天国には理想郷がありまして   作:空飛ぶ鶏゜

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今昔夢物語

 実は銀さんにも皆にも秘密にしていることが一つある。

 

「なくなっちゃったなぁー」

 

 土手に寝転がり手を太陽にかざしてくるくる回してみる。

 偉大なる魔法の力は失われ、今や欠片が残るのみ。

 出せるのは精々ライター程度の火か? 瞬間的に使えば、九頭龍閃ぐらいは打てそうだがそれでガス欠だ。

 眼の前の川を眺めてみる、桃が流れて来るわけでもなしに、ましてや川底を漁っても採れるのは砂金どころか、鉄くずがいいところだろう。

 困った……。真面目に働かねばならない。

 色々あったおかげで、今日明日食うに困るということはないが、将来を見据えると真面目に働かなければならない。

 かつての職場の辞めた回数を片手で数えてみるが、まだいけるだろうか? アンコウさんはなんかいける気がするんだけど、おばさま方の視線が辛いんだよねぇ。迷惑かけてるのは分かっているので、その視線は真摯に受け止めたいところ。

 お詫びの印に今話題の淡屋の蜂蜜饅頭でも買っていくとしよう。そうしよう。

 思い立ったが吉日じゃないけれど、どうせやることもなしに、行列で賑わう店頭に向かう。売りは蜂蜜が練り込まれた生地と、丁寧に作られた餡がたっぷり入った饅頭だ。

 どうせだからと銀さん達へのお土産分も余剰に買い、箱を二つばかり吊り下げて慣れた道をてくてく歩く。

 

「すみません。バイトってまだ募集してますか?」

 

 昼過ぎ、夕食時の買い物前の閑散とした店内でアンコウさんを捕まえた。

 

「んー? バイトは確かに募集してるけど?」

「雇ってもらえませんか? 土日祝日オッケーです! 履歴書今は持ってないんで明日持ってきます」

 

 私の声に品出しをしていたアンコウさんは手を止め、立ち上がる。

 

「うーん、人手不足だしなぁー。まぁ、いっか。履歴書はいいよ。いらない。もし来れるなら来週火曜日から入ってもらえる?」

 

 履歴書不要とはラッキーだ。快諾を貰えたお礼に、持ってきた土産を渡す。

 

「来週ですね、大丈夫です。あ、これ良かったら皆で食べてください」 

「ん。じゃあ来週火曜日、朝9時ね。今度は辞めないでくれると助かるよ、江口君。――あっ、お客様どうされました?」

 

 え? 疑問を差し挟む前に、アンコウさんは客に呼び止められ去っていく。

 相変わらず全っっ然、人の名前は合っていないのだけれど、分かっててのそれなのか。

 ええ? 今までも?? どうしよう、無性に恥ずかしくなってきた……。

 そそくさとスーパーを後にしたはいいものの、どうやって出社したら良いのか新たな問題がぶち上がる。

 

「と、いうことがあってね!」

 

 悩んだ末、恥かけば皿まで。笑い話にしてしまおうと、万事屋にぶちまける。

 正確には銀さんに。

 

「てめぇにもいっちょ前に羞恥心という奴があったんだなぁ」

「ありますよ。あー、もうどういう顔して顔を出したらいいんだろう??」

「泣いても笑ってもブサイクはブサイクなんだから気にするだけ無駄だろ」

「他人事だと思って~」

「他人事だしなぁ」

「ですよねー。なんか悩んでるのが馬鹿らしくなってきた」

 

 ソファーに突っ伏し、足をばたつかせてみたが、なんだか本当にどうでも良くなってきた。どうせ日は昇るし、恥はかき捨てだし。銀さんはつれないし。

 渡した饅頭分は仕事して欲しい。

 

「そーいや、松陽先生は?」

「駅前にできた時計見に神楽と新八連れて出かけてったよ。そろそろ戻ってくるんじゃねぇか?」

 

 そーいや、朝のニュースで新しくからくり時計ができたとか言ってたっけ?

 そんな話をしていたら、「ただいま」と声がした。

 

「きーやん来てたアルか? あ、そうだ。これお土産アル。皆でわけるネ」

 

 そう言って神楽ちゃんが差し出してきたものはプリクラのシール。

 覗き込むと、期間限定の背景とスタンプに囲まれて、三人の変顔が写っていた。画面いっぱいに散った派手な文字や星の飾りまで楽しそうで、純粋に羨ましい。

 

「私からもお土産、饅頭あるから手を洗っておいで」

「ひゃっほい」

 

 神楽ちゃんの顔がひときわぱっと明るくなる。

 

「いいなぁー。私も行きたかった~」

「行ったらいいですよ。出店や大道芸人もいて面白かったですよー」

 

 饅頭を頬張る皆を横目に、私は借りたはさみでプリクラの端に刃を入れる。

 欠けないように慎重に線を追っていると、新八君が饅頭を片手に、駅前の様子を話してくれた。

 そんな土産話に相槌を打ちながら、切り分けたプリクラを机の上に一枚ずつ並べ、五つに等分する。

 

「はい、先生の分」

「今は色々便利になりましたね。あのような箱で写真が撮れるなんて。しかもこんなに鮮明に」

 

 松陽先生は受け取った小さな写真を指先でそっとつまみ、光に透かすように角度を変えた。

 切り分けた写真の中では、三人が派手な背景に負けないくらい楽しそうに写っている。先生はそれを感心するように、しばらく眺めていた。

 

「前は違ったの?」

「ええ、わざわざ写真屋を呼んで撮ってもらう必要がありましてね。それでも白黒でこんなに鮮明には写りませんでしたよ。時は変わりましたねぇ」

 

 懐かしさを滲ませる表情に、そーいえば集合写真を撮ってたなぁーと思い出すが、その結末もついでに思い出してしまい切なくなる。残ってたら銀さんや、桂さん、高杉の子どもの頃の写真が見れたのに。

 

「そーいえば、そうだったなぁ」

 

 同じ物を思い出したのだろうか? 銀さんも相槌を打つ。

 

「銀ちゃんも今度一緒に撮りにいくアル」

「そうですね。来週またイベントもあるみたいですし」

「えー、本当? 行こう」

「しゃーねぇなぁー」

「いいですね、行きましょう」

 

 銀さんも乗り気になってくれたようだし、変顔の練習をしなくては。

 なんだか小さな悩みは吹っ飛んで来週が楽しみになってしまった。

 

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