僕にしか反応しないサイコミュ。
僕にしか動かせないサイコガンダム。
ソフト面でやれることはやってもどうにもならず、今現状ハード面でもどうすることも出来ない。
つまりどうなるのかと言えば、休みなしでデータを取り続けるということになる。
強化人間とはいえ、ムラサメ研の強化人間は肉体改造よりもマインド・コントロール面、つまりは人の精神面に対する強化改造に重点を置いている。
オーガスタもNTでかなりヤバいというか、強化人間を作る為のニュータイプ研究黎明期の闇という物が詰まっていた。
そんなオーガスタもヤバいのだろうが、それに輪を掛けて最も非人道的な人体実験を繰り返していたとされているのがムラサメ研。
ナンバーを貰えているから、あるいはプロトタイプ・サイコガンダムの暴走事故以降、僕の感応波がニュータイプ並になったから扱いが改善したのかわからない。
実際に生活している身としてはわからないものの、ナンバーを充てがわれる僕達以前に何れ程の屍を築き上げたのかは考えない方が幸せだろう。
見ず知らずの関わりのない人間の悲惨な末路を想像して心を痛める程、僕は崇高な人間じゃない。
僕は死にたくないから、この地獄の宇宙世紀を生き抜く為に行動するだろう。
その為にこれから先大勢の人を不幸にするだろう。
僕はニュータイプでも、カミーユやバナージの様になる事は出来ない。
他者を想い、愁い、涙を流す事はないのだから。
「キラキラを見せろォ!」
アレからドゥーは僕に付き纏う様になった。
飛び掛かってくるドゥーを、身を捻って躱す。
僕はニュータイプだ。
しかしどんな条件でドゥーと感応し、刻を見たのかがわからない。
だから僕は極力ドゥーと関わらない様にしようと思ったものの、なんと僕はドゥーと同室に捩じ込まれた。
ドゥーの言うキラキラがなんなのか知りたがった研究員達は、しかしドゥーはキラキラをキラキラとしか言わない。
そして僕とならキラキラが見れると言ってしまった。
そうなれば僕も追求される。
極まったニュータイプや強化人間の思惟が刻を見る事が出来るなんて答えたらどうなるかわからない。
だから僕は宇宙が蒼く見えて星が綺麗に見えると間違ってはいないが適当にそれっぽい事を言えば、結果その事象を調べて解明しようと僕とドゥーが否応なく共に生活する環境にした。
ナンバーを貰っていても所詮は研究所の被験体。
なんの力も立場もない僕に逆らえるワケがない。
だから四六時中ドゥーに狙われる。
それでも今現状唯一プロトタイプ・サイコガンダムを動かせる僕はデータを取るために休み無し。
それが結果的にドゥーと共に居る時間が減るという何とも言えない状況。
これでサイコガンダムが開発されれば落ち着いて、ドゥーとの時間が増え、結果“キラキラ”に対する研究の時間も確保されるのだろう。
聞くところによれば、僕と感応した後のドゥーも感応波の数値が高まったらしい。
だから研究所からすればキラキラを解明し、それによってより高い能力を持った強化人間を作る事こそを目標としている。
サイコガンダムを開発しているのも、研究費用獲得の為の軍の依頼を請け負っているという面が強い。
研究の成果物として強化人間とサイコガンダムを開発する事で予算をより獲得しさらなる研究へと繋げる。
研究を続ける為にスポンサーの意向を叶え、成果物を出して予算を獲得し、さらなる研究をしたいという流れは分かるものの、それが人間を犠牲に使い潰して得る成果という悍ましさは永遠に理解出来ないだろう。
ただデータを休みなしでひたすら取るという事に対して何もデメリットだけではない。
それはそれ程MSに触れると言うことである。
本物のMSの操縦。
生き残る為に出来ることは、誰よりも1番MSを上手く扱えないとならない。
グリプス戦役を生き延びればどうにかなると思いたい。
グリプス戦役を過ぎれば第一次ネオ・ジオン戦争や第二次ネオ・ジオン戦争が待っているとしても、先ずは目先の戦乱を生き抜かなければ話にならない。
その為に被験体として有用な成績を出す。
被験体として価値があれば一先ず衣食住には困らない。
だがそうなれば前線に送り込まれる可能性が上がる。
前線に送り込まれた時、戦う相手はエゥーゴやカラバだ。
カミーユやシャア、アムロと当たらなければ死なないと思うけれども、いざ戦った時に生き残る為に強くなければ死ぬだけだ。
プロトタイプ・サイコガンダムは、プロトタイプというよりもコンセプトモデルという色合いが強い機体だと僕は思っている。
サイコガンダムに求める機能のテストベッド。
有線サイコミュ式腕部ビーム砲はサイコガンダムに装備されなかったが、サイコガンダムMk-Ⅱや量産型サイコガンダムには受け継がれている機能だし、拡散メガ粒子砲はサイコガンダムの代名詞の様な武装だ。
その拡散メガ粒子砲がプロトタイプ・サイコガンダムでは使用したら約10秒間パワーダウンを起こし身動きが取れなくなるという欠陥を抱えているものの、実戦配備を想定していないテスト機ならそれで充分という事なのだろう。
「うがーーーーー!!!! なんなんだよアレ! あんなの反則だろ!!」
シミュレーターから出ると喚き散らすドゥー。
キラキラを見せる条件として僕を倒せば見せると提示する。
そうなればシミュレーターに籠もる時間が増える。
結果経験値を得る機会が増える。
とはいえドゥーの動きは素直過ぎるというか、目が良すぎるのか、フェイントに面白いように引っ掛かる。
確かに操縦は上手い。
上手いけれども、教えられた通りの事をやり過ぎて突拍子もない事態に弱いという印象を受ける。
例えばシールドを投げればドゥーは避けるものの、そのシールドにビームライフルを撃ち込んで反射させると被弾する。
例えば暗礁宙域でデブリの影からビームサーベルを放って、その隙に背後に回り込む、案の定ビームサーベルを撃って撃破すると隙だらけの所に背後や側面からズドン。
シールドとバズーカを置き去りにして離脱すると明らかにその置き去りにしたシールドとバズーカに目が行ってて、その隙にズドン。
逆にシールドとバズーカに釣られずにこちらへ意識を向けても遠隔で撃ったバズーカやシールドランチャーからズドン。
正面から突っ込んで来た所にビームコンヒューズでセンサーを焼いた所にズドン。
バズーカを撃った所に迎撃されれば爆炎に紛れて正面から突っ込むと反応が少し遅れる。
バズーカの弾頭を迎撃せずに回避するなら回避に動いた時点でこっちからバズーカの弾頭を撃ち抜いて爆発させ、その爆炎に紛れて突っ込むと見せ掛け、バズーカを投げると避けるから、そのバズーカを撃ち抜いて爆発させると大きくよろめいた所をズドン。
伊達に数十年ガノタをやっていない。
対MS戦闘の発想力はそれなりの引き出しがあると自負する。
だから今の所ドゥーに敗けることはない。
それはゼロが相手でもだ。
パイロット技量的にはゼロはドゥーよりも強い。
ただニュータイプ的にはドゥーの方が元々感応波は上だった。
そしてキラキラを見た事でドゥーの感応波は上がった。
最近だとゼロの感応波も上昇傾向にあるらしい。
普段は落ち着いているゼロ、落ち着いているを超えてダウナーなドゥー。
戦闘になると2人とも攻撃的になるものの、ゼロは以前よりそれが落ち着く様になり、ドゥーは攻撃的というよりアレは僕に勝てなくてムキになっているという感じがする。
ゼロ、僕、ドゥーでひとチーム、サード、フォウ、そしてさらに1人増えたらしい3人でもうひとチーム。
この2つのチームで今のムラサメ研は回っている。
それはニュータイプに覚醒した僕と、それに引っ張られて感応波が上がったドゥー、そんな僕とドゥーに近しくて影響を受けているゼロ。
逆にサイコミュの暴走以後まったく接点の無いサードやフォウの居るチームでどの様な変化があるのかという観察実験をやっている様だ。
ニュータイプに覚醒した僕のデータに上も機嫌が良いらしく、プロトタイプ・サイコガンダムがもう1機追加された。
それはドゥーやサード、フォウが乗ってデータを取る事となった。
とはいえプロトタイプ・サイコガンダムのデータは僕が乗り回してあらかた取った事で他に取るのは僕以外の強化人間がプロトタイプ・サイコガンダムに乗ることで得られるデータだ。
3月に入ると、僕は種子島から宇宙へと上がった。
種子島宇宙センターがあったからか、日本では種子島が宇宙への玄関口になっていた。
宇宙に上がる理由は、プロトタイプ・サイコガンダムの宇宙での運用データを取るためだった。
僕が派遣されたのも現状でサイコガンダムの搭乗時間が最も多いからだ。
またこれにはジオンから接収したビットと試作機の運用試験も盛り込まれているという。
そんな事よりも宇宙だ宇宙。
僕は今、宇宙に居るんだ。
そして地球は丸くて青かった。
地球の重力を振り切るGの加速も、宇宙に出たことで感じる初めての無重力も、何もかもが僕にとっては初めてだ。
そして、重力の枷から解き放たれた魂が宇宙へと広がる様な感覚。
自分という存在が何処へまでも行けるような感覚。
そして宇宙が蒼く視えているのは僕がニュータイプだから。
「珍しいな、アインがはしゃぐなんて」
「宇宙に出て居るんです。意識の広がりを感じませんか?」
ゼロの言葉に僕はそう答えた。
一般人の同席があるからニュータイプという言葉は使わなかったものの、それくらいは言わなくても伝わるだろう。
「ひとりだけキラキラ見てるなんてズルい」
隣に座るドゥーがそう愚痴る。
別にキラキラを見ているわけじゃない。
ただ蒼い宇宙を視ているだけだ。
蒼い宇宙と、煌めく星々の輝き。
これがニュータイプが視える宇宙の光景。
「あ…」
ドゥーの手を握ってやると、不機嫌そうな仏頂面が一瞬で無邪気で愛らしい顔になった。
「キラキラ…、キラキラだぁ!」
「ドゥー、少し静かにするんだ」
強化人間なのに普通に人が出来ているゼロが声を上げたドゥーを注意する。
とはいえ多分聴こえてないだろう。
シャトルはサイド6に入港した。
サイド6は一年戦争開戦時に中立を宣言する事で被害を受ける事なく終戦を迎えた。
ただ一年戦争末期にはアレックスを受け入れ連邦軍の部隊を駐留させたり、アレックスの試験をする為の施設があったりと連邦軍寄りに見えて、ジオンのフラナガン機関もあった事から中立という立場で強かに立ち回っていたのだろう。
これから受け取る物を考えると、宇宙でさらにジオンのニュータイプ由来の機材となればフラナガン機関があった上で連邦軍としても設備を置いていたサイド6というのは理に適っている。
「なんだ、この感じ──」
まるで誰かが僕を見ている様な、そんな感覚。
「どうかしたのか、アイン?」
「いえ。なんでもありませんよ」
ゼロへ答えながら、僕はシャトルを降りる。
僕らは民間のシャトルで宇宙へ上がり、別口の貨物シャトルでプロトタイプ・サイコガンダムとガンダムMk-Ⅱ試作0号機がサイド6へと搬入される。
港に停泊するコロンブス級が今回の試験艦らしい。
既に艦内にプロトタイプ・サイコガンダムとガンダムMk-Ⅱ試作0号機は運び込まれていた。
テストするのはエルメスと同型のビット。
その他にもテストする機材が運び込まれていた。
「まさかパオングとは」
「パオング?」
「パーフェクトジオングの略です。長いでしょ」
「なるほど」
ゼロへそう返しながら、コロンブス級の格納庫に搬入されるパーフェクトジオングを見る。
サイコガンダムの開発にはガンダムとジオングのデータを使われたとあるが、確かに巨大なMSという意味ではこうしてパーフェクトジオングのデータも取ることは寧ろ当然と言えた。
「なんだろう。さっきから誰かに見られてる気がする」
ドゥーも何か、いや、誰かを感じているらしい。
戸惑い、それと興味という波動を感じる。
手探りの様に差し伸ばされた手を、僕は敢えて無視した。
今の僕にはその手を掴んだ所でどうにか出来る力は無い。
僕らの境遇に巻き込んでしまえば互いに不幸だ。
だから今は、いや、この平和なコロニーでそのまま平和に過ごしていることの方が幸せだ。