ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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第39話 この機体が目指すものを、自分なりに探してみます

 

 格納庫の天井を照らす白色灯が、3機の白いモビルスーツを浮かび上がらせていた。

 

 2機は両肩に追加装甲、腰部にミサイルラック、シールドにビームライフルとフル装備を整え、出撃態勢を整えている。

 

 もう1機は、追加装備を外した素体状態──その姿は、ジムⅡの延長線にありながらも、構造の刷新と装甲の洗練を感じさせるものであった。

 

「ったく……なんだよこれ、ジムの名前が泣くぜ。まるで“ジムの皮かぶったガンダム”じゃねぇか」

 

 モンシア中尉が煙草をくわえたまま、整備リフトの上からジムⅢを見下ろして毒づいた。

 

「いや、いいじゃねぇか。モビルスーツってのは見た目と火力がすべてだ。どうせなら一発で敵がビビる方がいい。ケツの穴の締まりも違ってくるってもんだ」

 

 隣で腕を組んだベイト大尉が、気の抜けた笑いを漏らす。

 

「……で? モンシア中尉が乗るのは素体仕様、と。冗談じゃなく、火力の少なさを腕で補えって話ですかね?」

 

 アデル中尉が苦笑交じりに呟く。

 

 彼の視線は、追加装備のない1機のジムⅢへと向けられていた。

 

「俺かよ!? ったく、何で俺だけ半裸なんだ。まさか“ジム”らしさを体現しろってことかよ……」

 

 モンシアが顔をしかめながら、苦虫を噛み潰すようにぼやく。

 

「……まあ、我々に任せた理由としては『ジムを最も知っているから』とのことでしたから。火力より信頼性重視という意味では納得です」

 

 アデルは一歩前に進み、フル装備の1機に手を添えながら言葉を続ける。

 

「性能は確かに悪くありません。追加装備で拡張性もある。……ただ、基礎構造のバランスが良すぎる。こいつは“やりすぎてない”優等生です。まるで教科書通り」

 

「ふん……だったら俺が教えてやるよ。実戦ってのはな、教科書通りじゃ生き残れねぇってな」

 

 ベイトが鼻で笑ってコクピットハッチに手を掛ける。

 

「へっ、まったくよ。俺たちゃいつから“教官”になっちまったんだか……。まあいいさ、やるからにはちゃんと仕上げてやるよ。この“新入り”をな」

 

 そのとき、整備主任が頭を下げつつ声をかけてきた。

 

「……モンシア中尉、ベイト大尉、アデル中尉。機体は所定の冷却テストと調整完了済みです。中佐殿からは“自由に使ってくれて構わない”との伝達を預かっております」

 

「自由に、ねぇ……。はっ、そりゃ嬉しいね。んじゃあちょいとばかし、本気で飛ばさせてもらおうか」

 

モンシアが悪戯っぽく笑い、背後に控える素体仕様のジムⅢへと歩き出す。

 

「ま……俺たちが乗ってる時点で、どのジムでもタダじゃ済まねぇってこった」

 

 その言葉に、3人の間にほんの一瞬、デラーズ紛争を思い出すような、無言の“戦友”の空気が流れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 冷却リフターの駆動音が止まり、静寂が戻った。

 

 格納庫の中心、支柱から解放されたばかりのアンクシャのフレームが、しんとした空気の中に蒼銀の骨格を晒していた。

 

 その構造は未だ外装装甲のほとんどを欠いた“骨組み”に過ぎなかったが、肩軸と脊椎フレームの可動設計には、空気を切り裂く流線の意図がはっきりと宿っていた。

 

 変形機構の中枢──サブ・フライト・システムとしての円盤形態へと収束するための基部構造は、アッシマーの“血”を確かに受け継いでいる。

 

 リフトの上段に立っていたブラン・ブルターク少佐は、何も言わず、その姿を見下ろしていた。

 

 ……否、正確には、“見守って”いた。

 

 その眼差しは、かつてのアッシマーに乗り込み、空と大地を縫うように翔けた己の想いと誇りを重ねるようでもあり、今この場に、新たに生まれつつある翼を見つめる整備士にも似た敬意が込められていた。

 

「──やるじゃねぇか。……あの坊や、見事に血統を繋いだな」

 

 独り言のように、低く唸る。

 

 その声音に、呆れもなければ賞賛もない。

 

 ただ、戦場を飛ぶ“意味”のある機体を見た者だけの、静かな納得があった。

 

 このアンクシャが生まれた事でアッシマーは旧式となった。

 

 だが、それは共に“時代”の空を切り裂いた矜持であり、今ここにいる自分の“原点”だった。

 

 それを新しい“名”と“姿”で受け継いだアンクシャに、ブランは“口出し”するつもりなどなかった。

 

 機体下部で作業していた整備員が、彼に気づいて敬礼する。

 

「少佐、機体フレームの重心バランス、想定よりも上にあります。変形時の姿勢制御には、まだ調整が必要かと」

 

 ブランはそれにゆっくりと頷き、リフトの手すりに片肘をかけて、飄々と口を開いた。

 

「……なら、飛ばしてみりゃ分かるさ。あいつが空で泣くか、笑うか……それが全部だ」

 

 口元に、かすかな笑み。

 

「よし。テスト飛行は、俺がやる。どうせなら──“空の味”を教えてやらなきゃな。こいつにも、作ったやつにもよ」

 

 それはまるで、過去の自分と“新型機”への手合わせを申し込むような台詞だった。

 

 フレームだけのアンクシャが、静かに立っている。

 

 それはまるで──今はまだ未完成な“翼”が、ブランの言葉に応えるように、そっと風を待っているかのようだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 艦が長く動かない。

 

 それは軍人にとって、呼吸の浅さに似ている。

 

 アルビオンが最前線を離れたのは、アイン・ムラサメ中佐がティターンズ調査局特務室の室長に任命されて以降のことだった。

 

 戦艦という存在が戦場にいない理由──それは、彼がいま“別の戦い”に挑んでいるからに他ならない。

 

 だが、その“別の戦い”が──あまりにも多すぎた。

 

 空き家と化したジャブローの再建。

 

 スードリの保全維持。

 

 ジムⅢ、ジェダ、ジェガン、そしてアンクシャという連邦の将来を左右する新型機群の構想と設計。

 

 それらを並行して処理しているアインは、もはや軍の技術本部と監察局、政治課を一人で背負っているも同然だった。

 

 それがどれほど過剰な負担かは、傍目にも明らかだった。

 

 ──少しは、手を貸してやるべきではないか。

 

 ある朝、思い立ったように艦橋で声をかけた。

 

 「最近、暇だしな。手伝ってもいいか」と。

 

 アインは、いつものように微かに笑って「恐縮です」とだけ返した。

 

 だがその顔には──明らかな安堵があった。

 

 もっとも、自分にはMS開発の監督ができるわけでもない。

 

 フレームの応力設計も、装甲材の選定も、ジェネレーターの仕様も、知識の上では遠い世界だ。

 

 自分はどこまでいっても──艦の男でしかない。

 

 だが、伊達に“大佐”をやっているわけではない。

 

 ティターンズ調査局特務室が握る機密帳簿群。

 

 その山のような帳簿を読み解き、経理記録と照らし、機材の流れを追う──まるで憲兵の真似事だが、“裏金”や“名義貸し”、あるいは“不自然な契約の迂回”など、読み解ける不正のパターンは、戦争をくぐった目には浮き彫りになる。

 

 地味な作業だった。

 

 目を皿にして数値と格闘し、表計算ソフトの軍務画面とにらめっこし続ける。

 

 だがアインには、その地道さを丁寧に“正義”へと変える根気があった。

 

 ──彼がやろうとしていることは、戦争ではない。

 

 しかし、誰よりも困難な戦いだ。

 

 ジャブローを空にした日。

 

 自爆を偽装し、エゥーゴを撤退させたその判断は、政治的にも軍事的にも稀有な成功例だった。

 

 その代償として、あの日逃げ遅れた兵士たち──連邦兵もティターンズ兵も、全員が一度は地獄を見た。

 

 だが、彼らは“戻ってきた”。

 

 思想的に問題のない者たちだけを選び、かつての配置に。

 

 さらには、アウドムラとスードリに乗って脱出した守備隊の者たちまでが──志願して、戻ってきた。

 

 「命を預けられるのは、アイン中佐の下だけだ」

 

 誰かがそう言った。

 

 彼はあの日、“ジャブローを死守しろ”とは命じなかった。

 

 それだけで、兵たちは救われた。

 

 自分たちが本来、何者だったかを思い出したのだ。

 

 ──市民を守る、連邦軍の軍人だと。

 

 その背中に惹かれ、人が集まり、想いが集まる。

 

 気づけばアルビオンを中心に、誰に命じられるでもなく“派閥”が生まれつつある。

 

 まだ十八の若者に、背負わせるにはあまりに重いものだ。

 

 一年戦争で、自分がホワイトベースを預かったのは十九歳のときだった。

 

 だが、それでも──アインの背負うものの方が、遥かに重い。

 

 彼はティターンズという、腐敗を含んだまま膨張する組織を、望むと望まざるとに関わらず──“正しさ”の象徴として背負わねばならなくなるだろう。

 

 ──ならば、自分にできることは何か。

 

 それは昔から変わらない。

 

 仲間の至らぬところを、静かに補うこと。

 

 部下が選んだ“正しい道”を、艦長として支えること。

 

 かつてはそうは出来なかった、してやれなかった。

 

 セイラに、カイに、ハヤトに、──アムロにも。

 

 そして、今また──アイン・ムラサメという若者に、かつて出来なかった事をやるのは決して罪滅ぼしではない。

 

 連邦軍の軍人として、ひとりの“大人”として。

 

 今を藻掻き足掻く若者を導くこと。

 

 それが、ブライト・ノアという男の生き方だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 グリーンに塗装された新型機──“ジェダ”は、ついにその静かな全容を晒していた。

 

 量産機らしい簡素な塗装。シールドにはマーキングの類ひとつ無く、まるで「軍機としての匿名性」を自ら主張しているかのようだった。

 

 シルエットはジェガン系列に近い。

 

 しかし、より厚みを増した胸部装甲と、機能性を優先した関節周りの構造は、あきらかに“戦時の現実”に即した設計であり、英雄ではなく兵士が乗るための兵器としての思想がにじみ出ていた。

 

 だが、そこには確かな洗練があった。

 

 無骨でありながらも粗野ではなく、理性ある整備思想と緻密な計算が宿っている。

 

 モビルスーツとしての“気品”とでも言うべき美しさが、確かに存在していた。

 

 その傍らに立つアイン・ムラサメ中佐は、静かに、しかし明瞭な声音で口を開く。

 

「コウ・ウラキ中尉。この機体は、あなたに託します」

 

 驚いた様子で一歩前に出たコウに、アインは微笑みさえ浮かべながら続けた。

 

「あなたは、テストパイロットとして機体を理解する力に長けている。そして、命令よりも正義を選ぶことのできる人だ。この“ジェダ”は、そういう人間に乗ってもらいたかったんです」

 

 コウは一瞬だけ言葉を失い、それから軽く頷いた。

 

「……ありがとうございます。……いえ、責任重大ですね。けど……やってみます、中佐。この機体が目指すものを、自分なりに探してみます」

 

 そう言って、コウはジェダの操縦席に向かって歩き出す。

 

 その背中を見つめながら、アインは目を細め、ひとつだけ言葉を残した。

 

「──この機体が、あなたの手で“秩序の象徴”になることを、僕は信じていますよ」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

  アルビオン艦内・調査局特務室。

 

 電子帳簿が静かに更新されるのを見届けながら、アイン・ムラサメ中佐はようやく一息つくことを許された。

 

 資料の束は減り、報告案件のいくつかが既読済みフォルダへと流れていく。

 

 ──これは、あの人の功績だ。

 

 ブライト・ノア大佐が、空き時間のすべてを使ってティターンズの帳簿監査に加わってくれたのだ。

 

 現地からの補給記録や機体配備表、燃料の搬送記録に至るまで──。

 

 もはや艦長ではなく、軍政監と呼んでも差し支えないほどの執務を果たしていた。

 

 アインは感謝と共に、あることを思い出していた。

 

(……今しかないな)

 

 ゼロに目配せすると、すでに準備は整っているらしく、機密通信チャネルが自動的に開かれる。

 

 画面の中に現れたのは、例の“匿名窓口”──。

 

 アナハイム・エレクトロニクス社の、表に出ない情報部門だ。

 

「……これはこれは。ティターンズの『良心殿』から直電とは、今日は何の風の吹き回しで?」

 

「メタスの構造図です。要件はそれだけです」

 

 こちらの端的すぎる要請に、画面の相手は肩を竦めてみせる。

 

「また大胆な。まさかZそのものが欲しいってわけじゃないでしょうね?」

 

「いえ。“その前段階”で結構です。変形構造、骨格、可動アクチュエーター……それだけでいい」

 

 相手が言葉を切る。だが、明らかに興味を引かれていた。

 

「……なるほど。ティターンズがそこまで可変機構に興味を持つとは。もしかして、アッシマーの後継とやらと繋がりが?」

 

「それを貴方が推測しても、私は肯定も否定もしません」

 

「ふむ……ですが、メタスのデータはZ系機体の“踏み台”として使われた分、保管層がやや深い。表ルートでは通りませんよ?」

 

「承知の上です」

 

「では、何かしら見返りはいただきましょうか。貴方が交渉材料を持たずに来たとは思っていません」

 

 アインは一瞬、視線を落とした。そして、資料ファイルの一部を選び、暗号化キーを付してアップロードする。

 

 ファイル名にはこう記されていた。

 

> "Dagger Series: Modular Tactical Frame Evaluation – STRK・LNG・FRT"

 

 

 通信相手の目が静かに細まる。

 

「……“ストライクダガー”、“ロングダガー”、そして……“フォルテストラ”?」

 

「ええ。“ロングダガーフォルテストラ”はその発展案です。現行のティターンズ兵装体系とは距離がありますが、火力重視の局地配備機として、評価対象にはなるはずです」

 

「見せてもらいましょう。“中距離支援機”と“機動火力特化型”のデュアル開発か……最近の軍は欲張りになったものですな」

 

「評価するのは貴方たちの部門。私は“カード”を出したにすぎません」

 

「なるほど、メタスとの引き換えには、悪くない条件だ。……三日後、例の“廃棄ルート”で。コードは『ASH-401』。こちらからはそれ以上申しませんよ、中佐」

 

「ご配慮に感謝します」

 

 通信が切れた。

 暗がりに戻った室内で、アインは静かに息を吐いた。

 

 メタスの構造データ──。

 

 この情報さえあれば、アンクシャの完成精度はさらに引き上げられる。

 

 そしてその先には、“未だ存在すらしていない”可変量産機という可能性すら視界に入りつつあった。

 

 それはまだ誰も知らない概念だ。

 

 Ζガンダムすら完成していない今、それを“構想”として抱えているのは、他でもないアイン・ムラサメただ一人である。

 

 可変と量産の両立──。

 

 「リゼル」という名前はまだ、この世界のどこにも存在しない。

 

 だが、確かにその“種”は今、芽吹こうとしていた。

 

 機密通信が途絶え、調査局特務室の空間に再び沈黙が戻る。

 

 複数のモニターが緩やかにスリープモードへと移行する中、背後の気配がアインのもとに寄せられた。

 

「……アナハイムとの交渉ルートなんて、いつの間に仕込んだ?」

 

 低く、淡々とした声音。ゼロだった。

 

 アインはデスク端に置かれた湯気の消えかけたカップを取り上げると、一口すする。

 

 温度も味も、既にほとんど感じ取れない。

 

「アルビオンが、アンマンへ立ち寄った時に少しだけ」

 

「……抜け目ないな」

 

 ゼロの口調に、僅かに呆れと感心が混ざる。だがアインはそれに構わず、僅かに唇の端を持ち上げて見せた。

 

「いつ使うとも分かりませんからね、こういうのは」

 

 その言葉の後、アインの顔には珍しく、“悪戯めいた”笑みが浮かんでいた。

 

 それはどこか、少年めいた自信としたたかさが混じり合った表情。

 

 ゼロは片眉を僅かに上げただけで、何も言わなかった。

 

 だが、それだけで十分だった。

 

 お互いが、何を仕込み、何を抱え、どこまでを読んで行動しているか──沈黙のうちに理解していた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

月面・フォン・ブラウン市郊外──アナハイム・エレクトロニクス社・第5応接室

 

 ホログラフィックテーブルに、三機のモビルスーツが立体映像で投影されていた。

 

 一機目──。

 白とグレーの実用一辺倒な装甲。頭部にはロッドアンテナ。

 

 ジムⅡの延長線上にありながら、どこかしら“匿名性”を感じさせる輪郭。

 

 《ストライクダガー》

 

 アナハイムが提示した、量産性を重視した主力機更新案だった。

 

 二機目──。

 赤黒を基調に、装甲各所が強化され、頭部には側面にV字アンテナ風のブレードを二本装備。

 

 その名の通り、ストライクダガーをベースにした指揮官型──。

 

 《ロングダガー》

 

 電子戦装備、通信能力、OS統制機能を強化し、戦線全体の“統率核”としての役割を担う。

 

 三機目──。

 ロングダガーを基礎に重装化。肩部スラスター、増設ジェネレーター、大型武装ポート。

 

 構造的には制空戦闘や迎撃任務に特化した重武装型。

 

 《ロングダガー・フォルテストラ》

 

「──いかがでしょう、ブレックス准将。いずれも“ジム”系列から脱却した、新しい“象徴”として申し分ないと考えますが」

 

 アナハイム側の担当者は、誇張を抑えつつも明確に提案の意図を込めた。

 

 ホログラムをじっと見つめるブレックス・フォーラ准将。

 

 隣ではクワトロ・バジーナ大尉が腕を組み、黙って様子を見守っていた。

 

「操縦系統は?」

 

「基本操作系はジムⅡと互換性を維持しています。特にストライクダガーは“慣熟訓練ゼロ”でも初期配備が可能な水準です。ロング系列については、コマンドリンク・データバスや広域戦術管理機能を追加していますが、扱いやすさは保証します」

 

「コストは?」

 

「ストライクダガーがネモの約7割。ロングダガーはその110%、フォルテストラは130%といったところでしょうか。ただし、三機とも兵装拡張性が高く、長期的な運用コストはむしろ抑えられます」

 

 沈黙が落ちた。

 

 だがその場を覆っていたのは、明確な“好感触”だった。

 

 ロッドアンテナのストライクダガーは、匿名性と均質性に徹した“連邦の量産機”そのもの──だが、そこにはガンダムでもジムでもない独自性があった。

 

 そして、ロングダガー。

 

 戦術核としての運用を前提としながらも、頭部のアンテナが象徴するように“新たな意志”の信号塔として機能する。

 

 フォルテストラに至っては──。

 

 従来の制空権理論を塗り替える、戦術的主張そのものだった。

 

「……ジムを脱ぎ、ガンダムを名乗らず、ダガーを選ぶか」

 

 クワトロが、ぼそりと呟く。

 

「象徴の選び方次第で、未来の形は決まります。ならば、ジムに縛られず、ガンダムに頼らず──その間にある“意味”を選ぶべきでしょう」

 

 ブレックスは頷いた。

 

「我々は“過去の軍隊”から、軍を取り戻さねばならん。そういう意味でも、ストライクダガーは悪くない。ロングダガーも“指揮官の背中”としては、申し分ない」

 

 即断だった。

 

「エゥーゴへの導入を前提に、アナハイムと連携体制を整えろ。クワトロ大尉、貴官にも現場調整を任せたい」

 

「了解しました」

 

 その瞬間──。

 

 “ガンダム”という名に頼らぬ、新たな戦列の芽が、エゥーゴ陣営に静かに根付いた。

 

 

 

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