「ふっ!」
「せいっ!」
今日も、道場で拳藤一佳と組手をしている緑谷出久、現在は八歳、区切りが付き終了となる。
「本当に出久は強いよね、今日も手加減してたでしょ」
「いや、全力だよ。ある程度の予測はつくんだけど体がついて行かなくてね…」
「ふ〜ん、それって武術を教えてくれた人の技?」
「そうだね、最近は何か作ってるみたいだけど」
今の出久は個性がないということではなく、死者の力を借りるという個性ということで通っている。エンデヴァーからのアドバイスだった。
ただ個人だけでは無個性と同じということは拳藤も理解していた。それでも諦めずに夢に向かって全力で走る出久の姿に
「それでも、出久がしっかり練習に励んでいるのは知っているし、優しいし、頼りになるしかっこいいし」
「かっこいい?僕は、まだまだだよ」
「え?声に出てた?」
「うん……」
少しずつ距離が縮まり、拳藤にとっての身近な憧れとなっていた出久、それが恋心と気づくのはもう少し後かもしれない。
―――――――――
「呼び出せる時間が長くなったから、耐久するのはいいんだけど……何作ってるの?」
「太鼓」
「尺八」
「三味線」
「なんで?」
「暇だから」
出久の御霊卸は最大で一時間まで延びていた。その一時間で和楽器を製作したのだ。ちょくちょく作業はしていたみたいなのだが、楽器に関しては素人同然、才能である。
「適当にそれっぽいのやるか」
「……和楽器でやることじゃないよね、それ」
和風ボカロ曲を引っ張り出し、完璧に弾き切ったのだ。
「やるか?春妖流には結構必要だぞ?」
「いいんじゃない?」
「母さんまで…」
「というかその真中で楽器を弾く出久を見てみたい…」
出久の塞ぎ込みがないため、ストレスで太ることのなかった引子、出久のやりたいことはできるだけさせたいの精神だった。
というわけで店に来たのだが、出久も引子も楽器に関しては知識がなく、四季達も和楽器以外は触れなかったためわからない、
「う〜ん」
「ねぇ、アンタ音楽好きなの?」
「えっと…」
出久がわからないなりに丁寧に楽器を見ていると後ろから肩を叩く者が、
「だから、音楽好きなのって」
「まぁ…好きかな、楽器に関しては勧められたからだけど」
「じゃあ教えてあげようか?ウチお母さんもお父さんもミュージシャンだから、練習もしてるし、大きくなったらウチもなりたいんだ!」
「取り敢えず、緑谷出久」
「ウチは、耳郎響香」
―――――――――
「ねぇ…出久何集中してないの?」
「いや…ちょっと考え事を」
四季の霊達によっておふざけで始まった和楽器バンドが菊によりネットに拡散されたのだ。ちなみに、四季の霊はまだ話していないため、耳郎も知らない。
「もう、しっかりしてよね……やっぱ、ヒーロー目指すの?」
「うん、僕の夢だからね、絶対に諦めたくはないかな」
「そうなんだ…ウチもヒーローはかっこいいと思ってるけど、音楽もあるし…」
「…両方やれば?プレゼント・マイクとか音に関わるヒーローはたくさんいるよ?」
身近にいるヒーローを目指す者。ヒーローには憧れるが音楽好きとして、手放したくはない。共に演奏できるので余計に離れられない。そんな考えが耳郎の頭を反芻していた。
だが、そこはヒーローオタク、音楽に関わるヒーローの知識もたくさんあるのだ。
「やっぱり、一番最初、原点は大事にしないと」
「出久って難しい言葉をよく使うよね。まあ、個性がないと同義で努力し続けてるのは知ってるけど…」
「ありがとう響香さん」
「…もし、ヒーローになるってちゃんと決めたらさ、特訓とか、付き合ってくれるよね?」
「もちろん!」
少しづつ芽生えていく恋心、問題なのは出久が周りの女性関係の話をしていないこと。道場で武術を習っている、金持ちの家の子と仲良くなった、こういう話はするが性別までは言及していないのだ。
そしてそれは、八百万の方も同じで、習い事の合間の隙間時間に遊びに来ては、話していて、引子も気になってはいたが、交友関係は話していなかった。
―――――――――
そしてもう一人、以外なところで恋の縁が結ばれている。
轟家との縁ができて、遊びに行くようになり、何度目かの夏休み、
「こんにちは…さっむ!」
「よ、よく来たな…出久、ちょっとお母さんが怒ってて」
「出久くん、こっちこの冷気なら火傷はしないから」
轟家に上がり燈矢を囲んで暖を取る子供たち、曰く家族と向き合うようになって、親バカ、嫁バカになっていったエンデヴァーなのだが、一つ問題ができた。それは妻の冷の家庭内権力が上がったことにあった。
なんで、夏休みなのに連絡を数日忘れていた上、家族旅行を考えていなかったとか。
「それで今朝帰ってきた親父を母さんが叱ってて……」
「あら?出久くん、来てたのね、お茶持ってくるわ」
「あ、はい」
「済まなかった…」
「ああ、うん……もう、いいよ」
燈矢曰く、冷が怒ったあとは可哀想が勝って、怒れないそうだ。
「それで行き先なんだが…ほっか…『違うのか?冷、じゃぁ何処に…』」
「夏なら南が一般的だね」
「なら…沖縄、鹿児島あたりで…」『ありがと出久くん!また氷漬けにされるとこだった…』
完全に尻に敷かれている。
「そういえば、火傷はしなくなったの?」
「そうだね、サポート道具が優秀だからね、」
「てことは、炎系ヒーローの新たな誕生も近いのか!」
「そうだね…どうした?焦凍」
「いや、最近来なかったなって…」
同い年ということもあって、出久と焦凍は一番仲が良かった。その次に燈矢、冬美、夏雄と続いていく。
「最近は、習い事ばっかりだったからね、ごめんね」
「いっそ…ここに住んでくれれば…」
「いや、さすがに無理かな」
「本当に焦凍は出久の弟みたいだな」
「……………………姉さんと結婚すれば家族に」
夏雄の弟という言葉に過度に反応して焦凍がとんでもないことを発言する。さしもの出久も驚いて、冬美は直ぐに訂正に入った。
「もぉー焦凍ったら何を言ってるのよ、ごめんね出久くん」
「あ、はははははは」
苦笑いをする出久、この世界の焦凍も天然だが、エンデヴァーとの関係も良好で少し早めの反抗期と言ったところ。人との関わりはいい方なのだ。
「でも、出久も姉さんならいいだろ?」
「焦凍、ストップ、二人が困ってる」『持てなきゃ不味いな。焦凍の目、本気だ』
『あらあら…』
冗談と受け流している、冬美、夏雄、出久とは裏腹に焦凍の考え、意思の強さを、燈矢と冷は見抜いていた。エンデヴァーは旅行計画を始めていいて見てはなかったが、出久のことは認めていた