ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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第3話 ギャン・クリーガーだと!?

 

『なんなのコイツら、ボクばっか付け回して!』

 

 ドゥーとエレメントを組んでいる俺はあろう事か、その連携を分断されつつあった。

 

 ジオンの連中はドゥーのジオングを執拗に付け回し、明らかに消耗させようとしている。

 

 此方の攻撃も巧みに躱され、或いはデブリを盾にされてやり過ごされる。

 

 相手はジオン残党、今更何をしようと言うんだ。

 

「くっ、威力はあっても照準が…!」

 

 俺のガンダムMk-Ⅱ試作0号機のビームライフルは、マゼラン級の主砲と同等の威力がある。

 

 だがその代わりに縮退したメガ粒子が放たれる瞬間の反動が強く、命中率を低下させるというデメリットを抱えている。

 

 互いに高速戦闘をやる対MS戦だとこのデメリットは大きく足を引っ張る。

 

 相手が手練れとなるとさらに命中率が下がる。

 

「ようやく1機か…」

 

 ビームライフルを牽制に懐に飛び込み、ビームサーベルでドムを撃墜する。

 

 戦利品代わりにドムのバズーカをガンダムに持たせる。

 

 弾速はビームよりも遅いが、母艦を沈められた今は補給も出来ない。

 

 なら敵から奪うしかないだろう。

 

「俺をドゥーの所に行かせないつもりか!」

 

 性能は俺のガンダムの方が上であるはずなのに、こうもあしらわれると自分の腕が悪いのかと錯覚に陥りそうになる。

 

 ゲルググがビームライフルを撃ってくるのをシールドで防ぎつつ、ビームライフルを撃ち返す。

 

 そのビームを避けられ、撃ち返されたビームに向かってバズーカを投げつけた。

 

 ビームに撃ち抜かれたバズーカの弾倉に残っていた弾頭が爆発する。

 

 俺は強化人間だ。

 

 しかしアインやドゥー、他のムラサメナンバーズの様にサイコミュに適合しているニュータイプとは言い難い。

 

 それでも、ほんの僅かにでも、最近はニュータイプの真似事が出来るようになって来た。

 

「視える、俺にも敵が!」

 

 この宙域は今、アインの広げた意思に包まれている。

 

 蒼く視える宇宙の先、此方を見失いながらも変わらないガンダムに対する殺意の源へとガンダムMk-Ⅱを突撃させる。

 

 ジオンにとってガンダムは忌むべき存在。

 

 ただ、今この場ではその怨恨が徒となったな。

 

 爆炎を突き抜けて来た此方に反応が遅れたんだろう。

 

 アインが使って来る厭らしい手の一つだが、それはどれも有用だ。

 

 そのままの勢いでゲルググを蹴り飛ばし、その先へと回り込んで蹴り返す。

 

 脚部に負荷は掛かるが、ガンダムMk-Ⅱのフレームは頑丈に出来ている。

 

 仮に少しの不具合が出たとしてもAMBAC作動肢として生きていればどうにかなる。

 

 前後に吹き飛ばされて中のパイロットは無事では済まないだろう。

 

 デブリにぶつかり動かなくなったゲルググからシールドを拝借すると、ビームサーベルでコックピットを突き刺して無力化する。

 

 ビームライフルも欲しかったが、コネクターの違いから使えないと判断した。

 

「ドゥー!」

 

 機体からしてあのゲルググには指揮官か手練れが乗っていたはず。

 

 これで少しは楽になるはずだと思いながらドゥーへと声を掛ける。

 

『しつっこい!!』

 

 ドゥーのジオングは数機のザクとドムに囲まれながらデブリの中を追い回されていた。

 

 通常のMSの倍はある大きさの巨体をデブリにぶつけずに操り、攻撃も回避するのは流石と言う他ないものの、明らかに消耗させる動きとジオンがジオングを損傷させたくないと攻撃が散漫なのでどうにかなっているという様にしか見えない。

 

『纏わりついて、ウザったい!!』

 

 ドゥーのジオングがビームを放つが、周りのザクやドムはデブリを盾にやり過ごしている。

 

 流石にビームの直撃を貰うとマズいのは分かっている。

 

「アインは…」

 

 アインと合流してドゥーを助ければどうにかなるはず。

 

 デブリ帯でのシミュレーション成績はアインが次点の俺の倍近いスコアを出している。

 

 サイコガンダムの腕が有線式なのを利用して飛ばした腕でデブリを掴んで引き寄せて背中から襲って来たり、咄嗟に盾に使ったり、掴んだデブリを支点に急加速や急旋回、さらにデブリを蹴って加速も、デブリにぶつかるという恐怖が無いような動きをしてくる。

 

 サイコガンダムの起動テストに臨んだ後、アインはまるで別人になってしまった様に変わった。

 

 俺が出会った頃から感情が欠如した人形の様で、此方が話し掛けなければ自分から話しもしないし受け答えも事務的でまるでロボットだった。

 

 その声も抑揚はなく、本当に人間なのかと思ってしまう程だ。

 

 それがサイコガンダムに乗ることでいきなり人間の様になった。

 

 それが良いことだとわかっているのに、素直に喜べない。

 

 それはアインに対してこの上なく非情だろうとしても。

 

 サイコガンダムに乗ることで強化人間として完成してしまった。

 

 俺にはそう思えてならない。

 

 感情が無くまるで人形の様だったアインが人間らしくなったのは素直に喜んで良い筈だ。

 

 それを喜べない俺はマトモじゃない。

 

「なんだ……、アレは…」

 

 そう離れていないアインのサイコガンダムの方を見れば、1機のジオン系MSと常軌を逸した機動戦を繰り広げていた。

 

 脚の遅いサイコガンダムは縦横無尽に駆け巡るジオン系MSに対して遅れを取っているが、それでもAMBACを駆使した運動性で攻撃を躱して反撃する。

 

 あれが強化人間──いや、ニュータイプの動きなのか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ドムを撃墜した次はドゥーの援護に向かおうとした矢先だった。

 

 此方の行く手を一筋のビームが遮った。

 

 さらに続けて撃ち込まれるビームを回避しつつ相手を拡大する。

 

 それは大型ビームライフルを構えながら突っ込んでくるギャンの姿だった。

 

 しかしノーマルのギャンではない。

 

 かといってギャン・エーオースでもない。

 

 なによりその機動性は平均的なMSの倍以上。

 

 大型ビームライフルを捨て、構えたランスからビーム刃が出力する。

 

 その機体形状からまさかとは思って、理解が追いつかない現実が声として出力された。

 

「ギャンクリーガーだと!?」

 

 一年戦争末期、制式量産機としてゲルググとコンペを争ったギャンが、もしもゲルググではなくギャンが制式量産機として選ばれていたらというIFにより生まれたギャンシリーズの最上位機。

 

 史実のゲルググイェーガーに相当する機体であり、その機体スペックの詳細は不明だが、ゲルググイェーガーに匹敵すると考えると一年戦争時点で考えてもオーバースペックの機体である事は疑いようもなく、現にその機動性から垣間見える。

 

 その名を知る者など、この時代にはそう多くないはずだ。

 

 だが僕にはわかる。

 

 何故なら、それは“そういうもの”だからだ。

 

 歴史に存在しないはずの影。

 

 だが、それはまるで最初からここに在ったかのように空間を支配していた。

 

 全身を銀灰色の装甲で包んだギャン・クリーガーは、僕のプロトサイコガンダムより一回り小柄で、それゆえに機動も鋭い。

 

 真正面から射撃戦を挑めば、命中させるのは困難。

 

 ならば──。

 

 僕は、思考を手放した。

 

 否、考えることを捨てたわけではない。

 

 むしろ逆。全ての演算を、戦場の状況予測も、敵の未来位置も、感情のノイズすらも、その一切合切を含めて処理した。

 

「制御、解放。ビット全射出」

 

 六基のビットがプロトサイコガンダムから円弧を描いて飛び出していく。

 

 これは本来、リフレクタービットの開発実験の一環である。

 

 だが今は、そんな意図もどうでもよかった。

 

 サイコウェーブが脳髄から機体を通じて空間に放たれる。重たい感覚、硬質な感触。

 

 指先から、意識の断片が離れていくような──。

 

 いや、違う。今はそれすらどうでもいい。

 

 僕はただ、“勝たなければ”ならなかった。

 

 ドゥーを護るために。

 

 ゼロに任せきりにはできない。

 

 戦場の片隅で、それは確かに理由として芽吹いていた。

 

 ギャン・クリーガーが空間を裂いて突進してくる。

 

 スラスターの火線がデブリを焼き、無数の金属片を煌めかせる。

 

 有線の右腕を振るい、デブリを掴み投げつける。まるでカウンターを放つように。

 

 ──それすら、見切られていた。

 

 ギャン・クリーガーのランスが閃光となって薙ぎ払われる。

 

 掴んだはずのデブリが割れて爆散する。

 

 爆煙の向こうから、ギャンの機影が飛び込んでくる。

 

「……やるな」

 

 淡々とした自分の声が漏れる。

 

 だがその裏で、神経の何本かが焼けるような痛みを覚えていた。

 

 まだだ。僕はまだ……。

 

「まだ、できる……!」

 

 左腕のビームキャノンを即座に発射。

 

 威嚇、牽制、そのどれでもない。

 

 空間を“圧す”ための射撃だ。

 

 そして、同時にサイコミュで操るビットを敵機の軌道上にぶつけるように展開する。

 

 逃げ道を潰し、狩場へ誘導する──。

 

 ギャン・クリーガーの挙動が、一瞬だけ鈍った。

 

 ビームが掠め、肩の一部が焼け落ちる。

 

 そこを狙う。再びビットを高速旋回させ、中央へ収束──!

 

 しかし、そこでサイコミュに微かなノイズが走った。

 

(……共鳴?)

 

 僅かに、脳裏にドゥーの存在を感じた。

 

 視界の奥で、パーフェクトジオングが大きく振り返っている。

 

 それだけではない。僕を見ている。

 

 意識がこちらへ流れ込んできて──。

 

「……ダメだ、ドゥー。見てはいけない」

 

 僕の中で、何かがざらりと剥けた。

 

 ドゥーは知らない。

 

 僕が“どこから”この知識を得ているのか。

 

 これ以上踏み込まれれば──。

 

 否、いまは戦闘だ。

 

 意識を引き戻す。

 

 ギャン・クリーガーが再び高速で間合いを詰めてきていた。

 

 今度は左へ捌き、軌道を逸らしながら左腕を囮に突き出す。

 

 掴ませる、そのまま自分の体を回転させて──。

 

「右脚部で反転、膝打ち」

 

 脚部AMBACを過負荷状態まで動作させ、フレームが悲鳴を上げる。

 

 だが、構わない。

 

「当たれぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 動きが止まったギャンの胴体へ、集中したビットの火線が突き刺さる。

 

 爆炎。

 

 その中を滑るように抜けたギャン・クリーガーは、未だ戦闘不能ではなかった。

 

 爆発の余波で一部装甲が剥離していたが、それでも尚──。

 

「この程度……か」

 

 次の一撃を放つ前に、再びノイズ。

 

 今度は、ゼロの存在だ。

 

 彼がこちらに向かっている。

 

 だが、僕は通信はしない。

 

 する必要がない。

 

 彼が来る、それで充分だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 それは、瞬きのような一瞬だった。

 

 追い詰められたドゥーの意識が、重力のない空間で流星のように放たれたビームの間をすり抜けるその刹那──。

 

 《キラキラ》が、視界を満たした。

 

 眩い輝き。

 

 火花の様で、星のようでもあるそれは、まるで宇宙に咲いた花のように彼女の心を包み込んだ。

 

(……なに? これ……)

 

 思考が途切れ、直後、彼女の中に映像が流れ込んでくる。

 

 ──二機のモビルスーツが、死地で交錯する。

 

 ジオングと、RX-78-2ガンダム。

 

 ア・バオア・クーの決戦の最中、狂気すら孕んだ殺意と執念が交差し、引きちぎられた機体と共に激突する。

 

 ただの記録映像ではなかった。

 

 それは“心”だった。

 

 ジオングの中にいた者の怒り、悲しみ、諦め、そして──。

 

(これは……シャア?)

 

 明確な像ではなかった。

 

 だが、ドゥーには理解できた。

 

 これが“ニュータイプの記憶”だと。

 

 アインが時折見せる、あの目の奥に灯る理解の深さ。

 

 あれはこういう感覚を既に知っていたからだと、今ならわかる。

 

(嫌だ……見られたくない、アインに……ボクの中を──)

 

 だが、その一方で、恐れよりも深く静かに、熱のようなものが全身を巡っていく。

 

 ジオングの脚のないフォルム、サイコミュでの完全遠隔操作。

 

 そうだ、これは機械じゃない。

 

 操縦席に収まる“ボク”ではなく、“ボク自身”がこの機体なのだ。

 

 ドゥーの意識が、ジオングの各部へと拡張されていく。

 

 胸部ユニットが“息をし”、腕部が“伸び”、砲塔が“睨み”、ブースターが“跳ねた”。

 

 自我が、機体と完全に結びついていく。

 

「……うるさいなぁ……もう」

 

 つぶやく様に放ったその声には、明らかに色が宿っていた。

 

 サイコミュが共鳴し、閃光のように応じる。

 

 周囲を囲むザクⅡ、リック・ドムⅡ、ゲルググ──いずれも一瞬、攻撃を止めた。

 

 その隙を、ジオングは逃さない。

 

「うるさいって、言ってるんだよッ!!」

 

 左右の腕部メガ粒子砲が展開され、ジオン残党機の間を縫うように走る。

 

 だが今回はただ撃つだけではない。

 

 射線の直前に指部を曲げ、偏向を生む。

 

 咄嗟に回避行動を取ったザクの横腹を、そのビームは的確に撃ち抜いた。

 

 爆散。

 

 ドムの踏み込みに対して、ドゥーは本体ごと姿勢をひねり、ジオングの“腰”を捻ってカウンターのようにビームを振り向きざまに照射。

 

 爆発。

 

 ゲルググが射撃姿勢を取るより先に、ドゥーは左手を分離、ビーム散布に紛れて急接近──。

 

「もらった!」

 

 左腕部が敵機のライフルを掴み、ひねり潰す。

 

 そのままビーム砲を機体に叩きつけ、四肢を失った機体がデブリに激突して停止した。

 

 ──その異様な連携の正体に、ようやく残党軍が気付く。

 

 これは、ただの機体性能ではない。

 

 このジオングは“人間の戦い方”ではない。

 

 完全に、機体と融合している。

 

 意識が、機械の挙動を超えて自在に空間を泳いでいる。

 

 それはまさに、“ニュータイプの機体の動き”。

 

 恐怖が広がる前に、指揮官機と思しきゲルググMが通信を発する。

 

『全機、撤退しろ! ジオングは完全に覚醒している! 損耗は無意味だ!』

 

 命令が行き渡る。ドム、ザク、ゲルググたちが続々と撤退に移行する。

 

 その様子を、宙域のさらに外側から監視していたギャン・クリーガーもまた、慎重にその機体を引いた。

 

 既に右肩部と胸部装甲に小規模な被弾痕があり、このまま戦闘を継続すれば撤退不能になる。

 

「……やはり、あれは本物か」

 

 電子制御の一部を切り離し、加速スラスターが起動。

 

 ギャン・クリーガーは一閃の如く戦域を離脱した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ふぅ……」

 

 ドゥーの深いため息が、無音のコクピットに吐き出された。

 

 消耗はしている。精神の疲労も凄まじい。

 

 だが、いまの自分にはそれ以上に、“手応え”が残っていた。

 

 ジオングを、自分が“手足”として使っているという感覚。

 

 それは戦いで疲弊した心に、奇妙な静けさを与えていた。

 

(これが……ニュータイプってこと?)

 

 ほんの一瞬だけ、アインとの“繋がり”を感じたのは確かだった。

 

 彼が自分に「見ないで」と言った理由が、少しだけ理解できた。

 

 でも──。

 

「……ボクはもう、見てしまったよ、アイン」

 

 呟きとともに、彼女の乗る巨大なジオングは、緩やかに回頭する。

 

 誰かが待っている気がして、宇宙の先を見た。

 

 

 

 

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