ANPAN   作:空きれい

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第2話:二人のヒーロー

重い防爆扉が、鈍い音を立てて開く。

アンパンは、地下に広がる隠れ家――ジャムのラボへと帰還した。

ガコン、と音を立てて膝をつく。

彼の視界の端では、絶えず赤いエラーコードが明滅していた。関節部からは火花が散り、オイルが焼ける焦げ臭い匂いが漂う。

「また顔を汚してきたか」

穏やかだが、芯のある声が彼を迎えた。

ラボの主、ジャムだ。

彼はアンパンのずぶ濡れのフードをそっと外し、その頭部ユニットに刻まれた新たな傷に眉をひそめる。

「その傷は、お前がまだ心を閉じている証だ。忘れるな、アンパン。お前は彼らの最後の希望なのだ。分け与えることを…」

ジャムは、性能も安定性も格段に上の新しいユニットへの換装を、いつものように諭す。設計図がホログラムで宙に浮かんだ。

カシャン!

アンパンは、ジャムの言葉を遮るように、手にしていた工具を床に投げ捨てた。

「希望は運べん。重すぎて、商売にならん」

彼は背を向けたまま、無言で自己修理を始める。

火花の散る腕で、器用に配線を繋ぎ直していく。

その姿は、まるで自らの傷口を誰にも見せまいとする、手負いの獣のようだった。

「それに、空にはもっと立派で、ピカピカの”ヒーロー”がいる。俺の出る幕じゃない」

アンパンが吐き捨てるように言った、その時だった。

ラボのメインモニターが、眩い光と共に起動した。

壁の内側《カミサリー》から発信される、公式のプロパガンダ映像だ。

『市民にクリーンな明日を!』

高らかに響くキャッチコピー。

映し出されたのは、大規模な空気清浄システム「ウォール・ヘブン」によって生み出された、偽りの青空。

その空を、一機の純白の戦闘攻撃機が滑るように飛んでいく。

パナ・コープが誇る最新鋭ステルス機「ホワイトリリィ」。

そして、そのコクピットで完璧な笑みを浮かべる男こそ、都市国家カミサリーの公式ヒーロー、しょくぱんまんだった。

彼は、清潔な培養食をパンの形に成形したものを、次々と投下していく。

眼下に広がるのは、整備された公園。

着飾った市民たちが、飢えも渇きも知らぬ顔で熱狂的に手を振り、彼の名を讃えている。

「しょくぱんまん様ー!」

「我々のヒーロー!」

その完璧すぎる光景。

秩序と管理が行き届いた、偽りの楽園。

アンパンは、オイルの染みた布で自らの顔を拭いながら、その映像を睨みつけていた。

口元に浮かんだのは、皮肉な笑み。

だが、その瞳の奥には、打ち消すことのできない、暗く澱んだ光が宿っていた。

憧れと、嫉妬。

そして、自分は決して彼のようにはなれないという、深い絶望。

モニターの中の完璧なヒーローは、スラムに生きる人々の悲鳴など、決して耳にすることはない。

 




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