神楽ちゃんを追って万事屋を飛び出た私は、通りの左右を見渡す。
かくれんぼとは、見つけてもらう遊びだと言う。飛び出した神楽ちゃんも見つけてもらうのを待っているだろうから、そう遠くは行ってない筈だと検討をつけ裏路地をあちこち見て回る。
「みーつけた」
四つほど先の細い路地に、傘を差して座り込む神楽ちゃんを見つけ、声をかける。
「みつかっちゃったアル」
傘を傾け、見上げる目はもう乾いていた。
「帰ろうか」
「きーやんも一緒アルか?」
「私は……どうだろうね。送っていくよ」
上手に取り繕える自信はなかったので、戦略的撤退を決めたいところ。
けれど、神楽ちゃんは嫌だと目で訴えていた。
促すように手を伸ばしても、しらんぷりをして、
仕方なく、私もその隣に腰を下ろす。
「銀さんが別に悪いわけじゃないんだよ? 誰だって好みの問題とかほら、あるから」
「きーやんが優し過ぎるだけヨ。贅沢言ってないで口を合わせろよな、腐りかけでも、ゲテモンでも食べる喜び見出したらいいネ」
「それ私が腐ってたりゲテモノになってるから」
好みとか自分で言ってて地味にダメージを負っているのに、まさかの神楽ちゃんからも背中から撃たれる。
それにだ……。
「銀さんはさ、ちゃんと私のこと考えてくれてたよ? でも、私がそれじゃ満足できなかったんだよ。銀さんはさぁ、そーいう人じゃん?」
銀さんは彼なりの誠意を尽くしてくれたのだ。
神楽ちゃんもどうしようもないということが分かったのだろう、チャイナ服を握る拳に力が入り皺が寄る。
「だからって……きーやんだけが泣く必要ないネ」
「私には神楽ちゃんも新八君もいるから平気だよ。慰めてくれるんでしょ?」
傘の下から覗き込めば、悔しげに唇を噛んでいた表情がゆっくりと柔らかなものに変わる。
「しかたないアルな」
「もし良かったら、一晩中話を聞いてくれない?」
「一晩といわずきーやんの気が済むまで聞くヨ。ともだちんこアルからな」
にしっと笑う顔に、私もにしっと笑う。
しけこむにはまだ日は高く、ショッピングセンター街にでも行こうかと、一緒に歩いていく。
途中、非番の鴨ちゃんを拾う。拾うというか……。
よそ見をしていて、誤ってぶつかってしまったチンピラ崩れがタチ悪く、絡まれてしまった。
「いてぇなぁ、骨折れちまったよ。詫びにそこのホテルで看病してくれねぇかな」
そんな三下ゼリフに神楽ちゃんが鼻くそを飛ばし、一触即発といったところで割って入ってくれたのが鴨ちゃんだった。
警察手帳をチラ見せしたとたん、ちっと舌打ちして引き下がる姿が格をさらに下げていた。
「いやあ助かったよ~。ありがとう」
「助かったのは向こうの方かもしれないな」
あとは周りの人間だ。その推定は正しく、愛想笑いを浮かべる。
「そうだ、鴨ちゃんも一緒にプリクラ撮りにいこうよ。その格好、暇なんでしょ?」
私服姿であることを揶揄すると、嫌そうに顔をしかめた。
「生憎、そこの書店に用事があってね」
「その後は?」
「……特には」
「じゃあ行こう!」
真面目な鴨ちゃんは嘘もつけず、捕まってしまう。
「目おっきくしよう」
「美肌効果もバチバチにいれるアルよ」
新台が入ったという話を神楽ちゃんが教えてくれた。顔を整形ばりに盛れるらしい。
文字色やスタンプの話で盛り上がる中、鴨ちゃんはできるだけ気配を押し殺していた。
「性別も変えられるって。女子三人仲良しチームでいこうね!」
「勝手にしたらいいさ」
そうは問屋が降ろさぬと盛り下げ担当に話を振ってみるが、さすが鴨ちゃん、予想を外さない回答に花丸を付けてあげよう。
「あんだよ、のり悪りぃなぁー。せっかく誘ってやったんだから、もっと楽しそうにしろヨなぁ」
銀さんの口癖を真似て神楽ちゃんが口を尖らせる。
「頼んでない」
「じゃあ、頼めヨ」
「意味がわからない!!」
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーやかましく、目的のゲームセンターへ辿り着く。
どこだろう? と視線を彷徨わせ、UFOキャッチャーコーナーの横にお目当ての機械を見つけた。
女の子だらけの空間に、鴨ちゃんを引きずり込むようにして連れ込み、無理やりポーズを取らせることに成功する。
流石にハートマークまでは作ってくれなかったが、眼鏡をくいっとしてくれたおかげで、シゴデキな女教師風に撮れた。
「いいねぇー、スリットの深いタイトスカート履かせたい。髪がショートなのがまたエロい」
「課外授業に馬鹿な男子高生が群がるアルな」
「うけるー。でも、私も間違いなく受けるわ」
「君たちな……。頼むから誰かに渡すのだけはやめてくれよ」
「総悟あたり喜んでくれそう」
「ほんっっとうにやめてくれ」
プリクラコーナーの前に設けられた共有場所で備え付けのはさみを借り切り分ける。
鴨ちゃんは手渡されたシールを手帳に挟み込んでいた。うっかり落としてしまえと念を込めておく。
そうやって遊んでいたら日も暮れてきたので、解散。
「たまにはこういう日もいいかもな」
最後は観念したように、一緒に楽しんでくれた。
「あいつ、いいやつアルな」
分かれたあと、神楽ちゃんはそんなことをいった。UFOキャッチャーで取れたお菓子を全部くれたことによるのか、ゲーセン代を持ってくれたことによるのか。
両方だろう。
「そうそう、鴨ちゃんはいい奴なんだよ。なんだかんだいって付き合ってくれるしさぁ」
本気で嫌がっていれば流石に誘わない。仕方がないと言いながら楽しんでくれる、そんないい奴なのだ。
面倒見も良い。
ファミレスに立ち寄り帰宅すればもう良い時間だった。シャワーを浴び布団を並べる。
「電気消すよー」
「ほーい」
布団に潜り込みながら神楽ちゃんが返事をする。
「あいつにしとけよ」
神楽ちゃんの隣に潜り込むと、そう言われた。何がとは言わないが言いたいことは分かる。
傷心を抉るような話だが、鴨ちゃんが相手だったらこんな無様な結末を迎えていないとも思う。
「たしかにね、どっかの誰かと違って甲斐性もあるし?」
「ストレートだしな。生まれる子もきっとストレートよ」
笑いながら、それにと続ける
「アイツならきーやんを幸せにできるアルよ」
「そうだね、海辺の丘の上に赤い屋根のお家つくってさ、犬飼って子どもつくって、そーいうのがアイツには似合うよね」
普通の幸せ、普通の家族。きっと鴨ちゃんはそういうのをくれる人だ。
「それにね……アイツはきっときーやんの事が好きあるヨ」
こっそり内緒話をするように、神楽ちゃんが囁く。
闇の中に響く、こすれるような声が耳にくすぐったい。
「えー、そうかな」
「アイツ、エロい目で見てたね」
「エロいねぇ。鴨ちゃんが?」
「鈍いアルなぁ。アイツずーっときーやんばっか見てたアルよ」
メガネの奥の瞳を思い浮かべる。あの鴨ちゃんが下世話な目で他人を見るとは思えないが、もし、鴨ちゃんが恋をしたならば、まっすぐにその人を追うような、そんな恋をするのだろうと思った。きっとその人は、そのまっすぐな愛を受け取るだろう。
銀さんは……他人をそんな目では見ない。
思わず思い返してしまう。私の着替えを覗いた近藤さんは一瞬、不埒な目線を私に向けていた。それ自体はこれだから男はと吐き捨てることは簡単だ。けれど、銀さんの目にはそんな欲を探せなかった。ただ焦りと、謝罪と、自己保身を浮かべ狼狽えるだけだった。
静かな痛みに身を委ねる。
「鴨ちゃんと結婚……しようかな」
きっと、鴨ちゃんとなら恋愛ができる。そんな気がした。幸せで普通の、そんな恋愛ができる気がした。
「そうするアル」
一晩中話を聞いてくれると言った神楽ちゃんは寝てしまい。私は、温かく優しい夜兎のお姫様を抱きしめ、勝手にその温もりを分けてもらうことにした。