ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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第43話 言い切ったな、少年。いや、“男”よ

 

【ダカール議事堂・連邦総会本会場】

 

 議長の槌が硬質な音を立て、開会を告げる。

 

 壇上に立ったひとりの男が、場の空気を一変させた。

 

 ティターンズ監察軍政官庁長官──ジャミトフ・ハイマン准将。

 

 その姿が壇上に現れた瞬間、各国の代表たちはざわつきを抑えた。

 

 その寡黙で威厳ある立ち姿には、軍の首脳であるという以上に、まるで“国家そのもの”の具現のような重みが宿っていた。

 

 ジャミトフはゆっくりとマイクの前に歩み寄り、止まる。

 

 そして、ほんの数秒の間を置いて、静かに、しかし場の全てを刺すように言葉を放つ。

 

 

「まず本会期に先立ち、諸君に遺憾なる報を伝えねばならぬ」

 

 その第一声だけで、議場全体の熱が下がる。

 

 ざわめきが収束し、沈黙が始まる。

 

 ジャミトフの声は決して大きくはなかった。

 

 だが、壇下の者たちの心臓に直接、響き渡るような重さがあった。

 

「本日未明、月面フォン・ブラウン市において、我がティターンズ所属部隊の一部が、“アポロ作戦”と称する局地的軍事行動を独断で実行したことが確認された」

 

 誰かの息を呑む音が、わずかに聞こえた。

 

 宙域通信の速報として既に知る者もいたが、それを公式の声明として聞かされるという事実が、この場の空気を一層引き締める。

 

「これにより、市街の一部通信インフラと民間施設に損害が発生し、また交戦の果てに、同宙域を防衛していたMS部隊によって撃退されたことも、すでに判明している」

 

 苦い沈黙が議場を支配する。

 

 外交官の間では視線が交錯し、議員たちは顔を顰め、一部は手元の端末に素早く情報の裏取りを試みていた。

 

 だが、壇上の男は微動だにせず、まっすぐに言葉を紡ぎ続ける。

 

「本行動は、地球連邦軍本部およびティターンズ上層部の命令を一切受けておらず、作戦指令の権限違反と見做される可能性が高い」

 

 その語調には、怒気も焦燥も含まれていなかった。

 

 だが、“法と秩序”という名の無言の刃が、言葉の一つ一つに鋭利に編み込まれていた。

 

「すでに監察軍政官庁は本件に関わった人物──ジャマイカン・ダニンガン少佐およびバスク・オム派司令部に対し、査問手続を開始している」

 

 壇下で小さなどよめきが生まれる。

 

 ついに名を出した。

 

 “ティターンズ内部の派閥抗争”が、今ここで明るみに出されたのだ。

 

「諸君。我々連邦は、治安と秩序、そして市民の安全を第一義に置いてきた。如何なる“私戦”も、法の名の下に看過することはできぬ」

 

 ジャミトフの声は一層低くなった。

 

 だが、その低音こそが議場を打つ鎚音のように響いた。

 

 席に座る者たちの中で、いったい何人が“これは粛清の始まりだ”と理解しただろうか。

 

 数秒の間を置いて、ジャミトフは口を引き結び、一度だけ目を伏せる。

 

 そして、再び顔を上げ、まっすぐに聴衆を見据えながら頭を垂れた。

 

「……この場を借り、フォン・ブラウン市ならびに月面市民の皆様に、地球連邦政府の一員として、心より謝意とお詫びを申し上げる」

 

 言葉の一つ一つが沈み込みながらも、確かに届いていく。

 

 その姿は謝罪というよりも、“決意の証明”だった。

 

「そして本総会の席上において、本件に関する説明責任と処置を、誠実に果たすことをここに誓う」

 

 ジャミトフ・ハイマンは、もう一度だけ頭を下げた。

 

 それは“ティターンズ”としての頭ではない。

 

 地球連邦という国家の、軍政そのものの責任者としての誓約だった。

 

 静寂。

 

 誰も口を開かない。

 

 ただその場に、重く圧し掛かるような“国家の意志”が降り立っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【ダカール市政府庁舎・臨時記者会見室】

 

 照明が反射するガラス壁越しに、ダカールの朝陽が淡く差し込む。

 

 ジャミトフ緊急声明を壇上にて語る裏で、部屋の空気は冷たい緊張で満ちていた。

 

 臨時に設けられた会見場。

 

 そこには、30を超える国内外の報道機関が詰めかけ、重厚なカメラとマイクが一斉に向けられていた。

 

 記者たちのざわめきが止むのに、さほど時間はかからなかった。

 

 彼が、ゆっくりと壇上に現れたからだ。

 

 ティターンズ監察軍政官庁 長官代理室長──アイン・ムラサメ中佐。

 

 年若くして異例の地位にありながら、その立ち居振る舞いには一切の隙がなかった。

 

 黒地の制服の襟元をきちんと整え、端正な顔立ちに浮かぶのは威圧でも虚勢でもない、抑制された理知の光。

 

 アインはゆっくりとマイクに口を近づけ、静かに口を開いた。

 

「本日、フォン・ブラウン宙域における軍事衝突の報を受け、連邦政府および軍政当局より正式な声明が発表される予定です。──その内容に先立ち、監察軍政官庁として、現時点で確認されている事実を皆様にお伝えします」

 

 張り詰めていた空気が、一転して「情報収集」という熱を帯びる。

 

 記者たちの目が、音を立てるように鋭さを増す。

 

「午前05時22分、ティターンズ所属の一部部隊──ジャマイカン・ダニンガン少佐を含む局地戦力が、月面・フォン・ブラウン市に対して軍事行動を開始しました。──この作戦は、いかなる上層部承認も存在しない独断行動であり、我々監察軍政官庁としては即時に“指令系統逸脱”と断定しております」

 

 各社のカメラシャッターが一斉に光を放つ。

 

 アインは一度、言葉を切り、水を一口含んだ。

 

 その動作ひとつも、決して慌てた様子はない。

 

 まるでこれから話す内容が、すべての論点の「基準」になると理解しているかのように──。

 

「現地市街には民間人も多く、既に複数のインフラ被害が報告されています。被害の拡大を防いだのは、エゥーゴ所属MS部隊の即応によるものであり、──市民の安全が最優先されたことについては、我々としても率直に評価すべき事実と認識しております」

 

 わずかなざわめき。

 

 “ティターンズの士官が、エゥーゴの行動を評価した”。

 

 その一節が、場に新たな波紋を広げた。

 

 しかしアインは、ひるまない。

 

 その視線の奥にあるものは、常に「民」の視座だった。

 

「今回の行動に関与した指揮官および部隊に対しては、すでに監察手続きが開始されており、査問・拘束命令を含めた措置が進行中です。──ティターンズ内部においても、正統な指揮系統の尊重と、秩序の維持が最重要であることを、改めてここに明言いたします」

 

 記者席から、控えめながら拍手が生まれた。

 

 感情的ではない。

 

 だが、毅然とした態度と明確な指針を提示するその発言に、「報道」が共鳴するのは当然の反応だった。

 

 数秒の沈黙。

 

 その上で、アインはゆっくりとマイクの音量をやや落とし、記者席を見渡すように言葉を続けた。

 

「最後に……これは私個人としての所信であり、いかなる派閥や理念に偏るものでもありませんが──」

 

 記者たちが、手元のメモを止める。

 

 全ての注意が、次の一言に注がれていた。

 

「私は、“市民を守る”連邦軍の軍人です。

ティターンズという組織が、この責務を果たせるように──

私は、粉骨砕身、務めさせていただく所存であります」

 

 その瞬間、記者会見場に、静かな衝撃が走った。

 

 賛同でも、反発でもなく──「認識の更新」。

 

 若干19歳の若き士官が、これほどまでに「政治的な空間」を掌握しうることに、誰もが言葉を失った。

 

 そして、誰もが思った。

 

 ──これは、単なる記者会見ではない。

 

 アイン・ムラサメという“旗”が、確かに掲げられた瞬間なのだと。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【ジュピトリス艦橋・戦略指揮区画】

 

 艦橋の気密ドアが静かに閉まり、重力制御によるわずかな足音だけが響いていた。

 

 シロッコ私室の奥。

 

 パプテマス・シロッコ大佐は、モニター前に設けられた黒檀の椅子に座し、二つの映像記録を交互に再生していた。

 

 一つは、ダカールでのジャミトフ・ハイマンの緊急声明。

 

 一つは、同時刻に行われたアイン・ムラサメ中佐の記者会見。

 

 それらを最後まで無言で視聴し終えると、シロッコはゆっくりと立ち上がり──。

 

「……なるほど」

 

 静かな声。

 

 だが、それは氷のように研ぎ澄まされた理性を孕んでいた。

 

「“旧世紀の男”が、ついに神輿を掲げたというわけか。──これは、存外に面白い風が吹き始めたな」

 

 彼は、無意識に指先を額に当てる。

 

 その姿はまるで思考の速度に肉体が追いつかぬことを悟る天才の、それだった。

 

 ふと、傍らの卓上端末に手を伸ばす。

 

 そこには、今朝未明──自分が拒絶した“愚行”の記録が残っていた。

 

 アポロ作戦:フォン・ブラウン制圧指令。

 

 発信者は、ティターンズ少佐・ジャマイカン・ダニンガン。

 

「ふん。下らん」

 

 シロッコは嘲るように目を細める。

 

「軍律も、戦略もわからぬ三下が、“力”の意味も知らぬままに振り回した──そんなものに誰が加わるものか。……この私を、誰と心得た」

 

 己が大佐であるにも拘らず、階級下位の少佐から出された命令。

 

 しかもその目的は、政治中枢が集うこの“時”に、中立市街地を焦土にしようという暴挙だった。

 

 ──見限るに、十分だった。

 

 ジャミトフの声明が、それを切り捨てた。

 

 “我がティターンズは、決して無法者の集団ではない”

 

 “正規の命令系統を逸脱した行動は、断じて容認しない”

 

 そしてアイン・ムラサメ中佐──。

 

 あの若者の言葉は、予想をはるかに超えていた。

 

「市民を守る連邦軍の軍人……か。言い切ったな、少年。いや、“男”よ」

 

 頬の筋肉が、ごくわずかに緩む。

 

 これは、皮肉ではない。

 

 本物だけに向けられる、シロッコの数少ない“敬意”だった。

 

「たかが強化人間(マリオネット)の青二才が、よくぞあそこまで……」

 

 思わず笑みを漏らすと、すぐに自嘲気味に肩をすくめる。

 

「いや……違うな。彼はもう、ただの強化人間ではない。“他人の幻想を外郭に変える”者──神輿の器か」

 

 ジュピトリスの窓越しに、遥か遠く地球が淡く輝く。

 

 その重みの中で、シロッコは独り言のように呟いた。

 

「……出揃ったな。

 バスクの暴走。

 ジャマイカンの排除。

 そしてジャミトフは、ムラサメという“秩序の若き体現者”を旗に立てた」

 

 シロッコは指先でリモコンを操作し、アインの映像をもう一度流した。

 

 ──何も飾らず、誇示せず、ただ一言、責務と覚悟を語る姿。

 

「“軍人としてあるべき姿”か……。

 ふふ、私はあれを、かつてどこかで見た。

 あるいは、求めすぎて失ったのかもしれんな」

 

 そして最後に、低く、深く、呟いた。

 

 すべては、“風”の吹く方角を見極めるために。

 

 パプテマス・シロッコの視線が、もう一度、戦乱の焦点──地球を捉えていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【連邦総会議場・特別来賓控室】

 

 昼を迎えようとするダカール。

 

 だが連邦総会議場内の空気はなおも騒然としていた。

 

 議場から隔てられた特別控室では、わずか数名の護衛を残して、ジャミトフ・ハイマンとアイン・ムラサメ中佐が、向かい合っていた。

 

 応接テーブルには、つい先ほどまでジャミトフが臨んでいた緊急声明の走り書きの草稿が、未整理のまま置かれている。

 

 傍らには、アインの記者会見映像を再生していたホログラム端末が、音もなく沈黙していた。

 

 先に口を開いたのは、ジャミトフだった。

 

「……徒労だったな」

 

 短く吐き捨てるように言って、背凭れに身を預ける。

 

「“連邦軍の指揮権をティターンズに移管する法案”──我々が根回ししてきた票読みも、ジャマイカンの暴走で帳消しだ」

 

 声に怒気はない。

 

 むしろ静かすぎるほどの口調が、老将の疲労を逆に際立たせていた。

 

 アインは黙って頷き、一度だけ視線を下に落とした。

 

「……閣下。ジャマイカンと、そしてバスク・オムの行動に関する処理を、早急に整理すべきです」

 

「当然だ。奴らの失態を“局地的暴走”として処理するか、それとも“クーデター未遂”として告発するか……選択肢はいずれにせよ、こちらで主導権を取らねばならん」

 

 そのとき、室内に設置された軍用端末がひとつ、電子音を鳴らした。

 

 アインが歩み寄り、受信した通信を確認する。

 

「……ジュピトリスからです。発信者、シロッコ大佐──“アポロ作戦・本作戦概要書”」

 

 ジャミトフは瞼をうっすらと開き、口元に苦笑を浮かべた。

 

「……ふん。恩を売る気か。よく見ている男だよ、あれは」

 

 アインは無言で、概要書のデータを端末へ転送。

 

 ジャミトフの視界に投影させる。

 

 作戦立案の時刻、指揮系統の承認欄、配備部隊名、攻撃対象地点の精密座標──。

 

 シロッコの名前はどこにも記載されておらず、作戦立案に関与しなかったことが確かに裏付けられていた。

 

「これなら……逆に使えます」

 

 アインは一度息を吐くと、胸ポケットから小型の通信端末を取り出し、すぐさま回線を開いた。

 

「──こちらムラサメ。アルビオン艦隊、ブライト・ノア大佐へ緊急発令」

 

 端末の奥に、緊張を孕んだ通信士官モーリス少尉の声が返ってくる。

 

『ムラサメ中佐、回線開通。ブライト大佐、通信席へ移動中です』

 

 数秒後、落ち着いた、だが明確な指揮官の声が響く。

 

『こちらブライト・ノア。聞こえている』

 

「状況は説明不要かと思います。今すぐアルビオンを出航させ、月へ。──フォン・ブラウン市にてアポロ作戦残滓の実態調査を行ってください。現地の治安維持部隊にはこちらから照会を入れます。目的は裏取りと、メディア火消しの“実績提示”です」

 

 ブライトは一瞬沈黙した後、短く答えた。

 

『了解した。直ちに艦を発進させる』

 

 回線が切れる。

 

 アインは静かに端末を置き、再びジャミトフへと向き直った。

 

「シロッコの意図はともかく、こちらが一手先に進めば、それは我々の“手柄”です」

 

 ジャミトフはその言葉に頷いた。

 

「……“力”には“記録”を添える必要がある。今回のような混乱では特に、な」

 

 室内の空調が静かに回り、戦乱の幕が確かに一枚、降ろされた気配がした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【ダカール連邦議会・特別来賓控室】

 

 

 部屋の空気は、奇妙な静寂に包まれていた。

 

 窓は厚手のカーテンで閉ざされ、テーブルには各国代表との交渉に用いた資料の束が乱雑に散らばっている。

 

 だが、それらに目を向ける者は今、この室内にはいなかった。

 

 控室中央、壁面の大型ホロモニターでは──つい先ほど終了したばかりの監察軍政官庁中佐、アイン・ムラサメによる緊急記者会見が再生されていた。

 

 映像の中、記者たちを前にしてマイクを握る青年。

 

 制服の襟を正し、端正な顔立ちに浮かぶのは、感情を抑えた、しかし確かな「意志」の色だった。

 

> 「本日、フォン・ブラウン宙域における軍事衝突の報を受け、連邦政府および軍政当局より正式な声明が発表される予定です。──その内容に先立ち、監察軍政官庁として、現時点で確認されている事実を皆様にお伝えします」

 

 

 それは、まるで事態の“重心”がどこにあるかを、誰よりも理解している者の声だった。

 

 モニターの光が彼の横顔を照らし、ソファに腰かけるブレックス・フォーラの皺深い目元が、静かに動いた。

 

「……恐れ入るな。言葉の置き所が、どれも外しておらん」

 

 彼の隣に立つクワトロ・バジーナは、腕を組んだまま微動だにせず、そのまま映像を注視していた。

 

> 「午前05時22分、ティターンズ所属の一部部隊──ジャマイカン・ダニンガン少佐を含む局地戦力が、月面・フォン・ブラウン市に対して軍事行動を開始しました。──この作戦は、いかなる上層部承認も存在しない独断行動であり、我々監察軍政官庁としては即時に“指令系統逸脱”と断定しております」

 

 

 ブレックスは一瞬だけ瞠目した。

 

「ジャマイカンを名指しか……そこまで踏み込むか」

 

 しかし、アインの表情に躊躇はない。

 

 冷静沈着。まさに“統制の顔”だった。

 

> 「現地市街には民間人も多く、既に複数のインフラ被害が報告されています。被害の拡大を防いだのは、エゥーゴ所属MS部隊の即応によるものであり──

 市民の安全が最優先されたことについては、我々としても率直に評価すべき事実と認識しております」

 

 

 その一節に、控室の空気が揺れる。

 

 クワトロは小さく、だが確かな声で呟いた。

 

「……正気だ。自軍の過誤を認め、敵対陣営の行動を“正しく評価する”。──あれは、本物です。准将」

 

 ブレックスは何も言わず、ただ頷いた。

 

> 「今回の行動に関与した指揮官および部隊に対しては、すでに監察手続きが開始されており、査問・拘束命令を含めた措置が進行中です。──ティターンズ内部においても、正統な指揮系統の尊重と、秩序の維持が最重要であることを、改めてここに明言いたします」

 

 

 ──まるで、発言の一つ一つが、“発火点”だった。

 

 そして、モニター内のアインは静かに言った。

 

> 「最後に……これは私個人としての所信であり、いかなる派閥や理念に偏るものでもありませんが──

 私は、“市民を守る”連邦軍の軍人です。

 ティターンズという組織が、この責務を果たせるように──私は、粉骨砕身、務めさせていただく所存であります」

 

 

 発言が終わった瞬間、控室に沈黙が訪れた。

 

 それは「言葉を失う」沈黙ではない。

 むしろ、何かを見通した者だけが口を閉ざす、そんな静寂だった。

 

「……“戦う意志”ではなく、“治める意志”か」

 

 ブレックスが低く呟く。

 

「この場でもあの姿勢を崩さんとはな。かつて、ティターンズ、いや、連邦軍にもそのような言葉を紡げる者が居たか?」

 

「いえ、准将。あの姿勢は、我々が掲げねばならなかったものです」

 

 クワトロはそう答えながらも、ふとその瞳を細める。

 

「……ですが、それゆえにやはり危険でもあります」

 

「ふむ?」

 

「“正しすぎる者”は──体制にとって、都合が良すぎる。

 そして、“信じている者”が道を誤ったとき……その揺らぎは、あまりにも大きい」

 

 ブレックスは一瞬だけ目を伏せ、そして静かに立ち上がった。

 

「いずれにせよ、我々は彼の“真意”を測る必要があるな。

 彼が市民のために立つのか、それとも──体制のために利用されるのか」

 

 モニターには、カメラに向かって微かに頭を下げるアイン・ムラサメの姿が映っていた。

 

 彼の背には、ティターンズの象徴である“金の双翼”。

 

 だが、それ以上に強く印象に残ったのは──彼自身が「意思」そのものとして、そこに立っていたという事実だった。

 

 

 

 

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