俺の母さん、実は魔王でした⁉   作:KuRoNia

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第四節:はじめての冒険者登録

 ギルド内は、先ほどの騒ぎが嘘のように静まり返っていた。

 

 十人ほどの冒険者たちは各々の席に戻り、やけに真面目な顔をして酒を飲んだり、依頼掲示板を見たりしていた。――完全に目を逸らしている。

 

「よーし、それじゃあノクス! いよいよ冒険者登録だな!」

 

 空気を読まない――いや、読んだうえであえて元気よくテンションを上げたルカが、胸を張ってギルドのカウンターを指差す。

 

「う、うん!」

 

 ノクスも気を取り直して頷くと、ギルドのカウンターへと歩みを進めた。

 

 受付に立っていたのは、やや気弱そうな雰囲気の女性だった。先ほどの騒動をしっかり見ていたらしく、ノクスたちを前にしてぎこちない笑顔を浮かべる。

 

「こ、こんにちは。冒険者登録ですね……? あの、もしかして、先ほどの……」

 

「あ、はい。ノクスって言います。冒険者になりたくて……」

 

 ノクスがぺこりと頭を下げると、受付嬢は少し安心したように微笑み、小さく頷いた。

 

「ええと、それではこちらの用紙にお名前と年齢、生年月日などをご記入ください。それと、簡単な確認も行いますので、身分を証明できるものがあれば……」

 

「わかりました!」

 

 ノクスが用紙を受け取り、受付カウンターの横にある記入台へと向かうと、すぐ後ろでルカが嬉しそうに腕を組んだ。

 

「ふふん、俺の初登録の時はなあ、用紙に“好きな食べ物:赤い果実”って真顔で書いて変な空気になったんだぜ!」

 

「いや、普通は書かないでしょ、そんなの……」

 

 ジョーヌがルカに冷ややかな目を向けながら呆れ声をあげる。

 

「いいじゃんか~! 個性って大事だろ?」

 

「それ、個性じゃなくてミスだから」

 

 と、そこに書類を持ったノクスが戻ってきて、思わずくすりと笑う。

 

「二人とも、ほんと仲良いよね」

 

「仲良くねぇ!」

 

「仲良くない!」

 

 息ぴったりに否定するルカとジョーヌに、ノクスはくすくす笑いながら受付へと用紙を渡した。

 

「ありがとうございます。それでは、少々お待ちください。内容を確認して、冒険者カードの発行をいたしますね」

 

 受付嬢が丁寧に頭を下げると、奥へと下がっていく。

 

 その間も、ルカとジョーヌはなんだかんだとやりあいながら、ノクスの隣でちょこちょこと背比べをしてみたり、「おれの方が背高いし!」とルカが主張すれば、「今測ったら私の方がちょっと上だったけど?」とジョーヌが言い返したり、もう完全にコントだった。

 

「……ふふ、なんだか楽しそうだね」

 

 少し離れた場所で、エステアが柔らかい微笑みを浮かべてノクスを見つめていた。

 

 隣ではモルテが腕を組み、うんうんと頷きながら呟く。

 

「これが“成長”というやつか……いいものじゃな…」

 

 やや照れくさそうにしながらも、どこか誇らしげなその表情。

 

 そうして数分が過ぎ――

 

「お待たせいたしました。登録が完了しましたので、こちらがノクス君の冒険者カードになります」

 

 受付嬢が差し出したカードは、金属で縁取りされた黒い板に、名前と簡単なステータスが刻まれていた。

 

「これが、俺の……」

 

 ノクスは両手でカードをそっと受け取り、しばらくその文字をじっと見つめた後、ぱっと笑顔を見せた。

 

「うわぁ……かっこいい!」

 

「おうおう、そうだろ! 俺の時はちょっと傷ついてて汚れてたから最悪だったけど、ノクスのは完璧だな!」

 

「ルカのはそもそも使い古してるからでしょ」

 

「ちぇっ、バレたか」

 

 わいわいと盛り上がるノクスたちの姿を、エステアとモルテは遠くから、まるで初めて立った我が子を見守る親のような眼差しで見つめていた。

 

ギルド登録を終えたノクスが胸高鳴らせてカードを眺めていると、受付嬢が優しく声をかけてくれた。

 

「ノクス君、登録おめでとうございます。これからの冒険を応援していますね」

 

「ありがとうございます! がんばります!」

 

ノクスは大事そうにカードを仕舞い、受付嬢の続きを聞こうと倒れそうなほどテンション全開だ。受付嬢は微笑みながら、小声でささやいた。

 

「では次に、ギルドの流れやルールを簡単にご説明しますね。何かあればいつでも声をかけてください」

 

 ――と、あまりにフレンドリーで、ノクスは脳内で“この人天使かな?”と思うほどだった。

 

「まず、依頼の仕組みですが、こちらの依頼掲示板にさまざまな依頼が貼られています。冒険者様はご自身のランク以下のものなら、どれでも自由に受けていただいて構いません」

 

「ランク以下……つまり、僕はFランクだから……Fのみ?」

 

「はいそうです、Fランクの方が受けられるのはFランクのみの依頼、つまり“薬草詰み”や“配達”といった初級依頼ですね」

 

掲示板には、書枠に色分けされた依頼票が並んでいる。一枚一枚が丁寧に手書きされていて、「初心者歓迎」「報酬50ゴールド」「地区内のみ移動」など分かりやすく書かれている。

 

「依頼票を剥がして受付へ持って行かないと、依頼は無効になりますから、必ず掲示板からご自身で取ってくださいね」

 

「剥がして……持って行くんですね!」

 

ノクスが目を丸くする中、横でルカが得意満面で続きをフォローした。

 

「剥がれるタイプの紙だから便利にできてる。剥がした人が依頼を受けたって証拠になるんだぜ」

 

「なるほどなるほど!」

 

ジョーヌは微笑みながら、垂れた前髪をかき上げ、その受付嬢に話しかけた。

 

「あの、ちょっと個人的に聞いていい?」

 

「もちろんです。どのようなことでしょう?」

 

「ノクスが初登録だし、冒険未経験だから、他に気をつけることってありますか?」

 

受付嬢は微笑みながらも真剣な顔に切り替える。

 

「そうですね……まず、依頼は期限があります。掲示板に書かれているので、ちゃんとよく確認してください」

 

受付嬢が指差す先の掲示板を見ると、依頼ごとに「締め切り日前日」など期限が明記されていた。

 

「あと、パーティを組む場合は事前登録が必要です。この用紙にメンバー名を書いて提出してください。急な参加は認められませんので……」

 

ノクスは心の中で「なるほど!」とガッツポーズを作った。

 

その間、ルカとジョーヌは言葉を交わしながら移動し、ノクスに気づかれないように小さなメモ帳で“ノクス関連事項メモ”を取っていた。つまり、ノクスの「冒険者登録後補足」を全力でフォローする二人である。

 

依頼掲示板に戻ると、ノクスは慎重に目を向けた。最初の依頼は「地域内の大型野菜輸送:Fランク」「消えた子ヤギ捜索:Fランク」など無難なもの。ルカが肩を組みながらアドバイスする。

 

「野菜輸送は地味だけど信頼がつくぞ!最初は実績を積もう」

 

「うん、最初は戦闘じゃないものがいいと思う……あっごめん受付に()()()したから行ってくる」

 

珍しくルカに賛同していたジョーヌが思い出したかのように受付へと戻ってしまう。

 ノクスはちょっぴり緊張しながらも、表情は明るく、依頼掲示板の前に立っていた。選ぶのは初めての依頼。「野菜輸送」の案内を前に、腕に力を込める。

 

 一方、ルカは腕を組んでノクスの横に立ち、得意げに頷いている。エステアとモルテは少し離れた位置で、「どれがいいかしらね」「初めてじゃから、安全そうなのがいいのじゃ」と相変わらず保護者目線で話していた。

 

「やっぱりノクスには、野菜輸送が似合う。急に魔物相手に呼び出されるより安全だしな」

 

 ルカが真剣な顔で言うと、ノクスも大きく頷く。

 

「うん! 冒険者って言っても、最初は『冒険っぽい』依頼じゃなくてちゃんと人のためになることをしたいんだ!」

 

 エステアが微笑み、モルテは「ああ、それが大事じゃな」としっかり頷いた。

 

 そして――。少し迷った末にノクスは掲示板から「野菜輸送(Fランク)」の依頼票を丁寧に剥がし、手に取った。丸めないように気をつけながら、受付へと歩みを進める。

 

 そんな受付の前には――なんと、既に登録を済ませたジョーヌが待っていたのだった。胸元には彼女の名前が入った小さな書類が光っている。

 

「早くしなってば! 私、あんた以外とはパーティ組まないからっ!」

 

 と、ジョーヌはツンと鼻をつまみ、パーティ申請書を押し付けるようにノクスに渡した。表情は強気だが、頬はほんのり赤い。

 

「え!?登録したの!?」

 

 ノクスが驚きつつ受け取ると、背後からはルカが声を上げた。

 

「わっ!ずるいっ! 俺も入れてくれよ!」

 

 ルカがパーティ申請書を奪い、自分の名前を記入して返す。ノクスは困った顔になりながらも、ジョーヌと目が合うと、彼女も背中を向けて何故か照れている。

 

 最終的に、受付のお姉さんが「それでは三名パーティで登録しますね」と余裕で手続きを進めてくれたので、ノクスは胸を撫で下ろした。

 

 その様子を見ていたエステアは唇をほころばせつつ、「まぁ、仲間が早く揃ってよかったわね」と頷いた。一方のモルテは、表情を少し引き締め、

 

「ふむ……ジョーヌに加えてルカも。まぁすぐにもう一人増えるかもしれないがの…」

 

 と小声で呟いた。どうやら、モルテの頭の中では既にある名案が浮かんでいるらしく、その瞳はどこかギラリと光っていた。

 

――そして、後日談。

 

 数日後の夕刻、モルテが悔しそうな表情で屋敷へ戻ってきた。顔は少し赤らみ、不機嫌そうな表情だったという。

 

「どうしたの?」と尋ねるエステアに、モルテは小さな声でこぼした。

 

「いや……実は、我も冒険者登録に行ってみたんじゃ……でも、受付嬢が困った顔で我の書類を持って……容姿が幼過ぎるから無理じゃって…」

 

 その場でモルテが地団太を踏みながらそう答えた。

 それを聞いたノクスも含めて全員が爆笑してしまったのだそうだ。

 

「まぁ、それもあなたらしくていいけどね」

 

 エステアは微笑んで言った。モルテは顔を真っ赤にして、悔しそうに机をドンと叩いたという。その夜は、屋敷に笑い声が響いたとさ――という後日談が、パーティ結成の余韻に彩りを添えることとなった。

 

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