俺の母さん、実は魔王でした⁉   作:KuRoNia

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第三節:ジョーヌ、召喚される

――あー、ダルい。

今日も今日とて、寝転んで雲の形でも数えて過ごすかーって思ってたのに。

 

「……うわ、また召喚魔法陣じゃん。マジでウケる」

 

寝所として使っていた黒雲のクッションが、突然ぐるぐると魔法陣に包まれて光りだした。呼び出されたのは人間界。しかも“契約依頼”だって。

 

相手は身なりのいい人間だったけど、態度が妙におどおどしてて怪しかった。

依頼は「ある怪しい家族を監視して、異変があれば報告してくれ」ってだけ。これくらいなら、弱小の私でもいけるっしょ、とノリで契約してしまった。

 

……けど、マジで地雷だった。

 

 

対象の家族――人間の女と、その執事っぽい男と、子ども一人。

最初は特に何もなく、「あー、子どもカワイイね〜。女はキレイだし、男は眼鏡」ってくらいの印象だった。

 

でも、数日観察してたら分かった。

 

「あいつら……ヤバい。マジで上位種じゃん。てかあの女が一番やばいじゃん……ッ!」

 

あの女の笑顔に、薄っすらとした恐怖を感じてたのは間違いじゃなかった。

どっちも気配隠してたけど、無意識に出る“格”がエグい。いやホント、なんで私こんな奴ら監視してんの!?

 

即撤退を決意した私。荷物なんてないけど、一目散に夜の路地裏へ。

 

……のはずだったんだけどね。

 

「あら、どこへ行くのかしら? 小さなお客さん?」

 

その声は、甘く優しく響いて、背筋がゾワッと凍るような冷たさがあった。

 

振り返れば、金色の髪をゆったりとなびかせた“あの女”が、月明かり差し込む窓辺に立っていた。

その隣には、白手袋をはめた完璧すぎる男。眼鏡の奥の瞳が、氷のように無感情だった。

 

「監視者。悪魔種。契約に基づいて人界に潜入……やはりそういう類だな。始末すべきか?…エステア様どうします?」

 

その時ジョーヌは静かに悟った、自分が認識出来ない一瞬で屋敷の中に強制転移させられた事を…つまり、ここで弁明出来ない場合どうなるかを……

 

「ちょっ、ちょ、待って!」

 

逃げ道は完全に塞がれた。魔力で空間が固定され、身体が鉛のように重くなる。

しかもそこの執事が言った名前がジョーヌを更なる絶望に叩き落とした。

 

エステアって魔王様の名前じゃん――あ、これ、死んだ。

 

「ふふ……どうしてこんなことをしたのか、聞かせてもらえるかしら? 答え次第では、苦しまない方法で終わらせてあげるわ」

 

怖ッ! その笑顔やめて! 優しく脅さないで!

 

あーし、弱小悪魔ですよ!? なんでいきなり魔王と執事(もはや死神)が二人で囲んでくるの!?

もうやだ、寝てたい、布団にくるまりたい!!

 

「ふむ……黙秘か。では、私のやり方で口を開かせてもらう」

 

そう言ったセスが、スッとナイフのような小さな魔術道具を構える。

 

こ、こいつ容赦ない! 思った通りの拷問系メガネ!あ~これ実は夢だったりしないかな~?

ジョーヌはこれから自分に降りかかる厄災に現実逃避をしていた。

 

――そしてその瞬間。

 

「……セスー? ままー?」

 

眠そうな声が、静寂を切り裂いた。

 

見ると、ノクスが、ひとりでトイレに向かう途中だったのか、ぼんやりした表情でぺたぺたと歩いてきていた。

 

うわ、ヤバ。こんな緊迫したタイミングで子ども出てくる!?

 

「あっ、ち、違うのよノクス? これは、その……夜の見回りをしてたら、ちょっとだけね?」

 

「そうです。巡回中に不審者を見つけてね……その、やさしく尋問を……」

 

え、嘘下手すぎない? なんで急にしどろもどろ?

ていうか“やさしく尋問”って、子どもに説明する言葉じゃねーだろ!

 

ノクスは、きょとんとしながらも、じっと私を見てから、セスとエステアを交互に見つめた。

 

「……二人、こわい顔してる。やだ」

 

えっ。

 

「ノクス、こわいのきらい。いじめるの、ダメ。そんなままも、セスも、きらい」

 

……こ、子どもってすげぇな。

 

セスとエステアが、ピキーンと固まった。

顔を青くする魔王と執事って何事?

 

「……ノクス……それは……違うのよ? ええと、その……彼女はね、ちょっとだけ悪いことをしただけで……でも……いや、違う、うん!」

 

「我々は悪くない、否、むしろ正義だ。だが……うん……」

 

ツッコミ待ちか!? これ!? 私が突っ込む流れ!?

 

「いやもう、お前らの雑な言い訳の方が怖ぇよ。演技下手か」

 

ぼそっと呟くと、ノクスが手を引いてきた。

やばい、手、あったかい。やばい、なにこの守られてる感。

 

「このこ、ぼくがみる。だから……まま、やさしくして」

 

その言葉に、エステアは膝から崩れ落ちそうになりながらも、ぐっと耐えて笑顔を浮かべた。

 

「もちろんよ、ノクス。ママ、がんばるわ!」

 

「……まったく、これだからあなたは……はあ……」

 

セスが眼鏡をクイッと持ち上げながら、疲れきったようにため息をついた。

 

 

 

――なんで生きてるのか分からないけど、とりあえず助かった。

ノクス、君が神か……いや、天使か。あーしは悪魔だけど。

 

それからというもの、あーしはなし崩し的にこの家に居候することになった。

報告? うん、適当に嘘ついてる。契約違反じゃない範囲で。

 

ノクスの遊び相手って仕事も悪くない。

そのうち、あーしに惚れたりしないかな、あの子。いや、マジで。

でも素直になれないから、つい口調が荒れる。

 

……ていうか、なんであーしがツッコミ役なんだよこの家。

おかしいだろ、魔王と執事と子供と小悪魔って、なにその構成。

いや、面白いけどさ。

 

――こうして、ジョーヌの奇妙な日々が始まった。

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