歴戦のハーメルン読者なら前話みたいな展開も飄々と受け流すやろ! って思ったら想像の1000倍ドン引きされてて草
今話はちょい真面目な話とネタバラシ!
Side メルト・マラスキ
貴族とは何か。
アタシは昔から父にソレを考えろと言われていた。
貴族らしさとは。貴族であるためには何をすれば良いのか。
武勇? 知略? 他者をねじ伏せる圧倒的な実力とカリスマ? アタシも最初はそう思っていた。
けれど父は悲しげな表情で首を横に振るのみ。
固有能力【
だからアタシは必死に考えた。
必死に考えて考えて、研鑽を積んで勉強をして──そこに並び立つ者が誰もいなくなった時、真に理解することができた。
貴族にとっては必要なことは──誇りだ。
武勇でも知略でもない。
ソレはあくまで当主の土台となる素質であって、後天的に持ち得るものではない。
貴族としての誇りを持ち、責任を持って領地を経営する。
されど
頭を下げる時があるならば、それは他者の誇りを踏みつけにしてしまった時。
己の利益のために媚びを売るならば死ぬほうがマシ。
そんな考えを叩きつけた15歳の時、気づけばアタシは父に認められて当主の座に就いていた。
──公爵家当主。
その地位は重い。領民の命を預かる責任も。
更には、周辺の貴族からは「固有能力を持ち得ない無能が当主になった」と口さがない噂をされることもあった。
そんな噂をする貴族は片っ端から実力で片付けてきたものの、やはり固有能力を持ち得ないというのはコンプレックスとして心の奥底に存在していた。
──同じ境遇のテロルも、時を同じくして当主と認められていた。彼女の当主として認められる条件は『他者を豚にする方法』だったらしい。よく分からない。
さて、そんなアタシが一番嫌いな人物は誰か。
そう、己のために媚を売り、貴族としての誇りを汚す輩である。
☆☆☆
いらない貴族。いらない領地。
アタシの隣に位置しているルナティック領は今やそう言われていた。
遥か昔、武勲を打ち立てて貴族として召し上げられたルナティック家は、当初は英雄の家系として貴族に熱烈な歓迎を受けた。
領地は小さいものの、アタシのマラスキ家とテロルのデカルマ家とも関係は良好で、爵位は違えど対等に接していたらしい。
しかし、今やルナティック家は新たに武勲を打ち立てることもなければ、国の発展に力を貸すこともない。
問題を起こすことは無かったが、褒められることも何もない。貴族として何もしていない状態だ。
だからこそ、最近はルナティック家を取り潰して伯爵家か公爵家に吸収合併すべきだ、という意見が多く出ていた。
それを止めていたのがアタシとテロルだ。
本当はアタシもあんな家取り潰してしまえとも思うし、現当主のエムエル・ルナティックは常にヘラヘラとアタシたちの顔色を伺って、媚びを売ることしかしない──アタシの一番嫌いな人種だ。
それでも遥か昔、ルナティック家にウチが助けられたことをアタシは歴史として知っている。
簡単に見捨ててしまうことは貴族として恥であるとアタシは思っていた。
それでも──、
「へ、へへへ、メルト様におかれましては今日もお美しく……あ、あのぉ……領地への支援を……ですね、へへ」
「……アタシが支援をするとして、アンタは何をマラスキ家にもたらしてくれるわけ? その支援に利はあるの?」
「え、えーと……その、私にできることは何でもしますよぉ」
「そのセリフが飛び出してる時点で、アンタにできることなんて何も無いわよ。却下」
──こんなにも無能だとはアタシも思っていなかった!!
無能でも良い。それでも貴族としての誇りを持ってさえいれば、アタシだってこんにに嫌いになることはなかったのよ。
なのに彼は反骨心も無く、向上心も無い。
得意なことは媚びを売ることと、土下座の姿勢。
どこに好きになる要素があるのかしら?
……まあ、そうね。
唯一挙げるなら、家族への愛情は人一倍強いことかしら。
この年代の男なら、アタシに対して下卑た視線を浴びせることだって多いのに、エムエル・ルナティックという男は媚びを売ることはあっても、決してアタシのことを女として見なかった。
多分、お美しいなんて言葉も適当に放ってるだけで本当に思ってるわけじゃないんじゃないかしら?
それだけはアタシが唯一認められること。
マイナス点が多すぎてプラスになりはしないけれど。
まあ、そんな無能に頭を悩ませることしばらくして。
エムエル・ルナティックとテロル、そしてアタシの定期会議みたいなことをした時のこと、ヤツが急に言った。
「そ、そのぉ……わ、私の息子も十歳になりましたし、そろそろお二方と顔合わせをしたいなぁ……と思いましてぇ……」
「わたくしは構いませんよ」
「そうね。構わないわ。日程については追って伝えるから」
あんまりヤツと喋りたくないアタシは速攻で会話を打ち切りつつ、テロルに会議が終わっても少し待つように目配せをした。
理解したテロルはアタシに向かって軽くウィンクをする。うざいわね……。
会議が終わり、ヤツが部屋を出るのを確認したアタシたちはため息を吐きながら話し始めた。
「エムエルくんの息子ですかぁ。もう育った豚さんは勘弁して欲しいのですがねぇ」
「アンタの性癖はどうでも良いのよ。アタシが見極めたいのは、ヤツの息子が貴族としての誇りを持っているかどうかよ」
テロルはどうも最初から豚になっている人材は求めていないらしく、エムエルのことは良い玩具だと言っているが趣味ではないらしい。
そんなのどうでもいいけれど。
「また誇りですかぁ? メルトは好きですねぇ。まあ、言わんとしてることは分かりますが、今時貴族は貴族であるための誇りを持つべき、なんて古いと思いますよー?」
「……別に、そこまでカッチリしたのは求めてないわよ。ただ、媚を売ってヘラヘラする無能が嫌いなだけ」
「そこは同意です〜」
生意気になれ、とか反逆しろ、というわけではない。
あくまで下手に出すぎるな、ということだ。
「血は争えない。……まあ、その言葉が本当なら英雄の子孫は皆英雄になるわけだけれど……あの豚に育てられた人間が誇りを持つことはあるのかしら?」
「人間の性格は周辺の環境が影響すると言いますしね〜。わたくしたちに逆らわないよう教育しているのならば──結局のところは変わらないでしょう。まるで養豚場ですわね〜?」
アタシたちはそんな判断を下した。
……テロル、アタシはそこまで酷いことは言ってない。
「……アタシ、ルナティック家を取り潰そうと思ってる」
「……っ、本当ですの?」
アタシの言葉にテロルは目を見開く。
あれこれエムエルに酷いことを言っているテロルも、家を取り潰そうとまでは思っていなかったらしい。
「先祖が受けた恩はもう返しているわ。何もしていない貴族を放置できるほど、王国の人材に余裕は無いの。幸いルナティック領は農地としては優秀だし、取り潰した後はアタシが支配する」
「……そうですね〜。貴族に後退は許されない。常に何かしらの実績を立てなければ、貴族としては死んでいく。常識ですものねー?」
少し思案したテロルはアタシの考えに同意した。
別に実績というのは、ドラゴンを討伐しろ……だとか世界規模の救世主になれ……とかそんな大それたものじゃなくてもいい。
それこそ農地改革で収穫量が1.1倍に増えた、とか。
領民がAランク冒険者として活躍してる、とか。
そういった事柄も実績になり得る。
だからこそ、本当に何もしていないルナティック家が取り潰しの対象になるわけだ。
「ただ……幾ら何でも有無を言わさずに取り潰すほどアタシは非情じゃないわ。だから……試験をしましょう」
「試験? 今さらエムエルくんに何を言っても無駄だと思いますけどね〜」
「当たり前よ。試すのは息子のほう。アイツの息子が貴族たり得ると判断できたら、ルナティック家に未来はあるとして取り潰しは延期の方向性で考える。もしも息子がエムエルと同様にヘコヘコと媚びを売るようであれば──さよならね」
「……っ!」
アタシの目を見たテロルは微かに身動ぎをした。
どうやら自分でも自覚できるくらい冷たい目をしてしまったらしい。
「それで……どうやって試すのですかぁ? 貴族たり得るって判断するのも結局は主観ですよねー?」
「そうね……ここはエムエルの家族愛に則って、父親……つまりはエムエルをバカにするのよ、こっ酷くね。それでアタシたちに反抗の姿勢を見せたら、素質あり、としましょう」
「うーん、悪口は得意ではないんですけどねー?」
「どの口が言うのよ……」
「上の口ですよー?」
「やかましいわよ」
稚拙な試験と思うでしょう?
でも、現にエムエルは息子をバカにされようが妻をバカにされようが一片も怒ることをしなかった。……いえ、内心で怒っていたとしても、
人間としては良い心掛けかもしれないけれど、貴族の当主としては0点でしかない。
「……期待、しているわよ」
一縷の希望を携えて、アタシはまだ見ぬヤツの息子に想いを馳せた。
☆☆☆
「め、メルト様? どうかされましたか……?」
「ひっ……な、なんでもないわよ……【
「い、威力過多ですメルト様ァァァ!!!」
ど、どうしてなのよ……!!!
父上の持つ【
現国王の持つ【英雄王の覇気】??
あれほど恐ろしく、素晴らしい固有能力なんて目じゃない。
サオエル・ルナティックの【ヴォイドルート】という固有能力は、まさしく凶器でしかなかった。
「くっ……」
数日経った今でも毎晩夢に出て魘される。
今まで
「覚えてなさいよ……サオエル・ルナティックぅ……」
どうしてサオエルは許されたのか、またもう一人のカスはどうしたのか。
次話と次次話をお楽しみに。
カス度比較
テロル>>>>>>>超えられない壁>>>メルト>>>>>>サオエル