天国には理想郷がありまして   作:空飛ぶ鶏゜

99 / 99
No Bless of Rouge

 バイトの帰り、従業員用の通用口から出ると、銀さんが待っていた。

 

「帰るぞ」

 

 あたりまえのように声をかけられ、うんと頷く。

 私が私との鬼ごっこに興じていた時の名残……だろうか? 毎日というわけではないが、銀さんはこうして暇をみては迎えにきてくれるようになった。

 

「今日の惣菜なに?」

 

 私の手にもったビニール袋を覗き込みながら聞いてくる。

 

「ピーマンの肉詰めと春雨サラダ。ねぇ、銀さん。ピーマンの肉詰めって中華扱い?」

「ハンバーグの仲間じゃねぇの?」

 

 そんな他愛もない会話をしながら帰り道を歩く。

 クレームをつけてきたおばさんを、先輩であるおばさん方が撃退した話とか、お会計が済んでないお菓子を食べ始めちゃった子どもの話とか。よくある日常の話を銀さんは適当な相槌を打ちながら聞いてくれる。

 

「銀さんはさぁ、猫と犬どっち派?」

 

 民家の軒先で、鎖に繋がれた犬を見ながらそんなことを聞く。

 

「猫つってみ。どっからともなく現れた巨大犬に噛まれる未来しかみえねぇーよ」

「確かに、犬派以外ありえないね。定春が拗ねちゃう」

「そんな可愛いもんじゃねぇだろ」

「えー、そうかなぁ?」

 

 帰ると言われて違和感を覚えなかったり、身内としての扱いが自然になったり、隣にいることが当たり前になったり。

 左右の長屋からは夕餉の匂いが漂い、ただいまーという声がどこからともなくする。人々は足早に帰路の道を急いでいた。

 昔は、そんな他人が羨ましく思えたものだが、今はただ穏やかにそういった日々が続けばいいと願うばかりである。

 

「わっ……と!」

 

 急に左腕を引かれ、なにごとかと思ったら、目の前を自転車が通り過ぎていった。

 

「よそ見すんなよ。あぶねぇだろ」

「ごめん、ごめん。ありがと」

 

 突然の接触に、心拍数があがる。どうにか平静を装いながら飛び込んでしまった銀さんの腕の中から身を起こす。

 

「ほれ」

 

 そんな混乱の中、再び手を差し出された。一瞬なにか分からなかったが、お礼代わりの甘味をねだられたのだと思い、手提げ袋から取り出した飴玉を渡す。

 

「メロン味」

「ちげぇよ!」

「あ、えっと、いちご味?」

 

 もう一つ取り出す。

 

「はぁ~……この子はもう」

 

 深いため息をついた銀時お母さんは飴玉を回収し、空になった私の手を取る。

 

「えっと……?」

「危なねぇだろ」

 

 繋がった手から、私より高い銀さんの体温が移っていくことに意識を奪われていた私はふと我に返る。

 なにそれ、変態じゃない? まるで世界のルールが変わってしまった国に迷い込んだように、倫理観と、制御の利かない情緒がちぐはぐに空回りしてしまう。

 

「何にやにやしてんだよ、えろぉー」

「なっ……!! してません!!! 離してってば! 子どもじゃないんだから」

 

 私の抗議もどこ吹く風、力強く握られた手に逃げることも叶わない。

 

「そーいってる奴ぁは大概子どもなんだよ」

「そーいう銀さんの方こそ子ども体温じゃないか!」

 

 握り直された手から脈が伝わらないようにと祈りながら、応酬する。

 それなのに、

 

「くち」

 

 銀さんは片手で器用に剥いたいちご味の飴玉を取り出し、差し出してくる。

 悩んだが、意識していると思われるのも嫌なので素直に口を開くと、飴玉を押し込まれた。

 ここまでは平常心を装えた自信があったのだが、飴玉をつまんでいた指を銀さんがペロリと舐めるのを見てしまう。単なる癖ではあるのだが、指、さっき唇に触れたよなぁなんて他人事のように思ったのがいけなかったのだろう。

 迷走神経は迷走し、脈は過去トップスピードのラップタイムを刻み始める。

 

「あ? メロン味の方が良かったか?」

「違いますぅー」

 

 思わず見つめてしまったことに気づかれどうにか返事はしたものの、顔は赤くなってたりしてないだろうか? そんなことばかりが気になってしまう。

 もうそこからは気の利いた話題もでてこず、適当に銀さんの話に相槌を打つばかりだ。

 

「神楽ちゃん、お腹空かせて待ってるよ! 急ごう」

「多少急いだところで変わりゃしないだろ」

「はくじょうものー」

「迎えに来てやったじゃねぇか」

「それとこれとは別ですぅー」

 

 この地獄から早く抜け出したい私は、理由を他人に押し付け、家路に急ぐ。

 あまりにも急ぐものだから銀さんは「トイレか?」なんて、デリカシーを忘れてきた台詞を投げてくる。

 対して、私は「そうなんですぅー」と乙女心を無くした返事をする。

 本当に隕石降ってきて、この馬鹿の頭にあたって欲しい。

 

 そんなことを思いながら帰ると、新八君と神楽ちゃんが「おかえり」と迎え入れてくれるので、「ただいま」と返すのだった。

 平和な日常はいつまでもいつまでも続けばいいなぁーとおもうのでしたまる

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

お家に帰ろう(作者:睡眠人間)(原作:銀魂)

吉田松陽に拾われた子ども。彼女は記憶喪失だった。周りをこき使って暮らす少女は自分の欲求に忠実であった。長旅の末、己の正体を掴んだ果てにあるのは希望か。あるいは絶望か。松下村塾時代がメインです。原作第1話突入まで何話になるかわかりません。長い過去編をまとめました。下の方にあります。キャラ崩壊しています。気をつけてください。▼pixivに修正したものを転載し始め…


総合評価:2444/評価:8.53/連載:103話/更新日時:2026年04月08日(水) 00:41 小説情報

銀魂 SF時代劇の彼方者(作者:時杜 境)(原作:銀魂)

彼方者(あっちもの)、別世界の人間や死者を意味する言葉。▼妖刀・星砕を手に、彼女は用心棒として第二の生を謳歌する。


総合評価:4904/評価:8.53/完結:80話/更新日時:2026年04月19日(日) 20:30 小説情報

銀魂 真選組の新隊員(作者:残月)(原作:銀魂)

ある組織で殺戮兵器として育てられた少女は真選組に助けられ、自由を手にする。▼しかし、少女は自由の意味を知らなかった。▼無垢な少女が濃い面々に染められていく。そんな小説です▼


総合評価:4992/評価:8.42/連載:83話/更新日時:2026年03月06日(金) 20:20 小説情報

真選組の沖田さん(ドS)と型月の沖田さん(病弱)(作者:芋けんび)(原作:銀魂)

▼真選組には紅一点の女性隊士がいた。名を沖田桜之進。真選組八番隊隊長にして一番隊隊長、沖田総悟の義理の姉で、沖田ミツバの義理の妹。普段は虫も殺せぬ儚い雰囲気を醸し出しているが、戦場では"狂犬"と仲間からも敵からも恐れられる程の鬼神の如き剣さばきを見せる。しかし、ビックリするほど病弱である。▼「天才…剣士?まったまた〜!土方さんったらそんな…


総合評価:2299/評価:8.09/未完:13話/更新日時:2023年08月28日(月) 21:11 小説情報

銀魂:白銀ノ魂録実況プレイ 虚ルート(作者:一億年間ソロプレイ)(原作:銀魂)

銀魂の架空アクションRPG(エディットキャラ投入型)の虚ルート開拓実況プレイ(生首饅頭風味)という体の小説です。▼淫夢要素はないです。▼妄想を多量に含んでいます。▼現在番外編更新中です。


総合評価:2436/評価:8.76/連載:22話/更新日時:2026年03月23日(月) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>