距離を詰めろ。いいか、地面の色の違いを見逃すな。……戻ってこい、アミマル」

 

 「……はい」

 

 アミマルは、小さくうなずくと、足元の土を慎重に見つめた。灰色に近い黄土、その中に、ごくわずかに違う色の箇所――埋設された地雷の目印だ。訓練で習った通り、前方に石を放る。無反応。ひとつ、また一歩。

 

 彼の脳裏に、数時間前の出来事がよみがえった。

 

 ***

 

 「で、依頼ってのは……?」

 

 その朝。カーゴの一角で、ヴィクターは一枚のデータシートを端末に表示していた。映し出されているのは、ギルドのロゴと、簡素な依頼内容。

 

 【依頼主:ギルド北支部/再開発域監視班】

 【依頼内容:バウム・クー辺境基地周辺砂漠の墜落ドローンの回収】

 【報酬:300ダール】

 【危険度:C】

 【備考:直近に岩石生命体との戦闘が発生。危険物の残留に注意】

 

 「お前にも、そろそろ実地訓練が必要だ」

 

 そう言ってヴィクターは短く付け加えた。

 

 「俺が付いてるが、実際に動くのはお前だ。怖けりゃ、やめてもいい」

 

 アミマルは、迷いながらも首を振った。

 

 「やります。……やらせてください」

 

 自分の中で育ちはじめた“責任”という言葉が、そう言わせていた。あの夜、ヴィクターに言った――「誰かを守りたい」と。ならば、そのためにできることを、少しずつでも重ねるしかない。

 

 「ふん。なら、装備を整えろ。メディキットは支給分を忘れるな。……あとで商人からも何か買っておけ」

 

 「商人……って、あの……?」

 

 アミマルが戸口を見ると、そこには例の人物が立っていた。

 

 フードで全身を包み、顔は羊の骨のような仮面で隠されている。小柄で細身だが、身のこなしに隙がない。腰には大小のパックが揺れ、その全てに品物が詰まっているようだった。

 

 「キシシッ、相変わらず堅っ苦しいッシねえ、ヴィクター殿ぉ~。今日も良い商品を取り揃えてまっせ~ッシ」

 

 「トカゲ野郎……お前、なんで毎回現れるんだ」

 

 「そりゃあ、需要があるからッシ。そう、貴方みたいな火薬の香りがする男に、ねッシ」

 

 商人は「キシシッ」と笑いながら、アミマルに目を向ける。仮面の下の瞳が、じっと彼を見つめた。

 

 「そちらの坊や、新顔ッシね?俺は、コルオ。あんた、見たところ見習いガンナーッシか。ふむ、ならこれを進呈ッシ」

 

 彼は懐から小さな布袋を取り出し、アミマルに手渡した。中には、少量の携帯保存食と、靴下。

 

 「これは……?」

 

 「初仕事の縁起物ッシよ。代金は、後で魂で払ってもらうッシ~。冗談ッシ冗談」

 

 その隣には、小さな影がいた。まだ五歳ほどの、ヤモリの子供。フードから覗く大きな目が、こちらをじっと見ている。腕の中には、小さなぬいぐるみ。手作りのような縫い目が、ところどころほどけていた。

 

 「キルオ。……ほら、挨拶ッシ」

 

 「…………」

 

 子どもはもじもじとしながら、ほんの少しだけ頭を下げた。

 

 アミマルも、慌てて頭を下げ返した。

 

 「こ、こんにちは。アミマルっていいます」

 

 「………………キルオ、です」

 

 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、小さな声が漏れた。人見知りなのだろう、それでも一生懸命な仕草に、アミマルは少しだけ顔を緩めた。

 

 「……こんにちは」

 

 かすれた声に、アミマルは自然と笑みを浮かべた。どこか昔の自分を思い出したのだ。初めてヴィクターに会った日のことを。

 

 キルオはそのまま、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめると、仮面の商人の背中に隠れた。人見知りなのだろう。だがその仕草すら、アミマルには懐かしく感じられた。

 

 「……かわいい子だね」

 

 思わず口に出すと、商人は満足げに仮面の奥で目を細めたようだった。

 

 「キシシッ、そうッシか? 旅をしてると、こういうのが支えになるッシよ。あの子も色んな街でぬいぐるみを買っては、気に入ったものだけを残すッシ。……今持ってるのは、特にお気に入りッシね」

 

 「そうなんだ」

 

 アミマルはうなずきつつ、商人から受け取った布袋を改めて見つめた。軽いが、中の保存食や靴下はきちんと詰まっている。何より、これが「誰かの善意」から差し出されたものであることが、彼の胸に静かに染みた。

 

 「……ありがとう、大事に使います」

 

 「キシシッ、それでいいッシよ。あとは命と足元に気をつけることッシ。……でないと、その靴下だけ残る羽目になるッシからね」

 

 冗談めかして笑う商人。だがその目の奥に、一瞬だけ、確かな警告の色が灯ったように見えた。

 

 

 

 「……はい」

 

 アミマルは、胸に言葉を刻んだ。

 

 ***

 

 現在――。

 

 「残り十メートルだ。慎重に進め。右足に力をかけるな」

 

 通信の向こうで、ヴィクターの声が低く鋭く響く。

 

 アミマルは、呼吸を整え、静かに片足を踏み出す。風が吹くたび、背中の汗が冷えていく。だが、目の前のドローンは、確かにそこにある。触れられる距離にある。

 

 「……よし。回収する……!」

 

 彼は、手を伸ばした。

 

 その瞬間だった――地面が、カチリと音を立てた。

 

 

 

 

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