「猫になって甘えるのはルールで禁止スよね」
「メジロはルール無用だろ」「やっぱ怖いスねメジロは」

※某所で投稿したものを修正して投稿
※pixivにも同時投稿しています

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猫マックイーン

「にゃ……にゃー……」

「マックイーン?一体何を……?」

 

担当のメジロマックイーンが猫になっていた。

正確には猫の真似であるようだが、緊張して顔を真っ赤にしてまでやる理由が分からない。

ご丁寧に髪の色と揃えたネコミミを付け、本来のウマミミを畳んで猫っぽい感じにしている。

手には肉球手袋、首には鈴まで付けている。

 

元よりどこか瀟洒な猫のような優雅さもあった彼女がより猫らしく、愛らしくなった。

とはいえトレーナー室という区間にはあまりにも異質で、今は流石に困惑が勝つ。

 

そんな彼女が、ちりちりと鈴の音を鳴らしながら目の前にやってくる。

ちょんちょんとこちらを触りながら問いかけるように上目遣いで鳴いた。

 

「にゃあ、にゃーん?」

「どうしたの突然……?」

「……」

「マックイーン?」

「…………フーッ!!」

 

機嫌を損ねたらしい。

一度ソファに後退した彼女は、猫のように座り込んで威嚇らしき姿勢を取った。

制服のスカートがひらひらしないようにか、足を畳んで巻き込んでいる所にいかにも彼女らしい生真面目さを感じる。

そういうところも可愛らしいのであるが、この状況ではそればかりも言っていられない。

 

マックイーンが理由なくこのような真似をするはずがない。

記憶を探る。たぶん一緒にいたときかもしれない。それで、猫に関する事。

 

すると思い出す先週の事。そういえば学園内にいた猫と遊んだ憶えがある。

随分人馴れしていたようで、じゃれついて来たので存分に構い倒した。

猫と別れたそのあとすぐにマックイーンに話しかけられたはず。

その時は気付かなかったが、途中からでも見ていたのかもしれない。

 

そういう事であるかと腹を括る。それで、本題の前にまずはこちらに来てもらわねばなるまい。

不機嫌な猫の真似をしているマックイーンだが、こちらが気になるのか畳んでいたはずのウマミミが忙しなくぴょこぴょこと動いている。

それを刺激しないようにゆったりとした所作で反対側のソファに座って、呼びかけた。

 

「マックイーン」

「…………」

「マックイーン、おいで」

「……にゃあ」

 

おずおずと隣までやってきた彼女に対し、自分の膝をひとつふたつ叩いて見せる。

伺うようにこちらを見つめる瞳に、目線で促す。

膝の上に座るとまではいかないが、背中を上に膝へ上体を預ける形にはなった。上出来である。

 

まだ緊張が強いのか、手は身体の下に畳みこまれ、ウマミミと尻尾は忙しなく動いている。それを宥めるようになるべく優しく頭を撫でた。

じっくりと安心感を染み込ませるように時間をかける。

頭だけでは寂しいだろうと、空いた手で背中もこれまた柔らかく撫で、時折ぽんぽんと軽く叩く。

いつしかウマミミも尻尾もゆったりとした揺れに変わっていった。

 

「マックイーン」

「……ん、にゃあ……」

 

少し眠たい鳴き声とともに彼女がこちらを見る。

最初の緊張と異なる、緩んで上気した顔に内心、息を飲む。

やや気だるげに下がった目尻にほんの少しだけ開いた口元、潤んだ瞳。情動を搔き立てる甘い毒。

今はまだそれを飲む訳にはいかない。

代わりと言ってはなんだが、ごほうびを与える事にする。

 

マックイーンの顎に指を添え、掻くように撫でた。

綺麗な曲線を描くそこを、様子を見ながら少しずつ調子を変えてくすぐっていく。

彼女の目が細まっていくような方向を探っていく。

やがて気に入った場所があったのか、顎を逆に指に擦りつけてきた。

 

「マックイーン」

「んぅ……んふ……」

「マックイーン?」

「……にゃあ…………」

 

すっかりリラックスしていつしか仰向けになり、縮まっていた手足もゆったりと伸びた形になった。

蕩けたような面持ちでされるがままになる彼女。

吐息と、思い出したように時折鳴る鈴の音が部屋を支配する。

 

差し込む日差しが次第に夕闇に落ち込んでいく、静やかな空間。

その中にあってより強く意識される子猫のような可愛らしさと、花のような香り。

そして膝の上の柔らかな重みと指先の手触りが心を揺さぶり続ける。

 

これ以上先に進むべきではない。しかしここからどうするのか。

あやす手を止めず糸口を探るが、手がかりが見つからない。

 

ふと、彼女と目が合う。

その瞳は、有無を言わせず次を促していた。

 

◇◇◇

 

後日、何事もなかったかのように元の様子に戻ったマックイーンは普段通りに過ごしていた。

こちらも何か問うことはしない。普段通りにやるだけだ。

 

「──来週のトレーニングは軽いものになるけど、代わりに取材がいくつか入るからそのつもりで」

「変更はありませんのね。承知いたしました」

「これで確認終わり。解散にしようか」

 

あの猫の姿も鳴き声も幻だったかように、凛と振舞う彼女はその気配を感じさせない。

いつも通りである筈なのに、それがどこか不思議な光景にも感じるようになった。

 

「そうだ。マックイーン、ちょっといい?」

「にゃあ」

 

時が止まる。

一瞬、何が起こったのか理解できずに呆然と固まった。

彼女はすこし顔を赤らめながらも、楚々とした様でこちらを見ている。

 

暫しの後、目の前にすっと手を差し出してみた。

彼女は伺うように上目を遣った後、しずしずと顎を乗せた。


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