避けてるのも違うなぁーと思ってちゃんと書いてみました。
――好きだ
銀さんにそう伝えてから程なくして、紫色の綺麗な髪をなびかせたさっちゃんが現れた。
白い肌に整った顔立ち、色っぽいほくろまで含めて、黙って立っていれば誰もが振り向くような綺麗な人だと改めて思った。
様々なトラブルに負われて落ち着いた頃合いだった。タイミングを図られてたのだろうか。
真っ昼間の大通り、不審者然とした姿に人々が遠巻きに避けていく。
「あんた、私の銀さんに手を出すつもり!」
どこから飛び降りたんだろう。目の前に降り立ったさっちゃんは薬局のカエルの人形を指さしてそう言った。
足元に眼鏡が落ちてる。
「さっちゃん、眼鏡落ちたよ」
「あらどうも……ご丁寧に」
拾って渡すとお礼を言われた。
スタイリッシュに眼鏡を掛け直すと、さっちゃんに再度指を刺される。
「だからといってあんたを許すと思ったら大間違いよ!」
怒っているのだろう。さっちゃんは銀さんが好きだ。
ならば恋敵? になりそうな人間に怒るのは正しいのだろう。
けれど誤解だ。
「手をだすつもりはないよ?」
「あらそう……。なんて言うと思った? 騙されないわよ」
「騙すつもりもなにも」
「あなた、銀さんに告白したそうじゃない」
確かに告白ではあるような、ないような……。思いは伝えはしたものの、その回答を私は必要としていない。
なんと説明したらよいのか。
「さっちゃんは銀さんが好き?」
「好きに決まってるじゃない! 今更、怖気付いたとでもいうの!」
「なら、一緒だよ。私も好き。ただそれだけ」
「それだけ?」
「駄目かな? そう思うことも許せなかったりする?」
たとえこの感情が、未来の馬鹿の置き土産だったとしても存在することは間違いない。
「だめ……じゃないわよ」
さっちゃんは肩を落として指を刺すのを止めた。
「ごめんね……。自分じゃどうしようもないんだ」
あれば苦しい、なければ虚しい。きっとそんな気持ちをさっちゃんも抱えているのだろう。
私も困ってるんだというそんな思いで伝えると、許してくれた。
「アンタも頑張りなさいよ」
「……頑張り方は分からないけど、さっちゃんもね?」
「アンタに言われるまでもないわ!」
その日はそうやって別れた。
それからなんやかんやあって、銀さんと私はお付き合いという奴を始めることになった。
私は認めてはいないが、世間一般ではそう呼ぶらしい。
さっちゃんのことも気になってはいたが、自分から探して謝罪するのも違う気がしたので放置してしまっていた。
万事屋へ向かう途中の道だった。長屋と長屋の間の路地をぬけ、通りに出ようとしたところで目の間に紫色の綺麗な髪がたなびいた。
「話が違うじゃない」
そういうさっちゃんの目は赤かった。泣いたのだろう。
申し訳なさに胸が苦しくなる。約束した訳ではないが、積極的には動かないと宣言したようなものだった。
それがどうして……。まあ自身の欲なのだろう。銀さんに応えて貰えて嬉しかったのだ。それは認めざるを得ない。
謝罪しようと思ったが、それも違う気がした。
「……そんなつもりはなかったんだけどね」
「何がよ!」
「私が弱ってたから、銀さんが私の好きという言葉を変に受け止めちゃって、一度断ったんだけどね。銀さんがそれじゃ幸せになれないからって。そしたら銀さんがもう一度だけ一緒に確かめさせてくれって言われて。断れなかった」
「惚気!?」
「そうじゃないよ。裏切ろうとか、出し抜こうとかそういうつもりじゃなかったという弁解。結果からみたら同じなんだけど……」
困った。さっちゃんを傷付けたくはないのだけれど、どう伝えたらいいか分からない。
「さっちゃんはまだ銀さんが好き?」
「当たり前じゃない! なによ馬鹿にする気! 惨めな私を笑うつもりなら笑いなさいよ!」
赤い眼鏡の奥が少し潤んでいた。
「私も銀さんが好きなんだ。だから、手放すことができないんだ」
「謝りなさいよ! なんで『ごめんなさい』の一つも言わないのよ」
「だって……。さっちゃん許しちゃうでしょ? きっと」
諦めるつもりなのかもしれない。そんな気がした。
「ばっかじゃないの! 許すわけないじゃない! だって……だって……」
「まだ好きなんだよね」
「そうよ! 諦めたくない! 諦めらんないんだから!」
とうとうさっちゃんは眼鏡の奥からぼろぼろと涙を流し始めた。
膝を抱え込んで座り込んださっちゃんの頭を撫でる。
「止めなさいよ。優しくしないで」
鼻声になってダミ声になりながらさっちゃんは泣き続ける。
「ねぇ、さっちゃん。私はさ、銀さんを諦めきれないけど、さっちゃんも諦めなくてもいいいんじゃないかって思うんだ」
きっと銀さんにとっては迷惑かもしれない。
でも、銀さんが始末を付けることが正しい気がした。
「なにいってるのよ、アンタ」
「私、さっちゃんのことも好きなんだ。だから、諦めないでやってみたら? 好きなんでしょ?」
「正妻の余裕って奴!? 腹立つわ!」
「違うよ。私はさ、銀さんの隣にいられたらなんでもいいんだ。さっちゃんのことも好きだしさ。正妻とお妾さんって関係良くわからないんだけど、どっちでもいいんだよ」
ぐずぐすに泣き続けた声が少し小さくなる。
「諦めなくてもいいの」
「それを決めるのは私じゃなくて、さっちゃんだよ」
綺麗な髪も、きれいな肌も全部銀さんに好きになって貰うために丁寧に手入れしているのだろう。
その健気さが裏目に出ることが多いけれど、その思いは本物だ。
それを誰が止めることができるだろう?
「諦めないわ、私。後で後悔しても知らないんだから」
立ち上がったさっちゃんはきれいな目を泣き腫らして、鼻水まで出ていたけど綺麗だった。
「後悔したら、今度は慰めてね」
「ばっかじゃないの。本当に、アンタ馬鹿ね!」
くすりと笑うと、さっちゃんもようやく笑ってくれた。
「女を磨きなさい。私に取られないように!!」
そう言ってさっちゃんはどこへともなく消えていった。
今度おすすめのコスメとコンディショナーを教えてもらおう。そう思った。
それから数日後、万事屋から相変わらずのさっちゃんの声が響いていた。
「銀さーん!! さあ、今日こそこのムチで私を!」
「新八、ゴミ袋。燃えるゴミの方。コイツをとっとと放り出せ!!」
頑張ってるけど、方向がなぁーと残念な気になったけれど、さっちゃんはさっちゃんなのでどんまいである。