U.C.0088年4月5日
スードリ艦内 ― 軍政大将執務室
厚い報告書の束のうち、一通がアイン・ムラサメの目に留まった。
差出人はアフリカ南部方面監視部隊。
内容は、ここ数日で目に見えて増加している物資搬入記録と、周辺住民が語る「夜間の車列移動」の目撃情報だった。
「またか……」
低く、静かに吐かれた声には、警戒と憂慮が同居していた。
スードリの室内には、ただ端末のスクロール音と、換気ファンのわずかな振動音だけが響いている。
かつては散発的だったジオン残党の動き。
だが今は違う。
数値で示される熱源反応、地下施設の電力消費、地域ごとの人員流動記録──どれもが「何かが始まる予兆」を告げていた。
「アフリカ……鉱山地帯と山岳拠点、物資の収集と集団移動。これは、偶然ではない」
アインの指先が卓上の端末を軽く弾いた。
地図上に赤いマーキングが浮かび上がり、点と線とが結ばれていく。
だが。
「軍政大将は秩序の番人だ。……こちらから仕掛ける権限はない」
自らを戒めるように、その声は抑制された。
監察軍政官庁は「統制」する存在であって「討伐」する存在ではない。
明確な侵攻、明確な武装蜂起がなければ、動く理由も資格も持たない。
そのとき、室内の通信パネルが点滅した。
『こちら技術監理部第三室。ヒリュウ改、艦体試験航行完了。全区画、機能正常。艦長配置待ちです』
アインは一瞬だけ目を伏せた。
数秒の沈黙。
そして──椅子を立ち上がると、彼は端末を閉じ、外套を手に取った。
「……分かった。向かおう。ヒリュウ改の整備が先だ」
(戦の影が忍び寄るのは感じている。だが、それでも僕は、秩序の側に立たなければならない)
決して逸らさず、決して煽らず。
対峙する時が来たなら、その時は真っ直ぐに迎え撃つ。
それが、アイン・ムラサメという青年が背負う「軍政大将」という名の重責だった。
執務室を出る彼を、ゼロとドゥーが無言で迎える。
「準備は?」
「済んでいる。──ハガネは、すでに発進準備に入っている」
「……行こう。新たな“本部”を迎えに」
ダカールの空を切り裂くように、スペースノア級万能戦闘母艦《ハガネ》が浮上した。
弾道軌道を描き、次の目的地──南米・ジャブローへ。
その遥か彼方では、確かに静かな「地鳴り」が、地球の地殻の奥底から忍び寄っていた。
そしてアインはまだ、それが“開戦の鼓動”であるとは知らなかった。
◇◇◇◇◇
U.C.0088年4月9日
地球軌道上・ダカール宙域
蒼き地球を背に、宇宙に二隻の巨艦が悠然と並走していた。
一隻は、連邦の最新鋭艦たるスペースノア級万能戦闘母艦《ハガネ》。
そしてもう一隻は、朱の艦体に鋭利な艦首を擁する最新鋭艦ヒリュウ級汎用戦闘母艦《ヒリュウ改》。
ヒリュウ改艦橋──アイン・ムラサメは、艦長席に静かに腰を下ろしていた。
表情に無駄な色はない。
軍政大将にしてこの艦の艦長。
彼は今、自らの意思でここに座っている。
「通信、ナビ、火器管制、全系統正常作動中。巡航試験、完了しました」
淡々と報告するクルーの声が響く。
「降下軌道に移行してよろしいか、艦長」
副長席から問うのは、元ティターンズ正規派少佐、ガディ・キンゼー。
今はアインの副官として忠実に職務を遂行する男だ。
アインは、無言で頷いた──が、直後に警報が鳴り響いた。
> 「レーダー接近反応! 12万キロ先、宙域座標8-2-1より艦影多数!」
オペレーターが蒼白となりながら叫ぶ。即座にモニターに展開された戦術投影──そこに現れたのは、異様な艦隊だった。
「……中心艦、グワンバン級……左右にエンドラ級……ムサイ級複数……後方には、HLV──!」
アインはスクリーンを凝視した。
グワンバンの艦首、描かれた紋章──双頭の鷲と紅の紋。
「──あれは、グレミー・トトだ」
静かに、だが決然と口にする。
「グレミー派の地球降下部隊……目標は、アフリカ。恐らく、ダカール……第1種戦闘配置。全艦、迎撃陣形に移行」
彼の声が響いた瞬間、艦内に警報が鳴り響く。
「ガディ副長、全砲門展開、迎撃態勢。艦隊通信を開いてください」
「了解。ハガネにも戦闘信号送信。リオン隊、出撃準備に入らせます」
ガディの指がコンソールを叩く。
対空機銃が動き、ビーム砲塔が戦闘姿勢を取り始める。
《ヒリュウ改》が戦艦として牙を剥き出した瞬間だった。
アインは通信を開いた。
宙域にいる味方全軍に向けて、響き渡る言葉が放たれる。
「こちらヒリュウ改艦長、アイン・ムラサメ。敵艦隊接近中──構成から見て、アクシズ急進派による地球降下作戦と判断する。迎撃する。我々がこの空を、地球を、秩序を、守り抜く。全戦力、迎撃準備。我らが築いた未来を、決して焼かせるな!」
彼の声と共に、《ハガネ》と《ヒリュウ改》は一斉に進路を変え、敵艦隊を迎え撃つべく火を噴いた。
青く美しい惑星──その守護者として。
戦いの幕は、今、上がった。
◇◇◇◇◇
艦橋に、硬質な緊張が流れた。
警戒態勢に入ってはいるが、まだ砲塔の蓋すら開かれていない──その微妙な“前段階”を、グレミー・トトは冷静に読み取っていた。
「──艦影確認。進路上に大型艦2隻。識別コード照合中……!」
緊張した声を上げたレーダー士官の瞳が、一瞬泳いだ。
「識別完了……連邦軍所属、スペースノア級《ハガネ》、および同型艦《ヒリュウ改》。いずれも議会旗艦クラス……!」
「なんだと……?」
副長が呻いた。
「……実戦に出た記録はないはずだ。だが、あの艦影……間違いなく新鋭旗艦だぞ」
参謀が吐き捨てるように言った。
「戦力バランスが崩れる。HLVの降下準備はまだ整っていない……今、あの艦隊とやり合えば、降下部隊が壊滅するぞ」
艦橋中に、冷たい沈黙が走った。
「ハガネ……そしてヒリュウ改。どちらか一隻でも厄介だ。まして二隻──」
「……あの艦に乗っているのは、アイン・ムラサメか?」
参謀の一言に、皆の視線がグレミーに集中した。
彼は黙していたが、その眼は鋭く、既にヒリュウ改の構造やデッキ構成を思い浮かべていた。
──ダカールから上がっていた映像資料。
──スペースノア級の設計情報。
そして、あの青年の戦術思想。
「まだ戦闘配置についてはいない……」
グレミーの言葉は低く、しかし明瞭だった。
「ということは、こちらの反応次第では、即時交戦にはならないと?」
「……その可能性はある。が、彼は“理性で撃つ”男だ」
副長が言った。
「どうされますか? 閣下。HLVの散開を?」
グレミーは静かに首を振った。
「──動くな」
「しかし!」
「……我らは今、“正当なるジオンの末裔”として宇宙に立っている。その理念が本物であることを示すのは、なにより“覚悟”だ。もしここで狼狽し、HLVをばらけさせれば──我らは“新型艦に怯えた小賊”に成り下がる。違うか?」
副長は口を閉ざした。
グレミーは視線を艦橋前面のスクリーンへと向けた。
その先に映る、二隻の連邦艦──未だ静かに軌道を進行している新鋭の巨艦。
そこに宿るのは、ただの兵力ではない。政治の象徴であり、戦後秩序の中心核。
「アイン・ムラサメ……お前の秩序が、我らの理念よりも強いというのか。ならば、示してみせろ。こちらもまた“後退する気はない”と、宇宙に伝えてやる──」
その静謐な言葉の裏に、どこか確かな焦燥があった。
グレミー・トトは、いまだ戦火の火蓋が落ちぬ宇宙で、“新たな時代”の到来を、確かに感じていた。
◇◇◇◇◇
漆黒の空に、二隻の巨艦が軌道を並走していた。
ハガネとヒリュウ改。
スペースノア級万能戦闘母艦とヒリュウ級汎用戦闘母艦──連邦新型戦力の象徴。
そしてその艦橋には、既に第1種戦闘配置が発令されていた。
だが、艦体はなお静止したままだ。
艦内の赤い警戒灯が回り続け、各ブロックは戦闘開始を前提 に動いている。
しかし格納庫のリオンシリーズも、ガンダムチームも、まだ出撃命令を受けていない。
それは、アイン・ムラサメが“まだ戦端を開かせていない”という明確な意思表示だった。
ヒリュウ改・艦橋。
中央指揮台に立つ軍政大将アイン・ムラサメは、航行モニターの軌道予測に目を落とした。
その視線の先に、敵影──エーデル・ジオンの艦隊。
「……来るべき日、というわけですね」
副長のガディ・キンゼー少佐が、背筋を伸ばして報告した。
「敵艦隊、HLV15機を含む降下部隊を随伴。降下予測地点はアフリカ──ダカール上空と見られます。我が艦隊の直下、ですな」
アインは静かに頷いた。
「……予定通りです。我々の位置は、彼らの“地獄への滑走路”に蓋をしている。第1種戦闘配置は維持。だが部隊展開は、まだだ。手を出せば、それは“こちらから撃った”という意味になりますから」
ガディはわずかに唇を引き締めた。
「敵が先に撃てば──」
アインは、即答した。
「“その時”です。敵に開戦の責を取らせる。こちらは“防衛”を貫く」
「……相手に、選ばせるのですね」
「ええ。降下するなら、私の真下に落ちてくることになる。
撃たなければ、彼らは自壊する。撃てば、我々が動く。……これ以上、分かりやすい構図もないでしょう」
モニターに、敵艦隊の主力──グワンバンの巨体が映し出された。
その艦橋に立つ男の顔も、名も、アインは知っている。グレミー・トト。
ザビ家の血を騙り、アクシズを私物化した急進派。
その艦からの通信は、まだ来ていない。
アインはひとつ、命じた。
「通信封鎖、段階解除。映像付きで“この座標”を明示。──見せましょう。我々が、何を背負っているのかを」
赤い警戒灯の中、格納庫では機体が静かに整備され続けていた。
だが誰もが知っていた。
いつでも出撃できる。命令があれば、すべては即時起動する。
だが命令は、まだ出ない。
「止まっていることが、最大の戦略だ。……君たちは、もう撃てない」
アイン・ムラサメの瞳は、宇宙を貫いた。
◇◇◇◇◇
不機嫌な沈黙の中、戦術モニターに映る二隻の巨艦――連邦の新鋭艦、ハガネとヒリュウ改。
彼らの座標は、まさにアフリカ降下の最適軌道上。
降りるためには、必ずこの“門番”を突破しなければならなかった。
円卓型の会議卓にグレミー・トトは立ち、周囲には参謀格の将校が控える。
「……まるで、我々の意図を見透かしていたように、奴らは鎮座している。だがこれは逆に言えば、向こうも我々を撃てないということだ」
副官が確認するように問う。
「閣下、交戦規定に従えば、あちらが先に発砲しなければ我らは撃たれません。だが、HLVの降下が始まれば、確実に“動く”でしょう」
グレミーは、静かに頷いた。
「そうだな……ゆえに我々は、目を逸らさせなければならない。あの二隻の“目”を」
彼は卓上に表示された軌道予測マップに手を伸ばし、艦隊マーカーを前方へ動かした。
「前衛にエンドラ級3隻、両翼にムサイ8隻。機動部隊はガザD、ザクⅢ、それに新鋭のガ・ゾウムを含め全機出す。突撃陣形を組め」
参謀の一人が息を呑んだ。
「囮にしては、あまりにも主力すぎます」
「主力だからこそ、連邦は反応する。ハガネとヒリュウ改は未だ“戦果のない新鋭艦”だ。彼らも実戦経験を欲しているはずだ。挑発に乗る。そして、その間に後衛のHLV15機を……」
グレミーは、再び手を動かし、HLV編隊を地球方向へ曲げる矢印を描いた。
「新軌道を使い、誘導降下。降下ベクトルは一時的にズラし、アフリカ上空の別ルートを経て再接近する。主降下地点はダカール。目標は地上政府中枢の制圧だ」
参謀が追加した。
「迎撃のリスクは避けられませんが、現在の連邦戦力がすべてヒリュウ改・ハガネに集中していれば、地上は一時的に無防備になります」
「成功すれば、連邦の“正当性の地”たるダカールを押さえることが可能です」
「やってみる価値はあるな……」
グレミーは目を細め、軽く息を吐いた。
「我がジオンにこそ、地球を導く正当性がある……ミネバがいくら名を語ろうとも、戦場で勝つのはこの私だ。降下作戦、実行する」
会議卓を見渡し、静かに命じる。
「艦隊、第一陣形へ移行。機動部隊、全機発艦準備。降下部隊、HLV接続を急げ。これは、地球を奪還する作戦だ。我々に残された“最初で最後の機会”と知れ!」
作戦名は掲げられない。なぜならそれは、“虚構の戦端”の下に隠された“真の矛先”だからだ。
しかし確かに、グレミーの声に応じて艦隊は動き始めた。
前方の空には、静かに構える二隻の巨艦──ハガネとヒリュウ改が、何も語らずその軌道を護っていた。
◇◇◇◇◇
星の青を眼下に見下ろしながら、二隻の艦が並ぶ。
先頭を往くは《ハガネ》。その後方は《ヒリュウ改》。
その二艦が、同時にテスラ・ドライブを唸らせ始めた。
中央通信モニターに映し出されたのは、軍政大将アイン・ムラサメの姿。
背後には火器制御タワー、そして副長席に座すガディ・キンゼー少佐の姿も映る。
アインは迷いのない声音で言い放った。
「……グレミー・トトは動きました。HLV15機の地球降下。艦隊は囮です。HLVを落とせなければ、アフリカが再び焼ける」
モニター越し、ハガネ艦橋のブライト・ノアが腕を組む。
「となれば、艦隊に目を向けている暇はない……か。しかし、どうやってあの降下軌道を塞ぐつもりだ?」
アインはすぐに戦術ホロを起動。
緻密な航路データとベクトル計算が、視界いっぱいに展開された。
「これより、《ブレイクフィールドによる軌道衝突転位作戦》を実施します。《ハガネ》は降下軌道の正面に“壁”として突き立っていただきます。ただし、そのままでは間に合わない。……そこで」
ホロ画面の航跡が交差する。
「《ヒリュウ改》をハガネの背後から突入させ、ブレイクフィールド同士を衝突させて、強制的にハガネの軌道を逸らします」
「……そんなことが可能なのか?」
ブライトの問いに、副長ガディが答える。
「可能です。ブレイクフィールドは接触時に慣性を反発・転位させる。ヒリュウ改の質量と推進ベクトルで、ハガネの角度を数度捻ることが可能です。僅かな角度であっても、下方進行軌道へ遷移できます」
アインが言葉を継ぐ。
「その“遷移した先”が、グレミーのHLV降下軌道の真正面です。そこからは、ハガネの艦首バスタービーム・キャノンによる曲射砲撃で、HLV編隊を“落とす”」
「……宙で突き飛ばされて、下で槍を突き出すか。まったく、君らしい無茶だな、アイン大将」
ブライトの目元に、古傷に似た笑みが浮かんだ。
アインは軽く、頭を下げる。
「無茶であるのは承知の上です。しかし、彼らに地球を踏ませれば、我々のすべてが無に帰す。監察軍政官庁の存在も“未来”すら」
そして、ゆっくりと語気を強める。
「我々が地球に立つのは、戦うためではありません。守るためです。この宇宙で叩けば、再び焼かずに済む……!」
沈黙ののち、ブライトが短く頷いた。
「《ハガネ》、作戦受領。衝突転位位置へ向け、進路確定」
「《ヒリュウ改》、後方より突入用意。副長、転位衝角ベクトルを最終調整してください」
「了解。ブレイクフィールド最大展開まで、あと180秒」
アインは最後に言った。
「“重力”を振りほどいて、我々は軌道を変える。宇宙に生きると決めた者たちの手で……。ハガネ・ヒリュウ改、全艦展開──地球、守りに行きます」
通信は切れ、戦闘準備の警報が両艦に鳴り響いた。
青く静かな地球の上空で、二本の剣が重なる音がした。
作戦、開始まで180秒。
◇◇◇◇◇
「敵艦隊、接近──《ハガネ》《ヒリュウ改》です!」
グレミー・トトは額に手をやり、前方の戦況モニターを睨みつけた。
こちらがHLVの降下準備に入った段階──そんな時に、連邦の新型艦が真っ直ぐこちらへ向かってくる。
「まさか……この距離から、突撃してくるつもりか?」
艦橋内の空気が張り詰める。
中央モニターには、異常なまでに高速で接近してくる2隻の艦影が映る。ひとつは先行する、《ハガネ》。
その背後から紅き艦影、《ヒリュウ改》が並走すらせず、まっすぐにハガネの背部に向かって突進していた。
「ぶつかるぞ……!? あれ、何をしている……ッ!?」
次の瞬間──ヒリュウ改が、そのままハガネの船体に接触する。
だが爆発は起きない。艦体が軋むようなエネルギー反応ののち、ハガネが不自然な角度で軌道を変えた。
「え……ハガネの軌道が……!?どういう原理だ……?」
艦隊管制士官がうろたえる。
グレミーの脳裏に、理解を越えた戦術が刻まれていく。
常識外の艦体加速と強引な軌道制御。
それが“ただの突撃”などではないと気づいたときには、事態は既に動いていた。
ヒリュウ改はそのまま艦隊中央へと突入。
前方のムサイ級巡洋艦が、紅い艦体に進路を遮られ──
「ああっ、衝突回避不能ッ!!」
次の瞬間、艦首から艦尾まで一刀両断されたかのようにムサイが爆散。
だがそれは、火力による撃破ではなかった。
艦体の質量と装甲を纏った力による“圧殺”だった。
衝撃に言葉を失うグレミー艦隊。
そしてその混乱の最中──大きく軌道を変えた《ハガネ》が、地球の重力を見据え、艦首を斜め下へ向けていた。
「艦首バスターキャノン──発射ぁ!!」
ブライト・ノアの声が、通ハガネ艦橋に響き渡る。
艦首部が一閃の光を放ち、バスタービーム・キャノンが斜めに曲がった軌道で放たれた。
それは曲射だった。
宇宙空間では本来ありえないはずの“砲弾の落下”──だが、地球の引力を利用して軌道上から降下中のHLV群へ命中させた。
降下準備中の15機のHLVは──全滅した。
一斉に火球となって四散し、地上降下の作戦は開始前に頓挫する。
「HLV群……全機撃破……」
オペレーターの震える声が、グレミー艦橋に響く。
そして、その背後から火線が降り注いだ。
180度ターンを完了した《ヒリュウ改》が、グレミー艦隊の背面から主砲射撃を加えていた。
「全艦、回頭急げッ……! 奴ら、正面から突破して──背後に回り込んでる……!」
「機動部隊、展開中です! データ照合、新型のリオンシリーズ、出てきます!」
宇宙に撒かれる閃光の雨──グレミー艦隊は完全に陣形を崩された状態での、後背からの奇襲を受ける。
その光景はまさしく、紅と鋼の艦が切り開いた“裂け目”から、連邦の流星群が噴き出す一幕だった。