ムラサメさん家のイチバン=サン   作:星乃 望夢

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第84話 逃げ出すんじゃない。──“飛び出す”んだよ

 

 天井に埋め込まれたスクリーンには、ダカールの連邦議会中継が流ていた。

 

 地球連邦政府新政権の第一召集、その冒頭で行われた軍政改革担当特別官 任命式」──映像の中心に立つのは、黒と金の礼服に身を包んだアイン・ムラサメ。

 

 その背後に、今や“象徴”と化した監察軍政官庁の旗印が掲げられていた。

 

 静かな空間。

 

 空気が、静かに澱んでいた。

 

「……あの人、ホントにやっちゃったんだ」

 

 ぼそりと呟いたのはマチュだった。

 

 肘をつき、頬杖を突いた姿勢のまま、視線はスクリーンから逸らさない。

 

「『秩序と理性の剣』だってさ。うん……なんか、すごく“本物”って感じ」

 

「でもさ、ああいうの……あたしたちと違いすぎて、ちょっと怖くない?」

 

 隣のソファに座るニャアンが言った。

 

 膝を抱えて座るその表情には、憧れと警戒、そして少しの疎外感が混じっていた。

 

「アレ、どこまで本気なんだと思う?」

 

「少なくとも、あの人自身は本気なんじゃない?」

 

 マチュが答えた。

 

「本気であんなことを、あんな顔で言える人、初めて見た。あたしが今まで会ってきた大人とは……全然違う」

 

 ニャアンはふっと笑った。

 

「だよね。なんか、あの人には……ウソがない。そういう感じ。あたしが昔住んでたサイドじゃ、ウソがない奴の方が先に死んでたけどさ」

 

「ほんとだよ」

 

 マチュは小さく笑ったあと、真顔に戻った。

 

 ジオングのことを思い出す。

 

 あの巨大なサイコミュ搭載MSに感じた“キラキラ”──その向こうにある何か。

 

 そして、アインの言葉。

 

 あれは、戦争の話じゃなかった。

 

 誰かを殺すための力の話じゃなかった。

 

「……あたしさ」

 

 マチュは静かに口を開いた。

 

「本当は、ただ飛び出したかっただけなんだよね。退屈なゼミとか、小言ばっか言ってくる母親とか、そういうのぜんぶ捨てて。……でも、あの人の“非日常”は、なんか全然違っててさ」

 

「違うって?」

 

「……“ちゃんと意味がある”感じ。すっごく孤独そうなのに、すっごくちゃんと未来を信じてるっていうか……」

 

 黙り込むマチュを、ニャアンはしばらく見つめた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝焼けの気配が、隔壁の外からじわりと差し込み始めていた。

 

 マチュは、すでにフードを被っていた。 

 

 足音は静かに、確かな決意を刻んでいる。

 

 だが──その背に、縋るような声が飛んだ。

 

「……やだ。マチュ、行かないで……!」

 

 寝台の上、毛布を握りしめたままニャアンが泣いていた。

 

 声は震え、頬を濡らす涙がぽたりと落ちる。

 

「お願い……置いていかないで……ひとりにしないでよ……!」

 

 マチュは立ち止まり、ほんの少しだけ振り返った。

 

「……ニャアン」

 

 その声は、最初、静かだった。

 

 けれど──

 

「……もう、あたしは止まれないの。わかるでしょ?」

 

「でも、でも……!」

 

ニャアンは布団から飛び出し、裸足のまま駆け寄ってきた。

 

「マチュがいないと……あたし……、あたし──」

 

 言葉にならない叫びが、喉で詰まる。

 

 マチュは、そんなニャアンを真っすぐ見つめ──そして、強く抱き締めた。

 

「じゃあ、来なよ。バカ」

 

 その言葉に、ニャアンははっとして顔を上げる。

 

「……え?」

 

「行きたいなら、一緒に来ればいいじゃん。あんたまで“ここ”に腐ってどうすんのよ?」

 

 笑っていた。いつものマチュだ。

 

 だけど、その目の奥には“覚悟”が宿っていた。

 

「着替えて。急いで」

 

 マチュはそのままニャアンの手を引いた。

 

 涙を拭う暇もなく、ニャアンは服を掴み、靴を履き、マチュに引かれるまま廊下を駆けた。

 

 警報が鳴り始めたのは、ちょうどその頃だった。

 

 地下監視室──。

 

 モニターの中、二人の少女がリフトを駆け上がり、重力リフトの電源を強制起動していた。

 

 エグザべは、椅子に座ったまま、静かに目を閉じる。

 

「……連れてったか。まったく……」

 

 目の前の制御パネルには、遮断スイッチが点滅している。

 

 押せばすべてが止まる。

 

 だが──彼はその手を、そっとパネルから引いた。

 

「……あれが“未来を作る者”の目だというなら。俺の役目はもう、決まっている」

 

 少年のように笑った。

 

 皮肉にも、ほんの少しだけ、誇らしげに。

 

 《グレート・ジオング》が、目を醒ました。

 

 その巨躯が、青白いライトに照らされる。

 

 少女たちは、すでにコクピットに飛び込んでいた。

 

「起動。エンゲージ、サイコミュ……接続ッ!」

 

 マチュが叫び、スロットルを叩く。

 

 ジオングが唸るように咆哮し、光を帯びて膨れ上がる。

 

「──さあ、あたしのキラキラ。今度こそ、“ほんとの非日常”に飛び出そうか!」

 

 シャッターが開く。

 

 月面の外気が流れ込み、粉塵が舞い上がる。

 

 ニャアンが、涙を乾かしながら笑った。

 

「行こう、マチュ」

 

「うん。逃げ出すんじゃない。──“飛び出す”んだよ」

 

 かつて亡霊と恐れられたその機体が、いま、少女たちの夢を乗せて宇宙へと翔ける。

 

 非日常の扉は、いま、開かれた。

 

 そして少女たちは──宇宙の“答え”を探す旅へと飛び立った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 冷たい星々が、無言のまま二人の行く手を照らしていた。

 

 宙域航行用に切り替えた機体は、一定速度で滑るように進む。

 

 操縦席では、マチュが両足を上げてシートにあぐらをかいていた。

 

 片手にはタブレット、もう片方で操縦桿を軽くなでるように握る。

 

「……ねえニャアン」

 

「なに」

 

 後部座席、火器管制シートに深く潜っていたニャアンが、小さく声を返す。

 

 マチュの背中越しに広がる星の海を、まだ信じられない顔で眺めていた。

 

「これ、やっばいくらい気持ちいいね。あたし、こんなに自由って感じたの初めて」

 

「……あたしは、まだ怖いよ」

 

 ニャアンの声には、ほんの少しの揺らぎが混ざっていた。

 

「そりゃそうか。アタマおかしくなるほどでっかいモンに乗って、宇宙ブッ飛んでんだもんね」

 

「……あんた、怖くないの?」

 

「怖くないわけないよ」

 

 マチュは肩をすくめ、タブレットを放り投げた。

 

 映っていた地図は、回転しながら後方に漂って消える。

 

「でも、それより先に、“行ってみたい”って思った。──それだけで充分」

 

「……アイン、でしょ?」

 

「あいつ、ヤバいよ。なんか、もう……“コッチ側”の人間じゃないって顔してんのに、“ちゃんとヒト”なんだもん」

 

「……わかるよ。あの人の言葉、なんか、響いた」

 

「……でしょ? もう、あんな人に会ったらさ、動かずにいられないんだよ」

 

 マチュは星空を見上げ、にやりと笑った。

 

「でさ、思っちゃったの。──“あたしもああなりたい”って」

 

「え……」

 

「なにか、意味あることをしたい。どうせ非日常に飛び出すならさ、“誰かの未来”に、ちょっとくらい関われるような。そんな感じ?」

 

 ニャアンは黙っていた。が、ふと、静かに口を開く。

 

「……あたしも、マチュに出会って、やっと“生きてる”って思えたよ」

 

「ん?」

 

「今までずっと、逃げてばっかだった。食うために動いて、寝るために嘘ついて。でも、マチュが来てくれたから……」

 

「──“ここにいていい”って、思えた?」

 

「……うん」

 

 沈黙が落ちた。

 

 だがそれは、寂しさではなく、あたたかい余白だった。

 

 コクピットのサイコミュが小さく震える。

 

 マチュがゆっくり操縦桿を握り直す。

 

「行こっか、ニャアン。未来の入り口まで、あとちょっとだ」

 

「うん」

 

 ふたりの視線は、同じ星の先を見ていた。

 

 星の海の向こう──そこに、《ヱクセリヲン》の灯火が、微かに瞬き始めていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヱクセリヲン建造宙域。

 

 未完成の銀白巨艦が、真空の静寂に包まれている。

 

 その外縁を、無音の影が周回していた。

 

 ジガンスクード・ドゥロ。

 

 両腕部には新設された巨大なシーズアンカー・ユニットを装着し、機体バランスの確認を兼ねた視察飛行中である。

 

 そのコクピットに、ひとりの青年がいた。

 

「……もう八割か。時間との競争には、勝てそうですね」

 

 アイン・ムラサメ。

 

 地球連邦政府直属、軍政改革担当特別官。

 

 その眼差しは鋭くも穏やかであり、目前に広がるヱクセリヲンの艤装を、黙々と記録していた。

 

 だが──。

 

 ふと、何かが“刺さった”。

 

「……ッ?」

 

 視界に異常はない。通信も正常。

 

 だが、アインの脳裏に何かが“突き抜けた”。

 

 強い感情の奔流。

 

 未分化で、鋭く、どこか哀しげな──だが、何よりも“生”に溢れたものだった。

 

(これは……サイコミュ……いや、違う……)

 

 彼の機体にはサイコミュは存在しない。

 

 それでも、彼の脳は感応していた。

 

 その“開かれた精神の網”に、何かが絡んだのだ。

 

「……まさか」

 

 アインは思わず視界を遠方に切り替え、センサースキャンを実行する。

 

 そして──彼は、見てしまった。

 

 宇宙の影に溶け込むように漂う、巨大な影。

 

 その巨体から伸びる、大型の機動バインダーと四肢。

 

 見紛うはずがない。

 

「…“グレート・ジオング”……だと……?」

 

 言葉が追いつかない。

 

 存在するはずのない、幻の機体にしてジオン・サイコミュ兵器の極地。

 

それが、今この宙域に存在している。

 

「……馬鹿な…」

 

 驚愕では足りない。思考が硬直する。

 

 ペーパープラン。

 

 検討段階で凍結されたはずの大型ニュータイプ用MS。

 

 計画名《グレート・ジオング》。

 

 その名をアインは確かに記憶している。

 

 だが、それが“実在”するなど、想定すらしていなかった。

 

 そして、追い討ちのように──“それ”は彼の中に入り込んできた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 マチュは叫びたくなるほどの感覚に包まれていた。

 

「っ……すごい、何これ……!? 頭が、光ってる……!」

 

 目の前の空間が、ただの宙ではなく、“誰か”で満たされていく。

 

 そこにあるのは、静謐。

 

 だが奥底に膨大な責任と熱量を秘めた、広く、深く、強い精神波。

 

「……あたし、あんたのこと、知ってる……アイン……」

 

 映像で見た声が、輪郭が、今、魂で繋がった。

 

 その感覚は、これまで感じたどんな“キラキラ”よりも遥かに大きい。

 

 全身が震える。

 

 だがそれは恐怖ではなかった。

 

「これが……あたしの探してた、未来……?」

 

 その瞬間、ふたりの精神が交差する。

 

 直接的な言語も、映像もない。

 

 ただ“意志”だけが、流れ込んでいく。

 

 ジガンスクードのスラスターが静かに減速する。

 

 アインは、言葉にならない何かを心に刻んでいた。

 

 人知れず“もう一つの未来”が、いま動き出した。

 

 それを止めるべきか、それとも受け容れるべきか──

 

「……決めるのは、僕ではない。……でも、見届ける義務はある」

 

 アインの瞳が、グレート・ジオングを正面から見据える。

 

 彼はまだ、何も言わない。

 

 だがその視線は、確かに“対話”の意思を持っていた。

 

 そしてマチュもまた、ゆっくりと前を向いた。

 

 ──ふたりの軌道が、銀河の深奥で、交わりはじめて

 

 宇宙──真空の静寂の中。

 

 けれど、そこには確かに“誰か”がいた。

 

 ジオングのサイコミュが、鋭く澄んだ感応を拾った。

 

 マチュの脳裏に、確かに触れてくる波があった。

 

 やわらかで、あたたかくて、でも深く沈んだ湖のような“声”だった。

 

 その瞬間──彼女の鼓動が跳ねた。

 

 何かが、深く、あたしに届いた。

 

 声が返ってきた。

 

「名乗るほどの者じゃない、って言ったらカッコつけすぎ、かな……アイン。アイン・ムラサメ、だ」

 

 ──あれ?

  

 なんか……変な感じ。

 

 マチュは眉を寄せた。さっきまで中継で見てた“あの人”と、雰囲気が違う。

 

 言葉が、丁寧じゃない。

 

 もっとこう──普通の人の声。 

 

「ジオング……君が起こしたのか?」

 

「そうだけど、なんか悪いことでも?」

 

「いや、悪くない。悪くなんて……ないよ。君がそうしたかったんでしょ?」

 

 その一言で、マチュの胸が締めつけられた。

 

「……なんで、そんなふうに話すの? あんた、本当はもっとカタい感じの人でしょ」

 

 聞かずにいられなかった。あたしが今、話してるのは“本物”なんだろうか?

 

その返事は、少しだけ間をおいて、返ってきた。

 

「ええ。普段は……丁寧語で喋るのが、癖なんです。仕事でも、生活でも、ずっとそうしてきた。でも──今の君たちには、こっちの声で話した方が、伝わると思った」

 

 マチュは、言葉を失った。

 

 それはまるで──“大人が子供にしゃがみ込んで目線を合わせてくれた”ような。

 

「……そっか。あたし、そういうの……ずるいって思うんだよね」

 

 つぶやきながら、でも目尻が少しだけ熱かった。

 

 この人は──きっと、どこまでも“優しい人”なんだ。

 

 アインの中では、静かな自問が響いていた。

 

(言葉を崩すのは、僕にとっては慣れないことです)

 

(でも──あの子たちは、今、誰かに“人として”向き合ってもらいたかった)

     

(だったら……僕の言葉くらい、全部、投げ出してしまえばいい)

 

 その時、アインの瞳の奥には、重い責任でも、地球の未来でもなく──目の前の“迷子”を、まっすぐ受け止める想いだけが残っていた。

 

 そしてマチュもまた、その“キラキラ”の大きさに気づいていた。

 

 ──この人は、あたしのこと、ちゃんと見てくれた。

 

 ──あたしの“行き場のなさ”を、分かってくれた。

 

「アイン……あんた、やばいよ」

 

 宇宙は静かだった。

 

 でも、その静寂の中で確かに──2つの命が、言葉じゃなく、想いで繋がっていた。

 

 マチュの背後から、もう一つの感応波が、かすかに震えるように漏れた。

 

「……あの、あたしも……」

 

 細い腕と肩をすぼめた、か弱い命。

 

 アインは、そちらへゆっくりとガンドロの視線を向ける。

 

「……君も一緒に、来たんだな」

 

 優しい声だった。

 

 だが、ニャアンはうまく言葉が出てこなかった。

 

「……ごめんなさい……本当は、来るつもりなんて……なかったのに……」

 

「……うん。いいよ。謝らなくて」

 

 その言葉に、ニャアンの喉がひくついた。

 

 知らない人。けれど、安心して泣いてしまいそうになる声。

 

「君の名前、教えてもらえる?」

 

「……ニャアン、です」

 

「ニャアン。いい名前だ。ありがとう、教えてくれて」

 

 少しだけ、ニャアンは顔を上げた。

 

 この人は、アイン。

 

 マチュが“キラキラ”って言った人。

 

 中継で見た人──でも、今は全然違う。

 

「怖かった?」

 

「……うん……すごく」

 

 正直に答えた。

 

「でも、マチュが行くって言ったから……置いてかれたら……やだって思って」

 

「そうか……それでいい。十分だよ」

 

 アインの声は、決して責めなかった。

 

 ただ、まっすぐに“そうしてくれてよかった”と、肯定してくれる声だった。

 

「君たちを、しばらくこちらで保護する。誰にも、手は出させない」

 

「……あたしたち、罪にならないの……?」

 

ニャアンの声が震える。

 

「ならないさ。命を守るために動いた人間を、僕は絶対に罪にはしない」

 

 一瞬、ニャアンは言葉を失った。

 

 その“僕”という一人称の柔らかさ。

 

 丁寧語ではない、まっすぐな言葉。

 

 ああ、マチュが「この人、やばい」って言ってた意味……少しだけわかった。

 

「……あたし、マチュがいなかったら、何もできなかった」

 

「でも……あたしも、ここに来てよかったって、今は思ってる」

 

「それでいい。君がそう思える場所を、僕は守るから」

 

 静かに、ガンドロの姿勢が下がった。

 

 あたかも“安心して降りておいで”と手を差し出すように。

 

 そのとき、ニャアンはようやく思った。

 

 ──この人は、優しいだけじゃない。

 

 ──この人は、“居場所をくれる人”だ。

 

 そして、彼女の心の奥に、小さな火が灯った。

 

 マチュが惹かれた“キラキラ”に、自分も──少しだけ、触れた気がした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

ヱクセリヲン建造ドック・応接休憩室

 

 

 室内は無機質な白い壁に、簡素なテーブルと椅子が並ぶだけだった。

 

 アイン・ムラサメは、その中央の椅子に静かに座っていた。

 

 制服の襟元は正され、背筋はまっすぐ。

 

 だが、どこか堅さのない柔らかな空気をまとっている。

 

 その前に座るのは、異なる雰囲気の少女が二人。

 

 一人は、鋭くもどこか儚い光を宿した瞳の持ち主、アマテ・ユズリハ──マチュ。

 

 もう一人は、不安を抱えながらも必死に顔を上げようとする少女、ニャアン。

 

「……あなた方が搭乗していた機体、“グレート・ジオング”について確認させてください」

 

 アインの声は、静かで丁寧だった。

 

「あの機体、ジオンではペーパープランで終わっている機体です。それを、どこで、どうやって……?」

 

 マチュは短く息を吐いた。

 

「サイド6に、格納庫があって。……中に眠ってたの。パーフェクトジオング」

 

 彼女は視線を反らさず、まっすぐアインを見つめて続けた。

 

「キシリア派の残党が改装したの。……でも、盗んだわけじゃない。あたしが、勝手に動かしただけ」

 

「理由を訊いてもいいですか?」

 

 マチュは隣に目をやる。

 

 ニャアンは俯いたまま、唇を噛んでいる。

 

「──ニャアンを、助けたかった」

 

 そう言ったマチュの声は、意外にも静かで、強かった。

 

 アインは一度、目を伏せた。そしてゆっくりと語った。

 

「……軍の機密資産を無断で起動、かつ宇宙域における危険航行。これらは、通常であれば極めて重い罪に問われます。最悪の場合、軍法会議のうえで銃殺刑も選択肢となる」

 

 その言葉に、ニャアンが震えた。

 

 涙が今にも零れそうだった。

 

「ですが──」

 

 アインの声が、そこで変わった。穏やかで、温度を持った声へと。

 

「ニャアンさんを助けたという理由には、人としての正しさがあります。私は、そこを否定しません」

 

 マチュが目を見開く。

 

 ニャアンは、意外そうに顔を上げた。

 

「……だから私は、あなたたちを敵として扱いたくない。ただ──守るには、制度の傘が必要です」

 

 アインは二人に向き直る。

 

「軍に籍を置いて、私の部下になっていただけませんか? それが唯一、あなたたちを法の枠内で守る道です」

 

 その瞬間、室内に沈黙が満ちた。

 

「は……?」

 

 マチュが最初に口を開いた。

 

 やや呆れたような顔で、椅子にもたれかかる。

 

「軍人になれってこと? あたしが? 制服着て、敬礼して、ラッパの音で起きろって?」

 

 皮肉めいた声。

 

 でも、目は笑っていない。

 

 むしろ、本気で考えようとしている視線。

 

 そして、問う。

 

「……でもさ。あたしたち、本当に守ってくれんの?」

 

 その言葉に、アインは迷わず応えた。

 

「命を張る覚悟で、あなたたちを守ります。それが、私の責務ですから」

 

 マチュの顔から、ふと険が消えた。

 

 肩の力も、少しだけ抜けた。

 

「そっか。……だったら」

 

 彼女は不敵に笑った。

 

「──アインの部下ってのも、悪くないかもね」

 

 その一言に、ニャアンの目が大きく見開かれる。

 

「ま、マチュ……あたし……」

 

「来なよ。じゃなきゃ、また勝手に宇宙飛んじゃうよ?」

 

 そう言って、マチュは優しく手を差し出した。

 

 ニャアンは、震えながらもその手を握った。

 

「……私、怖いけど。……マチュがいるなら、あたしもがんばる」

 

 その姿を見たアインは、安堵したように微笑んだ。

 

「ありがとうございます。……これからは、味方として、一緒に未来を築きましょう」

 

 それは、非日常を飛び越えて、ほんの少し「帰る場所」の形を得た、少女たちの第一歩だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヱクセリヲン建造宙域を後にして、ジガンスクード・ドゥロはゆっくりと軌道を下げ始めていた。

 

 その中枢コクピット──特機として広く設計された機体の操縦席には、アイン・ムラサメの姿。

 

 そしてその後ろには、二人の少女。

 

 マチュとニャアンが、身を寄せるようにして彼を見守っていた。

 

 

「始まりますよ、大気圏突入」

 

 アインの声は、相変わらず穏やかで、静かだった。

 

 にもかかわらず、視界の外──コックピットを囲む装甲の向こうでは、すでに赤い光が弾け始めていた。

 

 断熱圧縮──高速度で大気に突入することで生じる熱は、外殻を真っ赤に焼く。

 

 センサー表示に警告が並び、外界の放射熱量が跳ね上がる。

 

 だが、内部は不思議なほど静かだった。

 

 テスラ・ドライブが発生させるT・ドットアレイによる力場と、シーズユニットによるフィールド強化機構により、ジガンスクードは単体での大気圏突入と、弾道軌道で充分な加速力を得れば大気圏突破能力を持ち合わせていた。

 

「わ、わたし、これ、初めて……」

 

 ニャアンの声は震えていた。

 

 が、それでも逃げ出すようなそぶりはない。

 

 すぐ傍らにいるマチュが、ぎゅっと彼女の手を握っているからだ。

 

「……すっご。ほんとに燃えてる」

 

 マチュも初めての突入のはずなのに、まるで窓の向こうに花火でも眺めているような声だった。

 

 それでも、その肩が小さく震えていたのを、アインは感じ取っていた。

 

「怖くありませんよ」

 

 ふと、アインが振り向かずに呟いた。

 

「ガンドロの熱防御は問題ありません。それに──僕が、いますから」

 

 その一言は、重力よりも重く、静かに響いた。

 

 マチュがゆっくりと前へ進み、彼の横に腰を下ろす。

 

「……ホントさ、あんた、何者なの?」

 

 小さな笑いと共にマチュが言ったあと、そっと彼の腕にしがみついた。

 

 その熱は、宇宙の冷たさとはまるで違う──人の体温だった。

 

 ニャアンもそれに倣うように、アインの背中に小さく抱きついた。

 

 細い腕が震えていたが、それでもぎゅっと力をこめた。

 

 コックピットの外は、すでに赤の領域を抜け、視界の先に“青い星”が現れはじめていた。

 

 大気が薄まり、ゆっくりと姿を現す地球の輪郭。

 

 雲、海、陸地。

 

 混ざりあうように広がる色彩が、今まさに彼女たちの“初めて”を迎え入れようとしていた。

 

「ねえ、アイン」

 

 マチュがぽつりと言う。

 

「地球って、……やっぱ、綺麗だね」

 

「はい。とても。──でも、重いんです。いろいろと」

 

 アインの言葉は、その“重さ”を知る者の静かな実感だった。

 

 それでも彼の表情は、どこか柔らかく、穏やかだった。

 

 やがて機体の振動が収まり、ガンドロは大気層を抜けて、下降フェーズへと移った。

 

 重力が、二人の少女の身体をゆっくりと椅子に沈めていく。

 

「これが……“重さ”か」

 

 マチュがぼそりと呟いた。

 

 それは重力だけではない。

 

 この惑星に積み重ねられた歴史と、罪と、願いの重み──その入り口だった。

 

 そして、それでも。

 

 二人とも、まだアインの身体にしがみついていた。

 

 恐怖を隠すためではなく、温かさを確認するために。

 

「でも……この人が一緒なら、怖くないって、思えるんだ」

 

「……この星に降りるのが、“悪くないこと”みたいに、思えてくる」

 

 そうして、少女たちは重力の世界へと足を踏み入れる。

 

 それは新しい物語の幕開けでもあり、何かを“信じてもいい”という、初めての実感の瞬間だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 赤い巨神──ジガンスクード・ドゥロが、地球の大地へと脚を下ろした。

 

 ここはアフリカ・ダカール、地球連邦首都の港湾施設に停泊する“監察軍政官庁地上本部”スードリの正面プラットフォーム。

 

 降下用ハッチが開き、機体からふわりと風が舞った。

 

「──よし、着きましたよ。ここが地球です」

 

 ゆっくりと立ち上がるアイン・ムラサメ。

 

 その傍らには、少女が二人。

 

 マチュはまだうっすらと汗の残る額を拭いながら、「ふう」と一息つく。

 

「……燃えたねー、色々と」

 

 一方、ニャアンは地球の重力に少しふらつきながら、まだ不安げな瞳で周囲を見渡していた。

 

 と、そこに──。

 

 スードリの艦上から駆け下りてくる小さな影が二つ。

 

 一人は、制服姿のドゥー・ムラサメ。

 

 もう一人は、凛とした佇まいの少女──ミネバ・ラオ・ザビであった。

 

「アインっ!」

 

 小走りで駆け寄ってくるドゥー。その足取りに迷いはない。

 

「おかえり、アイン。……でも、その……んん?」

 

 ドゥーの視線が横に逸れる。

 

 アインのすぐ脇──不敵な笑みを浮かべているマチュが、腕を絡ませていたのだ。

 

「……ふふん」

 

 マチュは見せつけるように、アインの腕に自分の柔らかさを預けていた。

 

 肩にかかる前髪をひとつかき上げ、「ね、あったかいでしょ?」とでも言いたげに小さく微笑む。

 

「えっ……?寒かったのかな、大気圏突入。ごめんなさい、気を遣わせてしまって」

 

 アインはまったく悪びれず、むしろ申し訳なさそうにマチュを気遣った。

 

 その朴念仁ぶりに、ドゥーのジト目がさらに強くなる。

 

「アイン、お帰りなさい」

 

 ミネバは一歩前に進み、微笑を浮かべながら静かに挨拶した。

 

 その声にアインは顔を上げ、すっと背筋を伸ばす。

 

「ただいま戻りました。ミネバ殿下」

 

「形式は要りません。ここでは“仲間”として迎えます」

 

 歳下とは思えぬその堂々たる物言いに、マチュとニャアンは驚き、思わず視線を向ける。

 

 だが、ミネバの表情には威圧ではなく、温かな尊敬と信頼の色があった。

 

(あれが──ジオンの姫様……)

 

 ニャアンは胸中で呟きながらも、同時に確信した。

 

 アインは、ただ優しいだけじゃない。

 

 この場所の「本物」だ。地球と宇宙の境界を越え、“旗印”として人を導く者──。

 

「……うぅ……」

 

 ニャアンの中で、また小さな不安が芽生える。

 

 自分たちは、やっぱり場違いなんじゃないか。

 

 隣に立つには遠すぎる。

 

 そんな思いが、胸の奥を揺らしていた。

 

 だが──。

 

「……マチュだけずるい。あたしだって、あったかいのほしい……」

 

 ぽつりと呟いて、おずおずと手を伸ばす。

 

 アインの背中に、両腕をそっと回し──腰に抱きつくようにくっついた。

 

「に、ニャアン?」

 

 アインが驚いて振り向くよりも先に、ドゥーは耐えられず拳をギリ、と握り締めた。

 

 ──これは戦争だ。

 

 自分の“お兄ちゃん”を守る為には、騒いだら負け。

 

 耐えるしかない。でも、でも、でもっ……!

 

 彼女のこめかみには、うっすらと青筋が浮かびつつある。

 

「うふふ……」

 

 その様子を、ミネバはただ静かに、そして愉しげに見つめていた。

 

 マチュ、ニャアン、ドゥー。

 

 誰もがそれぞれの“想い”を抱えながら、それでもアインという“炎”に惹かれている。

 

 そしてミネバは、その炎に最初に触れた者として、既に一歩先を見ていた。

 

「──この人が居れば、どんな少女も、希望を持てる」

 

 「それは、女である私には、よく分かるわ」

 

 アインは、そんな光景に何一つ気づかぬまま──

 

「よかった。……地球、怖くなかった?」

 

 と、心底優しい声で問いかけていた。

 

「……バカ」

 

 マチュが小さく呟いた声は、微かに震えていた。

 

 彼女たちの戦いは始まったばかり。

 

 けれどその中心にいる男は、あくまで──平和そのものだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 スードリ艦内の一室。

 

 ヱクセリヲン建造宙域から帰還したばかりのアイン・ムラサメ軍政大将は、今や四人の少女たちに囲まれていた。

 

 制服姿のドゥー、気品を湛えたミネバ。

 

 そして新たに略式任官されたばかりの“少尉”、マチュとニャアン──。

 

 ミーティングテーブルの前、アインはいつもの通り静かに立ち、手元の端末を操作していた。

 

「……アマテ・ユズリハ、ニャアン。以上をもって、両名を地球連邦軍軍政監察庁所属、少尉に略式任官する。これが辞令です」

 

 手渡された端末に、マチュは「おー、これが本物の……」と感心し、ニャアンは「え、え……ほんとに?」と戸惑いつつも受け取った。

 

 そのとき、ミネバが静かに前へ進み、アインに話しかけた。

 

「アイン、私からも一つ、話があるの。そろそろ、アクシズの名の下に……“グレミー派は正統なジオンではない”という声明を発表すべきかと」

 

 その言葉に、マチュとニャアンは思わず顔を見合わせた。

 

 政治の、しかも地球と宇宙を揺るがすレベルの話が始まりつつあるのだ。

 

 だがアインは、即答しなかった。

 

 代わりにミネバをじっと見つめ、少し柔らかく問いかける。

 

「……では逆に、ミネバ。君は“いつ”それを発するのが、最も効果的だと思う?」

 

「え……?」

 

 一瞬、ミネバの眉がわずかに動いた。

 

 その問いは、ただの助言ではない。アインが“彼女に答えを導かせよう”としているのだと気づく。

 

 ミネバは、目を伏せて思案した。

 

 その横で、ニャアンはひそひそとマチュに囁いた。

 

「え、え、なんかすごい話してるけど……アタシたち、ここに居ていいの……?」

 

「んー? ヤバい話なら最初っから部屋に呼んでないでしょ? それに……」

 

 マチュは小さく笑う。

 

「……こういう“会議”って、なんかドキドキして面白いじゃん。普通の大学じゃ聞けないし」

 

 まるで旅行先で世界の裏側を覗き見するような感覚。

 

 それは、ただの日常では得られない、“非日常の知性”へのときめきだった。

 

 やがて、ミネバが口を開いた。

 

「……グレミー派が何かしらの行動に出たとき。地球圏に実害が及ぶような明確な脅威となったその瞬間こそ、最も声明の効果があると判断します」

 

 その声はまだ幼さを残しつつも、確かな芯を持っていた。

 

 アインは微笑んで頷く。

 

「──良く出来ました」

 

「っ……子供扱いしないでください」

 

 ミネバはむっとしながらも、その頬にはかすかな紅が差していた。

 

 どこか嬉しそうで、誇らしげで、けれど恥ずかしさも混じっている──まるで普通の、年相応の少女のように。

 

 それを見て、またマチュとニャアンがひそひそ声を交わす。

 

「ねぇ……ジオンのお姫様ってもっとキリッとしてると思ってたけど……」

 

「うん……普通に、可愛い子じゃん……」

 

「なんかちょっと安心したかも」

 

 小さな会議室には、軍政、戦略、そして少女たちのささやかな日常の空気が混ざっていた。

 

 そしてアイン・ムラサメは、それら全ての中心に、変わらず静かに立っていた。

 

 人を導き、問いを投げかけ、正しさを信じて歩む者として──。

 

 そんな柔らかな空気を引き締める様なコールがアインの懐から発せられた。

 

「……すみません、少しゴップ議長に呼ばれてしまいました。すぐ戻ります」

 

 軽く背筋を正してそう告げたアインは、端末を片手に部屋を出ていった。

 

 扉が閉まる音がやけに静かに響いたあと、室内の空気がふっと緩んだ。

 

「……えーっと……今、さらっととんでもないとこから呼ばれたね?」

 

 ニャアンがぽつりと呟く。

 

 地球連邦政府の頂点、ゴップ議長の名前が出ても誰も驚かないところが、むしろ怖い。

 

「うん。たぶん今この地球圏でアインにしか通じない用件なんだと思うよ」

 

 ドゥーがそう補足すると、マチュがケラケラと笑いながらも、その視線は冷静にミネバへと向けられていた。

 

 そして、話題は自然と女子会らしい方向へと滑り出していく。

 

「ねぇ、おふたりは、どこから来たの?」

 

 ミネバが問う。

 

 視線は穏やかで、威圧感はない。

 

 けれど、明らかに“ザビ家の姫”のそれだった。

 

「サイド6。ワケありの逃亡組って感じかな」

 

 マチュは躊躇なく答える。隠すようなことでもないとばかりに。

 

 ニャアンは肩をすくめて「流れ流れて、ね」とだけ補った。

 

「そうでしたか……」

 

 ミネバは小さく頷き、そのまま彼女らしい正面からの問いを受ける番となった。

 

「で、アインとはどういう関係なの?」

 

 マチュの質問は、あくまで明るくフラットなトーンだったが、その目だけは冗談で済ませていなかった。

 

 彼女は“距離感”を測っていた。ミネバとアインの、あの親密な空気の正体を。

 

「……アインは、私にとって“父親代わり”です。けれど、父親のようでいて、兄のようでもあって……ときには母のように、優しくすべてを包んでくれる人です」

 

 ミネバの言葉は、決して感情的なものではなかった。

 

 ただ、真っ直ぐで、静かな信頼と──どこか、切ないまでの想いを湛えていた。

 

「……分かる気がする」

 

 ニャアンがポツリと呟いた。

 

 温かくて、安心できて、何も言わずとも包んでくれる。

 

 あの人がいるだけで、世界が少し優しくなるような……そんな気がして。

 

 だが、マチュはそれで終わらなかった。

 

 ミネバがアインを語るその表情に、“何か”を見逃さなかったのだ。

 

 ──ああ、この娘、アインのこと、本気で好きなんだ。

 

 それは恋人へのそれとは違う。

 

 もっと、深くて、祈りにも似た想い──“愛を捧げる者の眼”だった。

 

(やることやってんねぇ……)

 

 内心でマチュは苦笑しつつも、警戒心を研ぎ澄ませていた。

 

 “このミネバ”は、ただの少女じゃない。

 

 子どもの顔をして、大人の影を持っている。

 

 何か、ある──そう直感した。

 

「アインは……ボクの、だからね!」

 

 突然、横から挟まった声に、三人はびくりと振り向いた。

 

 ドゥー・ムラサメが真っ赤な顔で拳を握りしめ、ぎゅっと唇を噛んでいた。

 

「ミネバにも、誰にも、渡さないんだからねっ!」

 

 一瞬、静寂。

 

 そして──。

 

「ぷっ……あははっ!」

 

 マチュが噴き出した。

 

 それはもう耐えきれない、とばかりに、机に突っ伏すほど笑い転げる。

 

「なんで笑うの!」

 

 ドゥーの顔がさらに赤くなる。

 

「なんでもない、なんでもないってば。あんた、かわいいなって思ってさ……」

 

「っ……っ~~~!」

 

 からかわれていると悟ったドゥーは、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。

 

 怒鳴りたい。

 

 でも怒鳴ったら負けだ。

 

 なぜならそれは“図星”だからだ。

 

 そのやり取りを、ミネバは口元に小さく笑みを湛えながら見ていた。

 

 ザビ家の血を継ぐ者として、どこか浮世離れした宿命を背負ってきた彼女もまた──。

 

 今この瞬間だけは、普通の少女だった。

 

 彼女たちと同じように、誰かを想い、心を揺らし、そして笑う。 

 

 スードリ艦内の応接室には、アインのいない静かな空間で、少女たちの温かな火花が散っていた。

 

 そのどれもが、まだ未完成な未来で、

 

 それでも確かに、アイン・ムラサメという一人の人間に──まっすぐ、心を向けていた。

 

 

 

 

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