ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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第2話 ビットよ、僕の敵を撃て!

 

 機材の搬入を終えた後、試験艦であるコロンブス級フレッチャーはサイド6周辺のデブリが漂う暗礁宙域へと向かった。

 

 サイド6は一年戦争時、コンスコン艦隊やアレックスをコロニーごと核ミサイルで破壊しようとしたジオン艦隊、戦後直ぐの老朽化したコロニーの崩壊事件、さらにサイド6独自の資源衛星から採掘された資源の破片などから程々の暗礁宙域を形成していた。

 

 撃沈されたチベやムサイの残骸はホワイトベース隊が沈めた物なのだろう。

 

『なんか……この辺、ちょっと匂いが強い気がする』

 

 そう聞こえたのはパーフェクトジオングに乗るドゥーの通信だった。

 

 ドゥーが匂いと言うのならそれはミノフスキー粒子の事だ。

 

『戦艦の残骸も多いからな。ミノフスキー粒子が残留しているのか?』

 

 そう言うゼロの言葉に、僕は納得しなかった。

 

 一年戦争からもう7年が経っている。

 

 いくら戦闘濃度で散布したとはいえ、7年前のミノフスキー粒子が残っているとは素直に考えられなかった。

 

 暗礁宙域という物が集まり易い場所でミノフスキー粒子も集まって滞留するという理屈は分かるものの、本当にそれだけなのか、それで片してしまって良いものなのか。

 

 身構えていれば死神はやって来ない。

 

 何があっても対処出来るように意識を身構える。

 

 プロトタイプ・サイコガンダムのバックパックにジョイントで装備された6基のビット。

 

 今回はテストの為の急造である。

 

 νガンダムのフィン・ファンネルと同じく分離させたら再回収は出来ない。

 

 標的はデブリで漂う艦の残骸。

 

 ダミーバルーンはエゥーゴの方で実用化され、グリプス戦役後半ではティターンズでも使われる。

 

 MSのバルーンやダミー隕石はあるものの、艦艇のダミーバルーンはおそらく逆シャア、宇宙世紀0090年代くらいに出てくるのだろう。

 

 一パイロット、それどころかムラサメ研の強化人間にしてモルモットの自分が提言した所で何も受け入れられないだろうが、艦艇のダミーバルーンは艦隊戦をする上では有効だろう。

 

 やはり自分の意見や主張を受け入れてもらうには地位と力が要る。

 

 とはいえ強化人間にはその様な事は求められてはいない。

 

 強化人間は兵器としてのニュータイプを必要とされて造られた。

 

 戦うために造られた僕達が自分の意志で主義主張を言い出すことは求められていない。

 

 ムラサメ研究所にとって都合の良い人形こそが求められる。

 

 生き残る為に取れる手段は限られてくる。

 

 先ずこのままなら間違いなくムラサメ研はティターンズの要請でエゥーゴへと強化人間を派遣する。

 

 それが最初はフォウなのかもしれない。

 

 ニュー・ホンコンやキリマンジャロにフォウが回されても、バスクはニュータイプ部隊を編成する為にロザミアやゲーツ・キャパを招集する上でムラサメ研の僕らも編入されるだろう。

 

 バスクやジャマイカンの下で使い潰されて死ぬのは真っ平御免だ。

 

 ほぼ沈む舟だと分かっているティターンズには出来ることなら関わりたくはない。

 

 しかし強化人間である僕らに所属を選ぶ権利はない。

 

 ゼロの様に研究所を潰してエゥーゴに投降するか。

 

 とはいえやるならアーガマに投降するのがベストというか、他の選択肢はないだろう。

 

 強化人間ならカミーユの同情を買えるし、ブライトなら悪い様には扱われないだろうし、人手不足だからエゥーゴに付いてティターンズと戦うと言えばクルーとして認められるだろう。

 

 ティターンズに配属された時、バスクやジャマイカンを排してシロッコを味方に付けなければジャミトフの勝利は無い。

 

 アクシズに逃れるのは絶対に出来ない。

 

 連邦軍の強化人間というサンプルとして扱われるのがオチだ。

 

 アーガマへ投降出来ないのなら次点でラーディッシュかカラバのアウドムラだ。

 

 ヘンケン艦長も人情派であるし、アムロやハヤトなら強化人間として戦わざる得ない僕らを保護してくれるだろう。

 

 連邦軍に味方が居ないのが終わっている。

 

 頼れそうなのはゴップくらいではあるが、僕ら強化人間を手元に置いて齎されるリスクとリターンでリターンが多く無ければ味方になってはくれないだろう。

 

 イングリッド0を養女に迎えたとはいえ、リターンも無しに門戸を叩いた所で門前払いされる可能性は充分に高い。

 

 ティターンズは力だと言ったのはジェリドだったか。

 

 一応連邦軍所属の身としてはティターンズに関わりたくはないものの、ティターンズからのジオン残党鎮圧要請があれば連邦軍は断る事が出来ない。

 

 今ではそれが拡大解釈され、対エゥーゴ鎮圧要請も請け負う事になってしまう。

 

 エゥーゴも連邦軍なのであるが、スペースノイドが中心であるエゥーゴはティターンズのバスクからすればジオンと同じと言うことだ。

 

 馬鹿馬鹿しい。

 

 地球至上主義は結構であるが、ジャミトフの真意を知らないバスクは所詮地球圏に大きな戦乱の火を炸裂させる為の火薬でしかない。

 

 結局、何をするにも力と立場が物を言う。

 

 そのどちらもない今は雌伏の内、と言うことだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 アインは何も考えていなかったからわからなかった。

 

 今のアインは何を考えているのかわからない。

 

 でも今のアインはキラキラが視えるからずるい。

 

 ボクの視えるキラキラは青かったり紫だったりする。

 

 でもアインのキラキラは、蒼くて、虹色で、本当のキラキラなんだ。

 

 白いガンダムから溢れたキラキラ。

 

 あのキラキラが、サイコガンダムを狂わせた。

 

 ボクの身体であるはずのサイコガンダムがボクの物じゃなくなったのはイヤだった。

 

 でもアインのキラキラは本当のキラキラだからずっと見ていたくて、いつでも視たい。

 

 なのにアインは前とは全然比べ物にならない程に強くて、アインに勝てばいつでもキラキラが視れるのに1回も勝てない。

 

 前は全然弱かったのに、キラキラを見てから急に強くなった。

 

 前の何も考えていなかった時は言われたことしか出来ないからそんなに強いなんてこともなかった。

 

 今は何を考えているのかわからなくて強くて、そして色々とズルいやり方をしてくるのがムカつく。

 

 なんで分離したサイコガンダムの腕を撃とうとしたら機体を捻って繋がっているケーブルを振り回して軌道をメチャクチャに変えて避けるとかワケわかんない。

 

 伸びてきたサイコガンダムの腕を避けたと思ったら、その腕のケーブルを巻き上げる勢いと本体のスラスターの勢いを乗せてドロップキックして来るとか意味わかんない。

 

 MSは伊達に人のカタチをしちゃいないって、その有用性と可能性を教えてやるとか。

 

 目に見えるものだけ視るなとか。

 

 後ろにも目をつけろとか。

 

 今までボクに勝てなかったクセに、いきなりボクに勝ち越して行ってイチイチ頭にクる事を言う。

 

 ──────避けろ!!

 

 頭に響くアインの聲。

 

 考えるよりも早く身体は動いて、機体は回避行動を取っていた。

 

 僕たちの編隊、散開した事で開いた真ん中を過ぎていく一本のビーム。

 

 狙われてた?

 

 全然殺気なんて感じなかった。

 

 なのにアインは気付いた。

 

 ボクは感じられなかったのに…。

 

 本当に────ムカつく!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 身構えていたから動けたとも言える。

 

 サイコミュで増幅し、大きく意識を拡げていたから感じる事が出来た。

 

 その感じたままに叫びながら機体を回避させると、一筋のビームが過ぎ去って行った。

 

 明らかに狙撃された。

 

 ミノフスキー粒子が濃くないから長距離狙撃もし易かろう。

 

 狙撃が失敗したからか、デブリの影からMSが出て来た。

 

『なんだコイツら!? ザクにドムって、ジオンの残党か!』

 

 現れたのはザクやドム、中にはゲルググも1機混じっていた。

 

 そのゲルググの肩からビームキャノンが放たれた。

 

 ぱっと見ノーマルのゲルググでも、背中にはゲルググキャノンのキャノンパックを装備しているらしい。

 

 ゲルググは通常のA型やS型は背中に何も装備していないが、そこへキャノンパックや高機動パックを装備することで機体特性を変えられる。

 

 言ってしまえばストライカーパックとかの装備換装システムのご先祖様である。

 

 ザクもF2型、ドムもリック・ドムⅡ、一年戦争から7年経っているというのに随分と装備の良い一団だ。

 

 そしてダミー隕石を割って出て来たのは、紫色のティベ級。

 

 チベではなくティベとは、中々にレア物な艦だ。

 

 というか、もしかしなくてもこの一団はキシリア派閥の残党か?

 

 ティベ級なんて持っているのはキシリアの派閥以外には知らないし、ゲルググのキャノンパックもグラナダで用意していたと確かそんな感じで記憶しているし、リック・ドムⅡはデラーズ・フリートで運用されたから有名でも、そもそもはポケ戦で登場したリック・ドムがリック・ドムⅡとして設定が起こされ、そしてリボー・コロニーにサイクロプス隊やコロニーごとアレックスを核で吹き飛ばそうとしたのもキシリアだ。

 

 断定するのは早いだろうが、リック・ドムⅡはグラナダ特戦隊にも優先配備されていた機体であり、言ってしまうとキシリアの庭である月だからこそと言うわけだ。

 

 使っているザクがF2型だから一見するとデラーズ・フリート残党に見えるものの、戦艦一隻の姿が断定する為のノイズになっていた。

 

 ティベの主砲が閃光を放つ。

 

 狙いはこちらではない。

 

 全天モニターで見送った先──光球が生まれ、そして盛大に爆発した。

 

『母艦を!? クソッ!』

 

 悪態を吐くゼロ。

 

 MSにとって致命的なのは母艦をやられることだ。

 

 エネルギーや弾切れ、ここは宇宙であるから推進剤も使い切れば補給出来ず宇宙の迷子になって星の仲間入りである。

 

 つまり僕らはこの場に居るジオンを全て倒さなければならなくなる。

 

 罷り間違ってもサイド6に敵を連れたまま戻るわけには行かないのだから。

 

「応戦します、仕掛けてきたのはあちらですから。ゼロはドゥーのフォローをお願いします。ジオン残党からすればジオングは喉から手が出る程欲しい機体でしょう」

 

『了解した。ドゥー、俺とエレメントを組むんだ』

 

『別にあんなザコ相手に必要なくない?』

 

 ジオン残党が何故こんな所に居るのかはわからない。

 

 ただ明らかにパーフェクトジオングとプロトタイプ・サイコガンダムを狙って来ている。

 

 ザク・マシンガンを回避しつつ、サイコガンダムの脚の脛に装備されたビームキャノンを展開して撃つ。

 

 まさかそんな所にビームキャノンが有るなどとは思わなかったのだろう。

 

 放たれたビームは向かって来ていたザクⅡF2型の胴体を撃ち抜いて爆発した。

 

 プロトタイプ・サイコガンダムはガンダムMk-Ⅱのフレームをベースにして小型化に難航したサイコミュを大型のバックパックとして背負い、さらにサイコガンダムに装備する予定の技術のテストベッドを兼ねた結果、ベースのガンダムMk-Ⅱから機動性は大幅に低下した上にエネルギーパイプも露出しているので下手な被弾も出来ず、さらに胸部拡散メガ粒子砲を放てば約10秒間パワーダウンを起こして身動きが出来ない欠陥を抱えている。

 

 実戦配備の予定もなくテスト機としてはそれで充分だった。

 

 本来なら脚の脛にビームキャノンは装備されていないのであるが、今回のテストのついでに新しく装備された物だ。

 

 両腕のビーム砲と両脚のビームキャノンで弾幕を張ってジオン残党の視線を釘付けにする。

 

 向こうが何れ程此方の情報を持っているのか。

 

 こんな所にジオン残党が居る時点で単なる遭遇戦という考えは頭の隅に追いやっている。

 

 もし本当に遭遇戦なら此方を撃墜する気で来るだろうが、敵には此方を無傷で手に入れたいという欲を感じる。

 

 此方が弾幕を張っているから近接装備は無いと見たのだろう。

 

 リック・ドムⅡが3機で連携しつつ此方へと向かって来る。

 

 縦隊列で突っ込んでくる様子はまるでジェットストリームアタックだ。

 

 先頭のリック・ドムⅡがMMP-80 90mmマシンガンを撃ってくる。

 

 牽制が目的であるが、下手に被弾出来ない此方は回避に移る。

 

 中継ぎのリック・ドムⅡがジャイアント・バズを撃って来た。

 

 その弾頭を腕部ビーム砲で撃ち抜く。

 

 発生した爆炎を突き抜けながらヒートサーベルを抜刀した最後のリック・ドムⅡが襲い掛ってくるが、その切っ先が届く前に、脚部ビームキャノンから出力したハイパー・ビームサーベルがリック・ドムⅡの胴体に突き刺さる。

 

 そう、このビームキャノンは量産型サイコガンダムの様にビームサーベル兼用であるのだ。

 

 そのまま脚部を振るってリック・ドムⅡを切り裂く。

 

 脚にサーベルは不意を突くのには最適だ。

 

 流石にアスランやシュラの様なアクロバット染みた動きは出来ないが。

 

 最後列の仲間がやられてもそこはプロなのか、直ぐ様立て直す2機のリック・ドムⅡであるが、残念ながら遅い。

 

「ビットよ、僕の敵を撃て!」

 

 そう、今回のプロトタイプ・サイコガンダムはエルメスと同型のビットのテストも兼ねていた。

 

 6基のビットを斜め下、真横、真上へとプロヴィデンスやレジェンドのドラグーンの様に展開すると、それぞれのビットは僕の意思を受けて縦横無尽に駆け回り、オールレンジ攻撃で2機のリック・ドムⅡを貫いた。

 

 半世紀近い歴史のあるガンダムというコンテンツ。

 

 ビット系の動きのバリエーションは中々である。

 

 とはいえ──。

 

「ビットを操りながら機体も動かすのは、相当な骨ですね」

 

 意識を割いていたとはいえ、ビットの操作をすると機体がぼったちになってしまった。

 

 つまりファンネル同士でドックファイトしながら機体も戦うという事をやるアムロとシャアはやはり別格というのを実感としてその一端を掴んだ感覚だった。

 

 しかし一般兵相手ならばビットのオールレンジ攻撃で沈む為、機体はある程度ぼったちでも案外どうにかなる。

 

 だが、これがベテランや或いはニュータイプ相手ではぼったちは完全に隙を晒す事に他ならない。

 

 僕もニュータイプだ。

 

 なら、出来るということだ。

 

 

 

 

 

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