東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 魔力増幅薬。

 環境から魔力を集め、抽出し、利用する私の魔術形態からしてみれば、なんとも非効率的な薬品ではあるが、自らの漏出魔力に限って効果を及ぼしたいのであれば、これ以上のものはないだろう。

 そして、神族は何よりもこの薬が有効である。

 地上を生きる通常の生物よりもずっと霊的な彼らは、この薬による魔力の増幅作用に伴い、自らの格を一時的に上昇させるのだ。

 消耗品ではあるが、地上に生きる神族にとっては、命の薬と言える。掛け替えのない万能薬だ。

 

 自前で使う予定は無いが、次にオーレウスと出会う時や、また別の神族と交流する際には、役に立つかもしれない。

 なので私は、しばらく魔界にて、薬品の製造に腐心することになった。

 

 

 

「魔力増幅薬よ、現れよ」

 

 呟き、右手の中に瓶入りの水を出現させた。

 

「どれどれ」

 

 その蓋を開け、一気に口の中へと流し込む。

 

「うん、ただのハッカ水だ」

 

 効能なし。予想はしていたが、原初の力では生成できないらしい。

 横着せずに、普通に作りましょう。はい。

 

 

 

 地上から新たに持ち込んだ植物を魔界の空き区画に植林した後、私は魔界に自生する植物をめぐり、薬品の材料となるものを探すところから始めることとした。

 オーレウスの集落の付近では稀にアブクアワダケ(仮名)が見つかり、それを材料とすることで魔力増幅薬を作れるのだが、生憎と魔界にはそのようなキノコは存在しない。

 かといって、あれは一夜も経たずに消えてしまうほど脆く珍しいキノコなので、地上で探すにはかなり難しい。養殖するにしても、キノコは繊細で、一筋縄ではいかないのだ。

 なので、代用品を主原料とした、オーレウス式とは違った、また別の魔力増幅薬を発明しようと思う。

 

 なに、私には数億年前のあらゆる動植物を調査し尽くした経験があるのだ。

 魔力の振れ幅を大きくして効果を広げるだけであれば、そういった薬を作るのは難しくはないはずである。

 

「今度、オーレウス達にプレゼントしてもいいかもなぁ」

 

 薬をあげるだけなら、“不蝕”を教えるよりは影響も軽いだろう。

 私はそんな軽い気持ちで、魔力を増やす薬品の製造を始めたのであった。

 

 

 

 それから数百年。

 もしくは、数千年が経過しただろうと思う。

 

 とにかく少しだけ間を空けて、久方ぶりに魔界へ客人がやって来たのである。

 

 私はその時、魔界の森から集めてきた菌類の培養のために右往左往していたのだが、サリエルが慌ただしく飛んできて知らせを届けてくれたので、その珍事に気付くことができた。

 

「来客」

「ああ、幽玄魔眼で姿を捉えた。以前魔界へ来た、クベーラという者だろう。格好は少々変わっているが、纏っている気配や雰囲気は同じだったな」

「そうか、クベーラが……それじゃあ歓迎しないといけないな」

 

 前に来てもらった時には、オーレウスの魔導書を売ってくれた。

 こちらが代わりにと差し出したのは、ほんの少しの物ばかりである。向こうには言えないが、なかなか良い取引をさせてもらったものだ。

 また再び魔界にやってきたということは、それなりに商品も整ったということなのだろうか。

 とにかく、天界の品々が見れるというのは楽しみである。

 

「行くのか?」

「うん。サリエルは今回どうする?」

「遠慮、しておこう」

「そうか」

 

 でもまだまだ、サリエルは天界の人達と交流するつもりはないらしい。

 彼……彼女なりの考えもあるのだろう。

 

 

 

「おお、ライオネルだったか。久しぶりだ、また会えて嬉しいぞ」

「やあクベーラ、どうもどうも」

 

 サリエルから教えてもらった座標をイメージしながら魔界の辺境へ跳ぶと、そこにはクベーラが立っていた。

 以前と同じ装いに、以前よりもずっと大荷物を抱えての登場である。

 手にした杖とカンテラの装いは健在だ。こうして変わっていないところを見ると、やはり天界の神族は代わり映えしないということか。

 

「今回も様々な商品を持ってきたのだ。各地を周り、前よりもずっと沢山の物を仕入れてきたつもりだ!」

「おおー」

「早速、商談にも入りたいが、色々な話も持ってきた。この前のように、落ち着ける所へ移動したいな。神綺のいる場所へと案内してもらえるか?」

「神綺ね、わかったわかった」

 

 魔界で過ごし、時々来客を迎える。

 こんな暮らしも、悪くはないものだ。

 けどできれば、もうちょっとだけ別の人達にも来て欲しいかな。いや、クベーラが嫌いなわけではないけれど。

 

 


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