オレの希望的観測──歳が離れてるから許してもらえるかもしれない──が全てご破算になった。
まあ、近かろうが離れていようが結局許してもらえないだろうから変わりはないが。
……にしても、見た目通り十代なのだとすると異常でしかない。性別が? 年齢が? ……まあ、どちらも異常ではあるのだが、ここで一つおさらいをしておこう。
貴族の当主になる方法は基本的に二つだ。
一つは前当主が正式に認めて当主を引き継ぐ場合。
認める手段はそれぞれ違うが、大抵の場合は武勇や知略などが自分よりも秀でていると判断した時だろうか。
基本的にはコレが一般的だな。
もう一つは前当主が病気や事故、または戦で急逝した場合。
この場合は最も継承権が高い者が自動的に当主を引き継ぐことになっている。
……後者であれば分からなくもない。
男児に恵まれず、かつ能力の高い長女を当主にするパターンもあるにはあるっぽいからな。
しかし、公爵家、伯爵家の両家の当主が同時に死亡するパターンなど早々ないし、父上からもそのようなことは聞いていない。
つまりは恐らく後者の可能性は無いと言って良い。
だからこそ……前者であるならば──彼女たちが十代にして
コレは非常にマズイ。
何がマズイかって?
オレは竿役という変な能力を
多少、身体に依存した才能の良し悪しなどはあるが、今思考して行動してるのが"オレ"という存在である以上、ベースの考え方は前世の凡夫でしかない。
だからこそ、武勇でも知略でも若くして当主になった二人に劣っているオレがこの場を切り抜けることは非常に難しい。
……一先ず、当たり障りのない返答で切り抜けよう。
オレはそう方針を決めた。
「ふ~ん。ただの子どもにしては冷静ね。感情があまり無いだけかしら?」
「どうでしょう〜。反抗する気がないだけじゃないですかね?」
思考していたオレを他所に盛り上がる二人。
仲が悪いと聞いていたが、普段からずっといがみ合うような仲ではないらしい。……これは一度火が付けば止まらなくなるタイプか?
「えーと、サオエル? だっけ? アンタは何か言いたいこととか無いわけ?」
赤髪の女性──公爵家当主のメルト様がそう聞いてきた。
黒髪の女性──伯爵家当主のテロル様もオレを観察するようにジッと見つめている。その目線はまるで走り回る実験動物を見るようで、少々薄ら寒い気配だ。
それにしても急な無茶振りだな……何か言いたいことと言われても……。
この場合における"言いたいこと"とは、貴族社会において
……いや、十歳のオレにそんな期待をするか?
少々悩んだ後、オレは意を決して言った。
「そうですね……ご存知かと思いますが、未だ我が領は飢饉の影響で困窮しております。お二方におきましては、支援いただけると大変助かりますが……」
「へぇ、あのデブにそう言え、って言われたわけ?」
「いえ、父上は関係ありません。支援に関してはもう諦めていたようなので」
ギンッ! と睨みつけてくるメルト様にオレはビビって金玉がヒュンっ! となるのを表情に出さないよう答える。
……今明らかに機嫌悪くなったな……扱いが難しい。
「エムエルくんはわたくしたちに従順ですからね〜。一度断ったらもう一回言うことはないでしょう」
「どうだか。息子ならもしかして〜、とか考えてんじゃないのー? 浅ましい豚のやりそうなことだわ!」
「…………」
オレは拳をギュッと握りしめた。
バカなことをしないように。己を戒めるように。
……ふぅ、堪えろよオレ。
オレの脳内には父上をバカにされた怒りがあった。
今すぐヤツの胸ぐらを掴みそうなくらいに、オレは怒っていた。
だが、ここで怒りを現したって父上の名誉を回復するどころか立場を悪くする行為でしかない。
メルト様……いや、あのメスガキの罵倒を我慢するしかない。怒れば相手の思う壺だ。
「お二方は……どうして父上を邪険にするのでしょうか」
とはいえ父上の嫌われようは異常である。
オレは純粋な疑問です、と言わんばかりの表情で首を傾げながら聞いた。
「ぷっ……」
するとメスガキは何を言ってんだ、と言うように大口を開けて笑い始めた。
「あははっ!! あんな男のどこに好感を持てって言うわけ? 歳下の小娘にヘコヘコ頭下げて、媚を売って。かと言って本人に武勇も無ければ知略も無い! 得意なのは頭を下げるだけの小太りの豚!! もう一度言うわよ? どこに好感を持てる要素があるのよ! ふふっ」
「こらこらはしたないですよ、メルト。……まあ、そうですね。わたくしは別に嫌いというわけではないんですが……良い声で鳴きそうな
「そう、ですか」
オレは震える声で相槌を打った。
──コイツらはクズだ。クズでしかない。
でもそれは……日本人としての……地球に住んでいた人間としての価値観の話だ。
根本的に文化が違う。
貴族という礼節、武勇、知略を重んじる社会においては、彼女らが言うこともまた正しいのだ。ちなみに武勇と知略が優れている場合は礼節は省かれるものとする。
確かに父上は貴族としては下の下でしかない。
媚びへつらうくらいなら死ぬ──貴族としてはこの思考こそが尊いものだと思っている者がほとんどだ。オレとしてはどうかと思うが。
ましてやメスガキともう一人のドS女は上流貴族としての教育を受け、若くして当主となっている貴族of貴族。
そんな彼女たちが自分よりも圧倒的に歳上なのに、自分に擦り寄り媚を売っている父上を嫌うのは当然かもしれない。
だとしても──だとしても──!
「あんなクズに嫁いできた女もまた物好きよねぇ? 幾ら政略結婚だとしてもあの男だけは絶対に選ばないわよ! アッハッハ!!」
「まあ……ふふ、そうですわね。男として──
「────っ」
──オレはその言葉にプツッと、何かが切れた音がした。
それと同時に、ずっと耐えてきた感情のダムが決壊していく。
当然のように燃え盛るような激情が湧いた。
オレは目を伏せたまま声を震わせ言葉を紡いでいく。
「私は……幾ら自分をバカにされようが踏みつけにされようが、決して反抗しないと、そう決めていました。床を這いつくばろうと、貴女方の靴を舐めようと、全てはこの地位を守るため。そう思っていました」
「アンタの父親と一緒ね」
オレはメスガキを見あげる。
すると、彼女はどことなくナニカを期待するような目をしていた。同時に、ニヤニヤと気味の悪い笑顔を。
「父上が貴族として
「わたくしには貴方の父親の生き方が理解できませんね」
次にドS女を見上げる。
彼女の表情は常にニコニコとしていて窺い知ることができないが、父上をバカにしていることだけは分かる。
ふぅ、と息を吐く。
オレは二人を睨みつけると語気を強く言い放つ。
「ですが──家族をバカにされることで怒りを見せないほど、私は大人ではなかったようです」
「……っ!」
オレは怒りに任せてテーブルを叩き割る。
バキッ!! と激しい音を鳴らして真っ二つに割れるテーブルに、オレの後ろに控えていた彼女たちの護衛が剣を抜いた。
そして、目の前にいるメスガキとドS女は驚いたようにオレの姿を見ていた。
──あぁ、何やってんだよオレぇ……!!!!
心の中で情けない悲鳴を上げる。間違いなくオレは人生における悪手を今放ち続けている。理解している。当たり前のように理解はしているんだ。
でも、もうやっちゃったもんはしょうがないもんな。
開き直るしかない。
平穏無事に生きたい、と。
そう願っているのは本当の本当だ。
そのためなら媚びを売ることだって、床を舐めることだって厭わないと思っていた。それは今も変わらない。
だけど──オレは十年この異世界で過ごすうちに、正しく優しく接してくれる父親と母親のことが好きになっていたらしい。
それをバカにされてヘラヘラ笑っていられるほど、オレの心は大人じゃなかったみたいだ。
とはいえ、状況がマズイことには変わりない。
このまま護衛に斬られるしかないか?
しかし、剣を抜いた護衛を止めたのはメスガキだった。
どことなく焦っている気がするのは気のせいか……?
「待ちなさい。アタシたちなら平気よ。たとえこのガキが危害を加えようとしても傷一つ付けられないわ」
……そうだった。
貴族の当主になるには、当然武勇が必要だ。
若くして当主になったということは、それに値するだけの力があるに違いない。
それゆえの自信。
ニヤニヤするメスガキにオレは歯噛みした。
「ふ~ん、アンタやるじゃない。アタシたちに歯向かった勇気だけは敬意を表してあげるわよ」
「でも、オイタをした子にはお仕置きしないとですね〜?」
ドS女が立ち上がると、徐に拳に魔力を込め始めた。明らかにお仕置きじゃ済まない拳の構え方をしている。
……見た目と違ってこっちがパワータイプか……!!
マズイ、と一瞬構えたものの、手加減する気はあるようで、オレの固有能力《決して反抗できない力》であれば無傷で済む程度しか魔力が込められていない。
逆説的に言うのであれば、アレを食らって無傷ということはオレが何らかの固有能力を持っていることがバレてしまう。
しかも融通の利かないことに《決して反抗できない力》はパッシブ能力ゆえに力の調整はできるものの、防御力に関してはONOFFの調整のできない据え置きだ。わざと拳を食らう選択肢も取れないし、無様に一撃を食らうのも情けない。
ちなみに机は割るのは良いのか、って?
アレくらいは誰でも魔力を込めればできる。
くっ……何とかして状況を好転することはできないものか……!! 己の手札を探れ……!!
オレは今一度固有能力とされている竿役の能力を確認して精査していく。
《女体催眠》……論外!! 即座にバレる!!
《女体鑑定》……時間がない!!
──徐々にドS女が近づいてくる。
考えろ考えろ……考えれば考えるほど……為す術がないッ!!
オレはもう全てを諦めて目を瞑った。最悪の未来を見たくないがゆえに。
「それじゃあおやすみなさ──」
「────」
──しかしいつまでたっても衝撃が来ない。
「……?」
疑問を抱えながら恐る恐る目を開けると、そこにはメスガキとドS女が二人揃って
──こ、ここで《女体催眠》が暴発するのかよ!?!?
どうして!? とオレはパニックになった。
これならまだ素直に殴られた方がマシだ!!
よりにもよって一番最悪なことが起こってしまった。
なぜなら──、
「め、メルト様?」
「貴様お二方に何をしたァ!!!」
──護衛はしっかり催眠の対象外だったみたいだ。
オレの後ろにいるということは、二人の様子が丸わかりということ。
催眠中の様子は目が虚ろになる。それは誰から見ても違和感でしかない。状況証拠的にもオレが何かをしたことは確実だ。
この力だけはどんなことがあってもバレてはいけない……!
人を意のままに操ることのできる能力なんて危険視されて処刑されるか、傀儡のようにあくどいことに使われるか……未来はどちらも最悪でしかない。
人を傷つけるくらいならオレがまだ死んだほうがマシだが、生憎とオレは二度と死を味わいたくなどない。
何か誤魔化す方法は……護衛にバレずに催眠を違和感無く解く方法は──そんなのあるわけ──!!!
「……ッ!」
オレはふと、
今必要なのはこの状況を吹き飛ばすだけのインパクトと、催眠にかかった二人に命令をすることで催眠を解くこと。
普通なら不可能だ。護衛に怪しまれているこの状況でそんなことは不可能だ。
──いや、ある。一つだけあるのだ。
バカバカしいけれど一掴みの奇跡を手繰り寄せることのできるとっておきの能力が……!
「落ち着いてください」
オレは声に《女体催眠》を乗せ、催眠中の二人を操る。
そして、
「【お二方は私の
オレは自身の
そして、命令を完遂したということで2人にかかっていた《女体催眠》が解除される。
「なっ……!?」
「えっ……!?」
同時に、催眠の解けた二人がオレの下半身を見て驚愕とともに頬を染めた。
護衛もまた、回り込んで前からオレを見ると、下半身の
そう、オレの下半身は──ズボンを突き破るほど大きい──大蛇のようなチ◯ポが顕現していた。
《女体催眠》で催眠中の者に命令をする場合、必ず発声が必要となります。
そして催眠状態を解きたい場合、声に命令を解くという意思を込めることで催眠を解くことができます。
ちなみにガチクズなメスガキとドS女ですが、こう振る舞ったのにはとある意図が存在します。
とはいえクズっちゃクズなので分からせはしますけどね。
それにしても何でチ◯ポが大きくなったんですかね。