俺の母さん、実は魔王でした⁉   作:KuRoNia

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第四節:憧れと、ちょっぴり不安な二人

 それは、穏やかな日常が続いていたある日のことだった。

 

 朝からセス・リュースと一緒に屋敷の裏庭で剣の構えを繰り返し、汗だくになりながらも必死に稽古に励んだその日の午後。ノクスは屋敷の自室に戻るなり、興奮を抑えきれずにベッドの上で跳ねていた。

 

「やったぁ! 本当に来てるんだ、あの《銀の楯(シルヴァー)》が!」

 

 そう、今アルセナの街には、王都を拠点に活躍する高名なSランク冒険者パーティ──《銀の楯》が訪れているというのだ。

 

 ノクスはかねてから冒険者という存在に強い憧れを抱いていた。困っている人を助け、未知の魔物に立ち向かい、強くてかっこよくて、自由で。なにより、母や父(※ノクス基準)がかつて戦ったであろう"魔族"とも戦えるような、そんな存在。

 

(話してみたい……! 本物の冒険者って、どんな人たちなんだろう!)

 

 想像が膨らみすぎて、鼻息が荒くなっていたその時。

 

「ノクス?」

 

 部屋のドアが軽くノックされ、続いて入ってきたのはモルテとアミーだった。

 

「さっき、部屋の前通ったら何か叫んでたけど……どうしたの?」

 

「あっ! モルテお姉ちゃん、アミー姉ちゃん! ねぇ、聞いて! 《銀の楯》って冒険者たちが、この街に来てるんだって! 会ってみたいんだ! 少しだけでもいいから!」

 

 キラキラとした目で訴えるノクスに、モルテとアミーは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。

 

「うーん……じゃが、その者たちはとても忙しいんじゃないか? 王都でも有名な冒険者たちなら、街に来てる理由も何か任務とかじゃろうて、軽々には会えぬと思うのじゃが?」

 

 と、優しくたしなめるモルテ。アミーも微笑みながら肩をすくめた。

 

「そもそも子どもが会えるような相手じゃないかもしれないし……ね?」

 

「うぅ……わかってる!でも、どうしても行きたいんだ。お願いっ!」

 

 ノクスの必死な願いに、二人はしばし無言になった。が、すぐにアミーがため息をつき、頭をぽんと撫でた。

 

「……もう、しょうがないなぁ。分かった。じゃあ、私たちが一緒に行くから。それなら、ちょっとだけなら……ね?」

 

「ほんと!? やったー!! ありがとう!!」

 

 そのままノクスは、勢いのままモルテとアミーに抱きつき、嬉しそうに笑った。

 

 

 屋敷を出て、三人は街の中心へと足を進めた。

 

 だが──

 

「全然、見つからない……」

 

 午後も中盤に差し掛かった頃。冒険者ギルド、いくつかの武器屋、さらには酒場の前なども巡ったが、どこにも《銀の楯》の姿はなかった。

 

 やや意気消沈したノクスを元気づけるように、アミーが一人のパン屋の店主と会話を交わす。すると──

 

「──え? 教会に? あの冒険者パーティがか?」

 

「そうよ。聞いたところ宿屋も断って、なぜか教会に滞在してるって噂。修道女の誰かと知り合いなのかもしれないわね」

 

 ──アミーの情報収集能力が、ここにきて炸裂する。

 

「やったぁ! ありがとうアミー姉ちゃん! 教会に行こう!」

 

「ちょ、ちょっとノクス、走っちゃ危ないわよー!」

 

「元気な事じゃのう……」

 

 慌てて追いかけるモルテとアミー。三人の軽快な足音が、午後の石畳に弾んでいた。

 

 教会の白い壁が目に入った瞬間、ノクスは思わず駆け出していた。

 

「やった、ほんとにあった! 教会だ!」

 

「ノクス、ちょっと待つのじゃ!」

 

「急に飛び出さないで――!」

 

 モルテとアミーの制止も届かず、勢いそのままに教会の大扉を――

 

「うわっ!? ご、ごめんなさいっ!!」

 

 勢い余ってぶつかった相手に、ノクスは跳ね返るように尻もちをついた。

 

 その人物は、ノクスとぶつかってもほとんど動じず、苦笑しながらこちらを見下ろしていた。

 

「大丈夫か? 元気がいいのはいいけど、扉は急に開けるもんじゃないぞ?」

 

 赤髪が太陽にきらめき、爽やかで優しい笑みを浮かべた青年は、ノクスに手を差し伸べる。

 

 その姿に、ノクスはしばし呆然と見とれてしまった。

 

「あ、えと、うん……! ぼ、僕、大丈夫!」

 

「ノクス!」

 

 少し遅れて駆けつけたモルテとアミーが慌ててノクスを支え起こし、ぺこりと頭を下げた。

 

「申し訳ありません、うちの子が……」

 

「すまなかったのう」

 

 すると赤髪の青年は手を振りながら、にこりと微笑んだ。

 

「いやいや、平気平気。ちょっと驚いただけだ。怪我がないなら、それが一番だよ」

 

 紳士的な口調でそう返すと、ふとノクスをじっと見つめた。

 

「で、坊主。そんなに慌てて、どうして教会に?」

 

 その問いに、ノクスはぴんと姿勢を正して言った。

 

「《銀の楯》に会いに来たんだ! 本当は街にはいないと思ってたけど、アミー姉ちゃんが場所を聞いてくれて……それで!」

 

()()()に?」

 

 赤髪の青年は少し眉を上げると、手袋を外して右手を差し出した。

 

「なら、自己紹介しとこうかな。俺はベアル。《銀の楯》の剣士ってやつだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ノクスの目がまるで星空のようにきらめいた。

 

「ええっ!? ほんとに!? 本物の!?」

 

「本物だとも。ほら、証拠に剣だって……まあ、今は教会に預けてあるけどな」

 

「うわあああああっ、かっこいい……!ぼ、僕の名前はノクスと言います! ねえ、ねえっ、冒険の話、聞かせてくれる!? 魔物と戦った話とか、仲間のこととか……!」

 

 ノクスの勢いに、さすがのベアルも一歩たじろぐが、すぐに苦笑して頭をかいた。

 

「はは、参ったな。そんなに目を輝かせて頼まれたら、断れないじゃないか」

 

「ほんと!? やったあ!!」

 

 と、そこで教会の中からひょっこりと現れたのは──青髪の少女だった。

 

 長めの前髪が左右に流れ、ジト目でこちらを見つめている。

 

「ベアル。なにしてるの?」

 

「いや、ちょっと熱心な子に会ってな」

 

 その言葉に、少女──マリーはノクスの方をじぃっと見つめると、小さく首をかしげた。

 

「……子ども?」

 

「ん。ああ。ノクスって言うんだって。《銀の楯》のことを聞きに来たらしい」

 

 マリーは無表情のまま少し沈黙したあと、ふっと口元をゆるめた。

 

「……ンフー。君なかなか慧眼…」

 

「ありがとう!」

 

「フフフ…確かにこの純粋な目で頼まれたら断れないね」

 

「反則的だろ?」

 

「そうね」

 

 じとーっとした目のまま笑うマリーに、ノクスは目を輝かせながら叫んだ。

 

「じゃあお話聞かせてくれるの!?」

 

「もち」

 

マリーは親指を立てながら了承する。

 

 その様子に、モルテとアミーはやれやれと肩をすくめるが、どこか安心したようでもあった。

 

 ──こうして、ノクスの「冒険者との出会い」は、想像とは少し違うかたちで幕を開ける。

 

 彼の憧れと現実、そして新たな誤解と勘違いがまた一つ、静かに積み重なっていくのだった。

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