例えば子供の頃、ドッジボールをやっているとなんとなく自分へとボールが投げられるという感覚を感じたり。
なんかイヤな予感がするとか。
そんな虫の知らせみたいな経験はあるだろうか?
小学低学年の頃から親がダビングしていた1stガンダムを観て、そしてプレステは父親が買った逆襲のシャアをやり、SEEDリアルタイム世代で、スパロボやGジェネを通して他のガンダム作品を知り、中学生に上がると0083の超作画に魅了された結果、なるべくしてひとりのガノタが爆誕する。
そんな虫の知らせみたいなものを、自分はニュータイプだ!
という感じにその感覚を研ぎ澄ませる為に取り敢えず座禅を組んで心を空っぽにしてみたり、縦シューや横シュー、ロボゲーをやり込みニュータイプ的な感覚を育てようと試みた。
戦場の絆もハマって頭の中のガノタ脳がフル回転して筐体の中で口に出さなくて良いのに勝手に言葉が富野節で溢れるとか、作中の描写はマジなんだと改めて思ったり。
とはいえニュータイプなんて実際に居るわけがない。
ただ他人よりなんとなくカンが良くて察しの良い人間止まり。
それでもガノタ的にはニュータイプっぽくて満足なのだ。
あまりにニュータイプになりたくて、「そらが、空が落ちる!」って寝言をかましていたと母さんに言われたりもした。
ただカンが良くて察しが良いと世の中を渡り歩くのにはそれなりに便利だ。
カンが良ければ危機を回避できる。
察しが良ければ他人に気に入られる。
ニュータイプになりたいという大分イタくてスピリチュアルな目標を持っていたからだろうか、霊感という程ではないが、他人の放つ悪しきオーラ、マイナス思念、負の感情、そういうのに当てられると気持ち悪くなる。
だから時折見る夢も自分のガノタ脳の見せる単なる夢としか思わなかった。
それこそνガンダムがアクシズを押し返すアクシズショックや、ネオ・ジオングのサイコシャードの見せた刻の時間旅行。
それも毎回毎回、ただの夢だと思っていた。
その夢を見た時はとても心が安らいだ。
温かくて、優しくて、まるで母親に抱き締められる様な、そんな感覚。
寝起きはスッキリなのに、何故か勝手に涙が溢れ出て行った。
ガノタとして20年待った悲願の映画化。
シン・エヴァでの卒業式に参列する感覚。
長年の恋人にさよならを言われたような、青春の終わりを告げられたあの感覚をもう一度感じるのだろうと。
そう思っていたのになんと、葬式に行ったつもりがテーマパークで楽しい思いをしてまた脳をこんがり焼かれてスタンディングオベーション!
3年待ったデラーズ・フリートの約7倍、一年戦争終結後、ダカールやトリントンを襲ったジオン残党でも16年、それよりもちょこっと長く待った甲斐のあった映画だった。
そうして脳を舞い降りる剣以来再びこんがり焼かれてしまったガノタは、新時代のパラレル宇宙世紀を観ることで大爆笑しながら本放送を楽しみにしていたある日の事。
近所のコンビニに買い物に行った時、猛烈にイヤな予感がして気づいた時には近くに居た立ち読みしている子供を蹴り飛ばすと、けたたましい音と共に自分の身体はガラスを突き破ってきたプリウスミサイルと商品棚でサンドイッチになり、これがシロッコのスイカバーかとどうでも良い事を頭に過ぎらせながら意識を落とした。
そして目が覚めてみると、自分はMSのコックピットの中に居た。
コックピットのインターフェースからグリプス戦役時のティターンズやアクシズ系のMSに使われていたあの緑なリニアシートだと瞬時に理解する。
そして目の前に広がるのは破壊されたジムⅡの残骸達。
なんだコレ?
『応答せよ、アイン・ムラサメ! クソッ、サイコミュの暴走だと!? ゼロ・ムラサメ! 構わん、サイコガンダムを破壊してでも止めろ!これ以上暴れられては研究所が壊滅する!』
物凄く物騒な通信が聞こえる。
アイン・ムラサメ?
そんなムラサメ研究所の被験体なんて知らない。
しかしゼロ・ムラサメは知っている。
ギレンの野望に登場するムラサメ研究所の最初の強化人間。
ムラサメ研究所の非人道的な研究を疑問に思い、普通の人間に戻る為に研究所を破壊し、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機やサイコガンダムをかっぱらってジオンに亡命する。
今の通信からして、自分はサイコガンダムに乗っているのか?
──────!!!!
「ぐぅ、っっ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ」
頭の中に光が迸る様な感覚の後、頭がかち割れ、脳髄を手で乱暴にかき混ぜられる様な激痛と吐き気が襲い掛ってくる。
そしてそんな激痛と吐き気に対する怒りがコントロール出来ずに自分の中で勝手に爆発して行く。
自分の手が勝手に操縦桿を掴みそうになるのを抑え込む。
思考も本能も、すべてを壊せと騒いでいる。
それを理性で抑え込む。
荒ぶる本能を理性で抑えるからこそ人間だ。
ニュータイプはそれこそその先に存在する、人を超え刻すら超える存在だ。
ワケのわからない怒りや本能に屈していては、ニュータイプになるなんて夢のまた夢。
『聞こえるかアイン! 聞こえるのなら返事をしろ!』
素敵なグリリバヴォイスの通信が耳に届きながら、新たに現れたのはティターンズ仕様の黒いガンダムMk-Ⅱだ。
いや、細部が異なっている。
あれはガンダムMk-Ⅱ試作0号機だ。
「僕は──」
頭を抑えつけられる様な重み、締め付けられるような鈍痛。
それを振り払う様に声を張り上げた。
「僕がニュータイプだッ!」
頭の中に迸る稲妻が駆け抜け、ざわつく心とざらつく本能を強固な理性で捻じ伏せる。
黒くてモヤモヤしたもの。
それは人の負念、悪しきオーラ。
それを振り払えば目の前が光に包まれた。
真っ白な光の中で海が見えた。
その海は割れ、煌めく星々の光が見えた。
そして、アクシズを押し返そうとするνガンダム。
その胸のコックピットから放たれた蒼い光と虹。
その光の奔流に乗って意識は、炎に包まれア・バオア・クーに沈むホワイトベース。
ソーラ・レイに焼かれるグレート・デギンと連邦軍艦隊。
目にも留まらぬ速さで交差するビットとエルメスにガンダム、コア・ブースターと赤いゲルググ。
ソロモンでメガ粒子砲を周囲に放つビグ・ザムへコア・ブースターが特攻し、ビームサーベルを突き立てるガンダム。
シドニーに落ちるコロニー。
爆散する首相官邸ラプラス。
それらを見届けて、真っ暗な闇に落ちた。
光なく、時間さえも動きを止めた虚無。
宇宙の終焉。
それを知るのがニュータイプ。
行き着く未来を知るのなら人類に過分な期待を持たせるべきではない。
それでも、人の心の温かさは宇宙を覆って新しい宇宙へと生まれ変わる。
たとえどんなに辛くても歩み続ける。
苦しくても。
掴み取れる光を信じて──。
◇◇◇◇◇
結果として僕は乗っていたプロトタイプ・サイコガンダムから救助された。
気を失って、機体の暴走もサイコミュの暴走という事で決着した。
それはサイコミュのログにも明らかに異常を示すデータが記録されていたからだ。
だから特にお咎めもなかった。
バイタルデータも機体を起動させ、サイコミュが暴走してから異常を検知し一度途切れていた。
つまりその時点で僕は一度死んでいたということになる。
あちらでおそらく死んだだろう僕の意識が、こちらで死んだ僕と結び付いたとでもいうのか。
とはいえもちろん前世は普通の日本人だった自分。
こちらでは少々肌が白い上身体も細く、前世とは天と地の差もある金髪碧眼の美人になっていた。
鏡を見て女子校の王子様になれるボーイッシュな美少女にでもなったかと驚いたものの、股座にある親しんだ感覚から美少年であると判る。
宇宙世紀で金髪碧眼の貴公子とか洒落にならない符号過ぎる。
せめて火消しの風のお兄様にして欲しい。
しかし声も高い為に少年とするには些か首を傾げそうになった。
僕についてはサイコミュの暴走時に過去の記憶が吹き飛んだ事にしている。
事実として僕はこちらの僕の記憶をまったく閲覧出来ない。
つまり以前はどんな人物で人格だったのかもまるで不明。
ならば都合の良い事にお誂え向きな厄介事を起こしたサイコミュにすべてを放り投げた。
以前の僕を知るだろうゼロ・ムラサメには少し驚かれた。
聞くところによればまったく話さず、自我を持っているのかも曖昧、ただ言われたことをやるだけの人形の様な人物だった様だ。
そうなれば普通に話す僕は彼からすれば最早別人に見えただろう。
研究員達は今の僕の方が察して動くから却って面倒が減って有り難い様だ。
今は宇宙世紀0087年2月らしい。
プロトタイプ・サイコガンダムは基礎フレームにガンダムMk-Ⅱを使い、ゴテゴテと改造を施した機体だ。
そもそのガンダムMk-Ⅱも先月1月中旬に完成したばかり、それでエゥーゴがグリーン・ノアにガンダムMk-Ⅱを奪取しに来るのは3月初旬。
来月にはZガンダムの物語が始まるというのに、これからあのサイコガンダムが完成するというのはかなり急ピッチのスケジュールになるのではないだろうか。
サイコガンダム──。
サイコマシーンという人を不幸にする機械という意味では恐らく元祖の機体。
とはいえ、ガンダムである事に変わりはない。
力はただ力でしかない。
それを扱う人間の意志で正しき力か悪しき力かになる。
ユニコーンもサイコマシーンではあるが、それでもバナージが正しき力として振るい続けた事でコロニーレーザーをも防ぐ力を発揮する片割れとなった。
悪目立ちするのが大型機であるのもあるが、サイコミュを搭載する機体はいずれもサイコマシーンと定義して良いだろう。
何が言いたいのかと言えば、たとえサイコガンダムであっても“ガンダム”ならば人を救ってみせる存在にやってみせる事もなんとでもなるハズだ。
目指すのは悪魔のガンダムの
僕がサイコガンダムに拘るのは、僕の乗ったプロトタイプ・サイコガンダムが実質的に僕の専用機となったからだ。
僕が乗ったプロトタイプ・サイコガンダムに搭載されたサイコミュが僕以外の脳波を受け付けなくなった。
その所為で一悶着が起こった。
「返せ! 返せよ、ボクのサイコガンダム!!」
病的な白い肌に色の抜けた白髪、人の事は言えないものの栄養が足りているのかと思う程に身体の細い彼の名はドゥー・ムラサメ。
ドゥーがフランス語で“2”を指す言葉であるのは知っている。
アン、ドゥ、トロワってあるから。
トロワならバートンさん家であるから偶々知っていた。
つまりゼロ、僕ことアイン、次にドゥーの2人目のムラサメ研の強化人間。
そんなキャラ、僕は知らないんだが。
そして暗示か洗脳か何かなのか、自分をサイコガンダムの『心臓』と定義し、自分から強化人間となった事で己こそ人類から進化したニュータイプだと言う。
そもそもミノフスキー粒子の匂いってなんなんだ?
ミノフスキー粒子に匂いなんてあるのだろうか?
サイコガンダムというか、プロトタイプ・サイコガンダムだって今月組み上がったばかりで、今はどの被験体が相性が良いのかの実証評価試験中だというのに自分をサイコガンダムの『心臓』だと定義するのは普通じゃない。
フォウが無くした記憶の拠り所としてサイコガンダムに拘った様に、それがドゥーがサイコガンダムに拘る理由なのだと思うと反吐が出そうだ。
そうして人を戦う為のマシーンにするというのか。
ニュータイプは殺し合う為の道具ではないというのに。
話を戻すが、今現状サイコガンダムはプロトタイプ・サイコガンダム1機のみ。
そしてムラサメ研の被験体で乗り回してデータを取ろうとした所にサイコミュに生体ロックを掛けてしまったようなものだ。
ゼロはサイコガンダムが肌に合わないという事で表沙汰になると面倒だろうガンダムMk-Ⅱ試作0号機のパイロットに落ち着いた。
だから後は僕とドゥー、そして3人目のサード・ムラサメ、そして皆が良く知るフォウ・ムラサメでローテションで乗り回しの予定が、サードもフォウもサイコガンダムを起動出来ず、試しにゼロが乗ってみても反応無し。
そして今日はムラサメ研で初めてサイコガンダムに乗ったドゥーの出番だった。
それでも沈黙を守ったサイコガンダム。
僕が改めて乗ると起動した。
まだ試作1号機が組み上がったばかりで予備パーツはあるはずもなく、サイコミュのデータを一度クリーンアップを掛けても僕以外にサイコミュを起動出来ないとなると、ユニットごとの交換という物理的手段に出るしかない。
但しその交換の為のサイコミュも当然今はあるわけがない為、次のサイコミュか機体を用意するまでは実質的に僕にしか乗れないサイコガンダムとなった。
何度も挑戦するドゥーを見ていると居た堪れなくなる。
そしていよいよフラストレーションが爆発したドゥーが僕へ詰め寄って来たのだ。
それまで僕にサイコガンダムを取られたと顔を背けて無視をしていたドゥー。
しかしいよいよ何をしても動かないサイコガンダムに、その元凶となった僕に対して物申すのも無理はない。
襟に掴み掛かってきたドゥーの手を掴んだ時だった。
目の前が光に包まれた。
光の中に海が現れ、その海が割れると星々が煌めきを放ち、そして蒼い虹色の光がすべてを包み込んでいく。
「あれは──」
僕が見たのは何処かのコロニーの中。
暗いということは夜だということ。
しかしそこにはビルに登ろうとする異形の人型が居た。
「バカな……ブラウ・ブロだぞ…」
その異形の人型が左手の指からビームを放とうとした瞬間、その左腕をもぎ取ったビームを放ったのはブラウ・ブロだった。
体勢を崩して落ちる異形の機体。
傍に居るハンブラビがビームを放つが、それを大型MAとは思えない運動性で避け、オールレンジ攻撃による牽制から頭上に滑り込み本体に直結したメガ粒子砲で撃墜した。
そして異形の人型が残った右手の五指とその胸部からビームを滅多撃ちに放つと、周囲に旋回して浮かんでいた装甲板の様な物がビームを跳ね返して軌道を変える。
「サイコガンダムMk-Ⅱだと…!?」
だがあんな筋肉標本みたいなサイコガンダムMk-Ⅱなんて見たことも聞いたこともない。
そしてブラウ・ブロは有線式メガ粒子砲2基を先行させ、撃ち放ったビームは一塊になった装甲板を破壊し、そして後から射出した2基の有線式メガ粒子砲はその爆炎に紛れてサイコガンダムMk-Ⅱの前後を挟み撃つ。
ああも近ければIフィールドも意味を成さない。
「後ろにも目をつけろドゥー!」
気づけば叫んでいた。
僕は今、サイコガンダムMk-Ⅱへ向けてドゥーと言った。
ならあのサイコガンダムMk-Ⅱのパイロットはドゥーだ。
「アイン! アイン!!」
「はっ!?」
僕は素敵なグリリバヴォイスによってハッと意識を戻した。
「今の、ゼロは見ましたか?」
「見るって、何を?」
どうやらゼロには見えなかった様だ。
「ねぇ、あのキラキラは何?」
そして目の前で力なく僕の襟を掴みながらこちらを見上げるドゥーは惚けながら呟いた。
「あのキラキラは…? 白いガンダムからバーって広がったキラキラは!?」
僕が見た様に、ドゥーも何かを見たらしい。
キラキラと言うのがなんなのかはわからない。
でも語感からすると光くらいしか思い至らない。
そして白いガンダムから放たれた光とあっては──。
僕はニュータイプの交感でドゥーにνガンダムのアクシズショックを見せてしまったとでも言うのだろうか。
「もう一度見せて! あのキラキラをもう1回!!」
「うわっ」
「ちょ、離れろドゥー! やめろ!」
物凄い食いつき様で僕を押し倒したドゥー。
それを引き離そうとゼロがしてくれるけど、ドゥーはビクともせずに僕に馬乗りになって襟を絞めてくる。
「もう1回、あのキラキラをっ、はーなーせーっ!!」
ドゥーをゼロが羽交い締めにして持ち上げた事で何とか難を逃れられた。
危ない、一瞬落ちかけた。
ドゥーの言うキラキラ、νガンダムの放ったサイコフレームの光。
強化人間でもニュータイプの様に何かを感じた。
だからそのキラキラを求めているのか。
ラ───ラァ────。