ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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第14話 “おじさん”は、やめてくれないか

 

 白い天井。静かな心拍モニターの音。

 

 重力の穏やかな揺れの中、ひとつの声が、唐突に紡がれた。

 

「……キラキラ……?」

 

 それは、夢の続きを見ていたような声だった。

 

 ベッドの上でゆっくりと瞼が持ち上がる。

 

 長い睫毛が震え、少女の瞳が淡い光を映していた。

 

 ドゥー・ムラサメが目を覚ました。

 

 それを見ていたアイン・ムラサメは、思わず肩を落とし、安堵の息を漏らした。

 

「目を覚ましたのですね……ドゥー」

 

 医師に連れられて検査のためこの部屋を訪れていたアインは、ベッドに身を起こしながらきょろきょろと辺りを見回すドゥーを見て、小さく微笑んだ。

 

「ここ、どこ……?」

 

「医療棟の観察室ですよ。今は第3区画にいます」

 

 ドゥーはぼんやりとした様子で、額に貼られた冷却シートを手で撫でる。

 

「ボク……寝てたの?」

 

「ええ。およそ四日間ほど、ずっと眠っていました」

 

「よ、四日!? そんなに!? ……うわ、寝坊しちゃったじゃん、ボク!」

 

 突然の声に、部屋のモニターが小さく反応音を返す。

 

 看護スタッフが慌てて入りかけたが、アインの視線に気付き、すぐに静かに引き下がった。

 

「ふふ……いつものあなたですね」

 

 アインは目を細める。まるで、胸の奥を締めつけていたものが、ふっとほどけたようだった。

 

 あの“現象”の直後、アイン自身も医務室での簡易検査を求められていた。

 

 サイコミュと脳量子波の一時暴走。

 

 ニュータイプとしての能力過剰反応──危険と隣り合わせの結果だ。

 

 だが、暴走は既に収束しており、調整用OSも沈静化。

 

 何よりこの現実が、アインにとって何よりも尊い。

 

「……ごめんね、アイン。心配かけた?」

 

「いえ……僕のほうこそ、何も出来ずにすみませんでした。けれど、無事でいてくれて……本当に、よかった」

 

 ドゥーはくすっと笑うと、ベッドの上で片膝を立て、いつものようにやんちゃな表情で言った。

 

「じゃあさ、ボクが起きた記念にさ、なんか甘いもの食べにいこーよ!」

 

「……検査が終わったら、ですね。医師の許可が出れば……ですが」

 

「やったーっ♪」

 

 無邪気に喜ぶドゥーの笑顔に、アインの胸にあった冷たいものが、すうっと溶けていく。

 

 たとえ未来がどれほど不穏であっても。

 

 サイコギガントが示したものが“戦火の幻”だったとしても。

 

 この笑顔を護れるのなら、進む意味はある。

 

 アインは静かに心の中で、再びギガンティック・サイコの操縦桿を握る自分の姿を思い描いていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 コンコン──という控えめなノック音に、室内の男は手元の端末を置いた。

 

「どうぞ」

 

 自動ドアが静かに開く。その向こうから現れたのは、まだ軍服も板につかぬ若い士官と──その後ろから覗く、無邪気な笑顔を浮かべた少女のような風貌の士官だった。

 

「失礼いたします。アイン・ムラサメ少尉、ドゥー・ムラサメ少尉、参りました」

 

 アインは帽子をとり、ぴしりと直立して礼を取る。

 

 ドゥーは真似をするように元気よく敬礼しながらも、片手にプリンのカップを持っていた。

 

「ブライト・ノア大佐、先日は御多忙の中ご挨拶の機会を頂戴しありがとうございました。改めて、アルビオン配属となったことを報告に参上いたしました」

 

 しばし沈黙。

 

 ブライトは、アインのその律儀な姿勢と、横でまるで見学に来た小学生のようにきょろきょろと執務室を見回しているドゥーを交互に見ていた。

 

 やがて、ブライトは小さく息を吐き、重みのある声で言った。

 

「……君たちが、“ムラサメ”か」

 

「はい。我々は、ムラサメ研究所にて調整・教育を受けた強化人間であります」

 

「……そうか。アイン少尉。そして、そちらの彼女が……」

 

「ボクはドゥー・ムラサメ! よろしくね、えーと、ブライトおじさん!」

 

「……“おじさん”は、やめてくれないか」

 

 わずかに眉が動いた。

 

 冗談半分だが、本当にそう呼ばれる年齢になったのだなと、内心でまた一つ現実を噛みしめる。

 

 そして同時に、苦い思いが胸に広がっていく。

 

 こんな無邪気な少女を……再び、戦場に送り出すのか。

 

 この子がモビルスーツに乗って、命を削る最前線に立たねばならない世界。

 

 それが「今」なのか、と。

 

 ──またガンダムに少年や少女を乗せるのか。

 

「君たちには、戦ってもらうことになる。それが、今のこの部隊の役割だからだ」

 

「……承知しております」

 

 アインは静かに応じる。

 

「我々には、“それ”しかないのです。研究所ではなく、軍人としてここに在る意味を……僕は、戦場の中にしか見出せない」

 

「……そうか」

 

 ブライトはゆっくりと立ち上がり、執務デスク越しにアインの前へと歩み寄った。

 

 そして、ほんの一瞬迷いを見せたのち、アインの肩に手を置く。

 

「だが、君たちはまだ若い。若者を導くのは、我々の役目だと……私は思っている」

 

「……その言葉だけで、報われる想いです」

 

「ねぇねぇ、おじ……じゃなくて、ブライト大佐!」

 

 突然、ドゥーが割り込んだ。プリンのカップを差し出す。

 

「ボクがね、4日間寝ちゃってたから、今度ご褒美にプリンもらったの! ブライト大佐も食べる?」

 

「……いや、私は遠慮しておくよ」

 

 ぎこちない笑みを浮かべながら、ブライトはその無邪気さに胸を締め付けられる。

 

 この子は──兵士なのか? それとも、ただの少女なのか?

 

 だが、現実は残酷に明確だった。

 

 彼女は強化人間として生まれ、戦うことでしか“今”の世界に居場所がない。

 

 その矛盾を理解しながら、彼らを率いる。それが、今の自分に課された責務だ。

 

「君たちの覚悟、しかと受け取った。……私は、君たちが無事に帰れるように、全力を尽くそう」

 

 アインは静かに、だが確かな意志で応じた。

 

「ありがとうございます、大佐。我々も、命の限りを尽くして応えます」

 

「ん! ボク、がんばるよ!」

 

 握った拳を見せて笑うドゥーの姿に、ブライトは視線を逸らす。

 

 目の奥が、少しだけ熱くなった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ブライト・ノアと挨拶を交わした後、アインは控えめに一礼しながら、傍らのドゥーをちらりと見やった。

 

 ──「彼女」と呼ばれていた。

 

「……ドゥー」

 

「なあに、アイン?」

 

「さっきの艦長の言葉ですが……あなたは、女の子だったのですか?」

 

 問いかけたアインの声音には、素朴な疑問と、わずかな困惑が滲んでいた。

 

 するとドゥーは、きょとんとした顔をして、すぐに笑った。

 

「えぇー? 今更なの、アイン?」

 

 無邪気に言って、ドゥーは胸を張るようにして一歩前へ出た。

 

「ボク、ちゃんと女の子だよ? おっぱいもちょっとあるし」

 

 そう言いながら、まるで悪戯を仕掛けるような仕草でアインの手をとる。

 

「ちょっ、ドゥー……?」

 

 戸惑うアインの掌を、自らの胸元へと押し当てた。

 

 そこにあったのは、男の胸板とは明らかに違う、柔らかな膨らみ。

 

 僅かではあれど、確かに「女性」としての存在を示す感触だった。

 

「……っ」

 

 頬を紅く染めたアインは、視線を逸らしながら小さく咳払いし、手を振り払う。

 

「こ、こんなところで、からかうのはやめなさい……」

 

 その反応がよほど可笑しかったのか、ドゥーはケラケラと笑いながら、ぱたぱたとアインの横へと回り込む。

 

「アイン、赤くなってる〜」

 

「……からかってるだろう、完全に」

 

「ふふっ、そんなことないよ?」

 

 不意にドゥーは笑みをやめた。

 

 目を細めると、ほんの一瞬、少女らしい柔らかさと、どこか妖しい艶やかさが宿る。

 

 彼女はそっとアインの頬に身を寄せ、唇を押し当てた。

 

「──えっ?」

 

 虚を突かれたアインは、ぱっと後ずさり、指先で頬を押さえながら呆然とする。

 

 ドゥーはにこりと笑って、どこか勝ち誇ったように囁いた。

 

「言ったでしょ? ボク、ちゃんと女の子だって」

 

 その声には、子供のような無邪気さと、大人びた魔性の色香が、危ういバランスで溶け合っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 宇宙に上がったコウ・ウラキとチャック・キースがグリーンノア1に到着したのは、ちょうど新設部隊が最終調整に入る頃だった。

 

 迎えに来たアインは、辞令に添付されていた書類と変わらぬ丁寧な態度で彼らを出迎えた。

 

「お待ちしておりました、ウラキ中尉、キース少尉。……ようこそ、再び前線へ」

 

 整備区画に案内された二人を待っていたのは、真新しい塗装と質量感を帯びた二機のMSだった。

 

 ひとつは、アインが搭乗していたアーリーヘイズルを改造したアドヴァンスド・ヘイズル。

 

 その背には、特徴的なトライブースター・ユニットが取り付けられていた。

 

「これは……」コウが歩み寄り、その背部を見上げる。

 

「……フルバーニアンの推進制御に似ている。いや、流用されてるな。スラスター配置も、重心制御も……なるほど」

 

 目を細めながら機体を読み解いていくコウに、アインはわずかに目を細め、微笑を浮かべた。

 

「やはり……中尉の観察眼は確かですね。あの機体の呼吸を感じ取れる方でなければ、この部隊にはお呼びしませんでした」

 

 隣で煙草をくわえたキースは、やや皮肉気に笑いながら肩をすくめる。

 

「どうせ俺は、また余り物ってワケだろ? ……ジム・キャノンⅡとはな。懐かしいぜ、こいつ」

 

 アインはゆっくりと首を横に振った。

 

「いえ、ジム・キャノンⅡは、貴方の戦歴と適性を分析した結果、最も“任せられる”と判断した機体です。突貫で揃えた部隊ゆえ、全てが万全とは言えませんが……その中で最適を選ぶ努力はしました」

 

 そう言ってアインはキースと視線を交わす。

 

 その眼差しに偽りはなかった。

 

 コウが、再びアドヴァンスド・ヘイズルを見上げる。

 

 その背に灯る三基のスラスターは、あの時のフルバーニアンの記憶を呼び起こしていた。

 

「――ここから、また始めるんだな、あの続きの物語を」

 

 キースが苦笑しながら言葉を継ぐ。

 

「なら……俺たちはもう、逃げ場なんて無ぇってことか」

 

「はい。それでも、戦う理由があるとすれば……それは、守るべきものがあるからです」

 

 アインのその言葉に、かつてのアルビオンで共に戦った記憶が、ふたりの胸に蘇っていた。

 

 再び始まる、かつての続き。

 

 それは、今この瞬間から始まろうとしていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 グリーンノア1・港湾施設

 

 ──ムラサメテストチーム・物資集積区画(仮設エリア)

 

 コンテナリフターの警告音とともに、搬入区画のゲートが再び開いた。

 

 金属の軋みが木霊するその中を、新たなカーゴがゆっくりと滑り込んでくる。

 

 居並ぶカーゴには、アナハイムから送られてきた各種モビルスーツ本体および拡張装備群が所狭しと積載されていた。

 

 そのひとつ、流麗なボディラインに対し異様なまでにマッシブなフレームが特徴的な機体──ロゼット。

 

 そしてその後方に控えていたのは、ザク系フレームに大口径砲塔と大型キャノンユニットを搭載したハイザック・キャノン。

 

 独特の意匠とカラーリングは、ジオン系からの技術転用を強く印象づける姿だ。

 

「……また色々と届いてるな」

 

 肩で息をしながら整備記録の確認を終えたゼロが、思わずぼやく。

 

 隣ではコウ・ウラキも荷下ろしされていく機体群を見ていた。どれも、彼の記憶にない異型のモビルスーツばかりだ。

 

「TR系列……あれも、か」

 

 それを見上げながら、コウは小さく呟いた。

 

「……推進ユニットの配置、安定性重視のフレーム補強……。フルバーニアンのデータが流用されてる。いや、これは……」

 

 彼の観察眼に応えるように、後方から歩み寄ったアインが軽く笑った。

 

「さすがです。データに目を通されたわけでもないのに、すぐ見抜かれましたね。……僕としては、そういう方にこそ乗っていただきたかった機体です」

 

 素直な称賛にコウが口元を引き締めて頷く一方で、別のコンテナに視線を向けた者がいた。

 

「へぇ……あれも来てたのかよ」

 

 整備員が移動させる途中のハイザック・キャノンを見つけたチャック・キースは、既に割り当てられた自機であるジム・キャノンⅡのメンテナンスを終えたばかりだった。

 

 マッシブで威圧的な砲搭載型モビルスーツに興味を示した彼は、指でツンと帽子の庇を押し上げた。

 

「……どうせなら、最初からこっちが良かったぜ。あっちのが見た目イカすしな」

 

 すぐ背後から声が返った。

 

「ですが、それは予備機ですし、調整もまだ。性能面での信頼性は保証できませんよ?」

 

 口を挟んできたのはアインだった。

 

 整備士に整然と指示を出した直後、キースの言葉を拾っていたらしい。

 

 軽く肩をすくめたキースが、からかうように返す。

 

「キャノンならやっぱ見た目勝負だろ? 砲塔ってのは“男の浪漫”なんだぜ」

 

「ふふ、浪漫も良いですが、戦場では性能が命です。今あなたが使っているジム・キャノンⅡのほうが、火力、安定性、取り回し、全てにおいて総合得点が高い。……もしどうしても乗り換えをご希望でしたら、整備班に伝えておきますけど? あえて乗ります? ポンコツに」

 

 言外に“無理する必要はありません”と含ませた言い回しだった。

 キースは舌打ちしそうになりながらも、鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 

「遠慮しとく。今さら実戦で無理するのはゴメンだしな。……せいぜい、こいつと一緒に俺の“運”も磨いといてくれよ」

 

 軽口にアインが笑みで返すことはなく、ただ小さく一礼して整備士たちの方へ視線を向け直す。

 

 積み上がるカーゴ。

 

 並ぶ試験機。各部ユニットと、流通封印の識別番号が付けられた開梱待ちの武装群。

 

 それはまるで、まだ編成されてもいない部隊の“未来図”だった。

 

 その中に立つ若者たちは、それぞれの想いと宿命を背に、戦いの準備を進めていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 物資集積区画の搬入作業は、予定よりも早い進捗を見せていた。

 

 キハールの機体はすでに格納庫の奥へと設置され、ハイザック・キャノンは外部武装の点検が行われている最中。

 

 ロゼットはその重心を確かめるように仮設支柱へと接続され、TR系列の拡張パーツも続々とクレーンで運ばれてくる。

 

 周囲を見回るアインは、無言のままチェックリストを確認しつつ、ひとつひとつ目視での進行を把握していく。

 

 ──その足で司令区画を訪ねると、ブライトは珍しく、深い沈思の気配を纏って椅子に腰掛けていた。

 

「報告を。搬入は概ね順調です。クレーンレールに一部ズレがありましたが、調整済みです」

 

「ああ、ありがとう。君が取りまとめてくれて助かっている」

 

 そう言いながらも、ブライトの声にはどこか落ち着きがなく、視線も資料から逸れたままだった。

 

 アインは眉をわずかに動かす。

 

「何か、ご懸念が?」

 

 その問いに、ブライトはしばし黙っていた。

 

 口にすべきか、否か──その間合いが微妙に長く、やがて彼は、少しだけ前傾姿勢になって言葉を探し始めた。

 

「……君に話すべきか迷ったのだが、今となっては打ち明けておいたほうがいいと思った」

 

「はい」

 

「私はこの艦──アルビオンの艦長に着任する前、連絡船《テンプテーション》の艦長をやっていた」

 

 それはアインも知っていた、というより実際自分たちも世話になった。

 

 輸送シャトル便の管理艦で、いわば後方支援任務だ。

 

 前線に出ることもなく、戦功もない。

 

 だが、民間人を守ることもまた戦争の一端であると、アインはそう思っていた。

 

「テンプテーションは、今度のグリーンノア1の戦闘で被災した避難民を月へ移送する予定だったんだ。……だが、私が抜けた今、艦を出す決断が誰にもできずにいる」

 

 そこには、責任と後悔が入り混じっていた。

 

 ブライト・ノアという男にとって、どれほど閑職と呼ばれようとも、それは"居場所を守る"ための任務だったのだ。

 

「後任の艦長が居ないんですか?」

 

「そうだ。あんな艦にわざわざ座る指揮官は……誰もいないさ。だが、今この瞬間にも、避難民たちは月へ上がる術を待っている。彼らの命を助けたい……が、それをやる権限が私にはない」

 

 アインは静かに腕を組んだ。

 

 瞼を伏せ、数秒の思索を巡らせたのち、柔らかな口調で口を開く。

 

「では、こういうのは如何でしょうか」

 

「うん?」

 

「アルビオンの就航後、長距離航行テストを名目に、月方面へ向かうことにするのです」

 

 ブライトは瞬き、アインを見た。

 

「……テスト航行を?」

 

「我々はテスト部隊です。理由など、いくらでも“捏造”できます。アナハイムからの追加機材受け取り──あるいはサイコギガント関連の補正データ取得でも構いません。実験記録の体裁であれば、誰も不審に思いません」

 

「だが……君はその、“捏造”が問題になるとは考えないのか?」

 

「ええ。むしろ名目が必要なら、アナハイムに一言言っておきます。物資の追加搬送と同時にテスト航行という建前をつければ、少しばかりの融通も利くでしょう」

 

 言葉を選びながら、だが一切のためらいを見せぬその態度に、ブライトは唸った。

 

 ──恐ろしい少年だ。

 

 冷徹な論理性と、まっすぐな使命感。

 

 それらが彼の中で奇妙な均衡を保っている。

 

「……わかった。段取りは君に任せよう。テンプテーションの避難民たちを、アルビオンで月へ届ける」

 

「承知しました。正当な理由も、必要な書式も、すべて僕が整えておきます」

 

 そう言って、アインは静かに頭を下げた。

 

 この小さな約束が、誰かの命を繋ぐ道標になるのなら──彼の行動には、何一つ無駄などなかった。

 

 

 

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