長身恵体の不良お姉さんと未亡人が幸せになる話 作:万年赤字一般傭兵
「ほら白子ちゃん、おいで。今日も一緒に寝ましょうね〜」
今日も白子ちゃんを寝かしつける為に、彼女の頭を抱えて背中を優しくたたく。彼女が私の胸に顔を埋めて甘えて来る様子はとても可愛らしくて、その安心しきった寝顔は正しく愛し子のように思えた
そんな、何とも可愛らしい白子ちゃんを見てあの時から変わった生活に想いを馳せる
あれからと言うもの、白子ちゃんは私の家に住むようになっただけで無く、私に沢山甘えて来るようになった
最初の頃はとにかく一人が怖かったのか、彼女は何があっても私と一緒にいようとした。買い物する時も、料理する時も、お風呂に入る時も、寝る時も…如何なる時でも私の側にピッタリついて来る。
そして、不安そうな表情を浮かべて控えめに甘えようとする彼女はとにかく可愛くて、母性をくすぐってきて……彼女を甘やかす事は苦になるどころか、最上の喜びである
こうなる前は普通の友人として彼女と関わるものだと思っていた。しかし今となっては、友人としての関係性が妥協であるかのように感じられ、この関係性こそが有るべき形に思える
そんな事を思っていると、白子ちゃんの高い体温につられたのか、眠気がやってきた
(おやすみなさい、白子ちゃん……)
(いつまでも、いつまでも甘えて良いのだからね……)
過ぎ去っていく日々、その中で唯ひたすらに橘さんの無限とも思える母性に溶かされる。何が悪いとか何が良いとか、そんな事は考える必要は無く彼女に甘えていれば何の心配も要らない
この何ものも勝る事が出来ない生活に異議など唱えようが無い、変わる事などない、その筈だった
あの写真を見るまでは
ある日
橘さんの温もりを残した布団。彼女がいない布団はとても冷たく二度寝する気にはなれないから、寝室を出てリビングに向かうと
「………これ、は……」
ふと、写真立てが目に入った。
前までは伏せたあったそれは、しかし立てられており中の写真を見る事ができる
そこに写っていたのは家族。
子供を中心として親が左右に並んでおり、その内女性の方は橘さんであるようだ。
全員が幸せそうな笑顔を浮かべている
「…………」
橘さんの幸せそうな顔。
見ているだけで癒されて、喜びが湧いてきて、もっともっと見たくなって来た
橘さんに許可を貰ってアルバムを見せてもらう。何か含むものがあったのか、それとも単に自分を甘やかしたいのかは分からないが、簡単に見せて貰えた。
アルバムを読み進めて彼女の幸せそうな顔を見ていると、もっと癒されるが…同時に何かの違和感が増してきた。大きくなって行く違和感と共にページを捲っていくと
あの写真を見た…見て、しまった
「……うん、だよな…そりゃあそうだよな……」
それは、結婚式の写真。
夫と思わしき男の側にいる橘さんは、とてもとても幸せに満ち溢れた顔をしていた。この先に何一つの苦難など無い言わんばかりの笑顔
橘さんの一番幸せそうな顔、それを見たのにもかかわらず…
なぜか、喜べなかった
夜になって、いつも通りに橘さんに寝かしつけられる。埋めた胸の隙間から少し見える彼女の顔は母性と慈愛に満ちた微笑み、それで良かった筈なのに
足りない
彼女の微笑みを見ると、結婚式で浮かべていた笑顔がふと浮かんで来る。この微笑みは、この愛は確かに自分が望んだものである筈なのに……何故か、後悔が湧いて来た
そして、この時から生活は変わっていった
「はい、あーん」
「うん、しっかりかんでね」
「こら、そんなに乱暴に髪を洗わないの。私がやってあげるから、ちょっとしゃがんで?」
「奥歯までしっかり……うん、これで終わり」
橘さんから与えられる無限の愛、けれども同時に向けられる微笑みを見ると心の何処かが苦しくなって来た。
確かに体は愛を欲していると言うのに、しかし辛さを感じ始める
「はい、あーん……いらない?いや、一人で食べるの?」
「ほらしゃがんで、頭…え?一人で出来る?」
「さぁ仕上げは……え?しっかり磨いたからいらない?そう……」
未だに、寝る時は橘さんと一緒でないと寝られないが、しかし段々と自分の事を自分でする様になってきた。それは彼女の好意と愛を否定するのに等しい行為であったが、しかし苦しくて苦しくて仕方がなかったのだ
そんな日々の中、ふと自分のスマホの電源を入れる。
今までは彼女に甘え切っていてスマホすら見ていなかったが、しかし最近は何かと一人でやろうとする事が増えて来て、仕事を探そうとまで思えて来たのだ。
きっと、それは立派な理由などでは無く…望んでいた筈の、しかし苦しく感じる愛を避けるための程のいい言い訳にしか過ぎないが
「……げっ!」
真っ黒な鏡になったスマホに映る自分の顔との少し長い睨めっこを終えた時、真っ先に見えたのは大量の着信履歴
(やっべぇ……そういやジジイには何も言わずに出ちまってたな……)
着信元は大家のジジイ。橘さんの家に逃げ込む様に住み始めた、あの時から履歴は続いている。
流石にヤバいと思って、すぐに掛け返した
「あぁ〜…すま「今まで、何しとったんじゃあ!!こんの、この……バカ孫がぁ!!」
コール音が始まって直ぐに繋がったが、それと同時に怒鳴り声が向こう側から耳に飛び込んで来る
「うるっせぇよ、ジジイ!!あと、孫って呼ぶんじゃねぇ……いや、まぁ…ごめんなさい」
「フンッ…無事なのか、何もねぇのか?」
「おう…あの、例の人の家に泊めてもらってた。そんで…まぁ、あれだ連絡忘れてた…ほんとごめん」
耳がキーンとなる程の大声ではあるものの、そこにあったのは確かな心配であるとも分かり、謝ってから今の状況を説明する
「そうか。で、いつ戻って来るんだ?」
「……分かんねぇや」
「……あ?」
前みたいに喧嘩別れした訳でもないからかジジイは落ち着いていて気まずさも無かったが、それでも前の家に戻る気にはなれなかった。
橘さんの庇護を離れてしまえば、今度こそ何もかも終わってしまいそうだと思ったからだ
「……一ヶ月、いや一年…駄目だ…俺には、あの人が居ないとダメみたいなんだ……」
「あぁ、つまり…アレか、惚れた腫れたか。別にケジメさえつけりゃあ何も言わねえよ」
「いや、そう言うんじゃ無くて……」
「今更誤魔化すな気持ち悪りぃ…若い内はそんくらいの勢いでいいんだよ。まぁ最後に荷物取りに来るついでにコッチに来い、そのついでに色々とやっからよ」
変な誤解をされた気もするが、ともかく後始末は穏やかに終わりそうなことにホッとした。喉に引っかかった僅かな違和感を無理矢理飲み込んで通話を終える
(惚れた、腫れた……か、いやそんなんじゃ……)
ジジイの言葉を聞いた時、何故か橘さんの結婚式の写真が思い浮かんだが、結局は何も分からなかった
今日は橘さんの仕事が特に忙しい日であり、尚且つ前の家からの退去手続きをする日。忙しい彼女には流石に弁当とかを作って貰う訳にはいかない為、外出ついでに適当に食事をすると言って丁重に断った
電車に乗って、繁華街に着いてから暫く歩く。客引きやキャバ嬢、金だけは持ってるオッサンの様な連中が闊歩する夜とは違い、真っ昼間の此処は違った活気を持っていた。そんなどうでも良い事を考えながら街の喧騒から離れていくと、遂に目的地へと辿り着く
「ジジイ!いるか?まさか、死んでねぇよな?」.
自分を含めた碌でなしや文無しが住むアパート、その大家の部屋のドアをノックして家主を呼び出す。この呼び出し文句もコレが最後だと思うと何だか感傷らしきものが湧いて来た
「うるせぇぞ、バカ孫が……取り敢えず上がれ、色々とやる事終わったら荷物まとめろ」
「孫って呼ぶな……あいよ」
早速部屋に上がらせてもらい、書類を探しているジジイを横目に出された茶菓子をつまみながら待つ。
見慣れたジジイの部屋、今までは大した興味も無かったが何故かタンスの上に置かれた古びている写真立てが妙に気になった。
よく見ればコレも家族写真の様だ、若い男女が女の子を挟む様にして並んでいる色褪せた写真
(ジジイの若い頃か…?つうか子供いたんだな)
「…ジジイ、この写真はアンタのか?」
「ん…まぁ、な…」
自分が写真を見た時、橘さんは何処か懐かしげで幸せそうな顔をしていたが、ジジイの顔は違った。
それは良い過去を懐かしむと言うよりは、何処か古い傷を目の当たりにした様な苦々しい顔
「…すまねぇ、聞かなきゃ良かったな」
「お前さんなら、別にいい。と、ほら」
もう克服した過去なのか、割と直ぐに切り替えたジジイと一緒に退去に必要な手続きを進め始める。
大体一年ほど前、ジジイに世話になり始めた時は言われるがままに色んな書類を書いたり学校まで提出しに行ったりしたが…最後くらいは自分でやるべきだと思った。
小難しい文章を何とか理解しようと、ジジイの助けも借りながらも頭を必死に働かせるが…
「で、こんな感じ…おい、大丈夫か」
「何てこたぁ、ねぇ…続けて、くれ……」
「…もう昼か。先に飯にする、奢ってやるから来い」
集中し過ぎて気づいていなかったが、どうやら昼時になっていた様だ。色々と考えた結果、誘いに乗ることにする
ジジイの誘いに乗ったのは、何も橘さんからの弁当がない妥協や最後の付き合いだから、という訳ではない。
こういう爺さんならば…俗に言う、知る人ぞ知る名店なんかにありつけると思ったからだ
「はい、大人二人です……ほら、そこのタブレットでさっさと頼め」
「風情ねぇなあ……」
「奢られてる立場で文句言ってんじゃねえ」
知る人ぞ知る名店、そんなものは無く今現在いるのは普通のファミレスだ。若干の落胆はあるが、しかし腹が減っていることには変わらない為さっさと注文する
「…で、お前さん。実際のところどうなんだ?本当に恋愛絡みじゃねぇのか?」
料理を食べている間、私よりも先に食べ終わったジジイが話しかけてくる。
以前に否定したことを小指を立てながら再び聞いてくるジジイにイラつきながらも、しかし即答が出来なかった
「……………」
「こりゃあ……相当重症だな」
「いや、別にそんなんじゃ……でも……」
そういう感情はよく分からないが…そもそも互いに同性である。だから、直ぐに否定できる筈なのに、何故か喉が詰まる
「じゃあ、このジジイからとっておきの判別法を教えてやる」
変な笑顔を浮かべるジジイは少し癪に触るが、それでも今の感情を整理できるのだとすれば、藁みたいな老体にも縋りたくなる気分だ
「……何だ?」
「まずはな、お前さんが一緒に住んでる奴を思い浮かべろ」
橘さんを頭の中に浮かべる。いつも通りの優しい笑顔を持って自分に愛を向けてくれる彼女
「次はな、その隣にお前さんを置け」
少し難しいが自分の姿を何とか投影する。すると、二人で手を繋いで楽しく話し合うイメージが直ぐにできて何だか嬉しくなって来た
「これで最後だ。お前さんを退かして、例の人から見て異性になる奴を代わりに置け」
(…俺を、退かして………男……っ!!)
その途端、凄まじい不快感が襲って来た。自分を側においている時よりも幸せそうな顔をした橘さんと男
それはまさに、以前見た結婚写真の様で
「さぁ、どう思った?正直に言いな」
「……最悪だよ、クソッタレが……」
すぐさま頭の中のイメージをかき消したが、忘れたいと思っていたあの写真を思い出したからか、それでも心に沈み込んだ不快感は残り続けた
「例の人は、幸せな顔をしていたか?」
「ああ、そうだよ…!だから最悪なんだよクソッタレがぁ……」
「…決まり、だな。お前さんのソレは、確かに恋愛感情だよ。全く、ちょっとは大人らしくなったかと思いきや妙にピュアな所は変わんねえな」
(………橘さんに、恋……)
先まではジジイのからかいにしか思えなかった言葉が、急に現実味を帯びていく様だった。この感情が恋なのだと、確かに納得できるのだ
「そう、か……恋、かぁ……」
そう自覚した途端、頰を熱いものが流れて行った。何故だか、それが恥ずかしい事に思えて何度も拭うが、それでも止まらない
「おい…どうしたよ、お前さん」
「…………」
(橘さんは、俺の事を子供みたいに扱ってくれるけど…)
("子ども"なんだよな。そう、望んじまったんだよな…)
「もう、無理なんだよ……恋だって分かっても、どうしようもねぇんだよ…」
「おいおい、待て待て…!こんな場所で…!」
周りに人がいるのに、ガキみたいに泣きじゃくってしまう。自分の浅ましい欲望と選択の結果が、こんなにも早く後悔になるだなんて思いもしなかった
「あぁ〜…クソッ。とりあえず、さっさとメシ食え!」
「だってよぉ…だってよぉ……」
今すぐにでもこの場から離れたかったが…間の悪い事に料理が来てしまった。
出された物を食べないのは、とても失礼な事だと何度も教えられた
それ故に、味はよく分からなかったが、とにかく料理を口の中に詰め込んでから逃げ出すように店を出て行った
「あれ…?もしかして"先輩"…!!」
「ほらさっさと上がれ…お前さん、何だってそんな泣くんだよ」
「………ジジイには分かんねぇよ。それに、言ってどうなるってんだ…」
ジジイに連れられて、泣きながらも何とかアパートの一室まで戻って来られた。メシを奢られている時に泣き出すという、とんでもない迷惑を掛けてしまっている事は分かっているのだが…しかし今は何もかも拒絶したい気分だ
「本当に、本当に勘弁してくれよ……せっかくお前さんを任せられる人が出来たと思ったのによぉ…」
もう何もかも諦めて今からでも橘さんの元に行きたい、そう思った時
「失礼します!後輩の"
「百合先輩の姿見かけたんで来ましたっ!!!先輩っ、久しぶりですっ!!」
「誰だテメェ!?」
「…え?」
懐かしい声と、ジジイの怒号が耳をつんざいた。突然の出来事に落ち込んでいた気持ちを思わず忘れてしまう
不良なら、一度は夢見る最強の座。
誰もが喧嘩に明け暮れ、しかし決まる事は無かった…
だが数年前、
その名は…百合 白子
だが、彼女は意図して最強になった訳ではない。寧ろ喧嘩さえ除けば、真っ当に学校生活を送っていたのである
それでも尚、最強だと認められた訳は…ただ、その強さ故である。
鉄パイプ、カミソリ、バット、バイク…一切不要!己の拳だけで凡ゆるツッパリ共を蹴散らした彼女は、その強さを持ちながらも喧嘩以外のワルを行わない優等生のまま最強と認められたのだ!!
そんな素晴らしい先輩に惹かれるのは不可抗力と言っても良い!
「ーという訳ですよ、お爺さん!」
「……お前さん、この山田って女はお前の知り合いなのか?」
「昔の舎弟の一人だ…すまねぇジジイ、悪い奴じゃあねぇんだよコイツは」
(あっ……やべえ、やらかした)
ただでさえ惹きつけられるのだというのに、1年ほど前から失踪していた先輩を見かけたとなれば、私の行動は仕方がない…そう思っていたが目の前で私の代わりに謝る先輩を見て流石に軽挙妄動が過ぎたと猛省する。
今すぐにでも土下座しようとして
「ここは俺が話すからさ、少しだけ待ってくれないか?」
「おう、何とかしてくれ」
(ん……?………え"っ!!"昔の"舎弟…!?)
先輩の信じられない言葉で、フリーズしてしまった
「あんがとな…さて山田、何で今になって俺の元に来たんだ?」
「な、何でって…そりゃあ、私は先輩の永遠の舎弟だからですよ!」
「……あ?」「……え?」
言葉どころか、先輩の私へと向ける目が明らかにおかしい。その目は、まるで赤の他人に向ける様な目であった。
昔の様な、私が何かをやらかしても消えなかった優しさを孕んだ目では無い
「永遠の舎弟?だってお前…」
「責めるつもりは、ねぇけど…俺を見限ったんだろ?」
「」
わたしは、だめかもしれない
昔の私は虐められっ子で、不登校だった。
そんな訳で成績はボロボロ、結果としてとんでもない不良校に通う事になってしまったのだ
こんな高校では絶対に虐められる、そう思いながらも僅かな希望を持って初登校をした日
普通に、カツアゲをくらった
カツアゲを食らって、色んな意味で自分の人生が終わったと確信したのだ……奇跡が起こるまでは
それは、一瞬だった。
弾丸の如き拳の風切り音がしたかと思えば、私の目の前にいた
『大丈夫か?』
思わず倒れそうになった私を支え、優しい言葉をかけて気遣ってくれた。この瞬間こそが先輩との初の出会いであり、同時に私が先輩の永遠の舎弟になった時でもあるのだ
それからも先輩には沢山助けられた。だから、いつしかこの恩を返すのだとずっと思って来た
しかし、先輩の側にずっといる事はできなかった。家の事情で敢えなく転校する事になったのだ。
もちろん嫌で嫌で仕方なかった。別れを告げる手紙を何枚も涙でダメにして、先輩の下駄箱に入れる直前に何回も握りつぶして書き直した
確かに先輩の舎弟と言っておきながら、全てを投げ捨てなかった事は裏切りかもしれない。けれども…先輩に恩を返すために高校は通わなければならなかった、あの手紙には如何に私が先輩を思っているかを書き綴った
「ーなのに、なのに…"私が見限った"、そう思われていたなんて…先輩!!私は、貴女を裏切る事なんて決してしませんよ!!」
「お、おう…わかったよ……すまねぇな、俺の勘違いだったみたいだ」
「〜!!先輩、信じてくれるんですね…!」
「ああ…想いを踏み躙る様な事言って、本当にごめんな」
「信じてくれるなら、
一縷の望みをかけて先輩への想いを告白し…結果、誤解を解いてくれた。
私の話を信じて、かつての様な生暖かい目線を向けてくれる先輩…今の気持ちは、感無量だとしか言いようがない
「お爺さん、この菓子美味いっす!」
「おうそうか…ほら、粗茶だが」
「ありがとうございますっ!あっつっ!!」
(人心掌握術というか、何というか…コイツは変わらねぇな)
急に乱入して来た舎弟。ソイツがいつの間にかジジイに客としてもてなされている所を見ていると…先までの騒ぎも合わさってか、不思議と沈んでいた気分がマシになって来た
「ーで、ソイツが恋の悩みを中々打ち明けてくれねぇんだよ」
「はぇ〜…先輩が恋を……」
「って、オイ!ジジイ何言ってんだコラ!」
舎弟の変わらぬ様子に懐かしさを感じながらも、突然ジジイにバラされた自身の事情。止めようとした時には既に遅く、舎弟に伝わっていた
「なるほど、なるほど…先輩!!」
「な、何だよ…」
しばらくの間、何かを考える真剣な顔をしたかと思えば、そのままの顔で急にこちらに近づいて来た。何をしだすか全く予想がつかず、僅かな緊張が走り始める
「この、私に、相談してみてください!!」
「あ?」
「これでも社会人デビューしたての大人ですから!」
何をするかと思えば、急に自信満々な顔で胸を張ってきた。明らかにデリケートな問題に対して、無遠慮に踏み込む舎弟に呆れすら通り越した感情が湧いてくるが
(もう、この際コイツでいいか…)
ポジティブ100%の舎弟によって、元々あったネガティブな気分も削がれ、何だか意地を張って言わない事が馬鹿馬鹿しくなって来てしまい…
「…わかったよ…話してやるよ」
いつの間にか、話し始めていた
まずは、幸せに満ちていた共同生活からだ。橘さんとの出会いに、服を買ってもらった時に名前で呼び合った思い出、そして酒と暴力が無い平穏
次は、私の失敗だ。橘さんから離れてダメになってしまった自分に、彼女の優しさへの強い欲求、そして子供として愛される事を選んだ浅ましい選択
最後に今の悩み。橘さんに一人の女として愛されたいという欲望と、"子供"としての扱いゆえにこの恋が叶わない事…
余り喋るつもりでは無かったのに一度開いた口は閉じる事なく、割れた水風船みたいに全ての言葉を出し切ってしまった。舎弟が最後まで真面目に聞いてくれた事、それだけが救いである
「これで、終わりだよ……分かっただろ?俺は子供としか思われてねぇんだ。だから、無理なんだ…!」
「「…………」」
「…いやぁ〜、何というか…お爺さん、私が言っていいっすか?」
「おう、言ってやれ」
「ウッス!…先輩良いですか、よく聞いて下さい」
「な、何だよ…」
話終わった後に顔を見合わせたかと思えば、何かを言いたさそうにしているジジイと舎弟。見た事がない程に真面目な顔をしている舎弟に、思わず気圧される
「失礼を承知で言いますね?」
「こんだけ
「なぁ〜にが、無理ですか!!ぜんっぜん脈アリっすよソレ!」
「夫と子供を亡くしたばかりの未亡人がそこまですんのは…間違いなく色恋ありますって!」
「同性愛とか関係ないレベルっすよ、マジで!」
「だ、だがなぁ…」
舎弟からマシンガンの如く放たれる、言葉の数々。その勢いから世辞でない事がわかり、伝わってくる揺るがない自信は真実であると私に信じさせるだけの説得力を持っていた。
しかれども
「俺…子供として見られてるじゃないか…」
「子供に恋する人なんて、いないだろ。まして、相手は元母親だぞ…?」
こればかりは変わらない事実であり、どうする事もできない難題だ。そう、思っていたのに
「それなら、簡単な話っすよ」
「先輩が、大人になれば良いだけなんですから」
舎弟は…いとも簡単そうに、そう言ってのけた
そんな舎弟の、謎の信頼と自信に満ちた声は…まるで、私の恋の成就が当然のものであると言っている様だった