ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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第56話 俺だって、それに応える!

 

月軌道上──地球連邦軍アルビオン艦橋

 

 戦術モニターには、地球と月を挟む宙域全体の戦況が投影されていた。

 

 艦橋に集うのは、ティターンズ監察軍政官庁の首脳──アイン・ムラサメ大佐、ブライト・ノア大佐、パプテマス・シロッコ大佐、ブラン・ブルターク少佐。

 

 そして、エゥーゴより連絡官として派遣されたクワトロ・バジーナ大尉。

 

 その場に立つアインが、指揮官としての立場で静かに口を開いた。

 

「……現在、サイド4の廃棄コロニー《27バンチ》は、重力圏突入まで残り72時間を切っています。目標は月面都市グラナダ、エゥーゴ主力が集結する地点。これをバスク・オムが意図的に選定したと見て間違いないでしょう」

 

 アインの言葉に、クワトロの視線が鋭くなる。

 

「つまり我々は、今ここに──“同じ月”の地に立っているというわけか」

 

 シロッコが苦笑を浮かべながらも、隣で淡々と戦況マップを操作した。

 

「敵は旧ジオン製の大型バーニアを多数接続しており、27バンチ全体が推進ユニットと化している。軌道投入後の自重減少も考慮されている。おそらく内部に最小限の自爆装置と爆縮構造が仕込まれているはず。……止めるなら今しかない」

 

 アインが頷く。

 

「──作戦名はノア・セイバー」

 

 その場に立つ者たちの目が、中央のホログラムに注がれる。

 

「まず、初動はアドバンスドヘイズル・ギガンティック(パイロット:コウ・ウラキ中尉)およびヘイズル改・ギガンティック(パイロット:ドゥー・ムラサメ少尉)による正面突破を実施。二機の高出力ユニットによって、エゥーゴの上陸工作部隊と連携し、コロニー内侵入ルートを開く」

 

 シロッコが頷きながら補足した。

 

「ドゥー少尉の機体はプロトサイコ由来のフレームを活かしたクインリィ仕様を限定的に転用。火力は保証しよう。対してウラキ中尉の機体は火器管制支援を前提にリミッター調整済み。継戦能力はこちらが上だ」

 

 ブライトが腕を組み、次のフェーズに触れる。

 

「アルビオンは敵艦隊を突破後、反転。直掩部隊による制空任務に入り、敵増援の到達を阻害する。必要とあらば敵戦力の殲滅も視野に入れる」

 

 アインは沈痛な面持ちで頷いた。

 

「ただし、最優先目標はコロニーの落下阻止です。地球にではなく、月にですら──その被害は取り返しがつかない。……我々は、破壊者であってはならない」

 

 全員が沈黙する中、クワトロが静かに呟いた。

 

「……かつてのシャア・アズナブルが、ここにいたなら。彼もまた、同じ決断を下したかもしれん」

 

 誰もが、その言葉を否定しなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

U.C.0087年8月24日 月軌道宙域・アレキサンドリア艦隊先鋒宙域

 

 宇宙空間に展開する3隻のアレキサンドリア級巡洋艦──旗艦《アレキサンドリア》、副旗艦《アル・ギザ》、随伴艦《ハリオ》。

 

 その中枢、ジャマイカン・ダニンガン少佐が座する艦橋には、常とは異なる緊迫感が漂っていた。

 

「……艦隊進路維持、前方宙域に敵艦影、識別信号なし。恐らくエゥーゴ、あるいは──ティターンズ監察軍政官庁の部隊です」

 

 通信士官の声に、ジャマイカンは椅子を軽く傾け、鋭い目を細めた。

 

「ふん……どちらにせよ、我が艦隊の前に立つのであれば、潰すまでだ」

 

 彼の周囲では、現場指揮官たちが各艦の状況を確認し合っていた。

 

 配備MSは合計36機──マラサイ12機、ガルバルディβ10機、ハイザック8機、旧式のジムⅡ6機。

 

 予備戦力こそ不足していたが、質的な物量は十分とジャマイカンは判断していた。

 

「戦力比では我が方が上だ。加えて連中は同士討ちすら躊躇わぬ乱戦に陥っていると聞く。……この混乱に乗じ、我が栄光を築くのだ」

 

 参謀が進言する。

 

「しかしながら少佐、ティターンズ内での監察軍政官庁の正統性は連邦議会にて──」

 

「黙れ。政治は政治屋に任せておけばいい。私は勝つ。それだけだ」

 

 艦橋の全員が沈黙した。

 

 ジャマイカン・ダニンガン。

 

 かつてバスク・オムと並びティターンズの中核に立った男は、今や歪んだ栄光に囚われた暴走者として、静かにその旗艦を進めていた。

 

 彼の脳裏にあったのは、ただ一つ。

 

 ──「全てを戦場で決する」。それが、バスクの意思であり、自らに託された唯一の正義だと信じていた。

 

 その先にあるのが敗北であろうと、否、破滅であろうとも。

 

 月軌道は、いまや戦場となる運命を、ただ静かに待っていた──。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 月の引力圏をなぞるように、白く鋭い艦影が漆黒を裂いて進む。

 

 ――ペガサス級強襲揚陸艦《アルビオン》。

 

 ブリッジで腕を組んだまま艦首を睨むのは、アイン・ムラサメ大佐。

 

「先発部隊、出せ。コロニーの進路を逸らすには、あの艦隊を割らねばならない。ギガンティック換装機、前へ!」

 

「了解! アドバンスドヘイズル、ドゥー・ムラサメ機、発艦準備完了!」

 

 艦内に響く射出警告。

 

 サイドハッチと艦尾ハッチが開かれ、重武装を身にまとった2機の影が真空へと放たれる。

 

『コウ・ウラキ、出るぞ!』

 

『ドゥー、了解! あんなの、落としちゃダメなんだから!』

 

 咆哮のような熱噴射とともに、アドバンスドヘイズル・ギガンティック・アーム装備と、ヘイズル改・ギガンティック形態が前方宙域へ突進していく。

 

 彼らの視線の先には、重厚なアレキサンドリア級戦艦が三隻。

 

 その周囲には計36機のMSが配備されている。

 

 ガルバルディβ、マラサイ、そして旧式のジムⅡやハイザックが混成された艦隊――ティターンズ・ジャマイカン派の主力戦力だ。

 

「正面から突っ切る! コロニーに近づく前に道を拓け!!」

 

 ウラキが吼えたその刹那、敵MS部隊も迎撃体勢を整える。

 

「敵、接近! モビルスーツ隊、迎撃に移行!」

 

 アレキサンドリア艦《ハリオ》のブリッジで怒鳴る士官の声をよそに、先陣を切った2機は縦横無尽に弾幕を切り裂く。

 

 ミサイルが、ビームが、閃光が交差する。

 

 ギガンティック形態のIフィールドが炸裂するエネルギーを耐えきり、巨体の質量で突き崩す。

 

「今だ、アルビオン、突入!」

 

「了解、反転回頭、突入角度を最大に!敵艦隊の後背をとる!」

 

 ブライト・ノア大佐の号令で、アルビオンが二機のMSが開けた空間を突き進み、敵艦隊の陣形を背後から抉るように回り込む。

 

「反転完了!艦首180度回頭、戦闘配置維持!」

 

「直掩部隊、出撃準備!」

 

 その命に応じ、艦内から次なる機影が発進する。

 

「──アンクシャ、出る!」

 

 変形モードから直立するブラン・ブルターク少佐とチャック・キース少尉のアンクシャが、熱核ロケットの白煙を噴き上げて飛び出す。

 

 そしてそれに続いたのは、ジムⅢ隊──

 

「俺様が花道を飾ってやるぜェ!!」

 

 ベルナルド・モンシア中尉の荒々しい咆哮。

 

「しっかりやれよ、モンシア!こっちは遊びじゃねえんだ!」

 

 アルファ・A・ベイト大尉が怒鳴り返す。

 

「威勢がいいですねお二方。……やれやれ、ジムⅢ、出るぞ!」

 

 チャップ・アデル中尉の号令に、三機のジムⅢが飛び立つ。

 

 アルビオン直掩部隊は、アレキサンドリア艦隊の脇腹を突き、時間稼ぎのための迎撃戦を開始した。

 

「アイン、こちらアルビオン。陣形完了。時間を稼ぐ……お前たちの“突破”にすべてを賭ける!」

 

「了解、ブライト大佐。必ず、あのコロニーを止めてみせます──!」

 

 作戦は動き出した。刻一刻と地球へと迫るコロニーを阻止するため、宇宙に展開された者たちの戦いが、今始まる。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 視界の先、アルビオンが閃光の中を貫いていた。

 

 火線を薙ぎ、爆煙を割って、蒼白の機体──アドバンスドヘイズルとヘイズル改が、真正面からアレキサンドリア艦隊の密集隊形に突入してゆく。

 

 その直後、白い船体を持つ旧型ペガサス級が、悠然と続いた。

 

 艦橋にいたヘンケン・ベッケナーは、硬い口調でモニターの揺らぎに目を細める。

 

「……あのバカ……マジでやりやがったか」

 

 唇を噛み、手すりを叩く。

 

 「正面から突っ込む」とは聞いていた。

 

 だが、あれは比喩や演出ではなく──本当に突っ込むとは。

 

 敵艦隊の火力が集中する宙域に、まっすぐ。真正面から。

 

「戦術ってレベルじゃねえぞ、あれは……突撃だ……!」

 

 副官が慌ててアレキサンドリア艦隊の反応を読み上げる中、ヘンケンの表情は険しいものに変わっていく。

 

「だが……通した、か」

 

 艦隊の中央、突き抜けた二機の光跡と、アルビオンの反転行動。

 

 これは、正真正銘の突破だった。

 

 そして──。

 

「“あの坊や”が、戦局のど真ん中に乗り込んでくるってわけか……」

 

 誰に言うでもなく呟いた。

 

 アイン・ムラサメ。

 

 年若き男が、戦略と理想を背負って、今まさに宇宙に介入してくる。

 

 「坊や」などという言葉では済まされない胆力。

 

 それを見てなお、ヘンケンは微かに口元を吊り上げる。

 

「……おもしれぇ。だったら、こっちも負けてらんねぇな」

 

 その言葉と同時に、ヘンケンはアーガマ艦内通信に声を響かせた。

 

「全艦、戦闘態勢維持──! エゥーゴも“正面”からやってやるぞ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 数十の索敵シグナルが閃いた。

 

 連邦軍のペガサス級強襲揚陸艦──《アルビオン》が、まっすぐこちらに突入してくる。

 

 しかもその前方には、異様なシルエットの機体がふたつ。 

 

 まるで巨人の腕を移植したかのようなモビルスーツが、赤熱した推進光を噴き上げながら接近してくる。

 

「……馬鹿な。これは、正面から抜けるつもりか?」

 

 ジャマイカン・ダニンガン少佐は、思わず眉をひそめた。 

 

 その顔に浮かんだのは怒りでも恐れでもない。明らかな「侮蔑」だった。

 

 ──アイン・ムラサメ。

 

 忌々しい名だった。バスク閣下の意に逆らい、ジャブローでは独断専行。

 

 今やジャミトフの威光を背に、ティターンズ内ですら“正統派”などと噂されている。

 

「……自ら目立ちに来るとはな。あの若造、愚かにも程がある」

 

 しかし侮っていたわけではない。

 

 むしろ危険視していた。

 

 彼が本当に愚かならば、ここまで組織を動かすことなどできはしない。

 

 無謀のように見えて、彼は常に「勝算」を持って動く──その厄介さを、ジャマイカンは嫌というほど知っていた。

 

「全艦、主砲角度二十度上げ!弾幕で正面を潰せ!MS隊はマラサイ前列、ハイザック後列、ガルバルディβで中央守れ!ジムⅡは後衛!」

 

 怒号が飛ぶ。

 

 それは軍人としての統率力であると同時に、バスクから与えられた「ティターンズの正義」を遂行する者としての使命感でもあった。

 

 ──だが、僅かに口元が歪む。

 

「どうせ、お前たちも“あの光景”を見ているのだろう?」

 

 モニターに映るのは、アドバンスドヘイズル・ギガンティック・アーム装備。

 

 そしてヘイズル改のギガンティック形態。

 

 かつてジャマイカンが「無駄な実験」と切り捨てたあの計画が、今、戦場を貫こうとしている。

 

「貴様……どこまで私の面子を潰す気だ、アイン・ムラサメ」

 

 ジャマイカンはゆっくりと腰を下ろし、冷たく命じた。

 

「始めろ。あのガキを“消し炭”にする。全艦、砲門開放──撃てッ!!」

 

 戦場は、瞬く間に赤く染まり始める。

 

 ジャマイカンの怒声が飛ぶと同時に、アレキサンドリア級三隻の主砲が咆哮を上げた。

 

 大気のない宇宙空間で、なおも空気が振動するかのような錯覚。

 

 赤く焼けた光線が、凶器の如く一直線に迫るアルビオン隊の中央をなぞるように降り注いだ。

 

 しかし──。

 

 その砲撃は、鮮やかに“受け止められた”。

 

「な……」

 

 ブリッジに冷たい衝撃が走った。

 

 ドゥー・ムラサメ少尉のヘイズル改──いや、ギガンティック形態のその怪物機体から青白く輝くフィールドが広がる。

 

 Iフィールド・ジェネレーター。

 

 ビーム主砲に対して限定的に展開されるこの特殊フィールドが、アレキサンドリア艦隊の斉射をことごとく無効化していた。

 

「馬鹿なッ、ビームを……防いだだと!?」

 

 次いで、コウ・ウラキ中尉のアドバンスドヘイズル・ギガンティック・アーム装備が、砲撃の死角を突くように滑り込む。

 

 双方とも、まるで空間の“穴”を縫うかのような機動で、主砲の合間をすり抜けるように前進。

 

 そして──。

 

「アルビオンが……突破したぞッ!!」

 

 通信士の叫びに、ジャマイカンの顔が見る間に紅潮した。

 

 その眼前、ブリッジスクリーンにはアルビオンがその巨体を傾けながら、艦尾から噴き出す推進光を最大出力へと切り替え、まるで矢のように前方を強行突破していく姿。

 

「ぬ……ぬかった……!」

 

 指揮官席にしがみつくようにして立ち上がったジャマイカンの口から、呻きが漏れた。

 

 だが、地獄はそれだけでは終わらない。

 

「少佐! アルビオンが旋回、反転……こちらの背後に!」

 

「なにぃッ!!?」

 

 画面には、突破直後に艦体を回頭させ、アレキサンドリア艦隊の背後へ回り込むアルビオンと、その直掩部隊が映し出されていた。

 

 ──アンクシャ、二機。スラスターを熱核ロケットに換装済みの、ブラン少佐とキース少尉の機体。

 

 ──そして、モンシア、ベイト、アデルのジムⅢ部隊が次々と艦尾方向に展開。

 

 これら全機が、ジャマイカンの艦隊の「後衛」に向かって陣形を組みつつあった。

 

「バカな、奴ら……最初から突破したあと、後ろを取るつもりだったのか……!」

 

 その言葉には、怒りとともに混じる微かな戦慄があった。

 

 戦術の逆転。

 

 火力と戦力で優る艦隊に対し、“突破後の反転”という奇策で背後を取る。

 

 正面突破がただの強行ではなく、周到な読みと装備によって支えられた確信犯であることを、ジャマイカンはようやく理解した。

 

「……小癪な……小癪な真似を!!」

 

 思わず椅子を蹴り飛ばす。

 

「全艦、回頭──後衛に砲門を向けろ! マラサイ、後方展開! ジムⅡで左舷を補填しろ!!」

 

「ですが少佐、ガルバルディβが前衛から離れれば!」

 

「構わんッ!! 撃ち返せぇぇええッ!!!」

 

 その指揮ぶりは鬼気迫るものがあった。

 

 だが同時に、明らかな“後手”である。

 

 戦場の主導権は、既にアイン・ムラサメへと渡りつつあった。

 

 ジャマイカンが、艦隊の背後に回ったアルビオンとMS部隊への対応に全力を注ごうとした──まさにその瞬間だった。

 

「通信ッ! 新たな艦影を捕捉、右舷二十度、距離12,000──!」

 

「なにっ……?」

 

 オペレーターの報告にジャマイカンは我知らず声を失う。

 

 スクリーンに投影された艦影──それは紛れもなく、アーガマだった。

 

 白く鋭利な艦首、上下に並ぶ格納ハッチ、そして側面からこちらに突き刺すように飛び込んでくる姿勢。

 

 つづいてアーガマの甲板が開き、次々とMSが発進してゆく。

 

「こちらエマ・シーン中尉! アーガマ隊、展開完了! 全機、直ちにアレキサンドリア艦隊右翼へ攻撃を開始する!」

 

 先頭を飛び出すのは、アナハイムから供給されたばかりのロングダガーフォルテストラ。

 

 それに続くのは、同じくロングダガーに乗り換えたアポリーとロベルトの機体。

 

 左右にスラスター炎を広げながら、怒濤の如く戦列に突入してゆく。

 

「ば、馬鹿なッ!! アーガマがなぜこの宙域にいる!! ……いや、それ以前に、なぜここに連携して現れるッ!!」

 

 ジャマイカンの声はすでに怒号ではなかった。

 

 混乱と苛立ち、そして困惑──。

 

 正面からはアルビオンと特火戦力。

 

 後衛にはジムⅢとアンクシャ。

 

 そして側面からは、アーガマとロングダガー隊が突入し、艦隊の「中心軸」そのものが崩れかけていた。

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!! ……艦隊の隊形を……再調整……ッ」

 

 それでも指揮官としての意地だけは保とうと、ジャマイカンは必死に命令を下す。

 

 だが、すでに艦隊は“挟まれている”。

 

 前にアルビオン、右にアーガマMS部隊──。

 

 挟撃(クロスファイア)

 

 この言葉がジャマイカンの脳裏を過ぎった瞬間、再びオペレーターの声が鋭く響いた。

 

「マラサイ小隊、エマ・シーン機と交戦中! 後衛のジムⅡが混乱し、左舷の砲門制御が不能に!」

 

「くそっ……くそっ……ふんだり蹴ったりだッ!!」

 

 拳で司令卓を叩いたジャマイカンの目の前で、ブリッジの戦況表示はさらに真紅に染まっていく。

 

 その全てが、“アルビオンとアーガマによる包囲戦”の成功を物語っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 敵艦隊の陣形が崩れたその瞬間、アイン・ムラサメは静かに指令を下した。

 

「このタイミングで小型艇を発進させる。コロニーへの直接突入を敢行する」

 

 傍らで控えていたクワトロ・バジーナとシロッコが、即座に動いた。

 

「了解した。地上部隊は私が率いる。最低限の制圧を行う」

 

 青いの瞳を鋭く光らせ、クワトロは淡々と答える。

 

 彼の任務は、コロニー内部に潜伏する敵兵力──あるいは護衛部隊の排除、局地制圧戦の指揮である。

 

「私はコロニーの推進装置区画、制御ユニット、熱源パネル系統の確認と破壊計画を請け負おう。手早くやらねばな」

 

 シロッコはタブレットに映るコロニー内部図を素早く確認し、工作班の突入ルートと破壊ポイントを指示していく。

 

 その技術的精度と手際の速さは、もはや戦場ではなく建築現場の監督者そのものだった。

 

 そして、その両者を静かに見守るアインは、ヘルメットを被りながら最後の確認を告げる。

 

「指揮統括は僕が行います。……コロニー内部での戦闘は極力避けてください。目標は“落下機構の停止”であって、殲滅ではありません」

 

 敵はおそらく自爆を辞さぬ覚悟で動いてくる。

 

 だが、正規の軍人であれば必ず交渉の余地はある──それを信じ、アインは作戦全体の統括者として最終判断を担う役目を引き受けていた。

 

 アルビオンのMSデッキから発進したのは、小型機動型戦術艇。

 

 アインを中央に、左にクワトロ、右にシロッコが座し、艇は戦場を縫うように推進し、コロニー外壁に設けられた整備アクセス口へと向かう。

 

 その航路には、すでにブラン・ブルターク少佐のアンクシャが展開し、護衛と陽動を完了させていた。

 

「……必ず止める。落とさせはしない」

 

 アインの呟きに、クワトロも、シロッコも返事はしなかった。

 

 それぞれが、それぞれの使命を胸に抱き、目前のコロニーへと飛び込んでいった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 白と青の機体が、静かに起動音を奏でる。

 

 Zガンダム──その鋭い視線が、宇宙の彼方に迫る決戦を見据えていた。

 

 そのコックピットに座る少年の名は、カミーユ・ビダン。

 

「……ファが、見てる。だから俺は、負けられない」

 

 つぶやいた声は誰に向けたものでもない。

 

 しかしその胸には、確かに“想い”があった。

 

 あの日──地球でフォウ・ムラサメを、サイコ・ガンダムの檻から引きずり出せたのは、ファ・ユイリィという、ひとりの少女を守ると決めた強さがあったからだ。

 

 守りたいものがある。

 

 それは、自分を見失わないための軸だった。

 

「Zガンダム、カミーユ・ビダン、いきます!」

 

 カタパルトから解き放たれたZが、閃光を引いて宇宙に飛び立つ。

 

 宙域ではすでに、ティターンズ正統派のアルビオン隊が正面突破に成功。

 

 アイン・ムラサメが導くその動きに、カミーユは確かに“本気”を見た。

 

 ──あの人は、本気で世界を変えようとしてる。

 

「なら……俺だって、それに応える!」

 

 Zガンダムが変形。

 

 ウエイブライダー形態に移行し、重力のしがらみを脱ぎ捨てる。

 

 敵MSが軌道を交差しようと迫る。マラサイ2機。

 

 Zが宙を駆けた。

 

 主翼から火花を散らしながら、逆方向へのGを殺して回転。

 

「……どけよォォッ!!」

 

 咆哮とともに、変形からZのビームサーベルが閃き、2機のマラサイを切り裂いた。

 

 爆炎が膨れ上がる。

 

 だがカミーユの視線は、もっと遠く──もっと先を見ていた。

 

「フォウ……ファ……俺はもう、誰も……誰も失いたくない!」

 

 宇宙の闇に、少年の誓いが、鋭く突き刺さる。

 

 

 

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