ザ・デッドヒートブレイカーズ ~デッドヒート・ゼロ~   作:ぐるぐるチャンポンスープ明太子サラダ

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少女の発見

灰色に沈んだ廃村の一角。風は止み、音ひとつない空気の中を、二つの影が慎重に進んでいた。

 

 「このへん一帯……“最後に目撃された場所”のはずだ」

 

 ヴィクターが手帳をめくりながら呟いた。記録には、十数年前に使われていた避難経路や、旧時代のシェルター位置が走り書きで記されている。

 

 アミマルはその背中を見つめつつ、ふと脇の崩れかけた建物の間を覗いた。

 

 「ヴィクター、こっち。……なんか、光った気がする」

 

 「見間違いじゃなければいいがな」

 

 ヴィクターは慎重に小銃を構え、廃屋の影へと踏み込む。床には散乱した日用品、壊れた家具、埃にまみれた子供用の靴――その隣に、くっきりと重い踏み跡。

 

 「……この足跡、太すぎる。子供じゃねえ」

 

 ヴィクターはしゃがみ込み、跡を指先でなぞる。

 

 「――これは“奴ら”だ。二本、いや……前脚だけで移動してる痕。おそらく“ガンボー”」

 

 アミマルの顔がこわばる。

 

 「ガンボーって……あの、口が大砲みたいなやつか」

 

 「そうだ。姿勢は低く、ほぼあおむけのような形で動く。前脚の爪を地面に食い込ませて射撃するんだ。命中すりゃ即死だぞ。だが、反動で撃った直後は仰向けにひっくり返る……そこが隙だ」

 

 そのとき――ガシャン、と瓦礫が崩れる音。

 

 「っ、今の音……!」

 

 ヴィクターはアミマルを手で制し、スキャナーを素早く起動。

 

 電子音が低く、重たく響く。

 

 「反応あり。――移動してる。“中威圧種”、おそらく確定で“ガンボー”だ」

 

 アミマルがごくりと喉を鳴らす。足元の土埃がかすかに震えた。

 

 「来るぞ――位置は南、距離、二十……いや、十五」

 

 遠くから、ガン、ガンと何かが地面を叩くような鈍い音が近づいてくる。やがて姿を現したのは――

 

 岩塊のような巨体。体色は苔に似た緑がかり、角のように突き出た黄色い石が頭部に二本。前脚で大地を掻き、低い姿勢のまま、ガンボーは迫ってくる。

 

 その口元――いや、“口に見える”部分には砲口のような器官が覗いていた。

 

その“顔”は、仮面のように無表情だった。

 細長い前面には鼻のような器官もなく、ただ中央にぽっかりと空いた砲口が、ぎらりと光を反射していた。

 

 「狙ってくるぞ、物陰に入れ!」

 

 ヴィクターの叫びと同時に、アミマルは横の崩れた壁の裏へ飛び込む。次の瞬間――

 

 ズドォン!!

 大気を裂く咆哮とともに、ガンボーの砲口から赤黒い炎の塊が放たれた。砕けた地面が爆ぜ、衝撃波が吹き抜ける。

 

 瓦礫が宙を舞い、破片がアミマルの頬をかすめた。

 

 「くっ……!」

 

 「撃ったな。今がチャンスだ」

 

 ヴィクターはすかさず瓦礫の陰から飛び出し、小銃を構える。

 

 ――ガンボーは、撃った反動で背中を地面に打ち付けていた。前脚の爪を広げたまま、仰向けに倒れて、しばし動かない。

 

 「“反動で自滅する”、それが弱点だ……!」

 

 ヴィクターの照準が角の根元を捉える。

 パン、パンパン!

 連射。銃弾が岩質の表皮を弾き、ひとつが角の根元に突き刺さった。ひびが走る。

 

 「アミマル、左から回り込め! 動く前に仕留めるぞ!」

 

 「了解!」

 

 アミマルも立ち上がり、物陰を滑るように走る。ガンボーはまだ転倒から回復していない――だが、その砲口がまた、微かに光を集め始めていた。

 

 「早い……リチャージが早いぞ!」

 

 「止めを刺す!」

 

 ヴィクターの銃口が光る砲口に向けられる。アミマルの銃口は、その脇の露出した関節部に。

 

 パン! パン! パン!

 

 銃声と同時に、ガンボーが低い咆哮を上げ、前脚をバタつかせる。砲撃は撃たれなかった。関節に命中した弾丸が内部構造を貫き、機構を破壊したのだ。

 

 ガンボーの動きが止まり、その巨体は再び地に沈んだ。

 

 「……やった……」

 

 アミマルが、ようやく呼吸を整えながら、銃を下ろす。

 

 「油断するな。二体目が出るかもしれん。ここは撤退するぞ」

 

 だが、そのときだった。

 背後の、瓦礫の影から――かすかな声。

 

 「……たす……けて……」

 

 アミマルとヴィクターの視線が、即座に声の主の方へ向く。

 

 「子供の声だ!」

 

 ヴィクターは素早く駆け寄る。崩れたコンクリ壁の下、かろうじて空いた隙間に、小さな影が見えた。

 

 少女――ボロボロの上着、煤けた顔、警戒心を帯びた瞳。その中に、かすかに涙の光が宿っている。

 

 「おい、無事か。怪我は――」

 

 「う、うう……こないで……!」

 

 少女は身を引いた。その声はかすれ、震えていた。

 

 ヴィクターは表情を柔らかくし、距離を取る。

 

 「……安心けた。だがそのとき――

 

 ――ドン!

 

 地鳴り。廃墟の下層、地下から。

 

 アミマルとヴィクターは即座に構え直す。

 

 「……地下か。まだ“何か”いる――!」

  

少女の目がわずかに揺れる。

 

 「おい……お前、逃げ込んでたのは――地下か?」

 

 少女は小さくうなずいた。

 

 「避難壕だな。南側の簡易区画……くそ、先に調べるべきだったか」

 

 ヴィクターは短く舌打ちしながら、古びた携帯端末を取り出した。

 外装は擦り切れ、端子の一部はむき出しになっている。元は軍払い下げ品――今では、半ば命綱だ。

 

 通信チャンネルを合わせ、開口一番、報告を送る。

 

 「こちらヴィクター。第十二仮設拠点、応答願う。……子供を保護。生存確認、傷は軽微。ただし、地下壕内に未確認反応あり。再調査に向かう」

 

 雑音混じりに、数秒後、返答が返ってくる。

 

 『こちら第十二仮設拠点、受信明瞭。ヴィクター、子供の保護、感謝する。そちらの迅速な対応がなければ、手遅れだった』

 

 男の声は穏やかだった。形式張らず、現場を理解している響きがあった。

 

 『グロックスについてもこちらで片付いた。拠点近辺の個体は殲滅済み。ただし、地下壕の反応が本隊と同種かは未確認。警戒を続けてくれ』

 

 「了解。こっちはこっちで、片をつける」

 

 『無理はするな。だが……君たちにしか動けない地点だ。頼む』

 

 通信が切れた。

 

 ヴィクターはゆっくりと端末を腰に戻し、振り返る。

 

 「アミマル。子供をカーゴまで運べ。後部ロックは外してある……お前の方が、信用される顔してる」

 

 アミマルはうなずき、小さな体を抱え直す。

 

 「じゃあ……僕が帰ったら奥に行くの?」

 

 「そうだ。急げ。……“奥”は、俺が見る」

やがて二人が遠ざかるのを見届けてから、ヴィクターは振り返る。

 

 沈黙が戻った廃墟に、再び足音を落としながら――地下への階段へと向かっていった。

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