俺の母さん、実は魔王でした⁉   作:KuRoNia

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第四節:魔王、人化するってよ!

ノクスがやって来てから数ヶ月。

 

魔王城には、かつてないほどの笑い声が響くようになっていた。

 

「魔王様〜! こやつ、また我の巻物で落書きをっ……!」

 

「いいじゃない、文字を覚えようとしてるのよ! ほら見て! これは“モルテ”って書いてる! ちょっとグニャってるけど!」

 

「まさか我の名前だけ先に覚えるとは……ふふふ、将来は立派な死霊術士に……!」

 

「勝手に後継者にするなぁ!!」

 

 

 

そこからさらに月日が流れ。

 

ノクスは少しずつ言葉を覚え、感情も豊かになってきた。

 

「えすてあー!」

 

「ふふふ、呼んだ? 呼んだのね!? ちょっと! みんな聞いた!? いま“エステア”って言った!!」

 

「魔王様、今のは“えしてゃー”ですよ。“えしてゃー”!」

 

「うるさい! 似てればいいのよ似てれば!」

 

セスは相変わらず記録魔であり続け、ノクスの成長日誌は日に日に厚みを増していた。

 

アミーは変幻自在な見た目で、育児に役立つ姿を日々アップデート。

 

「今日は完全ふわふわ素材のクッションフォームでお届けしてまーす」

 

「誰が通販番組やれって言った!?」

 

リュースはリュースで、無言で抱き枕になっていた。ノクスがよじ登って昼寝するのが日課である。

 

 

そんなある日のこと──

 

ノクスがぐずり出した。珍しく、何をしても泣き止まない。

 

「セス! ノクスの様子が変なの! 目がとろんとしてて、身体が熱くて……!」

 

「体温上昇、顔面蒼白、喉の炎症。──これは“風邪”ですね」

 

「か、風邪!? 人間の!? 魔界で!?」

 

「そもそもこの城、気候が人間向きではありませんから。特に夜間の冷気、魔力濃度の影響もあるかと」

 

「……この子にとって、ここは過酷な環境なのね」

 

魔王エステアの顔が曇った。

 

ただの風邪ということもあり、大事にならずノクスの体調はすぐに回復したが、エステアの中には重たい問いが残り続けた。

 

「このままここで育てていいの? ちゃんと、大人になれるの……?」

 

「魔王様。あまりご無理を」

 

「無理とかじゃなくて……なんか、違う気がするのよ。だって、風邪一つで泣きそうになるんだもん……私が……」

 

エステアは珍しく、静かだった。

 

「このままこの子を魔界で育てても……魔族の文化も、生き方も、人間とは違う。私たちと暮らすほどに、“人間”としての道から遠ざかっていく」

 

「魔王様、それは──」

 

「うん、分かってるわ。セス、分かってる……でも……」

 

その時。

 

エステアの脳裏に一つの天啓を得る。

 

「──そうだ!」

 

「な、なんですか!?」

 

「私が! 人間になればいいんだあああああ!!!!!」

 

「……」

 

「…………」

 

「は?」

 

 

 

 

こうして、緊急魔族会議 Part.2が開催された。

 

 

「人間界で、ノクスを育てる!?」

「しかも魔王様自身が人間に!?」

「それはつまり、引退宣言と取ってよろしいか!?」

「誰もそこまで言ってない!!」

「というか魔王の人化って前代未聞なんじゃが!? 生物的に可能なのか!?」

 

「よくぞ聞いてくれました!」

 

エステア、ばばんと魔導書を開く。

 

「この“禁断の変身術”を使えば、一定時間、私は人間の姿になれるらしい!」

 

「“禁断”って時点でやめんか!?」

 

「ちょっと副作用として記憶が飛ぶ可能性があるらしいけど!」

 

「辞めといた方がいいんじゃねぇか?」

 

大荒れの会議の中、一人冷静に人化の魔導書を読み解いていた男が発言する。

 

「この術法での副作用は魔力が足りない場合に起きるようです。」

 

「ということは!」

 

「はい…魔王様、並びに我々の保有魔力でしたら、副作用が起こるのは万に一つもありえないかと」

 

「じゃあさっそく唱えてみるけど良いわよね!?」

 

セスは静かに本を閉じながら、エステアの眼を見て頷いた。

 

 

エステア、決意の詠唱。

 

「──我、肉体の本質を偽り、形を変えよ! 人の貌を与えたまえ!」

 

──ドカーン!!!

 

煙が晴れると、そこには──

 

「……ねぇセス、私、ちゃんと人間になってる?」

 

「見た目は大丈夫ですが、服が魔王のままなので完全にアウトです」

 

「えっ!?」

 

しかも──

 

「ねぇ? ノクスが見てる……! なんか“だれ?”って顔してるぅぅぅぅ!!」

 

「アイデンティティ喪失!!?」

 

「やっぱり私、人間向いてない……!」

 

しかし、エステアの中に芽生えた決意は揺るがなかった。

 

「どんなに不格好でも、この子が人間として生きるために、必要なら……私が変わるわ」

 

「魔王様……」

 

「セス、準備して。まずは人里に家を一軒用意して。あと、戸籍と、偽名と、職業と!」

 

「魔王が偽名と職業探し!? って、まさか……」

 

「──そう、母として働くのよ!」

 

 

 

ーー波乱の会議から数日後ーー

 

「というわけで、私、臨時講師になることにしました!」

 

「なんで!?」

 

「だって昼間ノクスと一緒にいられて、町の人とも交流できて、しかも人間の文化が学べる職業って言ったら!」

 

「いやまあ正論だけども!? 臨時とは言え講師ってなれるのそんな簡単に!?」

 

「そこは魔王権限でどうにかする!」

 

「人間界で魔王権限効かないのじゃあ!!!」

 

 

こうして、ノクスを人間として育てるため、魔王エステアの“人間生活計画”が始まった。

 

「ところでセス、私の人間界用名前、決まった?」

 

「“エスティ”でいかがでしょう」

 

「……それ、あんまり変わってなくない?」

 

「変えすぎると“忘れます”から」

 

 

 

 

ある夜のエステナは自ら考える

 

「魔王って、強くて孤高で恐ろしくあるべき存在だったはずなのに」

 

エステアは、寝ているノクスの頬に触れる。

 

「でも今の私は、なによりもこの子の“お母さん”でありたいの」

 

──笑いと涙が交差する、育児生活。

 

次の舞台は人間界。

 

魔王エステア、改めエスティ。

 

正体を隠し、母として生きる覚悟を決めたその背に、誰もが知る“魔王の影”は、もうなかった。

 

ただ──

 

「……それにしても、引っ越し祝い!?歓迎会って何!? なに着ていけばいいの!?!?」

 

「魔王様、落ち着いてください。今それを考える段階じゃありません」

 

「人間、怖い……!!!」

 

──こうして、魔王の育児は“第二章”へと突入する。




アミー:「じゃあ私も“隣のお姉さん”ポジションでついていこうかな」
モルテ:「むむむ……私は“永遠の幼馴染”ポジションじゃな」
リュース:「俺は……壁役だな」

「いや壁は必要ないから!?」

セス:「私は変わらずお目付け役の執事ですかね…」
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