【聖女アリス】
種族:人間 年齢:13歳 所属:教会
金糸のように輝く髪と、どこか儚げな雰囲気を纏ったシスター服の少女。年齢に似合わぬ落ち着きと柔らかな物腰を持ち、誰に対しても分け隔てなく接する姿は、まさに“聖女”の名に相応しい品格を感じさせる。
だがその見た目に反し、アリスの本質は驚くほど行動的で、思い切りが良い。困っている人を見ると放っておけない性分で、思わず首を突っ込んでは、周囲をハラハラさせることもしばしば。特に世話になっている教会の神父からは「せめて事後報告はしてほしい」と日々嘆かれているが、本人は「人のためなら多少の迷惑は仕方ないよね」と、どこ吹く風である。
本来は王都の教会に身を置くべき存在であるが、とある目的のため、辺境の街アルセナを訪れる。そして偶然出会ったノクスと交流を深め、ともに行動するようになる。
使用能力:
神聖魔術および高位の治癒術に長けており、戦闘よりも支援を得意とする。特に“神の加護”を受けた祈りの魔術は、浄化・回復において絶大な効果を発揮する。ただし、本人はあくまで“見習い”であることを自覚しており、慢心せず日々修行を重ねている。
性格:
優しく正義感が強いが、その優しさゆえに無茶をしがち。人と関わることを厭わず、年齢以上に大人びた一面もある。しかし、人との距離感は近く、親しくなると天然な一面や小さな頑固さを見せることも。
幕間:魔物のいない不思議な道
今日も快晴だった。雲ひとつない青空の下、ノクスたち三人――ノクス、ジョーヌ、ルカのパーティは、冒険者ギルドで引き受けた「野菜配達」の依頼をこなすため、街外れにある農村へと続く道を歩いていた。
「……それにしても、いい天気だね」
ノクスが空を見上げてぽつりと呟くと、その隣でジョーヌがうなずいた。
「空気も澄んでるし、こういう日は歩くのも楽しいよね」
「だなー。仕事じゃなかったらピクニック気分ってやつ?」
ルカがあくびまじりに言いながら、ふわりと伸びをする。その顔には緊張感など微塵もない。が、別にそれはルカに限った話ではない。
というのも――
「そういえば、さ」
何気なくルカが言葉を落とした。
「この前、俺一人でこの道通って野菜運んだんだけど……その時はけっこう魔物に遭ったんだよな~。弱いやつだったけど、それでも三匹くらい?」
「え、本当?」
ノクスがきょとんと目を丸くする。
「僕、もう冒険者になって二週間経ったけど……魔物に一度も遭ってないんだよね。配達とか回収とか、色んな依頼こなしてきたけど、魔物遭遇ゼロってすごくない?」
「……あー、確かに」
ジョーヌも腕を組んで少し考え込んだ。
「っていうか、言われてみれば魔物どころか獣の鳴き声すら聞いてないかも……。まあ、楽でいいけどさ?」
そう言って笑うジョーヌの声は、まったく気にしていない様子だったが、ノクスは少し首をかしげる。
「でも、偶然ってにはちょっと不自然じゃない? ルカが言ったように、ほんの一週間前に魔物が出てた道だよ? なんで僕と一緒の時だけ……?」
「偶然偶然、細かいこと気にすんなって~」
ルカが軽くノクスの頭をぽんぽんと叩いた。
「むしろありがたく思おうぜ。魔物が出ないのは“ノクス運が良い説”でいいんじゃね?」
「……うーん、それならいいけど……」
ノクスは未だに腑に落ちない顔で首を傾げていた。
そんな彼の様子をジョーヌは微笑ましく見つめながらも、(ふむ……これはさすがに確率的に妙かも)と、内心ではやや真剣に思案していた。
しかし――ノクスも、ルカも、ジョーヌも知らない。
この“幸運な道”には、ひとつ秘密があったのだ。
***
一方その頃、ノクスの自宅では――
「よし、こちらは異常なしじゃな」
骨でできた小さな鳥――まるで白く乾いた骸骨の小鳥――が、くるくると旋回した後、モルテの肩に着地する。
「ええと……座標A-12、検知完了。魔物なし。移動経路問題なし」
まるで事務作業のように呟きながら、モルテは使い魔の鳥から得た視覚情報を整理していく。机の上には簡易地図と符術が並び、何本もの赤い糸が結界のように張られていた。
……そう、ノクスの“平和な冒険者ライフ”は、完全に家族の手によって守られていたのだ。
「さて……そろそろ警戒範囲B-07の確認を……またか」
「――あら? また魔物が出たの?」
その背後からひょっこり顔を出したのは、エステアだった。可愛らしいエプロン姿で、手にはパイ皿を持っている。どうやらキッチンから来たようだった。
「出たのじゃ。まぁ、またゴブリンだけどね。三体まとめてこのエリアに向かって来ておるの」
「……仕方ないわね」
そう言って、エステアはさらりと右手を振ると、指先に魔力の流れを集中させる。指先に淡く浮かび上がる魔術回路――彼女の得意とする遠隔魔術の詠唱だ。
「対象補足完了。――《氷結》」
静かに詠唱を終えたと同時に、遠く離れた森の中で突然氷の槍が地面から湧き出し、魔物たちの足元を貫く。動揺した魔物たちは方向を変え、一目散に逃げていった。
「ふぅ、これでまた当分は安心ね」
エステアは満足そうに微笑む。
「ねぇ、モルテ。あの子たちに魔物が出ないようにしてるのって内緒なんでしょう?」
「当然じゃろ。ノクスが“冒険者としての経験”を積むには、まず“基礎体力と道中の安全管理”からじゃ。いきなり戦闘経験なんて必要ないのじゃ。精神衛生上もよろしくないしの」
「ふふ、
「……
そんなやりとりを交わしながら、二人は静かに頷き合った。
外の世界はまだまだ危険だ。ノクスの成長のためにある程度の刺激は必要だろう。しかし、命の危険までは背負わせない。それが、家族である彼女たちの暗黙の決意だった。
その頃、ノクスたちはというと、また別の畑へ向かう道の途中、ジョーヌが持ってきたリンゴをかじりながら「今日も楽勝だね~」などと無邪気に笑っていた。
だが、彼が笑っていられるのは――
そう、背後で“超過保護モンスターたち”が、今日も全力で動いているからなのであった。