俺の母さん、実は魔王でした⁉   作:KuRoNia

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第三節 :父の背中を追いかけて

母さんは未亡人で、父さんのことは誰も話したがらない。

魔族の話題にも家族は皆、なぜか目をそらす。

 

……ぼくの推理は完璧だった。

 

「――つまり、父さんは魔族との戦いで命を落とした英雄で、母さんを守って亡くなったんだ……!」

 

静かに、だけど情熱をもって、ぼくはノートに書き込む。

《父:名も知らぬ勇者。魔族と戦い、母さんと幼きノクスを守って散る》

 

(……強い。かっこいい。さすがぼくの父さんだ)

 

勝手に盛り上がっている息子をよそに――

 

隣の部屋では、家族会議が行われていた。

 

 

 

「ちょっと待って、ノクスが勝手に“英雄の父”を作り始めたってどういうこと!?」

 

「だから言ったのじゃ! “未亡人設定”を雑に扱ってたらこうなると!」

 

「ていうかさ、今更だけどなんで“未亡人”って設定にしたのよ……!」

 

「え、それエステア様が適当に“没落貴族の未亡人”って名乗ったのが最初で――」

 

「それは“しっくり来たから”ってだけでしょ!? もう! 誰か責任とって!!」

 

「落ち着け、今さら“実は離婚”とか“家出”とかに設定変更したら余計にややこしくなる……」

 

「でもこのまま放置したらノクス、謎の父を神格化していくぞ……!」

 

「……それはそれで、ちょっと面白いっしょ」

 

「黙れジョーヌ」

 

 

 

翌朝。

 

ぼくは食堂に駆け込んで、誇らしげに宣言した。

 

「――今日からぼく、修行することにしたんだ!」

 

「……は?」

 

「父さんみたいに強くなって、みんなを守れるように!」

 

食卓の手が止まる。

 

「……ノクス。それは……その、急にどうして……?」

 

「夢でね、父さんがぼくに言ってきたんだ。『お前も強くなれ』って!」

 

(※なお夢に出てきたのは近所の犬だったが、記憶の中で勝手に変換されている)

 

「……」

 

「……」

 

「――セス」

 

「……はい?」

 

「今日からノクスの修行をお願いします」

 

「はいぃぃぃぃ!?!?」

 

 

 

こうして、ぼくの“父の遺志を継ぐ修行”が始まった。

 

最初の修行は、朝の庭掃除。

 

……だったのだけど。

 

「ノクス様、こちらの“竹ぼうき”は“戦場の槍”と同じでして」

 

「おお……やっぱり、父さんも使ってたの?」

 

「えっ……ええ、もちろん(!?)」

 

「すごいな……すごいな父さん……!」

 

完全に話が変な方向へ進んでいく。

 

他の家族も――

 

「ノクス、今日のご飯は“闘技場風ステーキ”。父さんが好きだったらしいわ」

 

「お父様の得意料理は“味噌煮込みうどん”だったわよね~!」

 

「アミー勝手に設定を増やすな! 矛盾してきたのじゃ!」

 

「いやでもノクスが喜んでるからよくない?」

 

「でもノクス“味噌煮込みを作れるようになるまで旅に出る”って言ってるんだが!?」

 

「それだけはやめさせてー!」

 

 

 

そしてその夜。寝る前。

 

ぼくは、母さんに尋ねた。

 

「ねえ、母さん」

 

「……なに、ノクス?」

 

「父さんの話……してくれて、ありがとう」

 

「……」

 

「ぼく、知らなくてもいいやって思ってたけど……でも、夢で出会えて、なんか……よかった」

 

「……ノクス……」

 

「だから、ぼく、父さんみたいに強くなるよ。母さんを、家族を守れるように」

 

そう言ったぼくの頭を、母さんは優しく撫でてくれた。

 

だけど――

 

《やばい、父親像がどんどん理想の英雄に……!どうするのこれ!?》

 

母さんは心の中で絶叫していた。

 

 

 

その頃。

セスは一人、書斎で一冊のノートを前にため息をついていた。

 

《ノクス様の父親 設定案(仮)》

・名前:クローディアス(もしくはクラウドでもいい)

・肩書:放浪の剣士、料理もできる

・好きなもの:味噌煮込みうどん

・死因:魔族から家族を庇って死亡(←ここで設定ミスした)

 

「……このままではいつか“墓参りしたい”と言い出しかねない……ッ!!」

 

セスの胃痛は、しばらく治まらなかった。

 

 

それから数日たった頃、ふと気になったことがあった

 

「父さんの形見って、あるのかな?あるなら、どこにあるんだろう?」

 

ある日の午後、ノクスはふとした疑問に突き動かされて、屋敷の一角にある使われていない蔵へと足を踏み入れた。そこは古びた扉と埃っぽい空気に満ち、何年も誰も入っていないことが一目で分かる場所だった。

 

だが、ノクスは知らない。――この蔵は、かつて魔王エステアが自らの魔力で「封印」した、いわく付きの空間だということを。

 

 

 

「ふぅー、ホコリすご……。でも何かあるかも」

 

幼いながらも真面目で探究心旺盛なノクスは、棚の上から古い木箱を見つけると、それを両手でそっと開けた。中には古びたマントの切れ端、黒曜石のように艶やかな石、そして一冊の日記のようなノートが入っていた。

 

「……『我が君』……? 誰のことだろう」

 

日記には、セスやエステアの口調に似た筆跡で「我が君に仕える日々」「魔族の脅威に備えねば」などといった不穏な言葉が並んでいた。

 

ノクスの心に、ある疑念が芽生え始める。

 

(……やっぱり、父さんって魔族と戦ってた人だったんだ……)

 

日記の最後のページにはこう書かれていた。

 

「今こそ、主と共に人の世に―――。ノクスが育つその日まで――」

 

「ノクス……って、僕のことだ!」

 

父の遺品(仮)の日記は、どうやら自分や魔族に関する何かが書かれた記録だったのだ。

 

慌てて蔵から出ようとしたところに、扉が音もなく開き、セスが立っていた。

 

「……ノクス様。そこは、決して入ってはいけない場所でした…」

 

冷や汗を流すノクス。

 

「ご、ごめんなさい……! 父さんの形見を探してたら……」

 

「……いえ、私の不注意です。どうか……その話を皆には内密に」

 

 

その日の夕食――ノクスは何事もなかったように振る舞おうとしたが、内心は不安でいっぱいだった。

 

(皆、僕に言えないことがあるんだ……きっと、魔族と戦ってた父さんのことも、知られたくないんだ)

 

そこで――ノクスは、またやらかしてしまう。

 

「ねえ、母さん。もし僕が魔族に襲われたら、母さんはまた誰かを失うの?」

 

沈黙。

 

エステアのフォークがスローモーションのように床に落ちる。

 

「の、ノクス……それは……えっと……」

 

「何を言ってるの、ノクス! この町でそんな危ないことあるわけないっしょ!」

 

「わたくしがいながら、ノクス様が危険な目に遭うなど――想定すら不要です」

 

「そうだ!そん時は俺も駆け付けるから安心しとけって!」

 

「そうじゃ!ノクスが危くなったら我もすぐに助けてやろう!」

 

「私も同じ気持ちだから、そんな事考えなくていいんだよ~」

 

家族全員が必死にごまかす中、ノクスは勝手に納得する。

 

(今の反応で確信した……思い出したくも無いつらい過去があるんだ…)

 

しんみりと頷くノクスを見て、家族たちはますます青ざめた。

 

(バレてない……けどめっちゃ傷つけてしまった!?)

 

エステアは心の中で頭を抱え、セスはノクスの純真な目を直視できず、ジョーヌは「はぁ!? おいコレどこどう勘違いしてそうなった!?」とツッコミを入れながら黙ってスープを啜る。

 

こうしてまた一つ、ノクスと家族の勘違いは深まり――そして物語は、思わぬ方向へと転がり続けるのだった。

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