機動警察パトレイバー:魔法少女、特車二課に着任す   作:ゆきざかな

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第13話:黒い手、第二の魔術師

 不可解極まる金庫破り事件から、数日後。

午前の陽が斜めに差し込む特車二課庁舎――その一角、隊長室。

 

 木製のデスク越し、いつものように後藤喜一が椅子に深く腰を下ろしていた。

斜めに開けたカーテンの隙間から差し込む日差しが、ぼんやりとその横顔を浮かび上がらせている。

片肘を机に預け、視線は窓の外。

何かを考えているようでもあり、何も考えていないようにも見える――それが、彼という男の常の姿だった。

 

 デスクの前には、来客用に据えられた丸椅子がひとつ。

そこに、制服姿の少女――ミーシャ・アウレリア巡査が静かに座っていた。

背筋をぴんと伸ばし、両手は膝の上。

控えめな姿勢ながらも、内心の緊張が隠しきれていない。

その肩に、ほんの僅かだが硬さがあった。

 

 そして、部屋のもう一方――

書類に目を通す姿勢のまま無言で佇むのは、第一小隊隊長・南雲しのぶだった。

手にしたファイルを静かにめくりながら、その視線はときおり斜め前に座るミーシャへと流れる。

 

 鋭いが、冷たいわけではない。

評価する者の目――判断する者のまなざしだった。

数々の現場で指揮を執ってきた警察官としての、厳しさと信頼、その両方を宿した視線。

それは、まだ「未知」の存在であるこの少女を、組織の中でどう扱うべきか、その答えを見定めようとする視線でもあった。

 

 そんな静寂を破るように、数分後、隊長室の扉を控えめにノックする音が響いた。

 

「失礼します」

 

 ドアが開き、私服の刑事――金庫破り事件の時に後藤と話していた二人組が、姿を現す。

先に入ってきたのは、やや小太りで、くたびれたスーツを無造作に着こなした糸目の男。

その後ろに続くは、背の高い中肉中背、そこそこ甘いマスクの若い男が続いた。

警視庁捜査一課の刑事松井警部補、その部下の風杜(かざもり)刑事だ。

 

 彼らとは、過去のグリフォン事件で、特車二課と幾度も関わってきた因縁がある。

いわゆる腐れ縁というやつだ。

 

 松井は室内に入るなり、後藤に軽く会釈をする。

後藤もそれに応じ、椅子の背に体を預けたまま、口元に薄く笑みを浮かべる。

 

「よう、わざわざ出張ご苦労さん。ヒマじゃないだろ、そっちは」

 

 だが、松井はその軽口に乗らず、淡々とした口調で用件を切り出した。

その落ち着いた対応には、こうしたやり取りに慣れていることが如実に表れていた。

 

「後藤さん。例の金庫破り、犯人の供述がまとまりましてね。

少し……アウレリア巡査の見解を伺いたい」

 

 その言葉に、ミーシャはわずかに肩を引き締める。

初対面の刑事たちの関心が自分に向けられているのを、はっきりと感じた。

 

 風杜の目線が、ほんの一瞬だけミーシャに向けられたが、すぐに元の位置へと戻る。

一方で、松井は最初から最後まで目線も表情も変えず、無言のまま淡々とカバンから資料の封筒を取り出す。

 

 流れるような茶髪に、深い森を思わせるグリーンの瞳。

そして――とても成人とは思えない、あどけなさを残している顔立ち。

だが、何より目を引くのは、その頭の両脇から後方へと伸びる、細く尖った耳だった。

 

 ミーシャ・アウレリア。

その姿は、この場において明らかに異彩を放っていた。

にもかかわらず、捜査一課の刑事たちは、その異質さに対する関心を一切表に出さない。

それこそが、職業人としての――プロの作法だった。

 

 ミーシャは、動じることなく、表情を整え、呼吸を静かに整える。

だが、内心が完全に静まり返っているわけではなかった。

刑事の手の動き、視線の向き、発する言葉――そうした些細な揺らぎのすべてが、彼女の感覚を刺すようにかすめていく。

 

 後藤はと言えば、懐からタバコの箱を取り出しかけたものの、

向かいに座る南雲の姿に気づき、何も言わずに箱ごと引き出しへ戻した。

 

 その横で、ミーシャはわずかに背筋を伸ばした。

目は真剣そのもので、指先に緊張の微細な揺れが走っている。

 

「……すみません。なにか、わたしが……」

 

 ミーシャはそっと目を伏せ、膝の上の両手をぎゅっと握った。

 

「いやいや、そうじゃない」

 

 松井がすぐに片手を軽く振って否定の仕草を見せた。

声色には、意外なほど柔らかさがあった。

長年、数えきれぬ事情聴取や尋問に立ち会ってきたベテラン刑事らしく、緊張した人間への距離の詰め方を心得ている。

 

「後藤さんに、『うちのところの新人が何かアドバイスできるんじゃないか』って言われてね」

 

 軽く後藤を一瞥しつつ、松井は言葉を続ける。

 

「……協力してくれるか?」

 

 松井の話にミーシャはこくんと小さく頷いた。

その仕草を見届けると、風杜が手元から小さなメモ帳を取り出し、読み上げるように口を開く。

 

「容疑者の供述によると、現場にはもう一名の男が同席しており、当該人物が正体不明の言語を用い、身振りを伴う動作を行った直後――」

 

 風杜はそこでいったん言葉を切り、ゆっくりと息をのんだ。

異様なその状況を伝えるには、慎重さが求められていた。

 

「……そして気がついたときには、目の前で金庫の扉が粉々に砕けていた。激しい雷鳴とともに、金庫に強い衝撃が加わったとされています」

 

 その口調には、常識では説明しきれない結果への戸惑いがわずかににじんでいた。

 

 ミーシャのまつげが、かすかに震えた。

目に見える動揺ではなかったが、内心の反応が微細な生理的変化として表出していた。

 

「誰だったのかと聞いても、犯人は結局答えられませんでした。

名前も知らず、顔もはっきり見ていない。ずっとフードをかぶっていたそうです。

『あれはこの世界の者じゃない』――そう言っただけでした」

 

 語尾に、かすかな迷いがにじんだ。

尋問で得られた証言の中でも、とりわけ信憑性が揺らいでいた部分なのだろう。

風杜自身、記録として読み上げてはいるものの、内心では判断を保留しているような声音だった。

 

 ミーシャはじっと耳を傾けながら、表情を変えずに静かに聞いている。

 

「……ただ、金がどうしても必要だったとき、ふと声をかけられたとも言っていましてね。

気づいたら協力する流れになっていたと。逆らおうという発想すら浮かばなかったらしい。

そして……盗んだ金の半分は、そいつが持っていった、そう話しています」

 

 室内に、風杜が次のページをめくった音が響く、その音は沈黙の中でひときわはっきりと耳に残った。

 

「巡査も現場で確認されたかと思いますが、実際、金庫の扉は原形を留めていませんでした。

現場はもちろん、周辺の捜索でも、扉そのものは発見されず……代わりに、大小さまざまな金属片が散乱していました」

 

 風杜は声の調子を整えるためにほんの少し間を開ける。

 

「痕跡の状況から見て、扉に相当するパーツは、おそらく何らかの極めて強い衝撃によって――粉砕されたものと思われます。ただし、調査の結果、爆薬などの炸裂物の使用は確認されておりません」

 

 その証言の異常さは部屋にいる全員の思考をいったん止めさせるのに十分だった。

理性では理解できても、直感がそれを拒む――そんな歪みが言葉の背後に滲んでいた。

 

その静けさの中、風杜が口を開く。

 

「……アウレリア巡査。確かあなたは特殊技術任用者ですよね。

こういった供述、あなたから見て、どう感じますか?」

 

 視線が一斉にミーシャへと集まった。

彼女は答えを急がず、慎重に、言葉を心の中で一つひとつ選ぶように語りだす。

 

「……はい。おそらく……術式、または術式に類する道具の行使によって、

区画内の物質を粉砕する力を行使した可能性があります」

 

 その一言に、刑事はメモに何かを書き留める。その筆先を止めさせたのは、後藤のひとことだった。

 

「――あー……ごめん。ここから先の話、記録しないでくれる?」

 

 ペンの音が止まり、風杜が顔を上げる。

机越しに目を細めたのは松井だ。その視線には、短いながらも明確な抗議の色がにじんでいた。

だが、後藤はそれにまったく動じる様子も見せず、苦笑まじりに言葉を続ける。

 

「そのへんのお話、今んとこお上からお達しでね。

議会とエライ人たち以外は、聞いたフリで流すのがマナーってことになってる」

 

 松井は一瞬、無言のまま目を細めた。

しかし、後藤はその無言の抗議をまるで意にも介さず、淡々と話を続けた。

 

「一応、お上には『そろそろいいですかね』って伺い立ててるけど……ま、役所仕事の常、返事はまだ先かな」

 

 その言葉に、松井はようやく観念したように、静かに息をついた。

無言のままポケットから小型のボイスレコーダーを取り出すと、無造作にスイッチを切る。

風杜もペンを置き、手帳を閉じる。その動作に、納得と無念が入り混じっていた。

 

「では、巡査……あくまで個人的な意見として、うかがう形で」

 

 後藤が無言のままで小さく促す、ミーシャはそれに応じるように呼吸を整えた。

 

「改めて聞きます……存在するんですね」

 

 風杜の声には、まだ迷いが混じっていた。

常識の範疇を越えるものを、理屈ではなく現実として受け入れざるを得ない――その戸惑いが、語尾にかすかににじむ。

 

「……はい。わたしの世界では《シャター(粉砕)》と呼ばれる衝撃術式に似ています。

強力な振動を一点に集中させて、半径3メートル内の生物、もしくは、金属や石のような無機的な物質を内部から砕きます。雷鳴のような音を発するところも確かに合致しています」

 

  その説明が終わると同時に、刑事二人がわずかに身じろぎした。

音を立てたわけではないが、空気が動いたのがはっきりと感じ取れる。

常識の外側にある力について半信半疑で語ったはずが、それを当然のように肯定される――それは、世界の土台ごと揺さぶられるような感覚だった。

 

 機械も爆薬も使わず、言葉と動作だけで金属を粉砕する。

それが犯罪に用いられたとしたら――その効果がいかに脅威となるか、ふたりとも痛感していたのだ。

松井は、その本心が外に出ることを隠すように、穏やかな口調で言った。

 

「――つまり、巡査の目から見ても、

あの供述は……ただの思い込みじゃ済まないってことか」

 

 それはもはや質問ではなかった。

この非常識を現実として認めるために、自らに言い聞かせるような、ひとつの確認の儀式だった。

 

「……はい。おそらく、供述は事実だと思います」

 

 ミーシャは一度言葉を切り、少し考えるように顎に手を乗せた後、思考を言語化するように続けた。

 

「……ただ、もし目的が金庫の内部に入ることだけでしたら、《ノック(開錠)》という解錠術式の方が、合理的だと思います。

鍵のかかった扉や閉じられた機構を、物理的損傷を与えることなく解除することができますから」

 

 そこでふと、彼女は自分の実務経験を思い出したように、補足する。

 

「わたし自身も、制圧時にレイバーの操縦席ハッチを《ノック》で開けることがあります。

……離れた場所から機体を傷つけずに解錠できる手段として、現場では非常に効果的なんです」

 

 その説明にひと呼吸置いてから、松井が短く頷く。

 

「それだけ優れた手段があるにもかかわらず、あえて《シャター》のような破砕系術式を使った。

単に金庫を開けるだけでなく、何かしらの示威、あるいは痕跡の隠蔽を意図した可能性もある。

動機はそのあたりにあったと考えるのが妥当だろう」

 

 彼はわずかに逡巡したあと、ミーシャにもう一つ問いかけた。

 

「もうひとつ、気になるところがあってな……あまりにもあっさりと協力してるのが気になる。

たとえば、なんだ……犯人の思考に何か影響を与えるような手段があった、とか……」

 

 言い終えた後、自分でもその発言が現実離れしていることに気づいたのか、少しバツが悪そうに口元を押さえる。

しかし、ミーシャは真剣なまま、ゆっくりと頷いた。

 

「可能性はあります。

たとえば《サジェスチョン(示唆)》――対象の思考に介入し、特定の行動を自然に選ばせる術式があります。

命令ではなく、本人が自分でそう思いついたと思わせる形で、行動を誘導するものです」

 

 淡々とした説明だったが、言葉の一つひとつに現実の出来事としての重みが伴っていた。

誰かの意志が、誰かの思考の内側へ忍び込み、さも自然に振る舞わせる――

その術式の存在が意味するのは、「人の自由意志の脆さ」そのものだった。

 

 しばらくの沈黙が流れた。

やがて、松井は無言のまま鞄を開き、封筒の束をゆっくりと取り出す。

中から、一枚の紙がそっと差し出された。それは、丁寧にラミネート加工されたA4サイズの資料だった。

 

「……これ、供述から風杜に描かせた似顔絵のコピーだ」

 

 松井の声はいつになく低く抑えられていた。

その雰囲気を打ち消すように、後藤が絵を覗き込んでから、ニカッと笑みをあげる。

 

「お、リチャード・王の時もそうだったけど*1、やっぱり君って絵がうまいねぇ」

 

 何気ない調子で言ったつもりなのだろう。

しかし風杜は明らかに気まずそうに眉をしかめ、小声で返す。

 

「もう、茶化さないでくださいってば……今回のは、正直あまり使えそうにないんです」

 

 場が少しだけ和らいだ、だが――それは、長くは続かなかった。

ミーシャが、静かに両手を伸ばし、机の上に差し出された似顔絵を受け取る。

 

 その瞬間――

 

 彼女の表情が、音もなく変わっていった。

ほんの一拍、紙面を見つめた後、目の奥に明確な硬直が走る。

そして、口を半開きのままそのまま動かなくなった。

 

 描かれていたのは、外套をまとった男の姿だった。

だが、顔はフードに隠れているためその輪郭は曖昧で、髪の色も目元もわからない。

 

 しかし、ただひとつ――視線がどうしても吸い寄せられる部分があった。

 

 右手。

 

 他の箇所と違い、そこだけは、紙面の上に濃く、異様なまでの強さで塗りつぶされている。

墨のような濃い黒で埋められたその手は、詳細な描写が一切されていないにもかかわらず、何かおぞましいものを感じさせた。

 

 ミーシャの指が、資料の端をわずかに強く握った。

制服の袖の奥で、細い指先がぎゅっと丸まっているのが見えた。

その目は絵を見ているようでいて、記憶の底を凝視していた。

 

「……これは……」

 

 ミーシャの声は、吐息のようにかすれていた。

手元の資料を見つめながら、瞳孔がグンと広がる。

視線を逸らしたい――そう思う本能と、逸らしてはならないという理性のせめぎ合い。

目の奥で、感情と義務が綱引きをしていた。

 

 震える唇が、絞り出すように動く。

 

「……この人、わたしが……こちらに来る直前に、最後に見た男です」

 

 その一言が、隊長室の空気を一変させた。

何かが決定的に切り替わる音が、誰の耳にも聞こえた気がした。

 

 後藤がゆっくりと椅子にもたれ直す。

その仕草には、思考が戦術に切り替わった男特有の、始動の気配がにじんでいた。

 

「……ほう。そいつがこっちにも来てるかもしれねぇ、ってわけだ」

 

 ミーシャは無言のまま、こくりと頷いた。

間違えようがないという確信が、その頷きに宿っていた。

 

「あのとき、彼は……なにかを言おうとして、わたしに手を伸ばしてきました。でも……」

 

 言いかけて、わずかに間が空く。

 

「でも?」

 

 風杜が、過剰にならない声で続きを促した。

情報の核心に慎重に手を伸ばすような口調だった。

 

「そのあと……わたしの意識が――途切れました。気がついたときには、もう……この日本にいました」

 

 初めて言葉にする記憶――

その断片を紡ぐたび、ミーシャの表情には少しずつ硬さが滲んでいく。

目元は険しくなり、唇はわずかに引き結ばれ、視線はどこか不確かな一点を漂っていた。

 

 沈黙が数秒流れたあと、松井が苦々しげに眉間を寄せ、静かに首を振る。

 

「その黒い手の男……名前や、所属、何か思い出せるか?」

 

 言いながらも、すでに期待はしていない口調だった。

だが確認しなければいけない、それが刑事という職業だ。

 

 ミーシャは唇をきゅっとかみしめ、些細な記憶の破片をも逃がさないよう目を伏せた。

やがて彼女は、わずかに肩を落としながら、ゆっくりと首を横に振った。

 

「……いいえ。わたしも、彼の名前は知りません。あの時、一度も名乗りませんでした」

 

 言い終えてからも、ミーシャの意識は紙の上に縫い留められていた。

それを見ていた後藤が、そっと松井に目をやる。

 

 その様子を黙って見つめていた後藤が、ゆるやかに松井を見やる。

言葉にせずとも伝わる、長年の付き合いが生む無言の問い――「その紙、預かってもいいか?」

 

 松井は短く頷くと、手元のファイルを少しだけ前に滑らせた。

後藤はそれをゆっくりと引き寄せ、何も言わずに机の引き出しを開け、静かに中へとしまい込んだ。

 

「アウレリア……現状、うちらの仕事は現場を守ることだ」

 

 その言葉は、彼女の意識を現実へと引き戻すためのものであった。

 

 ミーシャは、その言葉に導かれるように、慌てて頷いた。

だが口元に浮かんだわずかな引きつりが、心の奥ではまだ割り切れない想いが残っていることを、静かに物語っていた。

 

 後藤はそれを拾い上げるように、短く、だが確かに肯いた。

 

「それで十分だ」

 

 その横で、風杜が静かに立ち上がり、深々と頭を下げた。

その動きに合わせるように、松井が言葉を添える。

 

「協力、感謝します。アウレリア巡査」

 

 二人は隊長室を後にし、扉が音もなく閉じられた。

その瞬間、部屋の空気が一段冷えたように静まり返る。

風が止まり、時間までもが一時、足を止めたような感覚だった。

 

 室内に静寂が戻る。

 

 その中で、それまで一言も発せず、ただじっと成り行きを見守っていた制服姿の女性が、椅子から立ち上がった。

そして、静かにミーシャの前へと歩み出る。

その歩みは無駄なく、揺るがず、確かな重みをもっていた。

 

 南雲しのぶ――特車二課第一小隊 隊長。

彼女の口が、ようやく開いた。

 

「……確定ね。術式――魔術を行使できる彼女以外の存在が、この世界に現れたと見て間違いないわ」

 

 南雲の声音は落ち着き払っていたが、その言葉の一つひとつには、現場を預かる者としての責任感が滲んでいた。

 

「今後、私たちは、術式を持つ犯罪者と対峙する可能性がでてきた。

つまり、【術式を持つ個人】と、【術式を持たない一般部隊】との衝突よ」

 

 その意味するところに、ミーシャは沈痛な面持ちで顔を上げた。

胸の奥で鳴った警鐘が、言葉となって口をついて出る。

 

「……それは、危険です。一歩でも誤れば犠牲が出ます。

……訓練されていない部隊には、対処が極めて困難だと思います」

 

 淡々としたその言葉の奥には、否応なく突きつけられる現実の冷たさが潜んでいた。

南雲は、真っすぐにミーシャの目を見返した。

 

「だからこそ、あなたの力が必要になる。でも……頼り切るつもりもない」

 

 その眼差しは厳しかったが、奥には確かに託す心が灯っていた。

責任を押しつけるのではなく、仲間として背中を預ける者の約定だった。

 

「まずは、第一小隊でも術者との連携を考慮できるようにしないとね」

「……ま、松井さんの件もあるし、第一小隊の隊員にもそろそろ種明かしくらいは必要かもな。

こっちでも、知らんぷりはそろそろ限界ですよって、お上に耳打ちしといてやるよ」

 

 言葉こそ冗談めいていたが、その声音には本気の響きがあった。

現場を知る者としての不満が、ほんの少しその笑みに紛れていた。

南雲は、それを受けて肩の力が抜けたようなため息をひとつ吐き、皮肉めいた口調で応じた。

 

「……結果論だけど、上層部の判断は間違ってなかったわね。

術式犯罪者が現れる前に、術式を使える警官が、既に配属されていたんだから」

 

 彼女の視線がふと窓の外へと流れ、街の輪郭を静かに映し取る。

この街は、もはや旧来のルールだけでは守れないのだろうという達観が、静かに胸に広がっていた。

 

「……そういう意味では、第二小隊に回されたのは、あなたにとっても運がよかったのかもね。

少なくとも、後藤さんなら型破りに慣れてるもの」

 

 皮肉とも賞賛ともとれるその言葉に、後藤は取り立てて気にする様子もなく、さらりと受け流す。

 

「そりゃどうも。うちは規格外と想定外への経験値だけは自慢でね。

……まあ、慣れてるってだけで、扱えてるとは言ってないけどな」

 

 熟練の域に達した二人のやり取りを、ミーシャはしばらくぽかんと見つめていた。

 

 そして数瞬後。

 

 彼女はふと我に返り、思わず手を口元に添え破顔する。

それは声を立てない控えめな笑みだったが、張り詰めていた空気がほどけた柔らかな表情だった。

*1
サンデーコミックス4巻 第6話”VS.”(バーサス)




《シャター》 ―― 破砕
呪文レベル:2レベル
キャスト時間:1アクション
射程:60フィート
範囲:指定した地点を中心とした半径10フィートの球体
コンポーネント:詠唱(V)、身振り(S)
持続時間:瞬間
効果
突然の耳をつんざく音波を発生させ、範囲内のすべてのクリーチャーは3d8の雷鳴ダメージを与える。
耐久力セーヴに成功でダメージは半減する。
無機的な材質でできたクリーチャーはセーヴィングスローに不利を得る。
非魔法の物体(着用・所持されていないもの)は自動でダメージを受ける。


《サジェスチョン》 ―― 示唆
呪文レベル:2レベル
キャスト時間:1アクション
射程:30フィート
コンポーネント:詠唱(V)、材料(M:物質:蛇の舌一つと、ハチの巣一かけらかオリーブ油一滴)
持続時間:8時間(要集中)
効果
姿が見え声も聞こえ言語が理解できる目標1体のクリーチャーに対し、1文か2文で「どのように行動すべきか」を命じることができる。
魅了状態になることができないクリーチャーはこの効果に完全耐性を持つ
目標は【判断力】セーヴィング・スローを行い、失敗した場合、呪文の持続時間中その命令に従った行動を取る。
命令内容は「自傷行為や明らかに有害な行動」は不可(たとえば「自殺しろ」は無効)。
命令は「自然に思える」形で伝える必要がある(例:「金が死ぬほど欲しいのだろう? そこのレイバーで金庫破りすればいいさ」など)。
持続時間は最大8時間(精神集中が必要)。
命令は実行可能なものでなければならない。
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