ついこの間、町で聞いた『魔族って怖い』って噂に、みんなが異様に反応したのを見て、ぼくは思ったんだ。
――もしかして、みんな……魔族に、トラウマがあるのかなって。
「……母さんって。なんで“未亡人”なんだろ?」
ぽつりと、部屋の中で呟いた。
誰に聞かせるでもなく、自分の中だけで、もやもやと渦巻いていた疑問。
母さんは優しいけど、どこか“寂しげ”な時がある。
そして家族たちは誰も、母さんの“夫”の話をしない。
それって、つまり――。
「やっぱり、魔族と関係があるのかな……。もしかして……魔族に、父さんを……」
どんよりとした想像が脳裏をよぎった、その時。
「ノクス様、昼食のご用意ができましたよ」
――コンコン、と扉がノックされて、セスの声がした。
「あ、うん! 今行く!」
一旦、思考を切り上げて、ぼくは席を立つ。
今は考え込んでも仕方ない。……ご飯を食べてから、考えよう。
昼食は、みんなでいつも通りの楽しい時間。
食卓ではモルテ姉さんが料理の塩加減に文句を言い
その事に文句を言いながら塩を渡しているセス
それをアミー姉さんが笑って取りなして
リュース兄さんが黙って肉だけもりもり食べて
ジョーヌは椅子の上でボーーっとしてる。
母さんは微笑みながらみんなを見守っていて――
「……ねえ」
そんな和やかな時間の中、ぼくはぽつりと口にしてしまった。
「母さんって……なんで“未亡人”なったの?」
――食卓が、一瞬で凍った。
「……の、ノクス」
「ま、ま、待てノクス! あー……そ、それは……あの、そのぉ……」
「あっ!ごめん!みんな、変な事言っちゃって…ははは…」
「い、いやぁ……なんでもないわよ? はは……ほら、もっと野菜食べなさい?」
「……お前たち、誰か設定を作り込んでおけとあれほど言っておったのに……」(小声)
「うるせぇ!普段触れねぇ話だから忘れてたに決まってんだろ!」(小声)
「静かに!ノクス様に聞こえます!」(小声)
ガタガタ、わさわさ、ワタワタ。
いつもの静かな食卓が、一気に騒がしくなる。
ぼくはというと、それを見て、静かに納得していた。
――やっぱり、そうなんだ。
――きっと、魔族との戦いで、父さんは……!
(……みんな、思い出したくないんだ……)
家族たちの動揺を“深い悲しみ”のせいだと解釈してしまうぼく。
「ご、ごめんね。なんか、つらいこと思い出させちゃったかな……」
そう言ったぼくに、家族全員が凍り付いた。
「……ノクス……」
「い、いや、違うのよノクス……あのね……それは……つまり……」
「ち、違う? じゃあ……魔族じゃなかったの?」
「魔族……!?」
またもや凍る空気。
そしてぼくは、さらに確信する。
――ああ、やっぱり魔族なんだ。
みんなが伏し目がちになる。誰もはっきり言わない。
でも、それはきっと、ぼくを傷つけないため――。
「……うん、わかった。ぼく、無理に聞いたりしない」
「え? え、えええ!?」
「そ、そうよノクス! ありがとうね、優しい子ね……!(罪悪感で死にそう!)」
「……っ、クッ、なんでこんな気まずい空気に……!!」(小声)
「オレ悪くねぇぞ!? 誰もちゃんと考えてなかっただけだろ!?」(小声)
「こほん、全員黙れ。ノクス様の前だぞ」
そう言ってセスが場を仕切る。
その姿は頼れる執事というより“事情を必死に誤魔化そうとする”不審者のようにも見えたけど……。
ぼくは気づかないふりをした。
みんな、やっぱりつらいんだ。
ぼくがこれ以上突っ込んだら、また悲しませてしまう。
だから。
「……ごちそうさまでした!」
にっこり笑って、話を切り上げた。
……その場に残ったのは、なぜか全員の「罪悪感」だけだった。
その夜。エステアはセスに小声で囁いた。
「……どうする? このままだとノクスに“魔族に父親を殺された未亡人”って設定が固定されちゃうけど……」
「い、今さら否定したら“実は生きてる”とか“再婚してた”とかになりかねませんが……」
「いっそ、作ってしまう? ノクスの“父”の人格」
「新キャラ追加やめてください。めちゃくちゃになります」
「……セス」
「はい」
「悪いけど今後“未亡人設定”は、あなたがちゃんと説明考えておいて」
「……ははっ、光栄でございます……」
――その夜、ぼくは日記にこう書いた。
《母さんの過去には、きっとつらい思い出がある。でも、ぼくがもっと強くなったら……いつか笑って話してくれる日が来ると信じてる》
翌朝その日記を、ぼくの知らない所でジョーヌに見られて――
「……バッカじゃないの」
と、布団の中で小さく笑われたのは、また別の話。