ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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気づけば10 話以上やってるのに連邦総会編終わらないとか恐ろしくなってきた………。

なんで原作だとティターンズに連邦軍の指揮権委譲とブレックス暗殺で終わるのに、さっさと連邦総会終わらせたいのに、

バスクは絶対出て来ないって性格考えると後から後から問題が発生して政治が終わらねぇンだよコンチクショーーーー!!!!


第53話 “彼の理想に追いつく”必要がある

 

 

 バスク・オム招集決議は、賛成多数で可決された。

 

 もはや“過去の象徴”である暴力の体系に、理性の軍政が明確に「異議」を突きつけた瞬間であった。

 

 しかしそれを、バスクは拒んだ。

 

 ならば監察軍政官庁として動かなければならない。

 

 アイン・ムラサメ大佐は、参謀陣の一団とともに廊下を進んでいたが、後方から聞き慣れた声が飛ぶ。

 

「……大佐、今少し、よろしいか」

 

 声の主は、パプテマス・シロッコ。

 

 黒い軍装の襟元を正しながら、ゆるやかな歩調でこちらへ近づいてくる。

 

「何か気になる点でも?」

 

 足を止めたアインが、静かに問い返す。

 

 それに対しシロッコは、手に抱えた薄いスーツケースを掲げて見せた。

 

「……“監督”として、一度は見せておこうと思いましてね」

 

 会議室へ移動すると、シロッコは無言でケースを開き、数枚の図面を丁寧に広げていく。

 

 それは、ひと目で只者ではないとわかるシルエット──。

 

 TR-6《ウーンドウォート》。

 

 胴体中央に一極集中するコアフレーム、長大な腕部・脚部が両脇に展開し、ギガンティック形態や大型装備との互換を視野に入れた、野心的な設計図だった。

 

 アインはすぐに読み取る。

 

「……ここまで纏まっていたとは。驚きました」

 

 「褒め言葉として受け取っておきましょう」と、シロッコは僅かに口角を上げた。

 

 だがアインは図面を覗き込み、ある一点で手を止める。

 

 ──コア・フレーム中央部。

 

「……この胴体構造、サイコガンダム級の脚部およびアームユニットに対応させるには、フレーム強度が不足します。いや、通常時の運用では持ちますが……」

 

 アインの指先が示すのは、関節周囲の応力集中点だ。

 

「ギガンティック形態──あるいは、後方に想定されている“クインリィ”級の搭載仕様まで見据えると、このフレーム、折れますよ」

 

 シロッコの瞳が細められる。

 

 だが、それは怒りでも侮蔑でもない。

 

 ……満足、だった。

 

「──その通りだ。いや、大佐に“そこ”を見抜いてもらえなければ、私はこの計画を一度破棄するつもりでいた」

 

 図面の下端には、小さく補足設計欄がある。

 

 強化型カーボニウム合金、流動振動吸収材、さらには“可変支持骨格”による可塑的耐荷構造。

 

 つまり、これは「大佐の判断が前提」の設計案だった。

 

 アインは静かに息を吐く。

 

「……ありがたく使わせていただきます」

 

 図面を手元に引き寄せ、振り返る。

 

「ジャブロー暫定工廠に実機製作を指示しましょう。早急に強化試作フレームを調達させます」

 

 シロッコは小さく頷く。

 

 その姿はもはや“設計者”ではなかった。

 

 ──監督。

 

 傾きかけた宇宙世紀という名の建築現場において、唯一、創り手に寄り添うことを選んだ者の顔だった。

 

「さすがだ、大佐。これでようやく──“積むべき力”が、一つ固まったように思える」

 

 その言葉に、アインもまた、応えた。

 

「“備える”ということは、常に秩序の最前線に在ることです。こちらも、そろそろ次の工程に入るべき頃合いでしょう」

 

 二人は握手を交わさなかった。

 

 だがその沈黙のなかに、確かな同盟と構築の意志があった。

 

「これは、返礼というには拙いかもしれませんが──」

 

 彼の前に置かれたのは、機密管理指定が貼られた厚手の紙ファイル。

 

 明らかに、ただの図面ではない。構想──それも“未来を変える火種”の胎動だった。

 

「ドラグーン・システム……?」

 

 シロッコの長い指が、丁寧にその表紙をなぞる。

 

「遠隔操作型の砲台ユニットです。ただし、サイコミュによる“能力依存型”ではなく、通信による“非依存型”。僕が設計したのは、“誰でも使える神経網”です」

 

 その語り口に、誇張や熱狂はなかった。

 

 むしろ静かで整然としている──それゆえに、重い。

 

「……君は、ニュータイプの“個”を、兵器体系として“共有財”に落とし込むつもりか」

 

 思わずシロッコが呟く。

 

 アインはわずかに頷いた。

 

「はい。ニュータイプは、軍事的には“奇跡”でしかなく、再現性のない“属人性”を含みすぎている。しかし、それを発生させるための環境──その“感応”の代替物として、量子通信は、設計可能だと私は考えます」

 

「量子通信──つまり、情報媒体を用いない同期構造。……ミノフスキー粒子を逆手に取ったというわけか」

 

「正確には、“無視した”設計です。ミノフスキーの影響は物理層に留まる。量子もつれを用いた通信は、直接干渉しません。ゆえに、遮断されません」

 

 シロッコの表情が変わった。

 

 それは、驚愕でも賞賛でもなく、ただ一言で言い表すなら──「理解者に出会った技術者」のそれだった。

 

「……君は、地上における通信兵器体系をすべて過去のものにするつもりか」

 

「結果として、そうなってしまうかもしれません」

 

 アインは肩をすくめるように言った。

 

「けれど、それを“特火戦力”に搭載しなければならない状況にあることも、事実なのです。ならば私は、それを造らなければならない」

 

 ふ、とシロッコの口元が緩んだ。

 

 それは、誇らしさすら含んだ、技術者としての“降伏の笑み”だった。

 

「……わかった。やらせてもらおう。いや、これは私がやるべきだ。“建築主”が未来の都市を描くのなら、“現場監督”として、その基礎を完璧にせねばならん」

 

 アインはその言葉に、微笑で返した。

 

「ありがとう、シロッコ。あなたの設計思想に、僕は何度も救われている。……次は、僕の“思想”が、あなたの技術を後押しする番です」

 

 その瞬間、戦略と技術──政治と科学の両輪が噛み合った音が、誰にも聞こえぬ次元で、静かに鳴った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

地球連邦臨時本部《スードリ》艦内

 

U.C.0087年8月20日・早朝

 

 朝霧がダカールの港湾部を覆っていた。

 

 艦橋へと続く階段を静かに下りながら、アイン・ムラサメ大佐はわずかに眉をひそめる。

 

 昨日、バスク・オムの招集を決議した総会が閉会してからというもの、彼の思考は明け方まで働きづめだった。

 

 だが、それ以上に──気になる人物がいた。

 

「……まさか、本当に徹夜したのですか?」

 

 低く呟きながら、アインはスードリ艦内の技術局フロアへと歩を進める。

 

 そこは昨夜、自身が新たな“夢”の断片を語った場所──ドラグーン・システムという名の理想を、ある男に預けた夜だった。

 

 自動ドアが静かに開く。

 

 淡い青光りの照明に照らされた室内。

 

 長机の上には、模造紙を重ねて拡げたままの設計案、理論式、数値表、鉛筆で走り書きされたノート、そして──。

 

 その中央で椅子にもたれ、無造作にコートをかけたままペンを走らせていたのは、パプテマス・シロッコ。

 

 その顔には明らかに徹夜明けの疲労が滲んでいたが、目だけは燃えるような輝きを放っていた。

 

「ああ……大佐、いや、アイン。来たか」

 

 声は掠れていたが、理知と熱情が入り混じる、不思議な活力に満ちていた。

 

 アインは机へと歩み寄り、彼が示した1枚の設計図に目を落とす。

 

 そこに描かれていたのは──。

 

 量子もつれ通信を基盤とする新型の遠隔制御システム。

 

 通信干渉を一切受けず、半自律・多指向ノードを用いた機動砲塔端末制御フレームワーク。

 

 ──量子リンク、ドラグーン・リンクベース、位相同期制御、サイコミュ補助構造。

 

 全てが、“兵器ではなく意思を延長する道具”として整理されていた。

 

「……驚きました。ここまで詰めるとは」

 

 アインは素直にそう呟いた。

 

 シロッコは微かに笑い、肩を竦めてみせた。

 

「君が“次”を描いた。その情熱は、構築者にとって何よりの燃料さ。手が止まらなかった」

 

「ここまで精緻なものを……一晩で?」

 

「……正直なところ、思考はもはや“図面を引かせてくれ”と叫んでいたよ。君のアイデアは、ただの兵器構想じゃない。思想だった。それが一晩中、頭から離れなかった」

 

 アインは、図面を持ち上げたまま沈黙した。

 

 視線が、その中央にあるノード構造に吸い寄せられる。

 

 自分が夢見たもの──ミノフスキー粒子すら超える“無干渉”の思想の具現。

 

「……この概案は、まさに“脊髄”ですね。ここからなら……神経も、四肢も、築ける」

 

「造るのは君だ、アイン。私はただ、地面を均したにすぎない」

 

 そう言って、シロッコはペンを置いた。

 

 そして初めて、少年のような笑みを浮かべる。

 

「さあ──君の理想に、次の肉を纏わせる番だ」

 

「わかりました。ではコチラを」

 

 そう言って端末を操作して立ち上げた。

 

 彼らの目前に展開されているのは、一枚の構想図。

 

 《DRAGOON SYSTEM搭載型・ドレッドノートガンダム》

 

 背面に放射状に展開される4基のドラグーン・ユニット。

 

 加えて腰部両脇に中距離仕様の2基。

 

 合計6基の量子端末を、リアルタイムで制御する画期的な戦術モジュール。

 

 その制御の鍵を握るのは、従来の通信方式では不可能とされた量子もつれ通信による多端末同時制御。

 

 シロッコの指が表示されたCG画上を滑る。

 

「……これほどのものを……」

 

 その呟きには、驚きよりも呆れが込められていた。

 

「通信中枢を脳波制御ブロックで統合し、ノード間に量子中継素子を差し込むことで、端末との位相遅延を解消──君はこれを、“意思の延長”として定義しようというのか」

 

「はい。私の狙いは“無人兵器”ではありません。これはあくまで──人間の意志によって空間を支配するための“延長肢”です」

 

 静かに応えるアインに、シロッコは笑みを見せる。

 

「だが、当然限界もある」

 

 アインは軽く頷いた。

 

「……はい。大気圏内では端末の推力が不十分で、軌道修正力に限界が出る。従ってこの構想は、基本的に宇宙空間での運用を前提としています。必要であれば大気圏用ユニットに換装した派生機も、追って構想しますが……」

 

 シロッコは再び図面に目を落とす。

 

「推力に難があるのは構造上の当然の帰結……だが、君は制約を前提に構想を練っている。“万能兵器”ではなく、“戦場に合わせて育つ技術”として、これを組んだ。正しい判断だよ」

 

 やがて、彼は目を細めて告げた。

 

「君がその道を描いたのなら、私がそれを舗装しよう。……この構想、完成させる価値がある」

 

「お願いできますか?」

 

「無論だ。これはもう──造らずにはいられない。すでに脳裏には、制御ユニットの回路図まで浮かんでいる。……徹夜だな、これは」

 

 アインはふと微笑をこぼした。

 

「ならば、ジャブローにフレーム製作をお願いしましょう。あなたの回路が形になる頃には、実体も伴うでしょう」

 

 シロッコはわずかに目を伏せて呟いた。

 

「君がこの手に図面を託してくれた時から──もう、私は“ズブズブ”だよ。アイン」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 議場は、これまでにない緊張感に包まれていた。

 

 静まり返った空気のなか、ゴップ議長が椅子の背もたれから身を起こし、正面演壇へと歩み出る。

 

 今日の議題は、わずか一つ。

 

 だが、それが孕む意味と重さは、他のあらゆる法案をも凌駕していた。

 

「これより──

 第8号議案、キリマンジャロ駐屯地司令官、バスク・オム大佐に対する査問状の通達について、審議に入ります」

 

 その名が発せられた瞬間、場内の空気がざらついた。

 

 誰もが、この議案が持つ意味を理解していた。

 

 かつての連邦治安の砦、ティターンズ創設期の中枢に座し、幾多の軍事作戦を指揮した大佐。

 

 だが今、彼の名が問われているのは、その功績ではない。

 

 議場の前列には、アイン・ムラサメ大佐の姿もあった。

 

 提案者として名を連ねた彼は、ただ静かに議長席を見つめていた。

 

「本件は、既に議決された『星の屑作戦に関する再調査動議』に基づき、当時の指揮官として記録上最大の責任を負うべき地位にあったバスク・オム大佐本人に対し、査問を行うべきか否かを問うものです」

 

 ゴップの声は、いつになく硬い。

 

 だがそれだけに、言葉の一つ一つが重く、正確に響いた。

 

「査問は、軍政監察の公正性を維持するため、監察軍政官庁より任命された監査委員のもとで行われる予定であり、当人の証言権は保証されるものとする。その上で、本会議は連邦憲章に則り、この査問通達の是非について、即時採決を行う」

 

 ざわめきが広がる。

 

 だが、反論の声は上がらなかった。

 

 それは議場が正義に染まったからではなく、沈黙こそが「覚悟」の証だったからだ。

 

 ──カン、カン。

 

 投票開始の槌音。

 

 各議員の手元に、採決用の端末が点灯する。

 

 数秒ののち、パネルのランプが一つ、また一つと「青」に灯る。

 

 否定の赤はわずかだった。

 

「──賛成多数。第8号議案、査問状通達は可決とする」

 

 ゴップ議長の宣言が下された瞬間──。

 

 議場の天井に設置された情報ディスプレイに、バスク・オム大佐宛の査問状通達が公式発表として掲示された。

 

> 査問通達

宇宙世紀0087年8月20日付

地球連邦軍 キリマンジャロ駐屯地司令官

バスク・オム大佐 殿

 

貴官が当時、第1機動艦隊を率いる地球連邦軍大佐として「星の屑作戦」関連事案において関与された情報操作、軍権逸脱行為に関し、再調査のための査問を行うことが、本会議の議決により承認された。

 

ついては、宇宙世紀0087年8月22日を目途に本会議場に出頭し、連邦議会監察軍政官庁による査問に応じること。

 

 

 壇上に立つゴップの手元には、すでにティターンズ監察軍政官庁によって用意された正式通達文が用意されていた。

 

 その文字列が、ついに歴史を動かす。

 

 ──この瞬間、バスク・オムは「問われる者」として連邦史に記されたのである。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 大型モニターには、ダカール連邦議会場の中継映像が映し出されていた。

 

 重苦しい沈黙の中、ゴップ議長の声が響く。

 

「──賛成多数。第8号議案、査問状通達は可決とする」

 

 その瞬間、映像上部に新たなテロップが現れる。

 “査問通達:バスク・オム大佐宛”

 

 部屋の空気が凍りついた。

 

 幕僚たちは動けない。誰もが声を失い、息を潜め、ただ一人の男の動きを待っていた。

 

 バスク・オム大佐は、椅子にもたれたまま微動だにせず、モニターを見据えていた。

 

 赤銅色の瞳が、何を映しているのかは誰にも読めない。

 

 やがて──。

 

「……ついに、ここまで来たか」

 

 ぼそりと呟かれた声は、苛立ちでも憤怒でもない。

 

 その声音には、憔悴と、自嘲すら混じっていた。

 

 こめかみには、知らぬ間に滲んでいた汗。

 

 掌は湿っていた。

 

「星の屑作戦──あの件を掘り返してきたか……ムラサメの小僧、地に潜った地雷を一つ一つ拾い集めてやがる……」

 

 乾いた笑みを浮かべながら、バスクは立ち上がる。

 

 その巨体が、疲弊した金属のように軋んだ。

 

「ジャミトフが動いたか? いや……あの男は黙認した。では、奴の背後に何がある……?」

 

 指揮卓に両手をつき、深く息を吐く。

 

 だがその目は、以前のような猛禽のそれではない。

 

 軍政の掌握者であったはずのこの男も、今やキリマンジャロという“砦”の維持に手一杯であり、もはや“ティターンズの牙”として動ける余地は限られていた。

 

 壁際に立つ幕僚の一人が、おずおずと問う。

 

「……バスク大佐、連邦議会からの出頭命令……いかがいたしましょうか」

 

 その問いに、バスクは鼻で笑った。

 

「応じるとでも思っているのか。貴様らは本気で、私が議場に出て、あのガキ共の口撃を受ける姿を見たいのか?」

 

 誰も答えられない。口を開くことすら許されない空気がそこにあった。

 

 しばしの沈黙の後──。

 

 バスクは背筋を伸ばし、軍服の襟を正した。

 

「軍務を理由に拒否する。連邦議会など、所詮は牙を抜かれた老いぼれ共の戯言だ。……私はティターンズの戦力を掌握している。キリマンジャロを放棄する訳にはいかん」

 

 その言葉に、幕僚たちは黙って敬礼を返すしかなかった。

 

 だが誰もが悟っていた。

 

 この部屋の空気に満ちる、明確な“終わり”の匂いを──。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

U.C.0087年8月20日

 

地球連邦総会・ダカール臨時議場《最終議題》

 

 議事堂の天井を照らす光が、時刻の進行と共に僅かに赤みを帯び始めていた。

 

 丸四日間に及んだ激動の総会も、この議題をもって閉会となる。

 

 ──壇上に立ったのは、ティターンズ監察軍政官庁・長官、アイン・ムラサメ大佐。

 

 その背後のスクリーンに、次なる資料投影の準備が整っていた。

 

「本議題に先立ち、まず各位に問いたい」

 

 アインの声はよく通った。疲れの色が残る議員たちの耳にも、澄んで届く。

 

「ミノフスキー粒子の影響下において──我々は通信を断たれ、統制を失い、指揮の届かぬ戦場を幾度となく経験してきました」

 

 場内が静かになる。

 

「だが今、我々はひとつの突破口を掴みつつあります」

 

 背後のスクリーンが点灯し、青白い立体グラフィックが投影された。

 

「それが『量子通信』──。

 通信粒子を“量子もつれ”状態で接続し、ミノフスキー粒子下においても遮断されぬ次世代通信技術であります」

 

 重々しい沈黙が広がった。科学技術委員会の議員たちが前のめりに身を乗り出す。

 

「本技術が確立されれば、単なる通話やデータ伝達にとどまらず──戦術指揮・戦闘制御・無人兵装制御すら可能となる、全く新たな兵装体系の構築が視野に入るのです」

 

 スクリーンが切り替わり、ひとつの機体の全体図が表示された。

 

 背部に展開型の機動端末ユニットを4基、腰部に2基の装着式端末を備えた、白と青、背中の赤のMS──。

 

 型式番号は記されていない。

 

仮称《ドレッドノート》。

 

「この機体は『ドラグーンシステム』と呼ばれる、量子通信端末によって制御される遠隔攻撃装置を搭載した試作構想機です」

 

 背部ユニットの展開映像が再生され、宇宙空間にて自在に展開・射撃を行う様子が簡易的に示された。

 

「ただし現時点では、この端末は宇宙戦闘専用であり、大気圏内では推進力の不足により展開が不可能です」

 

 アインは制約を明言することで、現実性と段階的開発を強調した。

 

「この機体は、試作研究機《ドレッドノート》として、まずジャブロー暫定工廠において機体フレームの試作と、通信制御試験のための技術試験班の編成を提案したく、本議題を提出いたします」

 

 スクリーンには、シロッコが仕上げた初期設計概念と、フレーム構造の断面が映し出されている。

 

 図面右下には、設計監修「P.シロッコ」の名が記されていた。

 

「本構想は監察軍政官庁の権限において、既に草案段階の設計に着手しており、量子通信基礎概案は本日未明に完成しております」

 

 ──騒然。

 

 科学技術委員長が無言で立ち上がり、ゴップ議長のほうを見た。

 

 ゴップは、ゆっくりと頷く。

 

「……以上をもちまして、次世代量子通信対応兵装体系の初期試作機に関する提案を、正式な議題として受理する。本総会にて検討を行い、次期常設委員会の設置に関する是非を、後日臨時評議で議決とする──」

 

 槌が打たれた。

 

 誰もが理解していた。この“量子通信”なる言葉が、今後の戦略思想を根底から覆し得る技術であることを。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 閉会の鐘が鳴り、議員たちが一斉に議事堂を後にした頃。

 

 その喧噪とは裏腹に、議場地下の奥深く──厚い防音壁に囲まれた円卓の部屋には、未だに重々しい空気が満ちていた。

 

 ここは、戦時にも用いられる最高機密会議室。

 

 その中央に座すのは、地球連邦議会議長ゴップ。

 

 そして彼を囲むように、国防省、内務省、情報局、外務省の長官級が顔を揃えていた。

 

 机上には、アイン・ムラサメが先刻提示した量子通信概念図と、次世代型MS《ドレッドノート》の外観図CGが、無言のまま投影されている。

 

「……まったく、やってくれるな」

 

 ゴップが椅子にもたれかかり、渋くつぶやいた。

 

「ジャミトフが奴を手元に置きたがる理由がようやく分かったよ」

 

 国防大臣がうなずく。白髪交じりの男が眉をひそめたまま口を開いた。

 

「アイン・ムラサメ……まだ二十歳にもならぬ若者だと聞いていたが……あの発表、既に博士課程の研究員でも到底及ばん。常識を打ち破る内容だった」

 

「量子通信……仮に理論通りに完成すれば、ミノフスキー粒子下でも完全な遠隔同期と指令伝達が可能だ。MS戦術の概念そのものが変わるだろう」

 

 内務次官が冷や汗を拭いつつ言葉を続ける。

 

「……いや、それ以上に重要なのは、あれが“ティターンズからの提案”ではなく、“監察軍政官庁”からの発表だったことだ」

 

「つまり、連邦政府の“新しい技術運用の中核”が、彼らの管轄に移りつつあるということだな」

 

 情報局長が抑揚なく補足する。

 

「このままでは、技術・軍政・戦術、いずれの分野でも、連邦軍本体より監察軍政官庁の方が先に進むぞ」

 

 沈黙が落ちた。

 

 誰も反論しなかった。

 

 “正しい”ことを、“正しい手順”で行った若者に、上層部が成すすべを失っているという、厄介な事実だけが残った。

 

「──しかもだ」

 

 ゴップが再び口を開く。

 

 今度は目を細め、映像の中央に映し出された“機体の背に4基、腰に2基のドラグーン”に視線を注いだ。

 

「“量子通信”であの端末を操れるとなると……抑止力としても、軍政展開としても、比類なき兵力になる」

 

「……現行のニュータイプ誘導兵器とは一線を画す。生体感応などに依存せず、論理と技術で成し遂げようとしている。まさに“人類の拡張”だ」

 

 外務大臣がポツリとつぶやいた。

 

「アイン・ムラサメという男は、軍人ではあるが、すでに政治と技術の両面で──“国家の形成者”の域にあるのかもしれん」

 

 その言葉に、誰も否定の声を上げられなかった。

 

 やがて、ゴップが静かに両手を組み、口を引き結んだ。

 

「……正直に言おう。あの男がいなければ、連邦政府は、ティターンズの瓦礫と一緒に崩れていた」

 

「だが──」と、彼は言葉を継ぐ。

 

「彼がこれから先も“理性”を選び続ける保証は、どこにもない」

 

 それは、政治家としての本能的な危惧だった。

 

 だからこそ、今夜集まったのだ。

 

「──ゆえに、我々は“彼を監視する”のではなく、“彼の理想に追いつく”必要がある。地球連邦が“未来の姿”を見失わぬようにするためにもな」

 

 円卓に沈黙が落ちたまま、会議は静かに終了した。

 

 その後、各閣僚たちは、それぞれの机上に残された“ドレッドノート”の図面を見つめながら──未来の秩序を考え始めることになる。

 

 

 

 

 

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