まだ幼いがポテンシャルはとてもあるちょっと頭が残念な元気娘です
それではどうぞごゆっくり!
あの惨劇から、数ヶ月……
季節は巡り、集落にも穏やかな日々が流れていた。
紅丸が土地整地し、畑が広がり小麦は風に揺れ、子どもたちの笑い声が朝から夕方まで響いている。
簡素な小屋も少しずつ数を増やし、母親たちは畑を耕し、川で洗濯をし互いに助け合いながら暮らしていた。
「畑には貝殻を擦り潰したやつを蒔いておくと実りが良くなることがある。どうしたって手探りになるがやらないよりはマシだ」
失ったものは決して戻らない。
それでも、生きている者は前へ進まなければならない。
その中心には、ぶっきらぼうで、誰よりもよく働く一人の男がいた。町で購入したじゃがいもや人参、きゅうり、茄子などの苗を植えて育て収穫する。そしてリリムを起こしに行く。
「……朝だ」
それだけでリリムは布団から飛び起きる。
「はい!」
まだ日が昇りきる前、朝露の残る草原へ出ると紅丸はすでに腕を組んで待っていた。
「来たか、朝飯は軽く食ったか?」
「はい!とうもろこし美味しかったです!」
「なら良い、それならやるぞ…一息遅れりゃ死ぬからな」
その一言で空気が引き締まる。リリムは深く息を吸い、木刀を構えた。
修行が始まって数ヶ月
最初は構えも満足にできなかった少女は、今では一歩踏み込むだけでも地面を力強く蹴れるようになっていた。
「行きます!」
鋭い踏み込み、木刀が一直線に走る。
「甘ぇ」
コン、紅丸が持つ木の枝が、リリムの手首を軽く叩いた。木刀が宙を舞う。
「……っ!」
「武器を離した時点で諦めたら終わりだ。その次にどうするのか考えながら闘え」
リリムは悔しそうに木刀を拾う。
「もう一度!」
「来い」
何度も、何十回でも打ち込んでは弾かれ、転び、立ち上がる。紅丸は決して手加減しない
倒れれば受け身、立ち方、復帰の仕方を教え、踏み込みが甘ければ理由を説明する。
できなかったことが、少しずつできるようになる。その積み重ねだった。少し離れた場所では、リンや子どもたちが声援を送っている。
「お姉ちゃん頑張れ!」
「あとちょっと!」
「リリム姉様負けるな!」
その声に、リリムは笑顔で頷いた。
「まだまだ!」
再び駆ける、以前より速い、鋭い。紅丸の口元がわずかに緩む。
(飲み込みが早ぇ)
教えたことを翌日には形にする。失敗を恐れず挑み続ける。才能だけではない、努力を惜しまない。だから伸びる。
「悪くない…だが強くなってるからこそ…慢心はするな、あらゆることを想定し、調子にならないことだ」
その言葉でリリムは動きを止めた。
「……え?」
「リリムお前は最初より強くなってきた」
紅丸は正直に言う。
「だがな」
枝の先で地面へ線を描きながら
「戦場に何処までなんて線はねェ、ルールもねェ、始まりも終わりも誰も教えてくれねェ」
静かな声だった。だからこそ胸へ響く。
「強い奴ほど油断して死ぬ、勝ったと思った瞬間に後ろから刺され、仲間が助けてくれる保証もねぇ。だから気を抜くな…」
リリムは真っ直ぐ紅丸を見る。
「……気を抜かない…」
そうして紅丸の一挙一動を見逃さないようにリリムはする。約10分程であるが紅丸の何てことのない動作も警戒していたリリムは気付くと全身汗だらけであった。
「疲れるか?」
「は、はい…」
「そいつは命が懸かってねェからだ、緊張感そのものを感じてすぐのぼせちまう」
紅丸は自分の胸へ手を当てた。
「命を感じろ」
「命……?」
「俺が勝手に言っていることで勝手にそう呼んでる」
そう前置きして続ける。
「テメェの命」
胸を指す。
「仲間の命」
集落を見る。
「敵の命」
森の奥へ視線を向ける。
「全部意識しろ。そうすれば簡単にスキは生まれねェ」
リリムは眉を寄せた。
「難しいです」
「最初はな」
紅丸は一本の葉を摘み取り風が吹く。葉が舞う
その瞬間、ぱしっ。
空中で掴み取った。
「風が動けば葉が動く、葉が動けば鳥が飛ぶ、鳥が飛べば獣も警戒する、全部繋がってんだ」
リリムは目を見開いた。
「周りを見ろ、見るだけじゃねェ、感じろ…気配、音、匂い、空気、命…命を感じれば緊張感にのぼせ上がることはない」
その日から修行は変わった。目を閉じ、耳を澄ます。
風を感じる、草が擦れる音、虫の羽音、遠くで小鳥が飛び立つ音、川の流れる音
最初は何も分からなかった。だが数日が過ぎる頃には、小さな違いに気付けるようになる。
「右」
紅丸の声に反射的に身体をひねる。枝が頬の左をかすめた。紅丸は口では右と言ったものの左を攻撃していた。目を閉じていたリリムであったがそれを気配だけで躱した
「……見えてませんでした」
「見えなくていい」
紅丸は枝を肩へ担ぐ。
「感じたろ」
リリムは静かに頷いた、確かに空気が変わった瞬間があった。それで身体が先に動いた。
「それが命の呼吸だ」
「忘れるな」
「はい!」
返事にも力が宿る。紅丸は内心、小さく感心していた。
(この歳でここまで掴むか)
才能はある。だが、それ以上に心が折れない。そこが一番強い。
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その日の修行を終える頃には、夕日が川面を赤く染めていた。
「今日はここまでだ」
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げるリリム。
紅丸はぶっきらぼうに手を振る。
「腹減ったな…」
その一言にリリムが思わず笑う。
「今日のお夕飯は何ですか?」
「川見て決める」
「そんな適当なんですか?」
「案外何とかなる。リリムはいつも通りガキ共と鰹節を削っておけ、後は小麦を脱穀して貯めておいてくれ」
そう言いながら川沿いを歩いていく。流れは穏やかだった。ふと、水面に大きな影が躍る。
「……いた」
勢いよく跳ねた鮭を、紅丸は片手でひょいと掴み上げた。
「今日はこいつだな」
そのまま脂の乗った鮭を四匹、五匹とどんどん捕まえていく。更に川魚などもある程度取り終えて袋に詰め終わり肩へ担ぎ、戻ろうとした、その時だった。
ガサリ
茂みが揺れ紅丸は足を止めた。
「……腹減ってる匂いだな」
次の瞬間、黒い影が飛び出した。黒髪を振り乱した、小柄な獣人の少女。黒色の瞳だけが獲物を捉え、紅丸の持つ鮭の入った袋へ一直線に飛びかかる。
「肉ぅぅぅぅぅ!」
勢いは凄まじい。
だが。
「肉じゃねェ魚だ…慌てんな、ガキンチョ」
紅丸は半歩横へ動いただけで少女は空振りし、そのまま地面を何度も転がる。
それでも起き上がり、もう一度飛びかかる。
「食べるのです!」
並みの者であれば反応すら出来ないその突撃を
「落ち着け」
紅丸は正確に額に狙いを定めて指で軽く弾く。所謂デコピンだ。
バゴンッ!!
「ふぎゃっ!」
およそデコピンの音ではない威力でくるくると回転しながら尻もちをつく。襲撃してきた黒髪の獣人の少女は犬耳と大きな尻尾があるようだった。なおも立ち上がろうとしたが、足がふらついた。
ぐぅぅぅ……。
「がうぅぅぅぅ……………」
盛大に腹が鳴る。少女は鮭を見つめたまま、目をぐるぐるさせながら力尽きるように前へ倒れた。
「…………」
紅丸はしばらく無言だった。
「……腹減り過ぎか…ったくしかたねェ」
ため息を一つ。鮭を片手に抱え、もう片方の腕で少女を軽々と担ぎ上げる。ぶっきらぼうにぼやきながらも、その手つきは乱暴ではない。
「今日は飯が一人分増えたな」
夕焼けの道を、紅丸は鮭と見知らぬ黒髪の獣人の少女を担いで、新しい集落へと歩いていった。お腹が減って目を回していたその少女が、七陰第四席と呼ばれる存在であることを、この時紅丸は知らなかった
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夕暮れの空が藍色へと変わり始める頃
鮭を取り集落へ戻った紅丸の姿を見て、子どもたちが一斉に駆け寄ってきた。
「紅様、おかえり!!」
「今日は何が獲れたの?」
「おっきい魚!」
リンが匂いを嗅いで目を輝かせる。
「鮭だ!」
紅丸は肩に担いでいた鮭の入った袋を地面へ降ろす。その大きさに子どもたちから歓声が上がった。
「すごーい!」
「こんなの初めて見た!」
だが、紅丸の隣の肩でぐったりと担がれている黒髪の獣人の少女に気づき、皆が首を傾げる。
「……誰?」
「お友達?」
「寝てるの?」
「拾っただけだ」
ぶっきらぼうな声に、畑仕事を終えたリリンや母親たちが振り返る。
「紅様、お帰りなさい……って」
リリンは思わず目を丸くした。
紅丸の肩に、黒髪の小柄な獣人の少女が担がれていたのだ。
「えぇっ!?紅様また誰か助けてきたの!?」
紅丸は面倒そうに肩を竦める。
「川で腹減らして鮭に飛び掛かってきたが、腹減ってて力尽きた」
「……それだけだ」
「それだけじゃありませんよ!」
リリンは思わず苦笑する。
けれど、その表情はどこか柔らかかった。この数か月で分かっている。この人は不器用だ。ぶっきらぼうで口も悪い。でも困っている者を見捨てられない。だから今も、この見知らぬ少女を連れて帰ってきたのだ。
リリムも近寄り、不思議そうに少女を見つめた。歳は自分より少し幼いくらい。
黒く艶のある髪に、獣耳と尻尾。
痩せているわけではないが、空腹で力尽きたことは一目で分かる。紅丸は肩をすくめた。
リリンは少女の顔色を見る。
「この子……何日もまともに食べていないようですね」
「先に飯だ」
紅丸はそれ以上詮索しなかった。
事情を聞くより、まず腹を満たす。
それが今やるべきことだと分かっていた。
「リリム」
「はい!」
「鍋貸せ、飯作るぞ」
「すぐ用意します!」
リリムは慣れた手つきで鍋を火に掛ける。その姿を見て紅丸は小さく頷いた。
(最初は火起こしも危なっかしかったが……)
人は環境で変わる。リリムもまた、少しずつ逞しくなっていた。紅丸は鮭を手際よく捌き始める。子どもたちはその様子を興味津々で眺める。
「すごーい!」
「骨がきれい!」
「紅様、何でもできる!」
「何でもじゃねぇ」
そう言いながらも包丁は止まらない。
頭は出汁用、中骨も無駄にしない。身は切り分け、塩を振る。
「食いもんは粗末にすんな、命を貰って生きる。だったら最後まで使え」
子どもたちは真剣な顔で頷いた。リリムも、その言葉を胸へ刻む。
大鍋へたっぷりの湯が沸く。紅丸は鮭を手際よく捌いたものを鍋へいれていく。香ばしく炙り、野菜も鍋へ入れる。
「これも出汁ですか?」
リリムが興味深そうに覗き込む。
「ああ。野菜の持つ甘味も一緒に煮込む」
紅丸は昆布も加える。じっくり火に掛けると、鮭の旨味が少しずつ溶け出し、食欲をそそる香りが辺りへ広がった。
「いい匂い……」
母親たちのお腹まで鳴り始める。鮭の身は軽く焼き、ほぐして鍋へ戻す。そこへ畑で採れた野菜に火が通っているか確認し、小麦粉を練って作った麺を入れる。
温かな鮭うどん。集落の皆にとって、何よりのご馳走だった。
「できたぞ」
器へ盛り付け始めた、その時だった。
ぴくり。
黒髪の少女の耳が動く。次いで鼻がひくひくと震え始める。
「……魚…鮭の匂い…」
誰もが少女を見る。ぱちり、と紫色の瞳が開いた。次の瞬間。
「ごはぁぁぁん!!」
勢いよく飛び起き、そのまま鍋へ一直線、このままだと鍋をひっくり返し兼ねないが、そこは紅丸が素早く
「熱いぞ」
片手で首根っこを掴むことにより止めた
「むぎゃっ!」
空中でもがく少女。
それでも鼻だけは鍋へ向いていた。
「いい匂い!お腹減った!!食べたい!」
尻尾がぶんぶん振られている。紅丸は苦笑混じりにため息をつく。
「分かってる」
「今!」
「駄目だ。」
「なんで!」
「熱い」
紅丸が鍋を指差す。少女はようやく気付き、中を覗き込んだ。ぐつぐつと煮立つ味噌汁。
「……あ」
「火傷する」
「…………がうぅぅ」
しょんぼり耳が垂れてへにゃんと尻尾も元気を失う。その様子に子どもたちが思わず笑った。
「耳がへにゃってなった!」
「かわいい!」
少女はきょろきょろと辺りを見回す。
「ここ、どこ?」
「俺んとこの集落だ、ガキンチョ腹減って川で倒れてたの覚えてないか?」
「……そうだった?」
首を傾げる。本当に覚えていないらしい。
「ガキンチョ」
「ガキンチョ?」
「名前知らねェ」
「デルタ!」
元気よく胸を張る。
「デルタ!」
「そうか。」
紅丸は頷く。
「飯だ、熱いから気を付けて食え」
器を一つ差し出す。
「座って食え」
少女は目を輝かせた。
「いいの!?」
「食わねぇなら他のガキンチョに回す」
「食べる!!」
返事だけは誰よりも早かった。フォークで湯気も気にせず麺をすすり始める。
「はふっ……!あつっ!でもうまい!おいしい!」
夢中だった。
一心不乱に食べる。麺をすすり、鮭を頬張り、汁まで飲み干す。
「もう一杯!」
器を高く掲げる。紅丸は呆れたように笑う。
「早ぇな」
「腹減ってた!」
「見りゃ分かる」
二杯目、三杯目。
母親たちも目を丸くするほどの食べっぷりだった。あまりの食べっぷりに他の幼い子供たちもしっかり食べる。
ようやく落ち着いた頃には、少女は満足そうにお腹を撫でていた。
「生き返った!」
その言葉に、集落中から笑いが起こる。リリムは微笑みながら少女の前へ座り改めて自己紹介をする。
「私はリリム。」
「この子は弟のリン」
「あなたは?」
少女は胸を張る。
「デルタ!」
「紅様、この子も獣人ですね!」
リリムが嬉しそうに話しかける。
「うん!」
デルタは尻尾をぶんぶん振る。
「お前も獣人!」
「そうだよ!」
「仲間!」
それだけで距離が縮まる。子どもたちも集まってきた。
「耳触っていい?」
「尻尾ふわふわ!」
「一緒に遊ぼ!」
元気いっぱいの返事だった。
「うん!遊ぶ!」
その単純さに、皆も笑顔になる。鬼ごっこが始まり黒髪を揺らしながら野原を駆け回るデルタ。
子どもたちも負けじと追い掛ける。
「速い!」
「待ってー!」
リンまで笑いながら走っている。その光景を見つめるリリンは、静かに目元を拭った。
「こんな笑い声……久しぶりですね」
紅丸は焚き火へ薪をくべながら、小さく頷く。
「ガキは笑ってるくらいがちょうどいい」
「泣くのは大人だけで十分だ」
ぶっきらぼうな言葉だった。
だが、その声音には優しさが滲んでいた。
リリムはそんな紅丸の横顔を見て、小さく笑う。
(やっぱり紅様は優しい。)
本人はきっと否定するだろう。
それでも、この人は困っている者を放っておけない。だから今、自分たちはここで笑えている。宵闇の中、子どもたちの笑い声はいつまでも響いていた。
そして当のデルタはというと
「もっと遊ぶ!」
「次はかけっこ!」
「負けない!」
元気いっぱいに走り回っていた。ふとそういえば何か頼まれてた気がすると思い返すデルタ。
本来なら、とある人物から頼まれていた"大切な用事"があったはずなのだが。
温かい食事と遊びに夢中になったデルタの頭から、そのことは綺麗さっぱり抜け落ちていた。
黒髪の小さな獣人は、無邪気に笑い続けるのだった。この天真爛漫な少女が、暴君の異名を持ち「七陰第四席」と呼ばれるほどの力を秘めていることは、今はまだ誰も知るよしもないことであった。
あとがき
今回も読んで頂きありがとうございました!
紅丸との修行で命の呼吸を段々習得してきたリリム。メキメキ実力を伸ばして行く上で大事なことも学んでいきます。
そうして頑張ったリリムを労おうと川で川登りしてきた鮭を捕まえ戻ろうとしたところにお腹を空かせたデルタが飛びかかってきました。
しかし紅丸はすぐさま躱してデコピンしてデルタはお腹が減り過ぎてダウン。
仕方なく集落へ担いでいき金豹族の子どもたちはは他の獣人族の娘に興味津々。
そうして料理を作るとその匂いに惹かれて起き上がり目を覚ましたデルタにぶっきらぼうながらもご飯を食べさせる紅丸にデルタは懐きこれ以降も定期的に集落へ来てはベニ!と紅丸を呼び子どもたちの遊び相手になる予定のデルタでした。
いよいよ明日にホロライブとのコラボが始まります。
それと今考えているのは発火能力に開花する七陰メンバーについて。
確実に出そうと思っているのは現状だとベータ、リリム、イータは確定しており能力もある程度決めています。
他メンバーはイプシロンが候補ですかね。
もしこれだという能力があれば活動報告の方へ書き込んで頂けると幸いです。
そして評価、お気に入り登録、誤字報告ありがとうございます。
それでは今回も読んで頂きありがとうございました!